「エヌビディア・キラー」となるのか!?革新的AI半導体を擁するセレブラスシステムズ

「エヌビディア・キラー」となるのか!?革新的AI半導体を擁するセレブラスシステムズ

投資情報部 榮 聡

2026/06/24

(1)AI半導体の革命児となるか!?セレブラス

AI半導体のスタートアップ企業セレブラスシステムズが、6/23(火)に上場後初の四半期決算を発表しました。投資家の保有が多いエヌビディアのライバルとも目される注目企業ですので、今回取り上げました。

514日に新規上場したAI半導体企業

セレブラスは、今年5月14日にナスダック市場に新規上場しました。55.5億ドルを調達して、その後に実施されたスペースXのIPOまでは今年最大のIPOとなっていました。

報道によれば、公募株に対する応募倍率は20倍に達したとされ、市場の注目度の高さがうかがわれます。公募価格の185ドルに対して初日の取引は350ドルで始まり高値386.34ドルを付けて熱狂的なスタートとなりました。しかし、その後は、IPO直後の熱狂が冷めるにつれて株価は下落基調を辿り、6/23(火)時点で226.72ドルまで低下してきました。

さらに、6/23(火)引け後に発表した1-3月期決算および通年ガイダンスが嫌気されて、時間外取引で10%以上の下落となっています(日本時間6/24(水)午前8時半)。

〇エヌビディアと違う考え方のAI半導体を提供

一般的な半導体は、大きなシリコンウエハを数センチ角のチップに切り分けて製造されますが、セレブラスはウエハ1枚をそのまま丸ごと一つの巨大なAIチップとして機能させる独自の技術を持っています。

エヌビディア(NVDA)は、最先端のAI半導体を擁するのみならず、ソフトウェアの蓄積も厚く、AIサプライチェーンの端から端までを目配りしています。同社と同様の考え方のAI半導体では、エヌビディアの市場シェアを一部獲得することはできても、エヌビディアに対して優位に立つことは難しいと考えられます。

一方、セレブラスは考え方の違うAI半導体を開発して提供しようとしていることから、エヌビディアを脅かす可能性のある、AI半導体メーカーとして注目できるでしょう。エヌビディア株を保有している投資家にとっては、ウォッチしておくべき会社ということになります。

〇米国の大手顧客との契約が注目を集める

半導体のスタートアップ企業にも関わらず、市場の熱い注目を集めているのは、昨年末から今年3月にかけてオープンAIやアマゾンのAWSと契約を締結したことにあります。

最近まで主要顧客がアラブ首長国連邦の2社に集中していたことが懸念されていましたが、米国の大手との契約が発表されて一気に注目が高まりました。

オープンAIとは、2025年12月に基本再販業者契約を結び、2026年1月14日に750メガワットのウエハ・スケール・システムをオープンAIの顧客に提供する複数年契約を締結しています。2026年2月からサービスの提供を始めています。

AWSとは、2026年3月13日にAWSが同社のAIサービスにセレブラスのシステムを組み込んで提供することが発表されました。

チャットボットやコーディングツールに使用される見通しです。

図表2 セレブラス システムズ A(CBRS)の株価チャート(日足)

(2)セレブラスの革新性と潜在競争力

セレブラスが擁する半導体のウエハ・スケール・エンジン(Wafer-Scale Engine)について解説いたします。

〇セレブラスが開発したウエハ・スケール・エンジン(WSE

セレブラスが開発したウエハ・スケール・エンジンは、半導体をチップに切り出さず、ウエハのまま半導体プロセッサーとして使うもので、これまでに実用化できたのは同社に限られるとされる特徴のある技術です。

同社のWSEは、エヌビディアの「B200」(ブラックウェル200)と比較して、チップの面積が58倍に達します(図表3)。

一方、エヌビディアは、AIサーバーを複数収めたラックを一つのコンピュータシステムとして扱う「ラックスケールシステム」やラックを複数繋いでコンピュータシステムとして使うことを進めています。つまり、エヌビディアも「B200」のGPUチップの数十倍の面積の計算領域を一つのコンピュータとして使っていることになります。

セレブラスは、同様のことを一つのウエハ上に構築して、非常に単純なソリューションを提供できている可能性が指摘できます。このため、高い競争力につながる可能性があります。

〇ウエハ・スケール・エンジンのメリット

同社の「ウエハ・スケール・エンジン」で構築した「Cerebras Inference」は、エヌビディアの「B200」(ブラックウェル200)と比較して、主要なオープンソースモデルに関して計算速度が15倍以上の結果が出ているとしています(図表4)。

AIの推論計算ではメモリーの帯域が計算速度のボトルネックになってきましたが、これを解決するためにエヌビディアは従来のDRAM(Dynamic Random Access Memory)に替えて、DRAMのチップを何層にも重ねて広帯域で情報のやり取りを可能にしたHBM(High Bandwidth Memory)が利用されるようになりました。

一方、セレブラスはチップのサイズを大きくして、同じウエハ上にSRAM(Static Random Access Memory)を作り込み、演算を行う部分とメモリー部分の情報のやり取りを高速で行えるシステムを作りました。同社のWSEは、エヌビディアの「B200」と比較して、メモリーの帯域が2,625倍に達します。

AIの推論において複雑なリーズニングを伴うものや高速のレスポンスが必要な分野では、セレブラスが高い競争力をもつことは間違いないと考えられます。ただし、コストの情報が公になっていないため、実際にどこまで広がるかは、これから確認していく必要があるでしょう。

※DRAMとSRAMは、どちらもRAM(Random Access Memory)と呼ばれる揮発性メモリー(電源を切るとデータが消えるメモリー)の一種ですが、DRAMはデータ保持のために定期的なリフレッシュ動作が必要なもの、SRAMはデータ保持にリフレッシュ動作が不要なものを指します。SRAMはDRAMとの比較で、集積度が低い一方、アクセススピードが速い、消費電力が小さいという特徴があります。

〇ビジネスモデル

AIの推論において高速のレスポンスを提供する同社のサービスは、以下のような形で提供されています。AI半導体を売り切るだけでなく、サービスを提供することで継続的な収入を得る形もとっています。

・セレブラス・クラウド:セレブラス自身が提供するクラウドサービスを通じてAI計算サービスを提供します。

・ハイパースケール・クラウド:AWS(アマゾン)、マイクロソフト、IBMなどのハイパースケーラーのクラウドサービスを通じて計算サービスを提供します。

・オンプレミス・デプロイメント:顧客の施設に総合的なAIコンピュータを設置します。顧客によっては、運営を請け負う場合があります。

〇製造は台湾セミコンダクター(TSMC)に委託

セレブラスシステムズの半導体は、台湾セミコンダクター(TSM)の5nm(ナノメートル)の技術で生産されています。

余談になりますが、「AI半導体の競争で誰が勝とうと、皆が生産をTSMCに委託しているため、TSMCはほぼ必ず恩恵を受ける」という法則は今回も裏切られないと言えるでしょう。

図表3 セレブラスのウエハ・スケール・エンジン(WSE)とエヌビディアのGPUの大きさの違い(イメージ図)

図表4 AI推論の処理速度比較

図表5 エヌビディアGPUとセレブラスWSEのメモリー帯域の違い

(3)セレブラスのご紹介

〇企業概要

2015年設立の米国カリフォルニア州サニーベール本社のAI半導体企業です。AI学習・推論向けに、シリコンウエハ1枚をそのままプロセッサ化した世界最大級の半導体チップ「Wafer-Scale Engine(WSE)」を開発し、高速なAI計算基盤を提供しています。

独自チップを搭載したAIスーパーコンピュータやクラウドサービスを展開し、NVIDIAの有力な競合として注目されています。最近はオープンAIやAWSとの提携を拡大し、AIインフラ市場で存在感を高めています。2026年5月14日にナスダック市場に新規上場しています。

〇業績推移

売上はAI向け大型チップ(WSEシリーズ)やAIクラウドサービス需要の拡大により、2023年の0.79億ドルから2025年の5.10億ドルへ6.5倍に拡大、2025年には黒字化しています。

ただし、2025年の黒字には約3.6億ドルの一時利益が含まれており、本業の営業利益は1.46億ドル赤字です。研究開発費やAIインフラ投資の負担が大きく、事業の基調では営業赤字が続いています。

目論見書では売上の大部分をG42(UAEのAI企業)やMBZUAI(UAEの人工知能大学)など少数顧客に依存している点が、主要リスクの一つとして開示されていますが、顧客は米国のIT大手に広がりつつあります。オープンAIとの大型契約などにより、2025年末時点で約246億ドルの受注残高(Remaining Performance Obligations)を保有しています。

20261-3月期決算

上場後初の四半期決算発表を6/23(火)に行いました。売上は193百万ドルで前年同期比94%増(前四半期比12%増)、純利益は14百万ドルの赤字と、前年同期の24百万ドルの赤字から縮小しました。

4-6月期のガイダンスは、売上が前年同期比88%増の194百万ドル、コア粗利率を36~38%としました。1-3月期のコア粗利率47%から低下するのは、足もとの需要拡大に合わせてデータセンター施設を借りるためとしています。

2026年12月期のガイダンスは、売上が855~865百万ドルで中央値は前年比69%増、コア粗利率は38~41%、コア営業利益率は-28~-32%としました。

コア粗利率が低下するとのガイダンスが嫌気されて、6/23(火)の時間外取引で株価は10%以上の下落となっています(日本時間6/24(水)午前8時半)。ただし、コア粗利率の低下は一時的と見られ、会社は設備拡張後の中期的には60%超を目指しています。

〇アナリストの株価評価(2026623日時点)

モルガンスタンレー、シティ、UBSを含む11社のアナリストが同社をカバーしており、投資判断は買い/中立/売りが、それぞれ9/2/0となっています。

アナリストの目標株価平均値は、292.00ドルです。ただし、今回の決算発表を考慮して目標株価が目先下方修正される可能性があるため、ご留意ください。

図表6 セレブラスの業績推移

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