経済分析緩慢な景気回復局面でも投資停滞の傾向が続くかどうかが注目

2020年の展望

世界経済は2018-2019年のほぼ2年にわたり景気減速局面(またはミニ景気後退局面)が続いたが、過去1-2ヵ月で先行指標の一部、特にサーベイ指標に下げ止まりの兆しが表れ始めた(OECD景気先行指数、世界製造業PMI、各国の各種サーベイなど)。実体経済活動(ハードデータ)の先行系列は2020年1-3月期頃に谷をつけ、一致系列は2020年半ば頃に谷をつけ、緩慢な回復基調をたどると見込む。

先進国全体では、2008年の金融危機(GFC)以降、潜在成長率が低下し、すでに多くの国がほぼ完全雇用に達したので、回復ペースはせいぜい潜在成長率並みに止まるだろう。日本は消費税率引上げの影響で後退局面が他国よりも深くなり、2020年はほぼ鍋底型の景気回復に止まろう。2019年度補正予算を含めた経済対策は表面的な金額が肥大化するが、予算執行のパイプラインが詰まっているとみられ、支出が始まるのは早くても2020年度後半あたりとみられる。

米中貿易摩擦の激化やイギリスの合意なきEU離脱は当面は回避されたが、世界経済が自由貿易体制に回帰するわけではなく、GFC後に続く「閉鎖経済レジーム」へのシフトの小休止にすぎないだろう。米国は他国に対しても米国第一主義に基づく二国間貿易協定の見直しや不公正貿易に対する関税引上げを進めよう。イギリスとEUが2020年末までに新たな貿易協定に合意できない場合は、事実上の合意なき離脱のリスクが残る。企業が先送りしてきた設備投資を再開するほど状況が改善したとは限らない。

あまり実感のない景気回復局面となろうが、インフレ率が目立って上昇しない中で、先進国の非伝統的金融緩和は2020年を含めて相当長期間維持されよう。この結果、2013年から続いているGDP成長率が10年債利回りを上回る局面が、さらに数年程度維持される可能性が高い。この状況が資産価格にとって引き続き追い風であることは変わらない。

2020年の注目のテーマ、キーワード

米国大統領選で民主党左派の候補が勝利し、上下両院で民主党が多数派を占めると、経済政策が大きく変わる可能性がある。医療保険制度単一化のファイナンスには大型増税か国債発行増額に頼らざるを得ず、法人所得税・個人所得税の増税、富裕層に対する資産課税も検討されよう。巨大プラットフォーム産業に対する独占禁止法運用の強化の流れも続き、巨大企業分割が議論され始めても不思議ではない。

中国では、2019年を通じて固定資産投資の停滞が続いた。世界的にも投資(住宅投資、設備投資、公共投資、知的財産権投資)はGFC後に長期停滞が続いている。マクロ的要因として潜在成長率の低下、ミクロ的要因として巨大企業M&Aによる寡占化と新規設備投資の代替、シェアエコノミーの普及、金融的要因として金融規制の強化が挙げられる。2020年の緩慢な景気回復局面でも投資停滞の傾向が続くかどうかが注目される。

松岡 幹裕
SBI証券 金融調査部(チーフエコノミスト)

(株)三菱総合研究所、(株)大和総研でのエコノミストを経て、1997年から機関投資家向けサービスに従事。1999年からジャーディンフレミング証券(現JPモルガン証券)、2001年からドイツ証券を経て、2018年11月にSBI証券に入社。Institutional Investor All Japan Research Teamでは、2003-2006年2位、2007-2012年3位、2007-2012年4位、2017年5位にランクイン。米国ブラウン大学大学院経済学部修士取得。

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