投資の流儀 ファンドマネージャー・奥野一成 投資の流儀 ファンドマネージャー・奥野一成

高い収益性を持つ米国企業に投資する『農林中金<パートナーズ>長期厳選投資 おおぶね』。ファンドマネージャーの奥野一成氏は、独自の投資哲学に基づく運用で着実にパフォーマンスを積み上げています。奥野氏はいかにして投資銘柄を発掘しているのか――その発掘ストーリーに迫ります。

ヒントは、
身近なところに
転がっている。

投資の流儀 ファンドマネージャー・奥野一成

例えばスーパーの陳列棚。ポテトチップスの棚ならカルビー商品が大勢を占める。実際にカルビーの市場シェアは7割。二番手の湖池屋を圧倒している。
ファンドマネージャー・奥野一成が着目する一つの視点がこの市場シェア等に表れる「競合環境」だ。特に製造手順が比較的単純なポテトチップスは、シェアの高さはそのまま収益性に直結しやすい。2011年3月のカルビーの上場からほどなくして、奥野は2007年から運用する日本株ファンドのポートフォリオにカルビーを組み入れた。
しかし、『農林中金<パートナーズ>長期厳選投資 おおぶね』で奥野が運用するのは米国株。ここからどうやって米国株にたどり着くのだろうか?「一企業を分析する際、その企業だけを分析して終わりということはありえない。必ずグローバルな視点を持ち、業界の産業構造と、バリューチェーンの川上から川下までの競合環境を、徹底的に調べます」(奥野、以下略)。そうしてカルビーのグローバルな競合企業として出てきたのが、米国の上場会社ペプシコ社の一事業である、米国の大手スナック菓子メーカー「フリトレー」だ。米国において50%近い市場シェアを有し、営業利益率は30%という高い収益性を実現している。しかし、奥野はペプシコ社の投資を見送った。「フリトレー社だけなら投資していたでしょうが、同社はペプシコ傘下の企業であり、単独では投資できない。ペプシコは飲料事業ではコカ・コーラよりも弱い。強さに少しでも疑義があれば投資はしません」。

ひとりでに
“儲かってしまう”
企業に投資する

 次に奥野が着目したのは、バリューチェーンの川上。「川上にある調味料を見ると、米国のスナックはもちろん、家庭調味料やレストランで使用される調味料には、必ず「マコーミック社」が登場します」。マコーミック社は、世界最大手の調味料会社で、北米だけでなく欧州においても4~5割の圧倒的シェアを誇る。「ここでもう一つ注目すべきは、食品業界の産業構造が、水平分業化していくということです。水平分業とは、開発、部品生産、販売など業務ごとにそれを得意とする企業が担うビジネスモデルで、一つの企業で全ての業務を担う垂直統合型ビジネスモデルに相対する、産業構造の新しい形です。全ての産業は放っておけば水平分業化に向かう。この長期的な潮流に乗っているかどうかが、投資判断の重要な基準です」。
 その言葉通り、『農林中金<パートナーズ>長期厳選投資 おおぶね』は、産業構造の「付加価値の高い産業」「圧倒的な競争優位性」そして「長期的な潮流」という3つの特徴を備えた企業に投資する。「それこそが構造的に強靭な企業であり、ひとりでに“儲かってしまう”企業。私たちは頑張って儲ける企業ではなく、儲かってしまう企業に投資するのです」。
 先のマコーミック社でいえば、味を最終的に規定する調味料は切り替えが生じにくいという付加価値の高い財の性質を持ち、ブランド力と圧倒的シェアを背景とした競争優位性、長期的な潮流の3つを兼ね備え、構造的に“儲かってしまう”企業として、2012年5月から同ファンドのポートフォリオに組み入れられている。

国の現地調査で、
説を検証する

 奥野は年に数回、実際に米国を訪問し、企業面談や施設見学を行う。2017年度の実績では、年7回、約70社の企業面談・施設見学を行った。「私たちは、決して手ぶらでは企業訪問に行きません。当該業界の産業構造から収益構造の分析などまでを、データとチャートなどの資料にまとめ、私たちの仮説を突き付けます」。
 スマホなどに搭載されているアナログチップの製造会社「テキサスインスツルメンツ」の場合、仮説①「栄枯盛衰が激しいセミコンダクターのマーケットで、アナログチップは、安定的に10%超のシェアを維持する必須の財であること」、仮説②「高い技術力が求められるアナログチップのエンジニアになるには5年以上の期間・経験を必要とするため、その確保ができているか否かが参入障壁として働くが、当社は既に業界内最大規模のアナログエンジニアの囲い込みに成功している」という仮説が、面談により裏付けられた。「IRなどでは企業は自分たちの企業を良くみせようとする。僕らはその後ろに何があるか、数字としてちゃんと確認できるか、という仮説の裏を取りに行くのです」。
 しかし企業訪問では、仮説の検証以上の情報を得ることも多い。テキサスインスツルメンツとのミーティングには、IR担当者とそのお父さん、そして息子が同席し、「父の仕事をみておけ」とばかりに面談が始まりました。長いFM生活の中でも三世代ミーティングは初めてのこと(笑)。さらに工場見学では娘を含む4人が案内してくれました(笑)。いかにこの会社が好きなのか、自分の仕事に誇りを持っているかが感じられました。工場見学では、従業員のロイヤリティや会社の働きやすさなどを知ることができます」。
 奥野は、1回の渡米で約10~15社を回る。新規企業もあれば、既に投資している企業の現状確認と仮説検証、そして投資はしていないが継続的にフォローしている企業などが含まれる。「米国株の運用は、NY駐在のアナリストが四半期の数字を追うやり方が一般的かもしれませんが、私たちは違います。長期投資を前提に企業訪問をし、仮説をベースとした議論を行い、時には企業価値向上のための提案をすることもあります。IRに、目先の数字に関する事なんて一切聞かない。そんな日本人のFMは珍しいでしょうね(笑)」。

ウォーレン・バフェットに
負けたくない

 「私は一度投資をしたら、基本的に売ることは考えない。長期投資を貫きます」。そんな奥野の投資手法は、米国の著名な投資家であるウォーレン・バフェットと重なる。実際、奥野が運用する日本株ファンドと米国株ファンドは、ウォーレン・バフェット型の長期厳選投資を日本で実践し、根付かせるための農林中金発の一大プロジェクトでもある。
しかし、安易にウォーレン・バフェットの手法を真似ているのかと言えば、決してそうではない。米国の超優良企業であるコカ・コーラ社に投資していない理由を訊ねると、「子供じみていますが、ウォーレン・バフェットが投資しているから(笑)。ウォーレン・バフェットが投資している会社に投資したら、初めから負けたと言っているのと同じで、彼を上回ることはできない。そんな最初から白旗をあげるようなゲームはしたくない(笑)」。FMとしての奥野の矜持が滲む。
「投資とは、投資企業のオーナーになること。日本人のほとんどが、投資は売ったり買ったりすることだと思っていますが、そうではない。例えばアマゾンの株を買えば、ジェフ・ベゾスが自分のために手下となって働いてくれる訳です。それがオーナーであり、資本家の発想です。投資に対する正しい理解を広め、それを理解してくれた投資家に対して、きちんとした情報とパフォーマンスを提供していきたい」。奥野の流儀には、一切の迷いは存在しない。

奥野一成ファンドマネージャーに直撃!
その運用と投資哲学に迫る!

Q.農林中金バリューインベストメンツ(NVIC)の概要と戦略の特徴について教えてください。

 NVICは、農林中央金庫および農中信託銀行の出資により平成26年10月2日に設立された投資助言会社で、「株式長期厳選投資(長期・安定的にキャッシュ・フローを創出可能な企業への投資)」を戦略としています。つまり、売らなくていい企業しか買わない。仮に証券取引所が5年閉まっても大丈夫な企業にしか投資しないということです。NVICは日本株で10年以上、米国株で5年以上運用をしてきた中で、長期厳選投資のノウハウとトラックレコードを蓄積するとともに、実際にパフォーマンスを積み上げてきました。

Q.日本人でありながら米国投資を志す理由は何でしょうか。

 アメリカでビジネスをする魅力が圧倒的に高い。3億2千万の人口が、さらに1%弱ずつ増えていて、そこでブランディングができれば、世界の70億人に訴求ができる訳です。米国企業はグローバルでの競争力が強く、日本企業に比べても長期投資に適しています。ですから、私は早く米国株運用をやりたかった(笑)。

Q.なぜ日本にいながら米国株に投資できるのでしょうか。

 単に四半期の数字やニュースのヘッドラインを追うならウォールストリートに居ないとおそらくダメでしょう。しかし私たちがやっているのは、産業構造などの長期的な潮流に着目し、ビジネスが強いのか弱いのかの判断。それを実際に年に数回経営者に会って確認しているわけです。ビジネスに着目して長期投資するのに国境はない。ウォーレン・バフェットがアメリカの片田舎オマハで投資ができているのも同じ理由です。長期投資をするなら、ウォールストリートは雑音でしかない。むしろ日本の方が客観的で正確な投資判断ができるとさえ言っていいでしょう。

Q.NVICが提供できる付加価値について教えてください。

 私は投資とは、企業のオーナーになることだと考えています。オーナーが興味があるのは、その企業が何を考え、何をしようとしているのかということ。私は投資対象企業について、どういう強さがあるのか、企業訪問でどういうコミュニケーションをとったのか~例えば3MのCEOが何を語ったのか~などを、月次報告書で報告しています。私は投資家であるオーナーの皆さんに、リアルな情報をきちんと伝えていきたい。そういう“手触り感のある投資”を提供していきます。

Q.米国株への投資ですが、為替リスクについては大丈夫でしょうか。

 為替リスクについては皆さんが心配されるところでしょう。しかし、90年以降の長期で見れば先進国間の為替水準は一定のレンジ内で数%の変動に留まっています。その間、米国株インデックスは7倍になっているわけです。その事実と数%の為替変動とでは、皆さんの長期の資産形成にどちらが大きな影響を与えるでしょうか?

Q.米国株のアクティブ・ファンドでありながら、なぜ手数料水準を安くできるのでしょうか。

 私たちが自ら米国で調査を行っていて、海外の助言会社を入れていないことが手数料水準を安く抑えられる理由の一つです。また私たちは長期投資をするため、売買回転率が低く、ファンドの隠れたコストとなる売買手数料が低く抑えられています。そもそも私たちは、私たちの投資コンセプトを理解し長期でお付き合いいただける投資家に対して、手数料を抑えた米国株ファンドを提供したいと考えていました。そのため、販売会社もSBI証券さん及び他1社に限定し、それも長期的な投資に馴染みやすいiDeCoと積立専用による買付だけとしています。私が投資家だったらやはり手数料はできるだけ安く抑えたいですから。実は「農林中金<パートナーズ>長期厳選投資 おおぶね」で、私は初めて投信口座を作りました(笑)。それまでは、他に投資したいと思えるファンドがなかったのです。

Q.長期厳選投資という投資哲学はいつ頃完成されたのですか?

 私が社会人として入った日本長期信用銀行は、企業の設備投資資金について長期的な事業性評価を行って長期融資するという業務を行っていました。それは単に融資のためだけでなく、企業が成長するための戦略をともに描く作業でした。財務部長と膝をつめて、この設備は本当に必要か?どれぐらいのキャッシュを生むことができるか?といったことを侃々諤々と議論するカルチャーに社会人になって早々に触れることができました。古今東西、そうやって、企業家と銀行は、二人三脚で文明を作ってきたのです。銀行でのそういった経験が、現在の投資哲学の原点にあると思います。

確固たる投資哲学に基づいて運用を続ける奥野氏。
そんな奥野氏が運用を行うファンド、
それが「農林中金<パートナーズ>長期厳選投資 おおぶね」です。

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プロフィール

奥野 一成(おくのかずしげ)氏

奥野 一成
(おくのかずしげ)

農林中金バリューインベストメンツ株式会社
常務取締役(最高運用責任者)

【経歴】
1992年京大法卒、日本長期信用銀行入行。長銀証券、UBS証券を経て03年に農林中央金庫入庫。07年より、「長期集中投資自己運用ファンド」の運用を始める。14年から現職。

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  • 本情報は、2018/3/12の取材時点のものです。
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