~MSCI中国株指数の下落余地は?反転のトリガーは?~

~MSCI中国株指数の下落余地は?反転のトリガーは?~

投資情報部 李 燕

2023/06/01

5/25-5/31の香港市場は続落しました。前週に続いて米中対立や人民元安が相場の重石となったほか、5/31に発表された弱いPMIが売りを誘いました。海外投資家は、中国当局が勢いに欠ける経済回復を「静観」し続けていることに痺れを切らし、中国株に対するポジションを圧縮しました。

今回のトピックスは、「MSCI中国株指数の下落余地は?反転のトリガーは?」です。

(1)今週の中国株市況

図表1 ハンセン指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)

注:5/31(水)までのチャートです。
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成。

図表2 香港市場の業種別指数の推移(2021年12月31日=100として指数化)

注:業種別指数はハンセン総合指数のサブ指数です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

図表3 香港市場の個別銘柄の騰落率と関連ニュース等(5/31(水)までの騰落率)

ハンセン指数

騰落率上位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
00981 中芯国際 [SMIC] 3.2% -10.0% 26.6% 半導体受託生産(ファウンドリ)大手。エヌビディア(NVDA)の株高を受け、アジア(香港含む)でも半導体株が連れ高した。
01038 長江基建 [チョンコン・インフラ] 2.6% -2.9% 4.6% グローバルインフラ会社。投資家のリスク回避志向の強まりを受け、ディフェンシブ銘柄が買われた。
01928 金沙中国 [サンズ・チャイナ] 2.4% -9.0% -6.8% カジノ大手。大手証券会社が同社株は今後60日間で市場をアウトパフォームするだろうと予想した。足元の下落によるバリュエーションの低下で投資妙味が増したと指摘した。
00992 聯想集団 [レノボ・グループ] 1.7% -8.2% 4.6% パソコン(PC)大手。世界サーバー市場で同社がシェア3位になったと報じられ、買い材料となった。もっともテクニカル指標のRSIが30%に近い水準まで下落したこともあり、反発狙いの買いも入ったとみられる。
09999 網易 [ネットイース] 0.7% -4.3% 9.5% ゲーム大手。1-3月期の純利益が前年同期比54%増となり、市場予想を上回った。決算発表の翌取引日(5/29)は株価が7%上昇したが、5/31にかけては軟調地合いを受け、売り優勢となった。
騰落率下位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
01088 中国神華能源 [チャイナ・シェンファ・エナシ] -9.7% -13.8% -26.8% 石炭大手。今年夏の石炭価格の上昇余地は限定的と大手証券会社が予想し、石炭株が売られた。
02331 李寧 [リー・ニン] -11.4% -24.8% -37.1% 中国国産ブランドのスポーツウエア大手。特段材料はなく、海外投資家によるポジション圧縮が影響したとみられる。同社は中国の消費関関連銘柄として海外投資家の保有比率が比較的高い。
02688 新奥能源 [ENNエナジー] -12.3% -15.0% -18.4% 天然ガス供給会社。配当落ちによる影響。配当の権利落ち日が5/29だった。
00316 東方海外 -12.8% -39.9% -24.3% 海上貨物輸送を手掛ける。バルチック海運指数(BDI)が下げ止まらず、海運株が売られた。同社は大手証券会社が投資判断と目標株価を引き下げたことも響いた。
03690 美団(Meituan) -15.5% -17.1% -19.0% 中国フードデリバリー最大手。競争激化や中国の経済回復に対する懸念が売りを誘った。海外投資家によるポジションの圧縮も影響したとみられる。

ハンセンテック指数

騰落率上位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
00981 中芯国際 [SMIC] 3.2% -10.0% 26.6% 半導体受託生産(ファウンドリ)大手。エヌビディア(NVDA)の株高を受け、アジア(香港含む)でも半導体株が連れ高した。
00992 聯想集団 [レノボ・グループ] 1.7% -8.2% 4.6% パソコン(PC)大手。世界サーバー市場で同社がシェア3位になったと報じられ、買い材料となった。もっともテクニカル指標のRSIが30%に近い水準まで下落したこともあり、反発狙いの買いも入ったとみられる。
00020 SenseTime Group Inc 1.0% -19.2% -16.7% AIソフトウェア大手。AI関連銘柄に見直し買いが入った。百度(09888)のCEOが生成AIの「文心一言(アーニーボット)」を支える大規模言語モデルの新バージョンを近く発表すると発言し、手掛かりとなった。
09999 網易 [ネットイース] 0.7% -4.3% 9.5% ゲーム大手。1-3月期の純利益が前年同期比54%増となり、市場予想を上回った。決算発表の翌取引日(5/29)は株価が7%上昇したが、5/31にかけては軟調地合いを受け、売り優勢となった。
02015 理想汽車[リーオート] 0.4% 23.7% 22.6% 新興EVメーカー。同社の販売台数は引き続き、競合のニオ(09866)やシャオペン(09868)を上回る可能性があるとアナリストが予想し、小幅ながら買い優勢となった。同アナリストは、同社は他社を上回るペースでの新モデルを投入しており、新モデルの受注も予想を上回っていると指摘した。
騰落率下位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
02382 舜宇光学 [サニーオプチカル] -8.9% -10.6% -17.3% 大手光学機器メーカー。大手証券会社が目標株価を引き下げた。Androidスマートフォンの販売回復は今年下期に鈍化する可能性があるためと分析した。
09868 小鵬汽車[シャオペン] -10.1% -17.4% -9.6% 新興EVメーカー。1-3月期の純損失額が市場予想を上回ったほか、4-6月期の納車台数ガイダンスも下振れ、売りが膨らんだ。決算発表後、大手証券会社数社が目標株価を引き下げた。
09866 蔚来汽車 [ニオ] -12.8% -5.3% -18.1% 新興EVメーカー。シャオペン(09868)の軟調決算を受け、業績懸念で売られた。新興EVメーカーのうち、販売不調から好調の順はシャオペン>ニオ>リーオートとなっているため、6/9に発表される予定の同社の決算に対しても警戒が広がった。
09898 微博 -13.3% -21.3% -32.3% ソーシャルメディア・プラットフォーム運営会社。1-3月期の調整後EPSは市場予想を上回ったが、売上高と広告収入は市場予想を下回った。決算発表後、大手証券会社が目標株価を引き下げた。
03690 美団(Meituan) -15.5% -17.1% -19.0% 中国フードデリバリー最大手。競争激化や中国の経済回復に対する懸念が売りを誘った。海外投資家によるポジションの圧縮も影響したとみられる。

注:銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergをもとにSBI証券が作成。

今週の中国株市況

5/25-5/31の香港市場では、ハンセン指数が4.6%下落、ハンセンテック指数は7.0%下落しました。米国上場のADRで構成されるナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数(HXC指数)は2.7%下落しました。

前週に続いて米中対立や人民元安が相場の重石となったほか、5/31に発表された弱いPMI(購買担当者指数)が売りを誘いました。特に5/31は月末だったこともあり、売買代金は前日の2倍に増加しました。月末のポジション調整による売りの膨らみも、指数や個別銘柄の下落幅を増幅させたとみられます。

軟調地合いのなか、全業種が売り優勢となりました。中でも景気に敏感な素材とエネルギー、および海外投資家の保有比率が比較的高い情報テクノロジーやヘルスケアの下落が顕著でした。海外投資家は、中国当局が勢いに欠ける経済回復と人民元安を「静観」し続けていることに痺れを切らし、中国株に対するポジションを圧縮しました。日本株の好調も、中国株からの資金シフトを誘発したとみられます。

一方、ごく一部ではありますが、半導体やAI関連、およびカジノ関連銘柄は逆行高となりました(図表3参照)。半導体やAI関連は、主に米半導体大手のエヌビディア(NVDA)が生成AI関連製品の需要拡大により、目を見張るようなガイダンス(業績見通し)を発表したことが支援材料となりました。カジノ関連銘柄は、大手証券会社がバリュエーションの低下で投資妙味が増したと指摘し、見直し買いが入りました。

(2)今回のトピックス

今回のトピックスは、「MSCI中国株指数の下落余地は?反転のトリガーは?」です。

なお、本題に入る前に、中国株に関するお知らせです。SBI証券では、”新規取扱記念】CSOP中国ETFの買付手数料全額キャッシュバック”を実施する予定です。詳細は、リンク先をご確認願います。

【MSCI中国指数の下落余地は?】

5月最終週の中国株売りは、一言でいうと「海外投資家によるポジションの圧縮」が特徴でした。

その背景には、中国経済が期待していたほど「V字型」回復になっていないことに加え、米中対立も続いていることが中国株に対するリスクプレミアムを押し上げました。さらに、海外投資家を失望させたのは、中国当局が勢いに欠ける経済回復と人民元安を「静観」し続けていることです。

なお、中国当局が人民元安を容認しているのは、世界経済見通しが悪化しているなか、輸出企業を支えようとする思惑があるかもしれません。しかしながら、国内需要の弱さを示す経済指標が続いているにもかかわらず、中国当局は支援策(金融緩和や財政支援策)を打ち出す気配をまったく示さないため、海外投資家は痺れを切らしたとみられます。折しも日本株の堅調さが目立ったこともあり、一部では中国株から日本株への資金シフトがみられました。

中国株に対する売りが続いた場合、主要指数はどこまで下げるだろうか。今回は、中国株の代表的な指数であるMSCI中国指数で確認してみたいと思います。

図表4 MSCI中国指数の終値と予想PERの推移(過去10年)

※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

図表4を確認してみると、MSCI中国指数は足元の下落で、5/31時点で予想PER(株価収益率)が10.2倍まで低下しました。この水準は過去10年平均の12.5倍を大きく下回ります。

ただ、昨年10月末に付けた近年の最安値9.3倍を上回っています。当時は、「3期目の習政権」の発足により、中国当局が「ゼロコロナ政策」を堅持し、不動産およびネット大手への締め付けを強化し続けることが強く警戒されました。それを受け、海外投資家はこぞって中国株を売り、特に10月の最終週は投げ売りの様相を呈しました。

今回の売りも当時と若干似ている部分がありますが、当時ほど激しくない印象も見受けられます。その理由は、「ゼロコロナ政策」は既に解除されており、不動産大手やネット大手への締め付けも緩和されているためです。したがって、中国株に対する悲観度でいう場合、足元は昨年10月末ほどではないと言えそうです。よって、当面は目安として、予想PERが9.3倍までは下がらない可能性があると考えられます。

今のタイミングは企業の決算発表がほぼ終了しているため、予想EPS(一株当たり利益)が変わらない前提で単純計算(※)すると、予想PERが9.3倍まで低下した場合、MSCI中国指数は9%の下落余地を示します。予想PER9.3倍という水準は、上記でみたように中国株に対する悲観度が最も高かった時期で、今はそれほどでもないことを考えると、MSCI中国指数がさらに下落する余地は0-9%という試算になります。

(※株価=EPS×PERのため、EPSが変わらない場合、株価の変動率はPERの変動率に等しい)

過去の経験からすると、これから中国経済がさらに悪化し、企業業績が大幅に下方修正されない限り、MSCI中国指数がさらに下落する余地は10%未満となりそうです。

【反転のトリガーは?】

過去の経験から、MSCI中国指数が下落から反転したタイミングを確認してみると(図表5)、中国当局の政策転換と重なります。つまり、中国当局が利下げなどを通じて金融緩和を実施したことをきっかけに、MSCI中国指数は下げ止まり、その後反発しました。

図表5 MSCI中国指数と中国の主要政策金利の推移(過去10年)

※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

したがって、今回も中国当局が勢いに欠ける経済回復を「静観」し続けるのではなく、金融緩和をはじめとする景気支援策を打ち出すかどうかが、まず注目されると思います。

中国当局がいつ「静観」をやめるかを予想することは難しいですが、過去の経験からすると、景気先行指数である製造業PMI(購買担当者指数)が連続して50%を下回った場合、中国当局は金融緩和を実施しました。よって、今後経済指標がさらに悪化した場合、中国当局は景気支援へ動き出す可能性があります。製造業PMIが既に連続2カ月で50%を下回ったことからすると、悪い経済指標が必ずしも株式市場にとって悪材料でないタイミングが近づいてきているかもしれません。

また、これまで弱含みの経済指標が多く投資家を失望させていますが、今後発表される経済指標が予想外に強い結果となった際も、中国株に対する見直し買いにつながる可能性があります。

図表6 中国の景気先行指数のPMIと主要金融政策金利の推移(過去10年)

※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。

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