第4回 トランプ氏が当選した場合、当選しない場合のマーケットへの影響

第4回 トランプ氏が当選した場合、当選しない場合のマーケットへの影響

小次郎講師

2024/05/24

トランプ前大統領の返り咲きとマーケットへの影響

トランプ前大統領は複数の訴訟を抱えながら、異例の大統領選を進めています。5月13日、アメリカのトランプ前大統領が不倫の口止め料を不正に処理したとして罪に問われている裁判で、元顧問弁護士のコーエン氏の証人尋問が行われました。トランプ氏は2016年の大統領選挙の前に、不倫の口止め料をめぐって帳簿などの業務記録を改ざんした罪に問われ、4月中旬から連日ニューヨーク州の裁判所に出廷しています。この中でコーエン氏は、女性側に口止め料13万ドルを支払ったことについて「すべてトランプ氏の承認が必要だった」と述べトランプ氏の指示を受けて金を支払ったと証言しました。法廷を出たあと、トランプ氏は報道陣に対し「この国の民主主義におそろしいことが起きている。事実がゆがめられている。この事件には詐欺も犯罪もない」と述べ、あらためて無罪を主張しました。

トランプ氏は現在、前回に敗戦した大統領選挙の結果を覆そうとして手続きを妨害した罪や、機密文書を自宅で不正保管した罪など、複数の罪に問われています。共和党の候補者選びが進む中でも、刑事・民事裁判を同時進行で行う異例の選挙戦となっています。このような異例の選挙戦が繰り広げられる中で、トランプ氏が当選した場合、マーケットがどのように影響を受けるか考察します。

トランプ氏は、米大統領に復帰した際には「政敵への復讐」を宣言し、2025年1月20日の大統領就任初日だけ「独裁者」になると公言しています。同日に大統領権限を行使し、「政権復帰の初日にバイデン政権のあらゆる国境開放政策を終わらせる」とし、不法移民の国外追放を可能とする「敵性外国人法」を発動するなどと発言しています。敵性外国人法とは非常事態時に大統領が敵国人を逮捕、拘束、国外追放出来るという恐ろしい法律です。そのトランプ氏が大統領選に勝利すれば、マーケットに激震が走るでしょう。
前回の大統領時代から「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」を掲げ、自国の産業保護を目的とし外国からの輸入品に高関税をかけたり数量制限したりする保護主義的な通商政策をとっていました。政権2年目の2018年には中国に極端な高関税を掛け、米中貿易摩擦問題がエスカレートし、株式市場が混乱したこともありました。

最近起きた事としては、日本最大手の鉄鋼メーカー日本製鉄が2023年12月、米大手鉄鋼メーカーUSスチールを約2兆円で買収すると発表したとき、トランプ氏は大反対しました。この巨大M&A(合併・買収)に対し、「私なら瞬時に阻止する。絶対にだ」と発言しました。また、4月にはトランプ氏が「円安は米国にとって『大惨事』だ」と述べており、再選されれば「円安(ドル高)是正策を打ち出す」とも考えられています。

仮にトランプ氏が大統領に復帰すれば、どうなるでしょう。一番想定されることは、相場のボラティリティ(変動率)が上昇することです。さまざまなリスクが高くなり、上昇するにしても下降するにしても値動きが大きくなることが想定されます。

RCP(RealClearPolitics)によるトランプ氏とバイデン氏の支持率を見ると、現状もトランプ氏が優勢ですが、もし、トランプ氏が裁判で有罪になれば形勢はどうなるでしょう。4月29日に発表されたハーバード大学米国政治研究センターとハリス・インサイト・アンド・アナリティクスによる世論調査では、もし今日大統領選挙が行われた場合、誰に投票するかという問いに対して、トランプ氏が48%と、バイデン氏(43%)を5ポイント上回りました。3月時の調査(3ポイント差)からはわずかに差が広がりました。一方、トランプ氏が起訴されている3つの事案を取り上げ、トランプ氏がもし有罪になった場合、どちらに投票するかという問いに対する結果は次の通りとなり、より接戦となる傾向がみられました。

■機密文書取り扱いの件で有罪となった場合:トランプ氏50%、バイデン氏50%
■ジョージア州の2020年大統領選挙結果を覆そうとした件で有罪となった場合:トランプ氏50%、バイデン氏50%
■2021年1月6日の連邦議事堂襲撃の件で有罪となった場合:トランプ氏52%、バイデン氏48%

(実施期間は4月25日~26日、日本貿易振興機構(ジェトロ)より参照)

仮にトランプ氏が有罪になれば、より接戦になるということです。裁判の動向にも注意しながら今後の展開を見ていきましょう。

現在の大統領選の支持率推移

前回、4月12日時点では、トランプ氏が45.5%、バイデン氏が45.3%と僅差になっていましたが、5月13日時点では、トランプ氏46.1%、バイデン氏44.9%と、前回よりも差が広がり1.2ポイントとなっています。依然として接戦ではありますが、トランプ氏が優勢な状況が続いています。

(RealClearPoliticsより5月13日時点)

5月13日に行われたトランプ前大統領が不倫の口止め料を不正に処理したとして罪に問われている裁判では、元顧問弁護士のコーエン氏が「すべてトランプ氏の承認が必要だった」と述べトランプ氏の指示を受けて金を支払ったと証言しました。

先ほどの世論調査でもありましたように、トランプ氏が有罪になれば支持率は接近するという結果が出ています。元顧問弁護士の証言によって支持率が今後どう変化するかが注目ポイントです。

激戦区の州ごとの支持率推移

では、ここからは激戦が予想されている州での戦況を見ていきましょう。

激戦が予想されている州は、ウィスコンシン州・ジョージア州・アリゾナ州・ネバダ州・ミシガン州・ペンシルベニア州・ノースカロライナ州の7つの州です。そのうちネバダ州は6.2ポイント、アリゾナ州は5.2ポイント、ジョージア州は4.6ポイント、ノースカロライナ州は4.4ポイントと、トランプ氏が優勢となっています。

一方、僅差なのは、ペンシルベニア州で2ポイント、ミシガン州で0.8ポイント、ウィスコンシン州が0.6ポイントで、いずれもトランプ氏が優勢となっています。前回バイデン氏が優勢だったペンシルベニア州でもトランプ氏優勢に転じています。

今後のスケジュール

7月15日(月)~18日(木) 共和党大会(党の候補者決定)
8月5日(月) 20年大統領選の開票干渉裁判(予定)
8月19日(月)~22日(木) 民主党大会(党の候補者が決定)
11月5日(火) 大統領選、投開票日
2025年1月20日(月) 大統領就任式

*日程未定 大統領候補者テレビ討論会
*日程未定 副大統領候補者テレビ討論会
*日程未定 大統領選介入事件裁判
*日程未定 トランプ氏の機密文書事件の初公判(5/7 延期が決定)
*継続中  不倫口止め料をめぐる公判

(赤字はトランプ氏が抱える裁判)

現状のマーケット分析

NYダウ 日足

米連邦準備制度理事会(FRB)による利上げ懸念の後退などから、株式市場は史上最高値更新に向けた動きになっています。米連邦公開市場委員会(FOMC)でのパウエル議長のハト派発言や、米雇用統計での予想を下回る悪い結果を受けたFRBによる利下げ期待が高まったことが株高の背景にあります。現在の株式市場のメインテーマは「今年の利下げ回数」となっています。利下げということは、経済指標が悪い方が利下げ期待は高まります。株式市場の動向や経済情勢などは大統領選に相当影響が出るところですので、このまま、安定上昇が続くかどうかが注目となります。一方で、トランプ氏の裁判が株式市場に与える影響は今のところ軽微のようです。

ゴールド 日足

中東でのイスラエルとハマスの対立が泥沼化してきました。イスラエルによるラファへの軍事行動で、エジプトやカタール、米国が仲介していた停戦交渉が決裂しました。バイデン大統領は、ラファで大規模な軍事作戦を行えば、イスラエルへの武器供与を制限すると警告しました。一方で、イスラエルのネタニヤフ首相は「必要なら(ハマスに)単独で立ち向かう」と強弁しています。この一連の流れを受けてゴールドは再び上昇を始め、地政学的リスクが高まっています。バイデン政権にとって、イスラエルへの対応次第では支持率に大きな影響を与えるだけに引き続き注目していきましょう。

【原油 日足】

イスラエルとハマスの問題などからゴールドは高水準で推移していますが、原油市場から中東情勢を見ると違ったように見えます。原油は年始から4月にかけて上昇しましたが、その後は下降しています。地政学的リスクが局部に集中しており、中東全体の懸念にはなっていないと感じさせる値動きです。とはいえ、中東情勢が悪化すれば原油市場も高騰しますので、ゴールドと合わせて今後の展開を注視しましょう。

【米ドル円 日足】

日米の金利差拡大などからドル高円安の流れが継続しています。日本政府、日銀による為替介入により一時的にドル安円高に振れましたが、現状では大局の流れを反転するほどの介入とはなっておらず、再び160円に向けた動きになっています。もしトランプ氏が大統領であれば「ドル高は大惨事!絶対に許さない」と、口先介入をしていたかもしれませんが、現状は流れが変わる雰囲気はみられません。ドル高は米国内の製造業が打撃を受けるとトランプ氏は発言しており、それをバイデン大統領が放置していると批判しています。為替の動きも当然のことながら大統領選に影響します。トランプ氏当選の可能性が高まれば円高に振れる可能性も念頭に置いておきましょう。

まとめ

先月の大統領選はトランプ氏にバイデン氏が肉薄する展開を見せましたが、この1ヵ月で再びトランプ氏が優勢になってきました。ただし、トランプ氏の裁判が始まり、結果次第では再び接戦になる可能性も考えられますので、裁判の動向は大注目となります。仮に有罪になり収監された場合は、情勢は一気にバイデン氏優勢に傾くということも想定されます。今年の大統領選は何が起きるか読めません。極論を言うと、二人とも高齢ですので選挙戦の最中に倒れるというリスクまであるように思います。またロシアのウクライナ侵攻やイスラエルのハマスへの報復攻撃などの有事は未解決のままです。予期せぬ事態がマーケットに大きな影響を与える可能性があるため、常に対応策を考えておくことが重要です。

著者プロフィール

小次郎講師

岡山県出身。チャート分析の第一人者として、投資セミナー、書籍などを通じて個人投資家向けの投資教育活動を精力的に展開している。
40年以上の投資キャリアを持つ。

【出演】
・ラジオNIKKEI「小次郎講師のチャートラボラトリー」レギュラー番組

【受賞暦】
・みんなの株式「コラムアワード2013、2014」2年連続大賞受賞
・パンローリング社「ブルベア大賞2016」大賞受賞、
「ブルベア大賞2015、2019」準大賞受賞、「ブルベア大賞2017、2018」特別賞受賞

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