日米韓でこんなに違う!半導体の役割と強み

日米韓でこんなに違う!半導体の役割と強み

LS証券リサーチセンター

2026/7/27

同じ半導体でもそれぞれ異なる競争力

近年、日米韓の株式市場では、半導体関連銘柄を中心に高いボラティリティが見られます。AIデータセンターへの投資拡大と先端半導体需要の増加が、3カ国の株式市場に共通して影響を与えている点は同じですが、同じ半導体産業に関連する企業であっても、実際に果たす役割や業績を左右する要因はそれぞれ異なります。半導体産業は、設計、製造、装置、素材、パッケージング、テストなど、複数の工程によって構成されています。日米韓は、それぞれの強みを生かし、異なる領域に特化した産業構造を形成しています。

日米韓の半導体企業の株価は、いずれもAIと半導体サイクルという共通の流れの影響を受けますが、企業ごとの業績や株価を動かす個別要因は異なります。日本企業は、世界的な半導体設備投資や製造工程の複雑化、米国企業はAI演算需要と設計競争力、韓国企業はメモリー価格とHBMの生産能力による影響を相対的に大きく受けます。本レポートでは、日米韓の半導体産業の発展過程とバリューチェーンごとの競争力を比較するとともに、各国を代表する半導体企業の事業構造や主な投資ポイントについて解説します。

日米韓の半導体バリューチェーン概要

表1 日米韓の半導体バリューチェーン比較

資料:LS証券リサーチセンター

日本は、ウェハーやフォトレジストなどの半導体素材、エッチング・成膜・洗浄・検査・テストなどの精密製造装置に特化しています。
米国は、GPU・CPU・ASICなどの高性能半導体設計に加え、EDA・半導体IP、主要製造装置の分野でも高い競争力を確保しています。
韓国は、DRAM・NAND・HBMを中心とするメモリー半導体と、大規模量産に強みを持っています。
簡単に言えば、米国が半導体を設計し、日本が生産に必要な素材と装置を供給し、韓国がそれを大規模に生産する構造になっています。

日本では、前工程装置メーカーである東京エレクトロン、半導体テスト装置メーカーのアドバンテスト、ウェハー切断・研磨装置メーカーのディスコ、半導体ウェハーと素材を供給する信越化学工業やSUMCOなどが、産業競争力を構成しています。米国では、AIアクセラレーター市場を主導するエヌビディア、カスタムAI半導体とネットワーク半導体に強みを持つブロードコム、半導体製造装置を供給するアプライドマテリアルズ、ラムリサーチ、KLAなどが代表的です。韓国を代表する半導体企業には、メモリーとファウンドリー事業を同時に展開するサムスン電子と、HBM市場をリードするSKハイニックスがあります。

日米韓の半導体産業比較

表2 日米韓の半導体産業比較

区分 日本 米国 韓国
主力分野 半導体素材・装置、テスト、イメージセンサー、車載・パワー半導体 GPU・CPU・ASIC・ネットワークなどのシステム半導体、EDA・IP、半導体装置 DRAM・NAND・HBMなどのメモリー、先端パッケージング
代表的な事業モデル 装置・素材・部品分野の専門企業中心 ファブレスとファウンドリーの分業、設計資産中心 大規模生産設備を保有するIDM中心
中核競争力 高純度素材、精密製造装置、テスト・後工程技術 半導体設計、ソフトウェア・エコシステム、EDA・IPおよび主要装置技術 メモリー量産能力、プロセス転換の速さ、HBMの生産・パッケージング能力
課題 先端ロジック・メモリーの量産競争力低下、大型ファブレス企業が限定的 先端半導体製造のアジア依存、生産コストの高さ EDA・IPと一部主要装置の海外依存、ファブレス・エコシステムが相対的に脆弱
現在の成長ドライバー 先端装置、AI・HPC向けテスト、ウェハー加工、半導体製造基盤の再構築 AIアクセラレーター、カスタムASIC、AIネットワーク、プロセス制御・装置 HBM4、サーバーDRAM、eSSD、先端パッケージング

資料:LS証券リサーチセンター

半導体産業の発展過程

▶日本:メモリー中心から素材・装置中心へ転換

日本は、1970年代に政府と企業が共同で推進した半導体育成政策を基盤として、産業を成長させました。1980年代には、NEC、東芝、日立などの日本企業が世界のDRAM市場を主導し、日本は世界最大の半導体生産国へと浮上しました。しかし、1990年代以降、円高、高い生産コスト、ファブレス・ファウンドリー分業構造への転換の遅れが重なり、メモリーと先端ロジック半導体の競争力が低下しました。

その後、日本企業は、ウェハー、フォトレジスト、特殊ガスなどの半導体素材や、エッチング・成膜・洗浄・検査・テスト装置など、技術的な参入障壁が高い分野に注力しました。現在は、東京エレクトロン、アドバンテスト、ディスコ、信越化学工業、SUMCOなどが、日本の半導体産業の競争力を支えています。最近では、JASMやラピダスなどの新たな国内ファウンドリーを中心に、先端半導体の生産基盤を再び確保しようとする動きも見られます。

図1 東京エレクトロンのTrack装置(Coater+Developer)

東京エレクトロンのTrack装置(Coater+Developer)

資料:東京エレクトロン、LS証券リサーチセンター
※露光工程で感光液(Photoresist、PR)を均一に塗布する装置であり、世界市場シェア90%を占める中核装置

図2 TSMC・ソニー・トヨタ・デンソーの合弁ファウンドリー、JASM

TSMC・ソニー・トヨタ・デンソーの合弁ファウンドリー、JASM

資料:業界資料、LS証券リサーチセンター

▶米国:半導体の設計と標準を主導

米国の半導体産業は、1940~1950年代のトランジスタと集積回路の発明から始まりました。その後、インテルとテキサス・インスツルメンツを中心に、設計と生産を一体で行うIDM構造が成長し、PC市場の拡大とともにCPU、メモリー、アナログ半導体産業が発展しました。

1980年代以降、日本とのメモリー分野での競争が激しくなると、米国の半導体産業は設計と生産を分離する方向へと変化しました。生産工場を自社で保有しないファブレス企業と、それを支えるEDA・半導体IP産業が成長し、クアルコム、エヌビディア、ブロードコムなどの設計専門企業が産業の中心となりました。

現在、米国はGPU・CPU・ASIC・ネットワーク半導体などの高性能システム半導体に加え、EDA、半導体IP、プロセス制御、前工程装置でも高い競争力を有しています。最近では、AI半導体需要の拡大に伴い、国内の生産基盤を強化するための半導体工場への投資も拡大しています。

図3 東京エレクトロンのTrack装置(Coater+Developer)

東京エレクトロンのTrack装置(Coater+Developer)

資料:エヌビディア、LS証券リサーチセンター

図4 2025年の世界ファブレス企業売上比率ランキング

2025年の世界ファブレス企業売上比率ランキング

資料:TrendForce、LS証券リサーチセンター
※エヌビディア、ブロードコム、クアルコム、AMD、マーベル、MPSは北米に本拠を置く上場企業

▶韓国:後発企業からメモリー大国へ成長

韓国は1980年代、サムスン電子や現代電子などを中心に、DRAM生産へ本格的に参入しました。先発企業よりも市場参入は遅かったものの、大規模な設備投資、迅速なプロセス転換、不況期にも投資を継続する戦略を通じて、1990年代以降、世界のメモリー市場における主要生産国へと成長しました。

2000年代には、NANDフラッシュとモバイルメモリーへ事業領域を拡大し、その後、ファウンドリー、システム半導体、先端パッケージング分野へ投資範囲を広げました。サムスン電子とSKハイニックスは現在、DRAM・NANDだけでなく、AIアクセラレーターに搭載されるHBM市場でも高い競争力を確保しています。

現在の韓国半導体産業の強みは、メモリーの量産能力、プロセス転換の速さ、HBMの生産およびパッケージング能力にあります。今後は、HBM4、サーバーDRAM、eSSDなどの高付加価値メモリーにおける競争力を維持すると同時に、ファブレス、半導体IP、ファウンドリーのエコシステムをどれだけ拡大できるかが、中長期的な産業競争力を左右する見通しです。

図5 SKハイニックスのHBM:世代別の積層数増加

SKハイニックスのHBM:世代別の積層数増加

資料:SKハイニックス、LS証券リサーチセンター

図6 サムスン電子のAIサーバー向けeSSD:PM1763モデル

サムスン電子のAIサーバー向けeSSD:PM1763モデル

資料:サムスン電子、LS証券リサーチセンター

表3 日米韓の半導体バリューチェーンにおける代表企業

代表企業 備考
日本 東京エレクトロン エッチング、成膜、洗浄、Coater/Developerなど、さまざまな前工程装置を供給する日本最大の半導体装置メーカー
アドバンテスト GPU・CPU・ASIC・HBMなどの性能や不良の有無を検査する半導体テスト装置メーカー
AI半導体の複雑化に伴い重要性が高まる日本の精密装置・テスト分野の競争力を代表
米国 エヌビディア GPUとAIアクセラレーター市場を主導する世界最大の半導体ファブレス企業
生産工場を持たず、設計とソフトウェアに集中する米国のファブレス産業構造と、AI半導体の競争力を代表
ブロードコム ネットワーク半導体と、大手クラウド企業向けのカスタムAI半導体を設計するファブレス企業
エヌビディアが汎用AIアクセラレーターを代表する一方、ブロードコムはASICとAIネットワーク分野に強み
韓国 サムスン電子 DRAM・NANDなどのメモリーだけでなく、システム半導体、ファウンドリー、先端パッケージングまで手掛ける総合半導体企業
韓国半導体産業の大規模量産能力と、垂直統合された事業構造を代表
SKハイニックス DRAMとHBMを中心に成長してきたメモリー専業企業
AI半導体市場において韓国が有するHBM競争力と、高付加価値メモリー中心への産業構造変化の恩恵を受ける企業

資料:LS証券リサーチセンター

表4 日米韓の半導体企業業績比較

代表企業 時価総額(百万ドル) 売上高 営業利益 純利益
2024 2025 2026E 2024 2025 2026E 2024 2025 2026E
日本 東京エレクトロン 204,694 15,963 16,233 20,004 4,578 4,152 5,828 3,572 3,816 4,479
アドバンテスト 133,474 5,119 7,498 9,262 1,498 3,316 4,288 1,058 2,494 3,189
米国 エヌビディア 4,925,426 130,497 215,938 393,023 81,453 130,387 260,813 72,880 120,067 219,526
ブロードコム 1,827,149 51,574 63,887 105,811 13,463 25,484 70,543 5,895 23,126 57,222
韓国 サムスン電子 1,044,538 220,655 234,788 476,232 24,001 30,686 247,152 24,657 31,150 198,286
SKハイニックス 920,263 48,545 68,371 239,335 17,211 33,223 185,780 14,513 30,206 155,331

資料:Bloomberg、LS証券リサーチセンター
※東京エレクトロン、アドバンテスト、エヌビディアは決算期が異なるため、各企業を比較できるよう、公表年度を基準に業績を記載。通貨単位は100万米ドルに統一。2026年7月13日の終値基準。

表5 日米韓の半導体企業バリュエーション比較

代表企業 PER PBR EV/EBITDA
2024 2025 2026E 2024 2025 2026E 2024 2025 2026E
日本 東京エレクトロン 17 29.7 44.2 5 8.2 13.4 11.5 23.3 31.2
アドバンテスト 29.6 39.5 41.7 9.4 18.5 18.5 16.5 27.6 29
米国 エヌビディア 48.6 43 22.6 44 29 16.5 41 33.6 18
ブロードコム 64.5 69.8 33.1 11.7 21.6 16.5 32.8 51.3 25.7
韓国 サムスン電子 10.7 18.2 5.7 0.8 1.7 2.5 3.1 6.8 3
SKハイニックス 6.1 10.5 5.8 1.6 3.8 3.8 3.6 7.3 4

資料:Bloomberg、LS証券リサーチセンター
※東京エレクトロン、アドバンテスト、エヌビディアは決算期が異なるため、各企業を比較できるよう、公表年度を基準に各倍率を記載。2026年7月13日の終値基準。

図7 日米韓の半導体企業の時価総額推移を指数化(1Y)

資料:Bloomberg、LS証券リサーチセンター
※2025年7月14日=100ポイントとして、各企業の時価総額の変動推移を指数化。

補足:用語説明

用語 説明
IDM 半導体の設計から生産、販売までを自社で直接行う企業。サムスン電子、SKハイニックス、インテルなどが代表的。
ファブレス(Fabless) 生産工場を保有せず、半導体の設計と開発を担当する事業形態。エヌビディア、AMD、クアルコムなどが代表的。
ファウンドリー(Foundry) ファブレス企業などが設計した半導体を受託生産する事業形態。
デザインハウス(Design House) ファブレス企業が設計した半導体を実際のファウンドリー工程で生産できるよう、設計を補完する企業。

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