名目・実質・実質実効の3つのレンズで外債投資

投資情報部 土居 雅紹
2026/07/30
名目為替レートと実質為替レート ― 短期と長期で異なる目線
■名目為替レート ― 円安がもたらす「見かけのリターン」
図表1は、日本円(以下「円」)に対する9通貨※の名目為替レートを2015年12月の終値=100として指数化したものです(線が上に行くほど、その通貨が円に対して強い=円安であることを示します)。2015年12月以降、円は2020年のコロナ禍までは総じて堅調でしたが、コロナ後は(トルコリラを除き)急速に円安が進みました。
※対象は、主要通貨の米ドル・ユーロ、資源国通貨とされる豪ドル・カナダドル、高金利通貨として取引されることが多いニュージーランドドル・メキシコペソ・南アフリカランド、値動きが特徴的なトルコリラ、規制通貨ながら報道などで耳にする機会が多い人民元の9通貨です。
2015年12月末比で、2026年6月末の対円為替レートは米ドルが約1.3倍、ユーロが約1.4倍となり、カナダドル、人民元、豪ドル、南アフリカランドも同程度上昇しました。外貨建債券を保有する日本の投資家にとって、この名目為替レートの上昇は円換算リターンを押し上げる結果となりました。
例外はトルコリラで、対円の名目為替レートは10年間で10分の1以下まで大幅に下落しました。もともと経常赤字体質だったところに、対米関係の悪化、金融政策運営を巡る不透明感、コロナ禍、大地震が重なり、長期的な大幅下落につながりました。
■実質為替レート ― インフレによる通貨価値の低下を考慮
図表2は、9通貨の対円為替レートを実質ベースに換算したものです。これは名目為替レートに二国間の物価水準※(物価指数)の比を掛け合わせたもので、円と相手国通貨の相対的な価値の変化を表します。
※IMFの総合CPIデータから変化率を算出し、各国の物価水準として用いています。
例えば、ある年の日本とA国のインフレ率がそれぞれ0%と3%で、名目為替レートが1年間変わらなかったとします。この場合、同じ額の日本円でA国から買えるものは、インフレ分の3%だけ少なくなります。これを織り込んだものが実質為替レートであり、その推移をみることで、輸入品の価格や現地での宿泊費・物価から体感する通貨価値の変化が分かります。
実質でみると、円はトルコリラを除く8通貨すべてに対して名目以上に価値を下げています※。なお、実質為替レートの算出自体に運用金利の前提は含まれていませんが、政策金利や一般的な短期金利が物価上昇率を下回る局面では、低利回りの預貯金等に置いてある資金の実質的な購買力が低下する可能性があります。
※図表1は月次データですが、図表2は一部の国の月次のCPIデータが揃わなかったため、入手可能であった年次データによる比較としています。したがって、図表1と図表2を比較する際は厳密な数値の比較ではなく、あくまで趨勢の比較となります。
ユーロと米ドルの対円実質レートは、2015年末に比べて10年間で、それぞれ約1.6倍、約1.5倍※に上昇しました。ユーロ圏や米国のインフレ率が日本よりも高かったため、名目の上昇にインフレ率の差が上乗せされた形です。資源国通貨についても、日本が長くデフレ気味だったことの裏返しとして、実質ベースでも円に対して大きく上昇しています。
※IMFデータをもとに算出。
興味深いのがトルコリラです。名目では2015年末以降の約10年間で10分の1以下まで大幅に下落しましたが、実質でみると下落の大半が消え、2025年末時点で約5.8%の下落にまで戻っています。これはトルコの累積物価上昇が日本を大幅に上回り、その相対的な物価差が名目対円レートの下落の大部分を相殺したことを意味します。ただし、これは「トルコリラに投資しても損失は名目レートの下落ほど大きくなかった」という話ではなく、あくまでトルコのインフレ率を上回る利回りで運用できた場合に限られるという前提が付きます。
■外債投資家への含意 ― 短期は名目、長期はインフレ率以上の利回り確保がカギ
外債投資家の手取りに直接影響するのは、利回りと名目為替レートです。しかし、高金利・高インフレ通貨の魅力的な利回りは、多くの場合、名目の通貨下落の裏返しとなります。その典型がトルコリラで、高い金利を受け取っても名目レートの大幅な下落によって円換算の元本が大きく目減りしました。
これらを考慮すると、名目レートの上昇に加えて実質レートでも底堅い米ドル建債券とユーロ建債券が債券でのコアポートフォリオにおける選択肢の一つとして考えられます(ただし、為替変動リスクは残ります)。また、高利回りの新興国通貨建債券は、その利回りが通貨劣化の可能性への対価でもある点を踏まえて検討する視点も重要です。なお、実質レートでみて2015年末比で大きく上昇している通貨については、将来の反落が円換算リターンを削るリスクにも留意する必要があります。
図表1 対円の名目為替レート(月次、2015/12~2026/6)
図表2 対円の実質為替レート(年次、2015年~2025年)
実質実効為替レート ― 円の「割安」は続くのか?
■実質実効為替レートでみる9通貨 ― 円の突出した下落
図表3は、各通貨の実質実効為替レート(多数の貿易相手国との取引ウェートとインフレ率の差を調整した、総合的な通貨価値の推移)を示します。二国間の比較である実質為替レートと異なり、実質実効為替レートは、主要な貿易相手国の通貨バスケットに対する、物価差調整後の通貨の相対的な強弱を示すものです。ここで際立つのは2020年以降の円の値動きで、2026年6月時点では、2015年12月に比べて9通貨のなかで最も低い水準まで下落しています。
人民元も、ディスインフレを背景に2022年以降下落しました。対照的に、メキシコペソと南アフリカランドは高値圏にあります。米ドルは2024年11月から下落する一方、ユーロと豪ドルはほぼ同時期から上昇しています。トルコリラは名目レートでは大きく下げているものの、実質実効為替レートでは2022年以降は復調し、2026年6月時点では円を上回る水準まで戻しています。実質実効為替レートでみれば、円は今回の比較対象の9通貨のなかでも「相対的に弱含みが目立つ通貨」といえます。
■円安がさらに進む条件 ― 割安がなぜ続き、拡大しうるか
実質実効為替レートで円が下落していることは、必ずしも円高反転することを示唆するものではありません。むしろ、以下の条件がそろえば、割安な状態が続くばかりか、さらに下落する可能性もあります。
・原油・資源価格の高止まり:エネルギーの純輸入国である日本の貿易・経常収支を悪化させ、実需の円売りが増える可能性があります。
・内外の政策金利のギャップ:FRBやECBが高めの金利を維持する一方、日銀の「正常化」が緩慢とみられれば、円を売って高金利通貨を買う動きが継続する可能性があります。
・家計の外国投資シフトの定着:個人投資家の外国株・外国投資信託への投資フローが定着すれば、恒常的な円売り・外貨買いの要因となり得ます。 ・日本企業の対外投資と「稼ぎの海外滞留」:直接投資や海外M&A、海外で得た収益を日本企業が円転せずに現地で再投資する構造が、円買い需要を細らせる可能性があります。
・デジタル赤字の拡大:クラウドや広告などデジタルサービスの対外支払い超過(デジタル赤字)が膨らみ、構造的な外貨流出の要因となり得ます。
■トレンド反転のカタリスト
逆に、多くの通貨に対して円安となっているトレンドを反転させるには、次のような政策や構造変化という「カタリスト(触媒)」が必要と考えられます。
・日銀による金利正常化:追加利上げと国債買入れ額の段階的な減額によってマイナスの実質金利を是正し、正常化の方向を明確に示せば潮目の変化となり得ます。
・米欧の通貨当局との協調介入による円買い:大規模なドル売り・円買いによって、行き過ぎたとされる円安に歯止めをかけることが効果的と考えられます。なお、一般に、協調介入は単独介入より市場へのシグナルが強くなる可能性がありますが、効果や持続性は市場環境によって異なります。
・GPIFの円資産割合の引き上げ:公的年金が外貨建資産(基本ポートフォリオの約半分)の比率を下げて円資産に回帰すれば、巨額の円買い需要が生まれる可能性があります。ただし、実際に生じる円買いの規模は、為替ヘッジの状況やリバランス方法によって異なります。
・円建て投資の魅力向上:実質金利をプラス圏に戻し、家計の外貨シフトそのものを和らげることで、実需の円売りが減る可能性があります。
・エネルギー政策転換による原油・天然ガス輸入の大幅な縮小:輸入品目の中で大きな割合を占める原油・天然ガスの輸入を将来にわたって減らすことができれば、円売り実需が細り、円高圧力になると予想されます。
実質実効為替レートでみると下落が目立つ円ですが、現状ではトレンド反転の条件はまだ揃っていないようにみえます。外貨建債券に投資する視点で考えるなら、大きく下落した円が反転上昇する可能性も考慮しつつ、相対的に割高感が少ない米ドル・ユーロをコアの投資先として、サテライトの投資対象の通貨を分散させることも一案と考えられます。
■まとめ
・名目為替レート:トルコリラを除き、主要通貨が対円で上昇(=円安)
・実質為替レート:主要通貨に対して円はほぼ全面安
・実質実効為替レート:2020年以降の円下落が顕著で、トルコリラ、人民元も相対的に軟調
・円反転のカタリストは揃っていないが、投資対象の外貨を分散させることも一案
※過去の為替・金利の推移は将来の成果を示すものではありません。また、外貨建債券への投資は、円換算では為替変動により損失が生じる可能性があります。
図表3 各通貨の実質実効為替レート(月次、2015/12~2026/6)
SBI証券でメキシコペソ建の既発債を探す
米ドルとユーロ建債券をコアとした場合に、名目・実質ともに対円レートの変動が大きいものの、サテライト投資対象として南アフリカランド、メキシコペソなどの高金利通貨を検討する場合もあると考えられます。そこで一例として、メキシコペソ建債券(既発)を、SBI証券で探してみましょう。
- SBI証券のトップページにアクセスし、PCの場合は「債券トップ」の左横のメニューから「外貨建」の「+(プラス)」でメニューを広げて、「既発債券」をクリックします(スマホの場合は「債券トップ」から上段メニューの「外貨建」を選び、ページ中央に表示される「既発債券」をクリックします)。
- 次に、絞込条件の設定画面が閉じられている場合には、「絞込条件を開く」をクリックします。通貨「メキシコペソ」にチェックを入れ、ここでは残存期間5年以下の銘柄を探すものとして、残存期間(年)に「0~5」を入力して「検索」をクリックします。
→この操作で、対象の銘柄が6銘柄に絞り込まれます(2026年7月27日時点、図表4参照)。最低買付額面が10,000MXN(メキシコペソ)の銘柄と100,000MXNの銘柄があるので注意が必要です。また、新興国通貨であることに加えて、米国の隣国かつ主要な貿易パートナーであることから、トランプ政権の政策変更による影響が大きいと考えられます。このため、高金利という側面だけでなく、カントリーリスク、流動性リスク、為替変動リスク、価格変動リスク、発行体の信用リスクにも留意し、外貨建債券ポートフォリオに占める割合は5~10%程度に抑えておくことも一案です。
便利な機能も活用しましょう
・気になる銘柄は「登録」しておくと、いつでもまとめて確認することができます。
SBI証券での債券取引の流れやお役立ち機能については、債券取引ガイドをご覧ください。
最後にひとこと
SBI証券で取り扱っている債券の銘柄や条件は、日々変わります。購入前には、必ず最新情報をWEBサイトで確認してください。
図表4 メキシコペソ建既発債券 検索結果(2026年7月27日時点)
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