AI半導体市場で台頭するAMD

AI半導体市場で台頭するAMD

投資情報部 榮 聡

2025/10/29

(1)AI半導体で大型契約を次々決めるAMD

今回はAI半導体市場で次々と大型契約を締結して台頭しつつある米半導体大手のアドバンスト マイクロ デバイシズ(以下ではAMDと略します)を取り上げます。

OpenAIとの大規模な契約

10/6(月)にOpenAIと今後数年にわたり合計6ギガワット規模のAMD製AI半導体を導入する最終契約を締結したと発表しました。今回の取引はAMDに対し、数百億ドル規模の新たな収益機会やAI技術分野での評価向上のチャンスをもたらすとされます。

エヌビディアも9月に最大1000億ドルを投じて、OpenAIのために少なくとも10ギガワットの電力供給能力を持つAIインフラと新たなデータセンターを構築すると発表しましたが、これに次ぐものとして市場で好感されました。

このニュースを受けてAMDの株価は10/6(月)に23.7%上昇しました。

〇オラクルとの提携拡大

10/14(火)には、オラクルとAMDがパートナーシップを拡大すると発表しました。オラクルが提供する「オラクル・クラウド・インフラストラクチャ」でAMDの次世代チップ「MI450」(2026年後半に投入予定)を導入します。まず5万基の「MI450」の展開を2026年第3四半期から開始し、2027年以降にさらに展開を拡大していきます。

これまでオラクルの同事業では、エヌビディアのAI半導体が使用されていましたが、ここにAMDも加わった形です。オラクルから見れば、AI半導体でエヌビディアのみに依存することから脱却したいとの思惑がうかがえます。なお、契約の金銭的条件については明らかになっていません。

AMDとエヌビディアの株価

図表2は両社の株価を比較しています。

年初来、ほぼ同じような動きとなっていましたが、10/6(月)のOpenAIとの契約のニュースからAMDが大幅に上昇する一方、エヌビディアはやや軟調と動きが異なっています。エヌビディアが8割以上のシェアを保有している市場に「強力なライバルの登場」と意識されているようです。

ただし、生成AIが注目され始めた2023年初からの株価騰落では、エヌビディアが13.8倍、AMDが4.0倍と圧倒的な差です。そういう意味では、AMDがキャッチアップする余地はまだあるのではないかと考えられます。なお、時価総額はエヌビディアが48,850億ドル、AMDが4,187億ドルと10倍以上の大差がついています(10/28(火)時点)。

図表2 AMDとエヌビディアの株価

(2)AMDの事業全容とAI半導体の位置付けを確認

AMDの事業全容

図表3はAMDの2024年12月期の事業別売上と営業利益です。各事業の内容は以下の通りで、カッコ内は主力製品のシリーズ名です。

データセンター・・・サーバー向けCPU(「EPYC」)とAI半導体(「INSTINCT」)

クライアント・・・パソコン向けCPU(「RYZEN」)

ゲーム・・・ゲーム機器向けGPU(「RADEON」)

組み込み・・・さまざまな機器に組み込まれるCPU

収益の中心は、売上・営業利益ともデータセンターが重要であることがわかります。部門営業利益は前年比の出入りが激しく、2023年12月期比でデータセンターは2.8倍、クライアントは黒字転換、ゲームは70%減、組み込みが46%減でした。

2024年12月期の全体では、最も重要なデータセンターは売上が前年比94%増、営業利益が同2.8倍と不振部門の利益減を相殺して増収増益でした。

AI半導体事業の位置付け

AI半導体市場には2023年10-12月期から「INSTINCT MI300」で参入しました。2024年12月期の売上は50億ドル以上を達成したとコメントしており、データセンター売上の4割を超えて、主要事業の一つに成長していることが確認されます。

AI半導体の売上見通しはコンセンサス予想で2025年12月期の66億ドルから、2026年12月期に121億ドル、2027年12月期に308億ドルと、来年からの急拡大が予想されています。2027年12月期には、AI半導体はデータセンター部門の8割超、全売上の5割超を占めるまでになる見込みです。

AI半導体市場での競合状況

AIの加速計算に使用されるAI半導体を提供する企業は、エヌビディア、AMD、ブロードコム、マーベルテクノロジーの4社が知られています。このうち、エヌビディアとAMDは汎用のAI半導体、ブロードコムとマーベルテクノロジーはカスタムAI半導体で競合しています。

エヌビディアとAMDは、AI半導体に使用されるGPU(グラフィック・プロセッシング・ユニット)を主力事業の一つとする世界でも限られた2社です。エヌビディアは2012年からGPUをAIの計算に利用する研究を始め、2016年には主要事業の一つとして確立、生成AI向けの需要が急拡大した2023年には、ほぼ市場を独占していたとみられます。

一方、AMDが明確に参入したのは、2023年10-12月期と遅れました。同社の主力事業はCPUで、2020年頃から対インテルの優位性が明らかになったことから、GPU事業でも新たな展開を行う余裕ができたとみられます。AI半導体市場のエヌビディアによる独占を嫌うマイクロソフトなどハイパースケーラーの支援もあって参入を果たしました。

エヌビディアが市場で8割以上と言われる高いシェアを保有してそれを維持できているのは、AI計算に使用されるソフトウェアの蓄積があるからだと言われてきました。この面では、まだAMDとの差は大きいと考えられますが、AMDもAI計算のソフトウェアを強化できているとの報道もあり、競合状況に変化が現れるか注目です。

図表3 AMDの部門別売上と営業利益(2024年12月期)

図表4 AMDの部門別売上推移

(3) AMDの業績見通しと株価評価

AMDの業績見通しと株価評価について検討してみましょう。

〇企業概要

米国のファブレス半導体大手です。主にPCやデータセンターのサーバー、ゲーム機などに搭載されるCPU(中央演算処理装置)とGPU(画像処理半導体)、およびAPU(CPUとGPUの複合型チップ)などを開発・販売しています。ファウンドリー(半導体受託製造)大手TSMCの先端プロセス技術を活用することで、製品の競争力を高めてCPU市場でシェアを拡大しています。

1969年創業、1972年には株式を公開しています。長らくインテル互換CPUメーカーとして知られていましたが、2006年にカナダのグラフィックカード企業ATI Technologiesを買収してGPU市場に参入しました。

〇業績見通し

CPU市場、GPU市場とも市場シェアを拡大して、来年、再来年と売上の高成長が見込まれています。また、利益率も上昇すると見込まれ、2027年12月期に純利益率は30%近くに達する予想です。

GPU、つまり、AI半導体については、当レポートで見てきたように急拡大が見込まれます。一方、パソコン、サーバーのCPUでも、インテルからシェアを奪って拡大しつつあります。

10/23(木)のインテル決算発表でCPU市場は、①新型コロナ下で拡大した利用台数に対する買い替え、②Windows10のサポート終了に伴う法人需要、③AIデータセンター投資増によるCPU需要拡大、などの要因で2026年にかけて拡大する見通しが示されました。AMDにとって非常に良い事業環境になると見込まれます。

11/4(火)引け後に7-9月期決算を発表予定で、11/11(火)にアナリスト・デーを開催する予定です。

AMDの株価評価

アナリストの目標株価平均値は240.13ドルです。同株価での予想PERは、来期予想EPSの6.32ドルを基準とすると40.8倍です。今後の高い成長を織り込んだ水準と言えるでしょう。アナリストの投資判断は、買い/中立/売りが48/16/1となっており、圧倒的に買いの判断が多くなっています。

10/28(火)終値は258.01ドルで、上記のアナリスト目標株価平均値を超えていますので、相場が調整局面となって押し目が入った際に買いを検討するのが良いでしょう。

図表5 AMDの業績推移

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