家族信託とは?判断能力が低下する前に知っておくべき財産管理

執筆:

監修:SBIマネープラザ株式会社

更新:2026年08月04日

「もし自分が認知症になったら、財産はどうなってしまうのだろう?」

「親が元気なうちに、財産のことを話し合っておくべきかも…」

このような不安や疑問を、漠然と抱えている方は少なくないのではないでしょうか。 実は、認知症によって意思能力がないと判断されると、銀行口座が凍結され、ご家族であってもお金を引き出せなくなることもあります。

内閣府が公表した「令和7年版高齢社会白書」によると、2040年には認知症の方が約584万人に達するとされており、認知症の一歩手前の「軽度認知障害」の方を含めると約1,200万人規模にのぼると見込まれています。

そんな時代だからこそ、「財産をどのように守り、どのように次世代に引き継ぐか」という問題は、多くの家庭にとって身近で切実なテーマになっています。 そこで注目されているのが「家族信託(かぞくしんたく)」です。

この記事では、家族信託の基本的な仕組みからメリット・デメリットまで、わかりやすく解説します。

家族信託とは?

財産管理の方法のひとつ

信託という言葉を聞くと、難しい制度のように感じる方もいるかもしれませんが、考え方はとてもシンプルです。

「信頼できる人に財産を託し、決められた目的のために管理・運用してもらう」が信託の基本的な考え方です。

法律上は家族・親族以外の第三者を管理役にすることも可能ですが、実際は信頼できる家族や親族を財産の管理役として活用されるケースが多いことから、「家族信託」と呼ばれることが一般的になっています。契約内容の設計は家族間で進めますが、公正証書の作成や不動産の登記変更、信託専用の銀行口座の開設など、司法書士・公証人・金融機関などの関与が必要になるケースがほとんどです。

家族信託の仕組み

家族信託には、主に3つの登場人物が出てきます。

  1. 委託者:財産を「託す人」。多くの場合は、財産を持っている父や母です。
  2. 受託者:財産を「託される人」。主に信頼できる家族が担います。財産の名義はこの人に移りますが、あくまで管理・運用のためであり、勝手に使うことはできません。
  3. 受益者:財産から生まれる「利益を受け取る人」。委託者自身が受益者になるケースが主流です。
  4. 例えば、70歳の父(委託者)が、認知症になった際に備えて、不動産や預貯金などの管理を娘(受託者)に任せる契約をし、娘は契約の内容に従って誠実に財産を管理します。父は元気なうちも、具合が悪くなってからも、引き続き受益者として信託財産を生活費に充ててもらえる仕組みにしておきます。

このような仕組みによって、父が認知症になり判断能力が低下しても、娘が財産を管理・活用できるようになります。
出典:鳥取地方法務局(2021) 「未来につなぐわたしの相続(エンディング)ノート」20頁を参考に作成

家族信託が注目される時代背景

日本の高齢化に伴い、「本人が意思表示できなくなった後に、財産の管理や活用が難しくなる」という問題が発生しています。

たとえば、銀行などの金融機関は口座名義人の判断能力について、確認が取れないと判断した場合、入出金や各種手続きを制限することがあります。「親の介護費用として資金が必要なのに、手続きが進まない」ようなトラブルに直面するケースが増えているのです。また、少子高齢化の時代には「誰が親の面倒を見るのか」という問題とともに、「財産を誰がどう管理するか」という問題も複雑化しています。親族間の意見の食い違い、相続トラブルなど、現代の家族が抱えるリアルな問題に対応するために、家族信託という仕組みが注目を集めています。

家族信託はどんな時に使える?代表的な4つのケース

家族信託が特に役立つとされるのは、次のようなケースです。

ケース①:親の認知症に備えたい

親が元気なうちに子どもに財産管理を任せる契約をしておくことで、判断能力が低下した後も子どもが契約の範囲内でスムーズに財産を管理でき、施設への入居費用や日々の生活費などの支払いもスムーズに対応できます。

注意点として、不動産を将来売却する可能性がある場合は、あらかじめ契約に売却する権限を明記しておく必要があります。

ケース②:障がいのある家族がいる

例えば、障がいを持つ子どもがいる場合、親亡き後の生活を心配されるケースもあります。家族信託を使えば、「自分が亡くなった後も、信頼できる人が子どもの生活を支えるために財産を管理してくれる」という仕組みをつくることができます。

ケース③:不動産の管理・活用

親が所有するアパートなど、賃貸物件の管理を子どもに任せたい場合にも有効です。親が高齢や病気で不動産の管理が難しくなっても、子どもが代わりに対応できます。こちらも契約に明記しておくことで、将来的な建て替えや売却の権限を委ねることが可能です。

ケース④:相続対策・二次相続対策

「自分が亡くなった後は配偶者に財産を、配偶者が亡くなった後は子どもに」など、一定の期間制限はあるものの、財産の承継先を複数段階で決めておくことができます。これは通常の遺言書ではできないことであり、家族信託ならではの大きな特長のひとつです。

家族信託のメリットとは?

家族信託には、成年後見制度や遺言書といった従来の制度にはない独自の強みがあります。

メリット①:財産の承継先を複数段階で指定できる

遺言書では、「自分が亡くなったら配偶者に渡す」という次の相続先しか指定できませんが、家族信託では、「自分が亡くなったら配偶者に、配偶者が亡くなったら子どもに」というように、承継先を複数世代にわたって連続して指定することができます。

注意点として、信託法の規定により、信託開始から30年を経過した後の承継については一定の制限が生じます。長期的な設計を考える場合は、専門家との慎重な検討が不可欠です。

メリット②:家族の事情に合わせて柔軟に設計できる

成年後見制度でも財産を守ることはできますが、使い道や管理方法が法律で厳しく制限されます。一方、家族信託では、「不動産は売却してもよいが、実家だけは売らないこと」「預金は、孫の教育費としても使ってよい」など、契約内容を家庭の事情に合わせてある程度自由に設計できます。

メリット③:本人が認知症になっても管理の継続性を確保できる

本人の判断能力が低下した後でも、口座や資産が凍結されず、受託者が管理を継続できます。通常であれば、本人の意思確認が難しい状態になると、財産を動かすことが難しくなりますが、信託しておいた財産については、受託者が契約の範囲内でスムーズに対応できます。

ただし、管理できるのはあくまで信託財産に限られます。本人名義であることが必要な年金の受取口座の資産など、信託外の財産については別途成年後見制度の併用などが必要になります。

メリット④:亡くなった後の「財産の承継」がスムーズになる

信託財産については、委託者が亡くなっても、あらかじめ契約で決めた方法に従って速やかに承継が行われます。遺産分割協議を待たずに手続きを進められるため、残された家族の負担を軽減できます。 ただし、税金の申告が不要になるわけではなく、登記・名義変更などの手続きや相続税の申告が発生するため、専門家に確認しながら進めることが大切です。

家族信託のデメリットとは?

家族信託は非常に便利な仕組みですが、決して万能ではありません。契約後に後悔しないために、デメリットや制度上できないこともしっかり理解しておきましょう。

デメリット①:受託者の負担と責任が重い

財産の管理を任される受託者は、継続的に財産の管理・記録・報告を行う義務があり、大きな責任を担います。とくに不動産や複数の資産を信託している場合、管理の手間が相当なものになることもあります。また、受託者に悪意があったり、管理能力が不足していたりすると財産が守られないリスクもあります。

デメリット②:制度の歴史が浅く、事例が少ない

現在の家族信託は、2007年に施行された信託法改正によって使いやすくなった制度です。比較的新しいため、判例や実例の積み重ねがまだ十分ではなく、想定外のトラブルが発生した場合の対応に不確実性が残るケースもあります。

デメリット③:「財産の管理・承継」以外の分野には制限がある

家族信託は、あくまで「財産をどうするか」に特化した制度です。そのため、財産管理以外の個人的な手続きや権利については権限が及ばないという制限があります。

たとえば、家族信託の権限は財産に限られるため、介護施設への入居契約や病院の入院手続きといった生活面の手続きは受託者の権限外となります。これらをカバーするには、成年後見制度との組み合わせが必要になります。なお、手術などへの医療同意についても、現在の法制度では代理権の対象外であり、家族による同意が慣行として行われているのが実情です。また、預金や不動産は信託できても、年金などの社会保障給付は「その人個人に帰属する権利」とされています。そのため、年金や各種給付金を信託口座で直接受け取ることはできない点にも注意が必要です。

家族信託と成年後見制度、贈与の比較

家族信託と似たような目的で使われる制度として、「成年後見制度」と「贈与」があります。それぞれの違いを整理しておきましょう。

成年後見制度との比較

成年後見制度には、本人の状況に合わせて「法定後見制度」と「任意後見制度」の2種類があり、それぞれの特徴を確認してみましょう。

すでに判断能力が低下した後の法定後見制度

すでに判断能力が低下してしまった方の代わりに、家庭裁判所が後見人を選びます。家族信託との最大の違いは認知症などが進行した後からでも利用できる点です。ただし、財産を減らさないことが大前提となるため、家族のための出費や積極的な資産運用などは原則できなくなります。また、裁判所の判断で家族以外の弁護士などの専門家が選ばれた場合、本人が亡くなるまで毎月の報酬コストが発生し続けます。

元気なうちに備える任意後見制度

元気なうちに「将来もし認知症などになったら、この人にサポートしてほしい」とあらかじめ契約を結んでおく制度で、後見人を自分で自由に選べるのが特徴です。 家族信託との主な違いは、認知症などの判断能力が不十分になってから利用をスタートする点と、利用開始後に、後見人をチェックする弁護士などの監督人に対する毎月の報酬が必ず発生する点です。

贈与との比較

生前贈与は、自分が生きているうちに特定の財産を誰かに譲る手続きです。

家族信託との大きな違いは、財産を自由にする権利も完全に相手に移るという点です。たとえば、親が子どもに現金を贈与した場合、そのお金を子どもがどう使うかは完全に子どもの自由になります。そのため、親が「将来の介護費用のために使ってほしい」といったコントロールは難しくなります。

また、生前贈与は財産の額によって高い贈与税がかかる可能性があるため、税金面での慎重なシミュレーションが必要です。

家族信託と成年後見制度・遺言を組み合わせるメリット

家族信託は単独でも有効ですが、成年後見制度や遺言書と組み合わせることで、老後・相続への備えをより広くカバーできます。

家族信託+任意後見で「財産も生活も」カバー

家族信託の受託者は、財産管理はできても、生活面の法的手続きは行えません。そこで、家族信託で財産を管理し、成年後見制度で生活面の法的手続きをサポートするという組み合わせが有効です。両方を備えることで、判断能力が低下した後の対応をより広くカバーできます。

遺言書とのセット活用

家族信託は亡くなった後の財産の行き先についてもある程度決めることができますが、信託に含まれていない財産については、遺言書で指定する必要があります。
たとえば、預金や株式、不動産は家族信託に組み込んでいても、宝飾品、趣味のコレクションなどは信託外ということもあります。こうした信託に含まれない財産の行き先を遺言書で指定しておくことで、財産全体の相続をより確実に備えることができます。

  • 「家族信託」「任意後見」「遺言書」の3つを整えることで、
  • 元気なうち → 家族信託で財産管理の準備
  • 判断能力が低下したとき → 任意後見が効力を発揮し、生活面の法的手続きにも対応
  • 亡くなった後 → 遺言書で信託外の財産を指定通りに分配

という形で、人生の各段階に応じた備えを厚くすることができます。ただし、どの組み合わせが良いかはご家庭の状況によって異なるため、専門家に相談しながら検討することをおすすめします。

大切なのは自分に合った方法を選ぶこと

家族信託は、適切に活用することで老後の不安を和らげ、家族が安心できる財産管理・承継の仕組みを作るうえで有効な選択肢のひとつです。
ただし、家族信託が誰にとっても最適というわけではありません。家庭の事情、財産の種類や規模、家族の状況によって、最善の選択肢は異なります。家族信託が適している場合もあれば、任意後見制度や遺言書の整備を優先する方がシンプルで現実的な場合もあります。
大切なのは、自分の状況に合った方法を、正確に理解したうえで選ぶことです。
もしものときになってから考えるのでは選択肢が限られてしまうことがあります。しかし、元気なうちに少しだけ考えておくだけで、将来の備えの幅はぐっと広がります。

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