株価下落で投資チャンスを迎えた!?「肥満治療薬」銘柄
投資情報部 榮 聡
2025/01/08
肥満治療薬は今年も主要な投資テーマになると想定されますが、ここ半年間に株価は大きく調整しています。投資のチャンスを迎えている可能性に注目できるでしょう。
図表1 言及銘柄
(1)株価下落で買いチャンスを迎えた!?「肥満治療薬」銘柄
肥満治療薬は今年も主要な投資テーマになると想定されますが、ここ半年間に株価は大きく調整しています。投資のチャンスを迎えている可能性に注目できるでしょう。
〇ここ半年間の株価動向
肥満治療薬2銘柄の株価は昨年後半に不振が目立ちました(図表2)。昨年6月末から1/6(月)までの株価騰落率は、S&P500指数が8.8%の上昇に対して、イーライ リリィ(LLY) は-13.6%、ノボノルディスク ADR(NVO)は-38.6%です。
株価ピークアウトのきっかけとなったのは、昨年7/2(火)にバイデン大統領が両社の肥満治療薬価格の引き下げを要求する記事を新聞に寄稿したことでした。
アナリストからは効能の高さを考えると薬価が高すぎるとは思われないとのコメントがでていましたが、過去の大統領選挙でも有権者にアピールするために医薬品の価格は標的になってきた歴史があるため、その後も警戒が続いたとみられます。
〇イーライリリィの7-9月期決算
その後、10/30(水)に発表されたイーライリリィの7-9月期決算で、売上をけん引している肥満治療薬「ゼップバウンド」、糖尿病治療薬「マンジャロ」とも売上が市場予想を下回って、悪材料となりました。
両薬とも品不足が長く続いていたため、流通在庫が溜まっていた影響を受けたとみられ、市場拡大トレンドの変化ではないと考えられます。また、買収企業の仕掛研究開発費の計上のため、通期EPS見通しを下方修正したのも印象を悪くしたようです。株価は2023年から大幅に上昇していたこともあり、決算後の株価は軟調となりました。
〇厚生長官にロバート・ケネディ・ジュニア氏を指名
トランプ次期大統領は、11/14(木)に厚生長官にロバート・ケネディ・ジュニア氏を指名しました。同氏はワクチン懐疑派として知られていたことから厚生行政が混乱するのではとの懸念から医薬品株が全般的に売られ、両社もその影響を受けて株価に下押し圧力がかかったとみられます。
指名に関する上院での承認を通過できるかを含め、注視していく必要がありそうです。ただし、医薬品の承認は科学的根拠を積み上げてなされるものであり、中期的に科学的根拠を欠いた情報をもとにした主張が幅を利かせる可能性は限定されるとみられます。
〇ノボノルディスクの臨床試験結果
12/20(金)に開発中の新たな肥満治療薬「CagriSema」による体重減少が後期臨床試験で22.7%にとどまり、目標としていた25%を下回って、株価は17.8%の下落となりました。
ノボノルディスクの肥満治療薬「ウゴービ」は、臨床試験のときの平均体重の減少が約15%で、同じく約21%だった「ゼップバウンド」のほうが薬効が高くなっています。
「ゼップバウンド」を超える新薬を開発していますが、22.7%の体重減少では「ゼップバウンド」との決定的な違いにならないとして、失望されたようです。
以上、様々な悪材料が出ましたが、肥満治療薬に対する潜在的に膨大な需要を決定的に否定するものではないと考えられるため、引き続き成長市場として注目できると考えられます。
この見方が正しいとすれば、株価が調整した現在は、イーライリリィ、ノボノルディスクとも投資のチャンスを迎えていると考えられるのではないでしょうか。
図表2 イーライリリィとノボノルディスクの株価
(2)肥満治療薬の基本的なストーリー
肥満治療薬市場成長の基本的ストーリーをまとめました。
〇2030年に800億ドルの巨大市場へ
肥満治療薬の市場はBloombergの調査部門ビジネス・インテリジェンスによると、2023年の60億ドルから2030年に930億ドル(約14.7兆円)の巨大市場になると予想されています(Bloombergアナリストの2024年6月10日付レポートより)。この市場の9割近くをイーライリリィとノボノルディスクが分け合うと見込まれていることから、両社に市場の注目が集まっています。
この背景には両社が糖尿病治療のためのインシュリン製造で創業した会社であり、いまでも糖尿病治療薬が主力分野となっているという、歴史的な経緯が関係しています。
一方、このような巨大市場に向けて、アムジェン(AMGN)、ファイザー(PFE)、アストラゼネカ ADR(AZN)なども参入に向けて新薬の開発を進めています。特に経口薬で効果が高いものが開発されると先行するイーライリリィ、ノボノルディスクの手ごわい競合となる可能性があるため、注意してみていく必要があるでしょう。
なお、アムジェンが昨年11/26(火)に発表した開発中の肥満治療薬「マリタイド」の臨床試験結果は、体重減少が約20%にとどまり、イーライリリィの「ゼップバウンド」の21%を下回ったことから、その後株価は下落基調となっています。
〇巨大市場に向けて克服すべき課題
上記の800億ドルの巨大市場は自動的に達成されるわけではなく、先行する両社が克服すべき課題をクリアした場合に実現すると考えられます。というのは、現在のところ一般的には肥満は「治療すべき病気」と捉えられておらず、医療保険適用がされないケースが多いためです。
市場拡大の課題は、政府の医療保険プログラムや民間医療保険会社で、どこまで保険適用の対象になるかにかかっていると言えます。このためノボ ノルディスクやイーライリリィは、肥満を解消することで、肥満が原因でなるとされる疾病(心臓病、脳卒中、肝臓病、高血圧など)を減らすことができることを証明するための臨床試験を進めています。市場拡大の程度は、その効果次第ということになりそうです。
このため株式市場では、「2030年の930億ドル」を一気に織り込むわけではなく、両社の薬の適応範囲の拡大を確認しながら織り込んでいくと考えられます。適応範囲の拡大につながる臨床試験の結果にはポジティブに反応し、反対に期待に沿わない臨床試験結果にはネガティブに反応することで相場を形成していくと見込まれます。
〇肥満治療薬と糖尿病治療薬の関係
肥満治療薬のニュースをみますと、イーライリリィの「糖尿病治療薬・肥満治療薬のセマグルチド」というような書かれ方をしますが、この表現について解説します。
肥満治療薬は、まず新世代の糖尿病治療薬として開発され、一般的には「GLP-1受容体作動薬」と呼ばれます。「GLP-1」という小腸から分泌されるホルモンの作用を人工的に応用するもので、糖尿病治療薬として利用されるようになりました。
一方、その後にこの薬が脳内の中枢神経に直接作用して食欲を抑える働きがあることが知られるようになり、これを利用して肥満治療薬として利用されるようになりました。
「糖尿病治療薬・肥満治療薬のセマグルチド」という表現は、イーライリリィが開発した「GLP-1受容体作動薬」の「セマグルチド」(物質名)が糖尿病治療薬としても、肥満治療薬としても使われているという意味になります。
さらに、このような表現がされるのは、肥満治療薬の需要が非常に大きく供給が追い付いていないことから、有効成分が同じである糖尿病治療薬として開発された「マンジャロ」を肥満対策に使うことが行われていると言われていることも関係しているでしょう。
つまり、糖尿病治療薬として販売されたものの一部が、実際には肥満治療の目的で使用されていると言われています。医薬品を提供する会社からは、目的外の使用を諫める注意が発せられており、それほど肥満治療薬の潜在需要が強いということでしょう。
図表3は、イーライリリィとノボノルディスクの「GLP-1受容体作動薬」の一般名と糖尿病治療薬と肥満治療薬の商品名の関係を明らかにしたものです。「GLP-1受容体作動薬」には、従来型のものと効果が高い最新型のものがあり、現在徐々に切り替わっています。
図表3 ノボノルディスクとイーライリリィの「GLP-1受容体作動薬」
(3)イーライリリィとノボノルディスクの会社概要と業績動向
〇会社・事業概要
1876年創業の米国の医薬品大手です。インスリンの大量生産を初めて実現したことで有名で、ノボノルディスク同様に糖尿病と関係の深い会社です。糖尿病、がん、免疫が主力分野で、売上の4分の1相当を研究開発に投入する研究開発重視の会社です。2023年12月期の売上構成比は、糖尿病治療薬が58%(うち、最新型の「マンジャロ」は15%ポイントを占めます)、がん治療薬が20%、免疫学治療薬が11%、神経学治療薬が8%、その他が3%です。現在主力の肥満治療薬は臨床試験時の体重減少が約21%と、ノボノルディスク「ウゴービ」の約15%を上回り、競争を優位に進めています。
〇業績動向
7-9月期は売上が前年同期比20%増、EPSが同12倍と伸びましたが、予想に対して売上は6%、EPSは23%下回りました。成長をけん引している肥満治療薬「ゼップバウンド」、糖尿病治療薬「マンジャロ」の売上がいずれも予想を下回りました。両薬とも品不足が長く続いていたため、流通在庫が溜まっていた影響を受けたとみられ、市場拡大トレンドの変化ではないとみられます。通期EPS見通しを下方修正していますが、買収企業の仕掛研究開発費の計上が主因です。10-12月期には良好な拡大トレンドに回帰すると期待されています。
〇会社・事業概要
デンマークの医薬品大手で、米国市場にはADRで上場しています。1989年にインシュリンメーカー2社の合併で形成されました。糖尿病治療薬が主力で、他に肥満治療、希少疾患も手掛けています。2023年12月期の売上構成比は、糖尿病治療薬が75%(うち、「GLP-1受容体作動薬」53%ポイント、最新型の「オゼンピック」が41%ポイントを占めます)、肥満治療薬が18%(うち、最新型の「ウゴービ」が14%ポイントを占めます)、希少疾患治療薬が7%です。肥満治療薬では、イーライリリィ「ゼップバウンド」の体重減少率約21%を大きく上回る新薬開発を目指していますが、昨年11月に公表した「CagriSema」の臨床結果は22.7%の体重減少で、決定的な差を付けることはできませんでした。
〇業績動向
10-12月決算は、売上が前年同期比23%増、EPSが同19%増と堅調でした。「GLP-1受容体作動薬」は糖尿病薬が前年同期比25%増となったものの、市場予想を4%下回り、肥満治療薬は同44%増で市場予想を11%上回りました。2024年のガイダンスは、売上が前年比23~27%増、営業利益は同21~27%増へ修正しました(いずれも為替変動の影響を除くベース)。
図表4 イーライリリィ
図表5 ノボノルディクス
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