相続税対策は納税資金の準備まで ー相続時精算課税制度の活用方法も詳しく解説

執筆:村岡 慎平(株式会社Stock Fine IFA)

更新:2026年09月04日

「相続対策」と聞くと、節税や遺言書の作成を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。

もちろん、相続税の負担を抑えることや、財産を誰にどのように引き継ぐのかを決めておくことは重要です。しかし、相続対策を考えるうえでもう一つ忘れてはいけないのが、「相続税をどのように支払うのか」という納税資金の準備です。

相続税は、相続開始(被相続人が亡くなった日)を知った日の翌日から10か月以内に申告・納税を行う必要があります。原則として金銭での一括納付が基本となるため、相続財産の中にどれだけ現金や換金しやすい資産があるのかを、事前に確認しておくことが重要です。

相続対策では「どれだけ税金を減らせるか」に目が向きがちですが、実際には「納税するためのお金を確保できるか」まで考えて初めて、相続対策が完成するともいえます。

10ヵ月の相続税納付期限 に間に合わせるために

相続において、意外と多いのが「財産は十分にあるものの、すぐに使える現金が少ない」というケースです。

例えば、相続財産の大部分が自宅や賃貸不動産、土地などの不動産で占められている場合を考えてみましょう。

不動産には大きな資産価値がある一方で、預貯金のようにすぐ現金化できるとは限りません。さらに、自社株式など換金性の低い資産を多く保有している場合も、同様の問題が生じる可能性があります。

相続税の納付期限が迫る中で現金が不足していると、

  • 相続税を支払うために不動産を急いで売却する
  • 希望していた価格で売却できず、資産価値を下げてしまう
  • 不動産を共有することで、将来的な売却や管理が難しくなる
  • 相続人の一人が納税資金を多く負担することで、相続人同士のトラブルにつながる

といった事態が起こる可能性があります。

特に、不動産を「できれば子どもに残したい」と考えている場合、納税資金が不足すると、意図せず売却せざるを得なくなるケースもあります。

だからこそ、相続対策では「財産を残す」だけではなく、「残したい財産を残すために、納税資金をどう準備するか」という視点が重要になります。

相続税の納税資金対策を考えておこう

相続発生後に慌てないためには、生前から納税資金について具体的に考えておくことが大切です。

1.相続税を事前に試算する

まず取り組みたいのが、現時点で想定される相続税額の把握です。

相続税は、財産の総額だけで決まるわけではなく、法定相続人の人数や財産の種類、各種控除・特例などによっても変わります。

そのため、「うちは相続税がかからないだろう」と自己判断するのではなく、一度専門家に相談し、概算でも税額を確認しておくことが重要です。

例えば、想定される相続税が2,000万円なのか、5,000万円なのかによって、準備すべき金融資産の金額も大きく変わります。

「いくら必要なのか分からないから準備できない」という状態を避けるためにも、まずは金額を把握しておくことが第一歩です。

2.預貯金や換金しやすい金融資産を確保する

相続税の納税資金として、預貯金を一定程度確保しておくことも基本的な対策です。

ただし、単純に「現金を多く持っておけばよい」というわけではありません。

インフレや物価上昇を考えると、長期間にわたってすべてを現金で保有することには、資産価値が実質的に目減りする可能性もあります。

そこで、相続税として必要となる金額をある程度把握したうえで、納税資金として確保する部分と、長期的な資産形成を目的として運用する部分を分けて考えることが重要です。

「守るお金」と「増やすお金」を分ける。

この考え方を持つことで、納税資金を確保しながら、資産の成長も目指すことができます。

3.生命保険を活用する

生命保険も、納税資金を準備する方法の一つです。

死亡保険金は、受取人を指定しておくことで、受取人固有の財産として受け取れるという特徴があります。また、一定の要件を満たす場合には、「500万円×法定相続人の数」という非課税限度額が設けられています。

現預金だけでなく生命保険を活用することで、万一の際にまとまった資金を確保できる可能性があります。

また、遺産分割協議の対象となる財産とは異なる形で受け取れるため、納税資金だけでなく、特定の相続人に資金を渡したい場合などにも活用されます。

ただし、保険商品にはそれぞれ特徴や制約があるため、加入目的や資産全体のバランスを考えたうえで検討することが重要です。

4.生前から資産の整理を行う

相続が発生してから資産を整理するのではなく、元気なうちに資産構成を見直しておくことも大切です。

例えば、長期間利用していない土地や、将来的にも利用する予定のない不動産などがあれば、生前に売却することで現金化しておくという選択肢があります。

また、不動産を複数所有している場合には、「本当にこの不動産を次世代に残す必要があるのか」「維持管理の負担はないか」「将来売却しやすい資産なのか」といった視点から整理することも重要です。

相続では、財産を多く残すことが必ずしもよいとは限りません。

「残すべき資産」と「整理しておくべき資産」を生前に考えておくことが、次の世代の負担を減らすことにつながります。

5.延納・物納は最後の選択肢

相続税の納税が難しい場合には、一定の条件を満たすことで延納や物納を利用できる場合があります。

ただし、どちらも無条件で利用できる制度ではなく、一定の要件を満たしたうえで申請・審査を受ける必要があります。

そのため、「相続税が払えなくなったら延納や物納を利用すればいい」と考えるのではなく、基本的には生前から納税資金を準備しておくことが望ましいでしょう。

相続時精算課税制度で次世代の資産形成

ここまで紹介した方法に加えて、近年注目されているのが相続時精算課税制度を活用した生前贈与と資産運用の組み合わせです。

相続時精算課税制度は、一定の要件のもとで、まとまった財産を生前に次世代へ移転できる制度です。

この制度の特徴の一つが、贈与した財産そのものだけでなく、その後の資産価値の上昇についても考えながら活用できる点です。

例えば、親から子へ2,000万円を相続時精算課税制度を利用して贈与し、その2,000万円を子が長期運用したとします。

仮に10年後に資産が4,000万円になった場合、相続税の計算上、原則として贈与時の価額を基礎として取り扱われるため、贈与後に生じた運用益については、親の財産ではなく子の財産として蓄積されていくことになります。

つまり、将来的な成長が期待できる資産を早い段階で次世代へ移すことで、その後の資産成長分を次世代に移転できる可能性があるということです。

もちろん、運用には価格変動があるため、必ず資産が増えるわけではありません。そのため、制度のメリットだけを見るのではなく、運用期間やリスク許容度まで含めて検討する必要があります。

金融資産は目的によって選ぼう

相続時精算課税制度を資産運用と組み合わせる場合、長期的な成長を期待できる資産や、安定した収益が期待できる資産などが選択肢になります。

例えば、

  • インデックスファンド(全世界株式、S&P500など)
  • 債券(日本国債、米国国債など)
  • その他、長期保有を前提とした金融資産

などが考えられます。

ただし、重要なのは「どの商品を選ぶか」だけではありません。

相続時精算課税制度を利用する目的が「納税資金の準備」なのか、「次世代への資産移転」なのか、「長期的な資産形成」なのかによって、適した資産配分は変わります。

例えば、数年以内に相続税の納税資金として使う可能性が高いお金を、価格変動の大きい株式に集中させるのは適切とはいえません。

納税資金として守るお金と、長期運用によって育てるお金を明確に分けることが大切です。

相続時精算課税制度の仕組みと注意点

2024年以降、相続時精算課税制度にも年間110万円の基礎控除額が設けられました。

一定の要件のもとで、

  • 年間110万円の基礎控除額
  • 累計2,500万円の特別控除額

が利用できる仕組みとなっています。

また、相続時精算課税制度における年間110万円の基礎控除部分については、相続時の加算対象から除かれる仕組みとなっています。

これにより、以前と比較して制度を活用する選択肢が広がりました。

一方で、相続時精算課税制度は一度選択すると、その贈与者については暦年課税へ戻すことができません。

また、将来的に値下がりする可能性が高い資産を移転した場合には、必ずしも期待した効果が得られない場合があります。

そのため、制度を利用する際には、税制だけを見るのではなく、「誰に」「何を」「どのくらい」「何の目的で」移すのかを整理することが重要です。

まとめ

相続対策というと、「いかに相続税を減らすか」という視点に偏りがちです。

しかし、本当に重要なのは、相続が発生した後に家族が困らない状態をつくっておくことではないでしょうか。

例えば、

  • 相続税はいくらになるのか
  • その税金をどの資産から支払うのか
  • 納付期限までに現金を用意できるのか
  • 残したい不動産を売却せずに済むのか
  • 相続人同士で財産分割について揉める可能性はないか

こうした点まで事前に確認しておくことが大切です。

相続は、いつ発生するかを正確に予測することができません。

だからこそ、元気なうちから財産の内容を整理し、相続税を試算し、納税資金の準備方法を考えておくことが重要です。

そして、預貯金、生命保険、不動産、投資信託、債券など、それぞれの資産の特徴を理解したうえで、「守る資産」と「育てる資産」をバランスよく組み合わせることが、これからの相続対策には求められます。

相続対策は、単に税金を減らすためのものではありません。

大切な財産を、できるだけ希望する形で次の世代へ引き継ぐための準備です。

「相続が発生してから考える」のではなく、「今のうちから考えておく」。

納税資金まで含めた相続対策を早めに始めることが、ご自身だけでなく、ご家族にとっての大きな安心につながるのではないでしょうか。

次世代の承継までからむ相続のことは、長いお付き合いができる金融のプロの視点からのアドバイスが非常に役に立ちます。

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まずはぜひ一度ご相談ください。

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