トランプ関税下、景気減速下で注目できる小売り株を検討

トランプ関税下、景気減速下で注目できる小売り株を検討

投資情報部 榮 聡

2025/09/03

(1)小売り株の現状を確認

今回は米国の小売り銘柄を取り上げます。主要小売り企業の5-7月期決算発表が一巡して、これから年末商戦を迎える段階で、注目できる小売り銘柄を検討しようという趣旨です。

〇小売り株指数の動向

図表2はS&P500指数の25業種分類による「一般小売り指数」(11業種分類では「一般消費財・サービス」に属します)と「食品小売り指数」(11業種分類では「生活必需品」に属します)の推移をS&P500指数と比べています。

「食品小売り指数」は、4月にかけて相場が下落した局面ではディフェンシブ性を発揮して下落幅が小さくなりました。しかし、関税率の引き下げ交渉が進展して相場が回復する局面ではアウトパフォーム幅を縮めました。

一方、「一般小売り指数」は、S&P500指数と概ね連動しています。同指数はアマゾンの構成比が7割近くを占めて、アマゾンの影響が非常に大きくなっています。

年初来では両指数ともS&P500指数を若干下回っており、市場の注目を特に集めているわけでも、大きな懸念材料を抱えているというわけでもなく、中立的な立ち位置にあると言えそうです。

〇大手小売り銘柄の5-7月期決算

米国の小売りセクターを代表するウォルマートの5-7月期決算は、売上が市場予想を上回ったものの、利益はコスト増を受けて市場予想を下回りました。一方、下半期には堅調な業況を見込んで、2026年1月期の業績ガイダンスは維持されました。関税の影響が表面化しつつあることを嫌気して決算後の株価は下落しましたが、決算内容は総じて堅調です。

一方、ターゲットの5-7月期決算は減収減益で厳しい状況が続きました。雑貨の取り扱い比率が高いことから、関税の影響が大きいことも警戒されて株価は下落しました。

また、ホームセンターのホームデポ、ロウズの決算は低調な状況が続きましたが、長らく続いた住宅建設市場の低迷が終わりつつあるのではとのポジティブな見方が聞かれ、株価の反応も悪くはありませんでした。

〇小売り企業を取り巻く事業環境

当面の小売り企業を取り巻く事業環境として、以下の2点が重要と考えられます。

【トランプ関税による仕入れ値の上昇】

小売り企業の店頭では、トランプ関税実施前に輸入した商品から関税引き上げ後に輸入した商品に切り替わりつつあります。このため輸入商品の取り扱いが多い小売り企業には、影響が懸念されています。典型例は、雑貨の比率が高いターゲット、家電販売のベストバイなどです。

一方、食品は輸入品の比率が低いことから、食品の売上構成比が高い小売り企業は関税の影響が相対的に小さいと見られています。ウォルマート インクやコストコ ホールセールなどがこれにあたります。

【米景気減速で「トレードダウン」の可能性】

米国の月次小売売上高は概ね堅調に推移しており、米国の個人消費はこれまで良好でした。一方、個人消費の先行指標と捉えられている雇用統計の非農業部門雇用者数が5月から7月にかけて顕著に弱まったことから、今後消費が減速する可能性が高いと見られています。

関税による物価上昇も重なって、消費者の行動には「トレードダウン」(より安価な商品やサービスを選択する消費行動)につながる可能性があると見られます。

図表2 小売り業種指数とS&P500指数を比較

(2)経済環境と小売り株物色の関係

第2節では、主要な小売り銘柄について、個々の企業の成長戦略とは別に一般的にどのような経済環境のときに物色対象になりやすいかを解説いたします。

〇成長期待が高い銘柄

アマゾン ドットコム(AMZN)はネット通販による小売り市場のシェア拡大が継続すると見込まれます。また、利益率の改善余地も大きいと期待されます。ただし、足元では物販の比率が高いためトランプ関税の影響が懸念されるほか、AI投資による利益率の圧迫が意識され、業績動向には警戒があると見られます。

ウォルマート インク(WMT)は、米国で唯一アマゾンに対抗できるリソースをもつ総合小売り企業として成長が期待されます。店舗販売に加えて、ネット通販、店舗でのピックアップ、宅配などのサービスを組み合わせてアマゾンに対抗しています。

コストコ ホールセール(COST)は、日本でも大変人気のある会員制倉庫型量販店を米国を中心に海外でも展開して安定的に成長しています。

〇「トレードダウン」の局面で物色される銘柄

消費者が暮らし向きに不安を感じて、購入する商品についてグレードを下げたり、より価格が安いものを選択することを、米国では「トレードダウン」といいます。

「トレードダウン」の局面で注目される典型的な銘柄は、オフプライスアパレルのTJXカンパニー(TJX)とロス ストアーズ(ROST)です。両社とも有名ブランドのアパレル製品を安く仕入れて、簡易的な陳列で2割~5割引きといった安い値段で販売します。

景気が悪化した局面や物価高で消費者が消費を引き締める局面で売上が拡大することがあります。1ドルショップのダラー ジェネラル(DG)にも同様の傾向があります。

また、自動車用品販売のオライリー オートモーティブ(ORLY)、オートゾーン(AZO)にもそういう面があります。というのは、景気が悪化すると自動車の買い替えが控えられて車歴が伸び、メンテナンスが増えるためです。ただし、これは景気の悪化度合いが相当深刻な場合です。

〇住宅関連として取引される銘柄

ホーム デポ(HD)とロウズ カンパニーズ(LOW)は、米国の大手ホームセンターです。住宅メーカーの時価総額が小さく、大きな機関投資家は買いにくいことから、住宅市場が回復するときに住宅メーカーの代替投資先として買われることがあります。

足元では2022年後半から長らく続いている住宅建設の低迷が終わりに近づいているのではないかとの見方が出ています。両社の5-7月期の決算はやや低調な状況が続いていますが株価の反応は悪くなく、市場は事業環境の改善の可能性に注目しているようです。

図表3 小売りセクターの主要銘柄(時価総額上位15)

(3)小売りセクターの注目銘柄

第1節での現状確認、第2節での物色傾向を踏まえて、年末にかけて注目されそうな小売り銘柄をご紹介いたします。

トランプ関税の影響が比較的小さい食品を中心に販売する小売で、かつ、低価格を武器とするコストコ ホールセール(COST) ウォルマート インク(WMT)、住宅市場の回復が期待されるホーム デポ(HD)、景気減速下の「トレードダウン」のTJXカンパニー(TJX)、関税による新車価格の上昇が追い風になる期待のあるオートゾーン(AZO)を選びました。

コストコ ホールセール(COST)

会員制倉庫型量販店を米国中心にグローバルに展開しています。競争のレベルが非常に高い日本でも成功している唯一の海外小売り大手と言えます。「お値打ち感」が強い価格帯で提供するため、消費者の節約志向が強くなった局面でも堅調な業績が期待されます。

主要小売り銘柄で唯一月次売上高を開示しています。7月の既存店売上(ガソリン販売を除くベース)は、店舗が前年同期比7.0%増と好調です。6-8月期決算を9/25(木)に発表予定です。

ウォルマート インク(WMT)

関税による物価上昇が意識される中、同社の「お値打ち感」と宅配などの「利便性」を提供できる能力は、消費者の関心を惹きつけて、市場シェアを拡大できる可能性が注目されています。9月からの「バックトゥスクール商戦」、11月~12月にかけての「年末商戦」で堅調な実績をあげる期待があります。

8/21(木)に発表された5-7月期のEPSは市場予想を下回りましたが、8-10月期売上ガイダンスの中央値は市場予想を上回り、2026年1月期通期の業績ガイダンスは売上・EPSとも市場予想を上回りました。

ホーム デポ(HD)

米国のホームセンターで最大手です。中古住宅販売の落ち込み、住宅所有者の資産価値が記録的水準にあること、住宅の経年の高まりなどが業界の事業ポテンシャルを高めていると考えられます。景気減速で長期金利が下がると住宅ローン金利の低下を促すため、リセッションにならない範囲での景気減速下で注目が高まると考えられます。

足元では住宅建設市場の低迷を受けて、キッチンやバスなど大型商品の販売低迷が逆風となっていますが、既存店売上は2025年1月期の前年比1.8%減から2026年1月期の上半期は前年同期比1.0%増に改善しています。

TJXカンパニー(TJX)

米国首位のオフプライスアパレルのチェーンです。有名ブランドのアパレルを様々なルートから安く仕入れて簡易な陳列で割安価格で販売します。同業のロスストアーズが米国内だけで展開しているのに対して、同社はカナダ、欧州、豪州など海外にも進出して約5,000店を展開しています(2025年1月期末)。

米国の景気が減速して消費者が「トレードダウン」するような状況になると来店数が増える期待があります。会社はそのような事態に備えて在庫を増やしています。5-7月期の既存店売上は前年同期比4%増と堅調です。

オートゾーン(AZO)

米州最大級の自動車用品販売チェーンです。米国を中心にメキシコ、ブラジルで7,400店超(2025年2月時点)を展開します。同社は安定したキャッシュフローを背景に債券を発行して自社株買いを行うことがあります。積極的な自社株買いによって株価のパフォーマンスは良好ですが、過度な債券発行によって株主資本がマイナスになるという副作用があります。

関税で新車価格が上昇すると、現在保有している車を長く乗ろうとするため、自動車用品店の来店が増えるのではないかと期待されています。6-8月期決算を9/23(火)に発表予定です。

図表4 注目銘柄の投資指標

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