AI半導体で急速に台頭するマーベルテクノロジー

投資情報部 榮 聡
2025/06/25
マーベルテクノロジーが「カスタムAI半導体」に関する会社説明会を開催して、同事業が急速に拡大しつつあることが明かされました。エヌビディア、ブロードコム、AMDについで、AI半導体の主要プレーヤーの1社として注目を集めそうです。マーベルテクノロジーのAI半導体ビジネスについて、同社の会社説明会に沿ってご説明いたします。
図表1 注目銘柄

(1)AI半導体で急速に台頭するマーベルテクノロジー
半導体のマーベルテクノロジーが「Custom AI Investor Event」と題して、カスタムAI半導体事業に関する会社説明会を6/17(火)に開催しました。カスタムAI半導体の分野で事業が急拡大していることが明らかにされたため、今回はその概要をご紹介いたします。
〇ハイパースケーラーによるデータセンター投資拡大
説明会では、まず、ハイパースケーラーによるデータセンター投資の見通しが示されました。2024年の4,350億ドルから2025年に5,930億ドル、2028年に10,220億ドルに、年平均成長率20%に相当する拡大が予想されています(図表2)。
4大ハイパースケーラー(マイクロソフト、グーグル、メタ、アマゾン)に加え、新興のハイパースケーラーとして、テスラ、アップル、オープンAI、xAI(イーロン・マスク氏が率いるAI企業)、スターゲイト(ソフトバンクが参加するデータセンター投資企業)などがこの投資を行っていることが説明されました。
〇マーベルテクノロジーのTAM(総獲得可能市場)
データセンター投資においてマーベルテクノロジーが事業を展開している分野のTAM(総獲得可能市場)は、2023年の210億ドルから2028年の940億ドルに年平均成長率35%のペースで拡大していく予想です。昨年4月に開いた同様の会社説明会では、2028年のTAMは750億ドルとしていましたが、ここ1年強の情勢変化を経て940億ドルへ25%上方修正されています。
同社の市場シェアは2023年のTAM210億ドルに対して約10%で、2024年のTAM330億ドルに対して約13%と拡大しており、2028年のTAM940億ドルに対して20%への拡大を目標としています。
〇シェア拡大を見込む背景
市場シェア拡大を見込む背景として、「カスタム加速計算」でのポジションが良いことが説明されました。この市場はカスタムAI半導体(同社は「カスタムXPU(※)」と呼びます)とその周辺半導体市場(同社は「カスタムXPU attach」と呼びます)から構成されます。
4大ハイパースケーラーおよび新興のハイパースケーラーに対して「カスタムXPU」で5個、「カスタムXPU attach」で13個のプロジェクトにおいて現在半導体の生産を行っている実績があります。
これに対して顧客と話を進めているパイプラインは、プロジェクト数が50個以上、対象顧客は10社以上、これらプロジェクトを受注できた場合の生涯売上は750億ドル以上に達すると説明しています。
※XPU・・・「PU」はProcessing Unit(処理装置)の略で、「X」はアプリケーションのニーズに最もよく合うコンピューティング・アーキテクチャーを表します。「CPU(Central Processing Unit)」「GPU(Graphic Processing Unit)」「TPU(Tensor Processing Unit)」などの様々なProcessing Unitを包含するために使われる言葉です。
図表2 ハイパースケーラーによるデータセンター投資額の見通し

図表3 マーベルテクノロジーのTAM(総獲得可能市場)

(2)マーベルテクノロジーがカスタムAI半導体に強い理由
第1節ではマーベルテクノロジーがカスタムAI半導体の分野で急成長することにより、高成長と見込まれているデータセンター向け半導体市場においてシェアを拡大していく目標をもっていることを説明しました。当第2節では、マーベルテクノロジーが掲げる目標の妥当性についてより詳しくみていきます。
〇AI半導体の競合状況
AI半導体の市場はエヌビディア(NVDA)が8割以上のシェアを持っており、その次にシェアが大きいのが、特定顧客向けのカスタムAI半導体を製造するブロードコム(AVGO)です。両社は10年以上の供給実績があります。
ここに昨年後半から参入したのがアドバンストマイクロデバイセズ(AMD)で、エヌビディアのライバルを育てる必要性を感じているハイパースケーラー(AI産業の付加価値の多くをエヌビディアが独占するおそれがあるため)の支援もあって、ある程度のシェアを獲得すると見込まれています。
そして、カスタムAI半導体で急速に台頭しつつあるのが、マーベルテクノロジー(MRVL)です。カスタムAI半導体で先行するブロードコムも昨年から、既存のグーグル、メタ以外に顧客が広がりつつあることを報告していましたが、マーベルテクノロジーは、同社の説明を聞く限り、これを上回る勢いで事業が拡大しているとみられます。
〇カスタムAI半導体の需要拡大の理由
カスタムAI半導体の需要が拡大しているのは、AIの利用範囲が広がるにつれて様々なニーズが発生しており、用途ごとに最適化のポイントが増えているためです。
例えば、チャットボット用にテキスト情報を処理するAI半導体と自動運転用に映像情報を処理するAI半導体では、それぞれの計算ニーズに最適化した場合の半導体のスペックが異なると考えられます。また、半導体コアの構造、半導体コアの数、精確性の水準、コアに対するメモリーの比率、など最適化できるポイントは多数あるため、AI半導体が普及する中ではカスタムの需要が拡大しやすいと考えられます。
AI半導体で最も市場が大きい部分は、他社に大きく先行して経験年数も長いエヌビディアが引き続き獲得していくと考えられますが、それ以外の様々なニッチな市場は、カスタムAI半導体のブロードコムやマーベルテクノロジーが獲得していくと考えられます。
〇マーベルテクノロジーの強み
マーベルテクノロジーがカスタムAI半導体の分野で多くのプロジェクトを獲得できる理由として、XPUを取り巻く幅広い周辺技術において優位性があるからだと主張しています。強みのある技術分野として、以下をあげています。
・SerDes(サーデス)・・・高速通信に欠かせないパラレル信号とシリアル信号間の変換技術の業界リーダーです。高速通信ではエヌビディアに技術を提供していることから、その強さが証明されています。
・カスタムSRAM・・・SRAMは記憶保持動作が必要ないRAM(読み書き可能なメモリ)です。同社は歴史的にストレージを主要事業分野の一つとしてきました。
・光学技術・・・光学部品と電子部品を統合してパッケージ化する技術に強みがあります。
(3)マーベルテクノロジーの会社概要
【事業概要】
1995年創業。ネットワーキング関連とストレージ関連に特化したファブレス半導体メーカーです。データ高速転送技術に強くエヌビディアに技術を提供しています。データセンター、自動車など幅広い業界に展開、足元ではAI関連の需要が強まっています。
2025年1月期の部門別売上構成比は、データセンター72%、通信サービス6%、エンタープライズネットワーキング11%、コンスーマー5%、自動車・産業機器6%です。データセンターの売上のうち、9割近くがクラウドAI関連で、オンプレミスは1割強です。
【業績動向】
2025年度3Q(2024年8-10月期)からデータセンターの売上増加が顕著となって、全体の売上が前年同期比プラスに転じ、足元でも売上増加の勢いが続いています。
通期業績は2025年度(2025年1月期)までは赤字でしたが、データセンター向け売上の増加を受けて2026年度(2026年1月期)から黒字に転換し、2029年度(2029年1月期)まで高い成長が続く見通しです。
【証券会社の株価評価(6/24)】
50社がカバーしており、投資判断は買い42社、中立8社、売り0社と、買い判断が圧倒的多数を占めています。アナリストの目標株価平均は90.52ドルです。今期予想EPS2.80ドル、6/24(火)終値75.21ドルを基準とする予想PERは26.9倍です。
図表4 四半期売上推移

図表5 通期売上と調整後EPS

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