「AIの老舗」アルファベットがいよいよ実力を発揮!?

投資情報部 榮 聡
2025/12/10
アルファベットは早くからAIに精力的に取り組んで「AIの老舗」と目されていましたが、過去3年はOpenAIやエヌビディアの活躍の陰にかくれた形でした。しかし、「Gemini3」の高評価、「TPU」の外販の話が出て、いよいよ実力発揮かと期待されています。
図表1 注目銘柄
| 銘柄 | 株価(12/9) | 52週高値 | 52週安値 |
| アルファベット A(GOOGL) | 317.08ドル | 328.83ドル | 140.53ドル |
| ブロードコム(AVGO) | 406.29ドル | 407.29ドル | 138.10ドル |
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
(1)「Gemini3」と「TPU」で注目を集めるアルファベット
これまでOpenAIやエヌビディアの陰で、どちらかと言えば影が薄かったアルファベットが、俄然市場の注目を集めています。同社は早くから「AIの老舗」と目されてきましたが、いよいよ実力を発揮し始めたのかもしれません。
〇「Gemini3」の高評価
アルファベットが11/18(火)に発表した人工知能の新モデル「Gemini3」が専門家から絶賛され、性能は「ChatGPT」の最新モデルを上回ると言われています。
専門家による分析では、以下の点が向上したと言われています。
[1] 精度向上・・・複雑なロジックの解決能力が向上
[2] ユーザーインターフェースが向上・・・「実際に動くツール」がその場で生成される
[3] 自律エージェントへの移行・・・複数ステップを要する作業を自律的にこなす
セールスフォースのベニオフCEOもX上でこの新モデルを絶賛し、OpenAIの脅威になり得ると指摘しています。そのような評判を受けて12/1(月)にOpenAIのアルトマンCEOは社内で「コード・レッド」(緊急事態)を宣言したと報じられています。
〇「TPU」外販の可能性
さらに、アルファベットがこれまで主に社内用途に使っていたAIアクセラレーター「TPU(Tensor Processing Unit)」を外販する可能性が報じられています。
同半導体はAIの加速計算に使われるAIアクセラレーターで、基本的にはエヌビディアのGPUによるAIアクセラレーターと用途は変わりません。GPUと呼ばれるのは、元々画像(グラフィック)処理に使われていた歴史があるためで、TPUのTensorは機械学習のデータを表現する基本的構造で、最初から機械学習のために開発されたので、TPUと名付けられました。
エヌビディアのAIアクセラレーターは汎用の一方、カスタムと位置付けられるTPUは対応範囲が狭いので、優劣は一概には言えません。計算ロジックが固まって、今後あまり変化がないと考えられるようなアプリケーションがあれば、TPUはGPUに対して高いパフォーマンスをあげると考えられます。
「Gemini3」の性能が高く評価されていることから、これを利用する企業が増えれば、TPUの需要拡大が期待されます。TPUの製造はブロードコムが請け負っており、両社の関係は10年以上にわたっています。このため、ブロードコムもこの面から注目されています。
なお、筆者は2018年1月17日に「エヌビディア株の保有者が知っておきたいこと」という、汎用性が高いエヌビディアのGPUと特定分野に強いアルファベットのTPUの違いを解説したレポートを掲載しています。古いレポートですが、エッセンスは今日でも通用します。ご参考に、ぜひご一読ください。
〇アルファベットとブロードコムの株価推移
上記のような状況を受けて、過去1ヵ月アルファベットとブロードコムの株価は多くのテクノロジー株が調整を余儀なくされた中で相対的に好調となっています。
アルファベットの年前半の株価は、テクノロジー株全般に対して劣後していました。劣後した要因は2つあり、一つは司法省による「独占禁止法」の訴訟、もう一つは「ChatGPT」の利用拡大で検索ビジネスが影響を受けるのではないかとの懸念でした。
しかし、独占禁止法については9月初めにウェブブラウザー「Chrome」の分離・売却は必要ないとの判断が示され、また、7-9月期決算で広告事業の売上が市場予想を上回って好調だったことから、2つ目の懸念も後退しました。
ブロードコムは、トランプ関税による下落から回復してから、一貫して上昇基調が続いています。これは2-4月期、5-7月期の決算とも好調で、AI半導体市場でシェアを拡大する期待が強まっていることが要因とみられます。
図表2 アルファベットとブロードコムの株価
(2)アルファベットはAIの老舗
〇「ChatGPT」に対する「コード・レッド」(緊急事態)宣言は意外だった
2023年にOpenAIの人工知能モデル「ChatGPT」が市場の注目を集めた際、アルファベットが「コード・レッド」(緊急事態)を宣言したのは、筆者を含めて米国のテクノロジー企業をフォローしている人たちにとっては非常に意外でした。
アルファベットはAIの分野で最もリソースが分厚い会社だと認められていたからです。しかし、「ChatGPT」が登場してから3年が経過して、アルファベットがいよいよ実力を発揮し始めた可能性に注目できるでしょう。
〇アルファベットのAIの歴史
2012年に画像認識コンテストの結果を受けて機械学習が実用化の段階に到達したと評価され、大手テクノロジー企業はこぞってAIに対する研究に取り組みました。その中でも、特に分厚いリソースを築いたのが、アルファベットとエヌビディアでした。
両社はAIのソフトウェア、ハードウェアのAIアクセラレーターともに同等の実力をもっていると考えられます。AIアクセラレーターについては、エヌビディアが市場の8割以上を占有して大差がついたようにも見えます。
しかし、アルファベットのAIアクセラレーター「TPU」も2015年に同社データセンターでの利用が始まり、2016年にはその存在を公表しています。エヌビディアが「データセンターでのAI計算にGPUが使われている」とアニュアルレポートに記載したのが2015年、同社がAI半導体事業を説明会で取り上げ始めたのも2016年でした。両社のAIアクセラレーターはほぼ同等の歴史をもっていると考えられます。
また、認識を中心とする従来型のAIから生成AIへの飛躍には、「Transformer」(GPTのTはこれを指します)と呼ばれる機械学習のモデルの登場が寄与したと考えられていますが、「Transformer」に関する論文を2017年に発表したのは元グーグルの社員でした。アルファベットのAIに関する実力を物語るエピソードです。
〇AI半導体の市場シェア
AI半導体の市場シェアは、2025年時点で図表4のようになっていると推定されます。(注意:エヌビディア、ブロードコム、マーベルテクノロジーの数字には、AI半導体の周辺で使われるデータ転送用や通信用の半導体も含みます。)
ブロードコムの大部分はアルファベット向けのTPUと考えられ、アルファベットのTPUはAI半導体市場で10%近い市場シェアがあるとみられます。
アルファベットは独自開発の「TPU」を擁することで、高価なエヌビディア製のAIアクセラレーターを買う必要が小さく、他のハイパースケーラーに対してAI関連事業展開におけるコスト面で優位性があります。
一方、外販する場合には、このようなコスト優位は小さくなりますが、AI半導体事業で収益をあげることができます。TPUの外販をどれくらい積極的に進めるかは、このようなビジネス判断も関わるとみられます。
図表3 アルファベットのTPUの歴史
図表4 AI半導体の市場シェア(2025年の推定)
(3)アルファベットとブロードコム
2024年12月期の売上構成比は、広告が76%(うち検索連動型広告ほかが66%、YouTube広告が10%)、クラウドサービスが12%、サブスクリプション、プラットフォーム&デバイスが12%(Android、Chrome、Play、Mapなど)です。クラウドサービスやサブスクリプション、プラットフォーム&デバイスが売上成長をけん引しています。
7-9月期決算は、売上が前年同期比16%増、EPSが同35%増で、クラウド部門売上、検索広告収入とも市場予想を上回って好調でした。検索広告収入は前年同期比15%増でした。ChatGPTなどとの競合が懸念されていますが、AI OverviewsやAI Modeの導入などで競合リスクを和らげており、ひとまず安心感が広がりました。
アナリストの目標株価平均値は332.50ドル、投資判断は買い68/中立10/売り0(12/9(火)時点)です。
2024年10月期の売上構成比は、セミコンダクター・ソリューションが58%、インフラストラクチャ・ソフトウェアが42%です。セミコンダクター・ソリューションの分野別内訳は、ネットワーキングが30%、ワイヤレス・コミュニケーションが14%、エンタープライズ・ストレージが7%、ブロードバンドほかが7%です。インフラストラクチャ・ソフトウェアは、2023年11月に買収した仮想化ソフトウェアのVMwareが中心です。
AI関連売上は2024年10月期に122億ドルで、セミコンダクター・ソリューションの41%、全体の24%を占めます。2025年10月期には199億ドルへ前年比63%増える予想となっています。明日12/11(木)引け後に8-10月期決算を発表予定です。
アナリストの目標株価平均値は431.57ドル、投資判断は買い55/中立4/売り0(12/9(火)時点)です。
なお、ブロードコムについては、2024年6月12日掲載の「AI関連売上の大きさ(約20%)に加え、アップルiPhoneの回復でも注目されるブロードコム」もご参照ください。
図表5 アルファベットとブロードコムの業績推移
免責事項・注意事項
・レポートおよびコラムの配信は、状況により遅延や中止、または中断させていただくことがございます。あらかじめご了承ください。
・本資料は投資判断の参考となる情報提供のみを目的として作成されたもので、個々の投資家の特定の投資目的、または要望を考慮しているものではありません。投資に関する最終決定は投資家ご自身の判断と責任でなされるようお願いします。万一、本資料に基づいてお客さまが損害を被ったとしても当社及び情報発信元は一切その責任を負うものではありません。本資料は著作権によって保護されており、無断で転用、複製又は販売等を行うことは固く禁じます。
【手数料及びリスク情報等】
SBI証券で取り扱っている商品等へのご投資には、商品毎に所定の手数料や必要経費等をご負担いただく場合があります。また、各商品等は価格の変動等により損失が生じるおそれがあります(信用取引、先物・オプション取引、商品先物取引、外国為替保証金取引、取引所CFD(くりっく株365)、 店頭CFD取引(SBI CFD)では差し入れた保証金・証拠金(元本)を上回る損失が生じるおそれがあります)。各商品等への投資に際してご負担いただく手数料等及びリスクは商品毎に異なりますので、詳細につきましては、SBI証券WEBサイトの当該商品等のページ、金融商品取引法等に係る表示又は契約締結前交付書面等をご確認ください。
・ご紹介するブルベアETFはお客さまの想定以上に値上がり、あるいは値下がりする可能性があり、予想と逆方向に相場が動いた場合には大きな損失を被るリスクがあります。
・レバレッジ型・インバース型 ETF等(ETN含む)は、主に短期売買により利益を得ることを目的とした商品です。レバレッジ指標の上昇率・下落率は、2営業日以上の期間の場合、同期間の原指数の上昇率・下落率のレバレッジ倍(又はマイナスのレバレッジ倍)とは通常一致せず、それが長期にわたり継続することにより、期待した投資成果が得られないおそれがあります。上記の理由から、一般的に長期間の投資には向かず、比較的短期間の市況の値動きを捉えるための投資に向いている金融商品といえます。投資経験があまりない個人投資家の方が資産形成のためにこうしたETF等を投資対象とする際には、取引の仕組みや内容を十分理解し、取引に伴うリスク・コストを十分に認識することが重要です。レバレッジ型・インバース型 ETF等に係る商品の特性とリスクについてはこちらのリーフレットをあわせてご確認ください。