米国消費環境の変化とトレードダウン銘柄の投資機会

投資情報部 榮 聡
2026/06/10
物価上昇によって低所得者層の消費環境が厳しさを増しており、トレードダウン銘柄が注目される局面に入っているとみられます。トレードダウンの動きから恩恵を受ける可能性がある銘柄をご紹介いたします。
図表1 注目銘柄
| 銘柄 | 株価(6/9) | 52週高値 | 52週安値 | 最低購入金額 (6/9) |
| ロス ストアーズ(ROST) | 229.45ドル | 237.41ドル | 124.49ドル | 36,712円 |
| TJXカンパニー(TJX) | 164.87ドル | 165.82ドル | 119.84ドル | 26,379円 |
| ウォルマート インク(WMT) | 118.88ドル | 135.16ドル | 93.43ドル | 19,021円 |
| ダラー ジェネラル(DG) | 109.38ドル | 158.23ドル | 95.11ドル | 17,501円 |
| マクドナルド(MCD) | 282.25ドル | 341.75ドル | 271.85ドル | 45,160円 |
注:最低購入金額は、米国株は1ドル=160円で1株当たりの購入金額を円換算しています。国内株は100株当たりの購入金額です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
(1)トレードダウン銘柄が注目される背景
〇物価上昇と貯蓄率の低下が消費者の苦境を示す
新型コロナ後から、前年比3%前後に落ち着きつつあった物価上昇率が原油価格の上昇を受けて再び上昇していることで、米国の一般的な消費者は節約志向を強めているとみられます。
小売売上高などのマクロ指標が堅調に推移しているのは、好調な株式市場の恩恵を受けている高所得層の消費が好調であるためで、中低所得層は厳しい消費環境に追い込まれていると言われます。
生活の余裕度を示すと考えられる貯蓄率も、2022年以来初めて4月分が3%を割り込んで、一般的な消費者の苦境を示唆しているとみられます。
〇大手小売企業の決算コメントも先行き慎重
小売大手の2-4月期決算では、ウォルマート、コストコホールセール、ターゲットとも、「高所得層は引き続き消費を続けているが、低所得層は消費に慎重だ」、と一致したコメントを出しています。
例としてウォルマートCFOは、決算説明会で以下のように述べました:
「高所得層の消費者は多くのカテゴリーで自信を持って支出している一方、低所得層はより予算重視となっており、一定の財務的困難へ対応しようとしていることが確認できる」(「We see with our customers that the high-income customer is spending with confidence into many categories, while the lower income consumer is more budget conscious and perhaps navigating financial distress.」)
〇一方、リセッションが意識されるほどではない
トレードダウン銘柄が株式市場で物色されるためには、リセッション(景気後退)が意識されるような局面でないことも重要です。
リセッションが意識されるような局面では、消費が全体として減少して、トレードダウンによる売上の恩恵を打ち消してしまう可能性があるためです。
足もとの米国小売売上高は前年比4~5%増を記録する月が多く、堅調に推移しています。株式市場好調の恩恵を受けている高所得者層の存在が、景気全体を支えていると考えられます。
また、消費の先行指標と捉えることができる、労働市場は雇用統計の非農業部門雇用者数、求人数、週次の新規失業保険申請件数などが堅調に推移しており、リセッションが意識されるような局面ではないと考えられます。
図表2 米国の消費者物価指数(前年比)と貯蓄率
図表3 米国の小売売上高(季節調整済み、前年比)
(2)米国のトレードダウン銘柄とは?
米国株式市場でトレードダウン銘柄として注目されることがある銘柄群をご紹介いたします。
〇アパレル販売
トレードダウン銘柄として、最も注目される印象があるのが、アパレルのオフプライス販売チェーンのロス ストアーズ(ROST) とTJXカンパニー(TJX)です。
アパレルのオフプライス販売は、百貨店や専門店で売れ残った洋服、靴、バッグなどのアパレル品を仕入れて、2~7割引きの低価格で販売する業態です。一流のブランド品が低価格で手に入るということで、消費抑制圧力が強まるときに売上が増えます。
〇食品、日用品販売
大手小売では、ウォルマート インク(WMT)、コストコ ホールセール(COST)などが食品、日用品を低価格で提供する企業として注目されます。
ただし、これら銘柄は、トランプ関税を背景とした物価上昇を受け、昨年から既に高所得層のトレードダウン需要を取り込んできたとみられます。株価も大きく上昇したことから、足もとでは割高感が言われています。
また、ダラー ツリー(DLTR)、ダラー ジェネラル(DG)などの1ドルショップもトレードダウン銘柄として注目されます。ダラーツリーは嗜好品中心の品揃え、ダラージェネラルは食品、日用品、衣料品など幅広い品揃えが特徴です。
〇飲食店
飲食店のトレードダウン銘柄として、ファーストフードチェーンのマクドナルド(MCD)、ヤム! ブランズ(YUM)が注目されることがあります。
ただし、中低所得層がメインの顧客層だと思われるため、その層がトレードダウンして、そもそも外食を控えてしまうリスクがありそうです。一方、高所得層がフルサービス型のレストランからマクドナルドにシフトするかというと、そこまで世の中の景気は悪くなっていないと言えそうです。
実際にマクドナルドの1-3月期決算発表では、4-6月期はガソリン価格の上昇や、キャンペーンが成功した昨年との比較により「大幅な減速」が見込まれると警告しました。1-3月期の米国既存店売上は前年同期比3.9%増と堅調でした。
〇自動車部品販売
自動車用品販売のオートゾーン(AZO)やオライリー オートモーティブ(ORLY)もトレードダウン銘柄として注目されることがあります。
自動車社会の米国では、消費を抑制するときには自動車の買い替えサイクルが長期化して、自動車用品販売店を訪れる頻度が高まると期待されるためです。
ただ、今回の消費抑制ではガソリン価格の上昇が要因の一つになっているために、自動車関連企業には逆風になりやすいと考えられます。
(3)注目銘柄のご紹介
【通期の既存店売上見通しを引き上げ】
オフプライス店チェーン大手。百貨店や専門店で売れ残った衣料、靴、服飾雑貨などを仕入れて定価の2~7割引きで販売します。ブランド品に強い「Ross Dress for Less」(1,904店)と価格訴求型の「dd's DISCOUNTS」(363店)を米国全土に展開します(2025年末)。
季節商品の切り替え早期化、品揃えの流行への追随強化、年間約100店の新店開設など、従来よりも積極的な経営戦略を打ち出していることから、今後数年の売上成長は市場コンセンサスの年率約7%を超える期待があります。
2-4月期決算は、春物への移行がうまくいって売上は前年同期比21%増、既存店売上は同17%増と非常に好調でした。5-7月期の既存店売上は前年同期比6~7%増を見込んでいます。足もとの業績好調を受けて2027年1月期の既存店売上を前年比6~7%増に引き上げました。
【オフプライス店チェーンの最大手】
全米首位のオフプライス店チェーン。有名ブランドの衣料品などを通常価格から2~7割引きで販売します。柱は「T.J.MAXX」「Marshalls」。米国、カナダ、欧州、オーストラリアなどに約5,200店を展開、7,000店舗を目指して拡大中です。
海外展開を行っていることからもうかがえるように、ロスストアーズよりも経営は積極的です。カルティエのサングラス、フェンディのハンドバッグ、リーバイス、フリーピープルなど、取り扱うブランドの洗練度を高め、また、各ブランド品の品揃えを広げることに努めています。
2-4月期の既存店売上は会社計画の前年同期比2~3%増に対して同6%増と好調でした。5-7月期の既存店売上は同2~3%増を見込んでいます。2027年1月期のガイダンスは、既存店売上は前年比2~3%増で維持しましたが、税前利益率を10.3~10.4%から11.4%~11.5%へ引き上げました。
【広告事業が急成長】
世界最大の小売チェーン。大型スーパーや会員制の「サムズクラブ」が柱。米国中心に19ヵ国で計1万超の店舗やEC事業を展開しています。広告事業(同社が保有するデータを活用して、メーカー等にデジタル広告枠やマーケティングソリューションを提供する仕組み)が急成長中です。
昨年来、高所得者層の利用が増えていることが好感されて株価が大きく上昇しました。一方、5-7月期のガイダンスが慎重だったため、足もとの株価は調整基調です。ただ、バリューとコンビニエンスを同時に提供することで小売り市場のシェアを拡大できるポジションにあると見られます。
2-4月期決算は、売上が前年同期比7.3%増(為替変動の影響を除いて同5.9%増)、eコマース売上が同26%増、広告事業売上が同37%増と好調でした。5-7月期の売上ガイダンスは前年同期比4~5%増です。
【トレードダウンの恩恵が期待される】
ディスカウントストア大手で、全米48州とメキシコに2万店超を展開します。エブリデイロープライスを掲げ、食品、日用品、衣料品などのナショナルブランド品、プライベートブランド品を、通常10ドル以下で提供します。
店舗サイズは700~790平米で、顧客が短時間で買い物を済ませられる「利便性の高さ」と「顧客との距離の近さ」を強みにしています。低所得者層が主要顧客ですが、トレードダウンにより所得が10万ドル以上の顧客の来店が増えています。
2-4月期決算は、売上が前年同期比3.4%増、既存店売上が同2.0%増、EPSが同12.4%増と堅調でした。既存店売上の伸びのうち、1.4%ポイントが来店客数、0.5%ポイントが平均購入額によります。2027年1月期の業績ガイダンスは、売上が前年比3.7~4.2%増、既存店売上が同2.2~2.7%増です。
【価格への投資でシェア拡大を狙う】
世界最大のハンバーガーチェーンで、外食全体でも首位級です。2015年以降に直営店のフランチャイズ(FC)化を進め、FC店舗の比率を約95%に引き上げました。100ヵ国以上で4.5万店を展開、2027年末までに5万店到達を狙います。
トレードダウンによって恩恵を受けられるかどうかは、景気の悪化度合いに依存するところがあると考えられます。価格への投資(価格の引き下げ)によって、「ウェンディーズ」や「ジャック・イン・ザ・ボックス」などからシェアを獲得することが期待されます。
1-3月期の米国既存店売上は前年同期比3.9%増と好調でしたが、2024年末の食中毒で前年同期の水準が低かった影響を含みます。4-6月期以降は前年同期の比較が高くなるため、ヘッドラインの数字は1-3月期から鈍化する形になります。
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