戦争余波で恩恵期待の米産業ガス関連:リンデ、エアープロダクツ アンド ケミカルズ、エクソンモービル

投資情報部 榮 聡
2026/04/22
イラン戦争中のイランによる攻撃により、カタールのLNG(液化天然ガス)施設がダメージを受けて、さまざまな関連製品の供給に影響が出ています。特にヘリウムへの影響が大きいとされますので、米国でヘリウムの生産に携わっている企業をご紹介いたします。
図表1 注目銘柄
| 銘柄 | 株価(4/21) | 52週高値 | 52週安値 | 最低購入金額 (4/21) |
| リンデ(LIN) | 494.84ドル | 510.65ドル | 387.78ドル | 78,680円 |
| エアープロダクツ アンド ケミカルズ(APD) | 294.78ドル | 301.25ドル | 229.11ドル | 46,870円 |
| エクソン モービル(XOM) | 148.36ドル | 176.41ドル | 101.19ドル | 23,589円 |
注:最低購入金額は、1ドル=159円で1株当たりの購入金額を円換算しています。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
(1)LNG施設へのダメージでヘリウムの需給がタイトに
イランの湾岸諸国への攻撃によって、カタールのLNG(液化天然ガス)施設がダメージを受け、関連製品が供給不足となる可能性が市場で注目されています。中でも、ヘリウムへの影響が大きいと言われ、米国で生産する企業への恩恵が見込まれています。
〇カタールのLNG施設にダメージ
米国・イスラエルとイランの戦闘中に、イランの攻撃を受けてカタールのLNG施設がダメージを受けました。カタール北部ラスラファン(Ras Laffan)は世界最大級の生産・輸出拠点です。
報道によるとカタールのLNG輸出能力の約17%が一時停止したとされ、修復に3~5年を要する見通しです。この影響はさまざまな関連製品に及ぶとされますが、特にヘリウムへの影響が大きいと言われています。
米国とイランの停戦協議が実を結んで、中東地域の混乱が収束に向かうことが期待されますが、製品供給への影響は数年間続く可能性が高いようです。
〇ヘリウムの生産は米国とカタールが大きい
ヘリウムの生産適地は、大規模な天然ガス田に限られるため、米国、カタール、ロシア、アルジェリアなどが世界生産の大半を担っています(図表2)。約3割を占めるカタールの生産が落ち込むと、市場の供給力に影響が表れることがうかがえます。
カタールの生産減少をカバーする国としては、最大シェアをもつ米国が期待され、米国の産業ガス大手であるリンデ(LIN)やエアープロダクツ アンド ケミカルズ(APD)の活躍が期待されるでしょう。
また、原油・天然ガスの生産とともに、各種化学製品を供給する総合エネルギー大手のエクソンモービル(XOM)にも恩恵が期待されます。ただし、エクソンモービルはカタールのLNG施設に出資しているため、今回の件でマイナスの影響を受けている可能性がある点には注意が必要でしょう。
〇ヘリウムの価格が上昇
カタールのヘリウム生産が減ることで需給がタイトになり、ヘリウムの価格は上昇しているとされます。
ただし、ヘリウムは産業ガス事業者と生産者事業者間の長期契約で取引されるため、市場全体を網羅して動向を示す指標価格が存在しません。このため、足もとの価格動向は容易に知り得ません。
3/31(火)の米経済チャンネルCNBC記事では、一つの事例として中国河南省での取引価格がイラン戦争前の液体ヘリウム1キロ当たり545人民元から600人民元に上昇していることが紹介されています。
図表2 ヘリウムの国別生産シェア(2025年推定、%)
(2)ヘリウムはなぜ重要なのか
〇ヘリウムの特性
ヘリウムは無色・無味・無臭、不活性で、空気よりも分子が小さいガスです。沸点は元素のなかで最も低いマイナス268.9℃です。これらの特性を活かしてさまざまな工業プロセスで使用されている産業ガスです。
ヘリウムは大気中には約5ppm(ppmは100万分の1)しか含まれていません。そこで工業用ヘリウムは、大気からの分離抽出ではなく、地下の岩盤層にある天然ガス田に含まれる約0.5%の成分を分離・精製することで製造されています。
このため、ヘリウムの生産は大規模な天然ガス産出プロジェクトのある場所に限られてしまいます。
〇ヘリウムの用途
主な用途として、ヘリウムガスでは、半導体のプロセスチャンバーでの冷却、自動車・エアコン部品のリークテスト(漏れ検知)、光ファイバーの焼成用、気球の浮揚ガスなどに使用されています。
液体ヘリウムでは、絶対零度近傍の極低温を利用して、医療分野における超電導MRIのマグネットの冷却をはじめ、極低温機器の研究開発等に使用されています。
米地質調査所(USGS)の統計による米国での使用分野別のシェアは、図表3の通りです。幅広い産業で使用されていることがわかります。
半導体製造での利用のケースでは、ヘリウムの低温でも気体であるという性質と他の物質と反応しにくいという性質が利用されており、代替できるガスはなかなかないと言われています。
〇産業ガスの中での位置づけ
各種産業で使われるガスは、大気ガス(窒素、酸素など大気の主成分となっているガス)、炭化水素ガス(メタン、プロパンなど炭素と水素のみからなるガス)、貴ガス(他の元素と反応しにくく不活性、単原子分子として存在するガス)などに分類されます。
ヘリウム(He)は貴ガス(Noble Gases)の代表的なもので、他にはネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)、ラドン(Rn)などがあります。
米地質調査所(USGS)の鉱物資源に関する年鑑「Mineral Commodities Summaries」には、60以上の鉱物資源が取り上げられていますが、ガスとしては唯一ヘリウムが取り上げられていることから、その重要性がうかがわれます。同年鑑の2025年版には、ヘリウムの2024年米国の市場規模は、8,100万立法メートル、約11億ドルと推定されています。
図表3 ヘリウムの用途(米国、2025年)
(3)ヘリウム関連銘柄のご紹介
ヘリウムを生産する関連企業として、リンデ、エアープロダクツアンドケミカルズ、エクソンモービルをご紹介いたします。当レポートでは、ヘリウムに焦点を絞りましたが、中東地域の混乱によって、米国の天然ガス関連、石油製品関連企業には、さまざまな恩恵が生じると考えられます。
また、産業ガス業界については安定成長できる業界として取り上げた、2024年3月6日付レポート「安定成長」期待で「配当貴族指数」にも採用の産業ガス業界をご紹介!もご参照ください。
【会社概要】
2018年10月にドイツのリンデと米国のプラクセアが経営統合してできた世界最大の産業用ガス会社です。世界100ヵ国以上で事業展開するグローバル企業で本社は英国にあります。配送手段別売上は、パッケージ35%、マーチャント(タンクローリーなど)30%、オンサイト24%、その他11%、地域別売上は、米州45%、欧州・中東・アフリカ25%、アジア太平洋20%、エンジニアリング7%、その他4%です(2025年12月期)。
【業績動向】
柔軟なビジネスモデル、厳格な業務への集中、増加しつつある質の高い受注残、慎重な資産アロケーションなどによって、7~10%のEPS成長が期待されます。2025年12月期は売上が前年比3%増、調整後EPSが同6%増でした。2026年12月期は、調整後EPSが17.40~17.90ドルのガイダンスで、前年比5~8%増に相当します。10-12月期決算は、売上が前年同期比6%増、EPSが同6%増と堅調でした。
【会社概要】
産業ガスの世界的大手の1社で、産業用ガス製造供給、液化天然ガス設備で約50ヵ国、750超の施設を運営します。1940年に創業、本社はペンシルベニア州アレンタウンです。配送手段別売上の約50%がオンサイトで、地域別売上は、北米43%、アジア27%、欧州25%(2025年9月期)。44年連続増配です。
【業績動向】
アクティビストの提言に従って、グリーン水素関連の成長事業について削減またはリスクを切り離しつつあり、従来型のベーシックな産業ガスの事業に回帰しつつあります。2025年9月期は、ヘリウム事業の価格、数量とも低迷して調整後EPSが12.43ドルから12.03ドルへ低下する中で、ヘリウム事業は0.49ドルのマイナスの寄与となっていました。2026年9月期のガイダンスは、調整後EPSを前年比7~9%増に相当する12.85~13.15ドルとしています。
【会社概要】
総合エネルギー大手です。石油・天然ガスの探査・生産から燃料・化学品精製まで幅広く事業展開しています。2025年12月期の部門別純利益(調整後)は、上流74%、エネルギー製品23%、化学品4%、スペシャルティプロダクツ10%、本社部門ほか-11%です。同社はLNG事業でカタールとの結びつきが強く、今回攻撃を受けたLNG施設に出資しています。一方、テキサス州のLNG事業でもカタールエナジーの出資を受けています。
【業績動向】
ガイアナ海底油田の開発と2024年5月に買収したシェール大手パイオニアによって石油換算生産量を2024年の日量4.3百万バレルから5.4百万バレルに引き上げる目標です。2025年12月期の調整後純利益は301億ドルで、原油価格の低迷を受けて3年連続の減益となっています。2026年12月期の市場コンセンサスの調整後純利益は390億ドルで30%増の見通しです。
図表4 株価チャート
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