第5回 トランプ氏有罪!大統領選への影響は?

第5回 トランプ氏有罪!大統領選への影響は?

小次郎講師

2024/06/21

トランプ氏有罪、米国大統領経験者が刑事事件で史上初の有罪評決

5月30日、アメリカのトランプ前大統領は不倫の口止め料をめぐって業務記録を改ざんした罪に問われた裁判で、ニューヨーク州の裁判所の陪審員により有罪と評決されました。これは大統領経験者としては初めてとなる有罪の評決です。量刑を決定する審理は7月に開かれる予定です。一般市民から選ばれた12人の陪審員は、29日から有罪か無罪かを判断するための評議を開始し、2日目の30日に全員一致で有罪の評決を下しました。

評決後トランプ氏は「不正で恥ずべき裁判だ」と述べるとともに、バイデン政権が政治的な意図を持って司法を利用したという従来の主張を繰り返しました。量刑は裁判官が決定する予定で、その審理は7月11日に開かれる見込みです。トランプ氏側は大統領選挙の再当選を狙っていますので、裁判の結果を不服として控訴するとみられています。

では、今後の大統領選はどうなるのでしょうか。そもそも、米国では刑事事件の被告が選挙に立候補することを禁止する法律はありません。過去には服役中に立候補した例もあり、トランプ氏も今後の選挙活動を続けることができます。当選した場合には大統領就任を阻む規定はありませんので、被告のまま大統領になるシナリオも現実味を帯びてきました。

とはいえ、この有罪判決はトランプ氏にとっては大きな打撃になる可能性があります。なぜなら、大統領選においては接戦州の攻略がカギとなるからです。5月31日以降の支持率推移を確認すると、バイデン氏がじわじわと追い上げてきています。また、トランプ氏が有罪の評決を受けた直後にCBSニュースが実施した世論調査では、トランプ氏の裁判は、「公正だった」との回答が56%、「公正ではなかった」は44%でした。評決については、「正しかった」と57%が回答し、「正しくなかった」は43%でした。有罪となったトランプ氏が大統領としてふさわしいかという問いには、「ふさわしくない」が51%と過半数を超えました。支持政党別では、民主党支持者の94%が「ふさわしくない」、共和党支持者の81%が「ふさわしい」と回答しましたが、無党派層は「ふさわしくない」が50%と「ふさわしい」(39%)を上回っており、有罪評決を受けたことで、勝負のカギを握っている無党派層の支持を下げているという影響がみられます。

今後は7月11日に予定されている量刑決定に注目が集まっています。もしトランプ氏が実刑になった場合は、トランプ氏が控訴したとしても、保釈継続が認められずに勾留される可能性があります。そうなると、選挙集会や資金集めパーティーは開けなくなり、メディアへの発信も規制され、場合によっては共和党の候補指名を受ける予定の7月15日~18日の党全国大会にも出席できないという事態になりかねません。ただ、専門家の間では、トランプ氏は前科が無く実刑になる可能性は低いとの見方が強いようですが、移動が制限されたりすれば選挙活動に支障が出ることになります。

一方、バイデン大統領は、「米国史上初めて有罪評決を受けた元大統領が大統領職を目指している」「トランプ氏が米国の司法制度に対して行っている全面的な攻撃は有害だ」と発言しており、大統領選挙に向けてトランプ氏への批判を強めています。ただ、残念ながら支持率においては、トランプ氏に後れを取っている状況を逆転することができずにいます。また、ロイター・イプソスの最新の世論調査によると、5月のバイデン米大統領の支持率が36%と、2022年7月に記録した大統領在任中の最低水準に並んでおり、大統領再選に向け懸念される結果となっています。

米国大統領経験者が刑事事件で史上初の有罪評決をうけるという事態になりながらも、バイデン大統領の支持率が伸びないことで、大統領選挙は益々先が見えない大混戦となってきました。いずれにせよ、7月11日に開催予定のトランプ氏に対する量刑が注目されます。

現在の大統領選の支持率推移

前回、5月13日時点では、トランプ氏46.1%、バイデン氏44.9%と、1.2ポイントの差がついていましたが、トランプ氏の有罪評決後、動きに変化が出てきました。6月9日時点では、トランプ氏45.4%、バイデン氏44.6%と、差は0.8ポイントと縮まっています。依然として接戦ではありますが、トランプ氏が優勢な状況が続いています。

(RealClearPoliticsより6月9日時点)

5月30日にトランプ氏が不倫の口止め料をめぐって業務記録を改ざんした罪に問われた裁判で、有罪の評決を下されてから、支持率のグラフに変化が出てきました。トランプ氏の支持率は5月30日には47.6%だったのに対し、6月9日には45.4%と2.2ポイントも下がりました。一方のバイデン氏が支持率を維持していれば逆転していたところですが、5月30日の46.7%から6月9日には44.6%とトランプ氏と同様に2.1ポイント支持率を下げています。

こちらも、7月11日の量刑でどう変化するのかに注目しましょう。

激戦区の州ごとの支持率推移

では、ここからは激戦が予想されている州での戦況を見ていきましょう。

激戦が予想されている州は、ウィスコンシン州・ジョージア州・アリゾナ州・ネバダ州・ミシガン州・ペンシルベニア州・ノースカロライナ州の7つの州です。そのうち明らかに優勢だった州の変化を見ていきます。ネバダ州は前回5月13日の時点では6.2ポイント差だったのが、今回は5.3ポイント差となり、0.9ポイント下がりましたが、こちらもトランプ氏優勢継続です。アリゾナ州は5.2ポイント差から今回は4.2ポイント差となり1ポイント下がりましたが、こちらもトランプ氏優勢継続です。ジョージア州は4.6ポイント差から今回は4.8ポイント差と差が広がりトランプ氏優勢です。ノースカロライナ州は4.4ポイント差だったのが、今回は5.3ポイント差と、こちらもトランプ氏優勢でポイントの差が広がっています。

一方、僅差なのは、ペンシルベニア州で2.3ポイント、ミシガン州で0.3ポイント、ウィスコンシン州が僅か0.1ポイントで、いずれもトランプ氏が優勢となっていますが、その差はやや縮小しています。

今後のスケジュール

6月27日(木) 大統領候補者テレビ討論会第1回
7月11日(木) トランプ氏、有罪となった口止め料裁判、量刑の審理
7月15日~18日 共和党大会(党の候補者決定)
8月19日~22日 民主党大会(党の候補者が決定)
9月10日(火) 大統領候補者テレビ討論会第2回
11月5日(火) 大統領選、投開票日
2025年1月20日 大統領就任式

*日程未定 大統領選手続き妨害
*日程未定 機密文書不正保管
*日程未定 ジョージア州選挙結果巡り州政府に圧力

(赤字はトランプ氏が抱える裁判)

現状のマーケット分析

ナスダック100 日足

米連邦準備制度理事会(FRB)による金融政策をめぐって、マーケットは揺れ動いています。5月の米雇用統計では、非農業部門雇用者数が予想を大きく上回り27.2万人増となり、平均時給も前月比0.4%増とこちらも予想を上回りました。FRBによる利下げ期待の後退などから、長期金利が上昇しドル高となり株式市場の重石となりました。ただ、AI関連銘柄のエヌビディアなどの好決算などから、AI関連やIT関連銘柄は好調が続いております。その結果ナスダック総合指数の中で、時価総額上位100社(金融関連は除く)で構成されるナスダック100は史上最高値を更新し、米国の株式市場をけん引しています。現状では、トランプ氏の有罪評決はマーケットには大きな影響を与えていないようです。

ゴールド 日足

ロシアとウクライナ問題や中東でのイスラエルとハマスの対立問題は、解決することなく推移しています。ただ、ゴールド価格の動向から世界リスクという面をのぞき込むと、若干、リスクに対する懸念が薄まってきているといえそうです。それは、ゴールドの上昇が一服し、価格が下降してきたからです。短期移動平均線が長期移動平均線に対してデッドクロスしてきたことで買いのエッジが無くなってきたことを示唆しています。この背景には、バイデン大統領が5月31日、パレスチナ自治区ガザ地区での紛争を終わらせるための新しいイスラエル案を発表し、イスラム組織ハマスに受け入れを呼びかけたことも考えられます。ただし、この主張に対してイスラエルのネタニヤフ首相は、「イスラエルにとって戦争を終える条件は変わっていない」と主張し、「ハマスの軍事および統治能力の破壊。人質全員の解放。ガザがもはやイスラエルを脅かさないよう確実にすること」が満たされるまではどのような合意にも署名できないとしています。予断を許さない状況が続いていますが、中期移動平均線が長期移動平均線に対してデッドクロスしてくれば、地政学的リスクは後退していると判断できますので、チャートを小まめに確認していきましょう。

米10年債利回り 日足

米国の雇用統計の結果を受け、FRBによる利下げ期待が後退したことで、長期金利が上昇してきました。しかし、上昇トレンドになったというより、下降トレンドになりそうだったところを回避したような動きです。FRBの利下げ回数がどうなっていくのかが、今後の金利市場のカギを握っています。チャートを見ると、価格が横ばいで上がったり下がったりしており、明確な方向性がありません。米10年債利回りが上昇トレンドを形成するのか、下降トレンドになるかで、株式市場や為替市場に大きな影響を与えます。そのため、どこでトレンドが発生するのかを注視していく必要があります。

米ドル円 日足

日本政府と日銀による為替介入により、一時的にドル安円高に振れましたが、チャートに大きな変化は見られず、ドル高円安の流れが続いています。つまり、今回の介入ではトレンドを変えることが出来なかったことを示すとともに、介入が無ければどこまで円安が進行していたのかと感じられる動きです。日米の金利差は縮小傾向にありますが、円安の流れは変わっておらず、現在の為替以上は金利差では動いていないことがわかります。158円を突破してくると、再度160円超えに挑戦となります。バイデン政権は現状のドル高をマーケットに任せて是認しており、今後の日米の金融政策の方向性が重要になってきています。米国が金融引き締めから金融緩和に移行すればドル安円高に振れやすくなり、金融引き締めを継続すればするほどドル高が続きやすくなります。

まとめ

先月の大統領選はトランプ氏が再び優勢となっていましたが、トランプ氏の有罪評決によって支持率がじりじりと下がってきています。バイデン氏にとっては大きなチャンスにもかかわらず、バイデン氏の支持率も低下しており、結果として両氏とも支持率を落としているものの、トランプ氏優勢は変わらずといった状況です。ただ、7月に量刑が決まる予定であり、その結果次第では支持率がガラッと変わることは十二分に想定できることです。裁判の行方次第ではマーケットが急変することも考えられるため、株式市場だけでなく、コモディティ、金利、為替市場も注意深く追いかけていく必要があります。

著者プロフィール

小次郎講師

岡山県出身。チャート分析の第一人者として、投資セミナー、書籍などを通じて個人投資家向けの投資教育活動を精力的に展開している。
40年以上の投資キャリアを持つ。

【出演】
・ラジオNIKKEI「小次郎講師のチャートラボラトリー」レギュラー番組

【受賞暦】
・みんなの株式「コラムアワード2013、2014」2年連続大賞受賞
・パンローリング社「ブルベア大賞2016」大賞受賞、
「ブルベア大賞2015、2019」準大賞受賞、「ブルベア大賞2017、2018」特別賞受賞

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