第6回 TV討論会でバイデン氏が苦戦!有罪評決の大統領が誕生か!?

小次郎講師
2024/07/22
大統領候補によるTV討論会が開催、バイデン氏が苦戦
6月27日(木)、ジョージア州アトランタにおいて、米大統領選に向けたバイデン大統領とトランプ前大統領によるテレビ討論会が開催されました。二人の直接対決は2020年の前回大統領選以来、4年ぶりでした。
討論内容は、2020年の討論会と同様に、双方が互いを「史上最悪の大統領だ」と批判しあう内容で、米国民が望むディベートとは程遠い討論会となりました。討論内容もさることながら、バイデン氏がトランプ氏の発言に対する反論の弱さ、声のかすれ、中盤では数秒間、言葉に詰まる場面もあり、大統領に求められる力強さや安定感が感じられず、精彩を欠いたものでした。米メディアでは、バイデン大統領の陣営関係者の話として「大統領は風邪をひいている」と伝えたものの、バイデン氏の年齢や健康状態に対する懸念が高まりました。
その討論会の翌日、民主党地盤であるニューヨーク州にあるニューヨーク・タイムズの社説では、討論会でバイデン大統領が苦戦したとして「バイデン氏は国のために大統領選から撤退すべきだ」と掲載し「バイデン氏は4年前の彼ではない。バイデン氏に真実を語る勇気を持たなければいけない」と強調しました。テレビ討論会を終えてから民主党内ではパニック状態になっているといった声も聞こえており、民主党関係者の間では、バイデン氏が候補者にふさわしいかどうかの疑念も浮上しているとも言われています。
とはいえ、新たに候補者を立てるには、バイデン氏が出馬を断念することが大前提となるため、ハードルは高い状況です。バイデン氏は、翌28日にノースカロライナ州の選挙集会で演説し、「私は以前ほど楽に歩けない。以前ほどスムーズにも話せない。議論も以前ほどうまくはできない。だが、真実を伝える方法は知っている。そして、この仕事をどうこなせばよいのかも分かっている」と力強く発言し、さらに、議員への書簡でも撤退を否定しました。
ただ、もしバイデン氏が出馬を断念するとすれば、その後任になる可能性がある人物は誰でしょう。一番目は、すでに次期副大統領の候補指名を得る見通しになっているカマラ・ハリス副大統領ですが、支持率の低迷が課題です。ミシガン州で知事を2期務めるグレッチェン・ウィットマー氏も中西部で人気が高いものの、民主党政治家ではありますが全国区の知名度は低いです。カリフォルニア州知事のギャビン・ニューサム氏はバイデン政権を最も強力に代弁する一人ではありますが、彼も全国区での認知度は低いです。他の候補者もいますが、トランプ氏と互角に戦い、勝利するには力不足としか言いようがなく、民主党としてはバイデン氏が出馬断念したとしても厳しい選挙戦となっています。
一方で、政権奪還を目指す共和党は7月8日、事実上の公約となる政策綱領案をまとめました。「アメリカ第1主義」の経済政策や移民対策の強化など、トランプ前大統領の主張が色濃く反映される内容となっています。インフレ対策では、エネルギー生産の規制撤廃や政府支出の削減などで好転させるとしているほか、移民政策では、国境沿いの壁を建設するなど対策を強化するとしています。中国に対しては貿易上の優遇措置などを講じる「最恵国待遇」を撤回するとしています。そして、大統領選挙の主要な争点の一つとなっている人工妊娠中絶をめぐっては、保守層の一部が求める全米一律の規制ではなく各州での判断に委ねるとしていて、無党派層を意識した内容となっていました。この政策綱領案は、中西部ウィスコンシン州で15日から始まる共和党の全国大会で採択される見通しとなっています。
また、大注目だったトランプ前大統領の「口止め料」訴訟の量刑言い渡しは9月18日に延期される見通しとなりました。第1回目のテレビ討論会を経て、トランプ氏が大統領選を優勢に進めているといえるでしょう。
現在の大統領選の支持率推移
前回、6月9日時点では、トランプ氏45.4%、バイデン氏44.6%と、わずか0.8ポイント差の接戦となっていました。しかし、6月27日のテレビ討論会以降、じりじりと差が広がってきました。7月8日時点では、トランプ氏47.5%、バイデン氏44.1%となり、両者の差は3.4ポイントとなっています。

(RealClearPoliticsより7月8日時点)
5月30日にトランプ氏が不倫の口止め料をめぐり業務記録を改ざんした罪に問われた裁判で、有罪の評決を受けて以来、支持率は接戦状態が続いていました。しかし、トランプ氏の支持率が低下する一方で、バイデン氏の支持率も低下しており、逆転することはありませんでした。そして、6月27日のテレビ討論会でバイデン氏が苦戦したことにより、両者の支持率の乖離が大きくなってきました。トランプ氏の不倫の口止め料をめぐる業務記録を改ざんした罪に問われた裁判での量刑が7月11日に予定されていましたが、延期されたことにより、バイデン氏の苦戦が続きそうな状況となっています。
激戦区の州ごとの支持率推移
ここからは激戦が予想されている州での戦況を見ていきましょう。
激戦が予想されている州は、ウィスコンシン州・ジョージア州・アリゾナ州・ネバダ州・ミシガン州・ペンシルベニア州・ノースカロライナ州の7つの州です。6月9日時点では接戦だった州も含め、現在ではトランプ氏が優勢となっています。また、一時は支持率が「タイ(同じ数字)」だったウィスコンシン州でもトランプ氏が優勢になってきています。ネバダ州は前回6月9日時点で6.2ポイント差だったのが、今回は5.2ポイント差と1ポイント縮小しましたが、依然としてトランプ氏の優勢は変わりません。アリゾナ州は4.2ポイント差から、今回は5.4ポイント差となり1.2ポイント差が広がっており、トランプ氏の優勢継続です。ジョージア州は、前回4.8ポイント差だったのが今回は4ポイント差と縮小していますが、トランプ氏の優勢は変わりません。ノースカロライナ州では、前回5.3ポイント差だったのが、今回は5.8ポイント差と、こちらもトランプ氏優勢でポイントの差が広がっています。
次に、前回僅差だった州の支持率も見てみましょう。ペンシルベニア州は、前回が2.3ポイント差から今回は5.3ポイント差に、ミシガン州は前回0.3ポイント差から今回は0.6ポイント差に、ウィスコンシン州は前回0.1ポイント差から今回は1.5ポイント差に拡大しており、トランプ氏が優勢となっており、差が拡大傾向にあります。



今後のスケジュール
7月11日(木) トランプ氏、有罪となった口止め料裁判、量刑の審理→9月18日に延期
7月15日~18日 共和党大会(党の候補者決定)
8月19日~22日 民主党大会(党の候補者が決定)
9月10日(火) 大統領候補者テレビ討論会第2回
11月5日(火) 大統領選、投開票日
2025年1月20日 大統領就任式
*日程未定 大統領選手続き妨害
*日程未定 機密文書不正保管
*日程未定 ジョージア州選挙結果巡り州政府に圧力
(赤字はトランプ氏が抱える裁判)
現状のマーケット分析
S&P500 日足

米国の株式市場は史上最高値更新を続け、絶好調な展開が続いています。7月5日に発表された米国の雇用統計では、労働市場のひっ迫感が全体として緩和してきていることを示唆する結果となりました。他の経済指標でも労働市場の需給ひっ迫が緩和する傾向が見られ、米国経済の成長が鈍化していることが確認されています。
これらの結果を受けて、米連邦準備制度理事会(FRB)による政策金利の引き下げ期待が高まってきました。CMEグループのFEDウォッチによると、9月のFOMCでのFRBが利下げを行う確率は73.6%(7月9日時点)となっており、FRBがいよいよ金融引き締めから金融緩和へ舵を切り直す期待が高まっており、株価の史上最高値更新につながっています。現時点では大統領選が株式市場に与える影響は全く無いといっても良い状況が続いています。7月26日からはパリオリンピックが始まります。マーケットも合わせて夏休みに入ることが想定されるため、7月後半あたりからは利益確定の動きにも注意が必要です。
ゴールド 日足

7月8日、ロシアがウクライナの首都であるキーウに大規模ミサイル攻撃を行いました。中東のイスラエルとハマスの対立問題もさることながら、ロシアとウクライナの問題は解決の兆しが見えず、ますます泥沼化しています。直近のゴールドの上昇が米国の利下げ期待によるドル安によるものであれば、マーケットという側面から見た地政学的リスクはそれほど高まっていないと言えます。ドルとゴールドは逆相関の関係にあり、ドルが上昇するとゴールドは売られやすくなり、ドルが下落するとゴールドが上昇しやすくなります。しかし、ゴールドの上昇は基本的に地政学的リスクの高まりに影響されます。ここから年初来高値を更新する時点で、史上最高値更新となります。これは、地政学的リスクに対する懸念が依然として払拭されていないとみるべきでしょう。株式市場などにも影響が及ぶため、ゴールドが高値更新するか否かに注目しましょう。
米10年債利回り 日足

FRBによる利下げ期待から、米国の長期金利が低下しています。6月安値を割り込むと、さらなる下落につながり、ドル安株高が進む可能性があります。マーケットは9月の利下げを織り込み始めていますが、さらなる利下げ期待が高まれば金利が低下し、株高につながっていきます。しかし、利下げを完全に織り込むと下げ渋ってきます。また、9月の利下げの可能性が低くなった場合には、これまでの動きが反転します。つまり、金利高、ドル高、株安の動きになるでしょう。そういう意味では、長期金利(米10年債利回り)の動向は非常に重要であり、今後も丁寧に値動きを見ていく必要があります。チャートを見ると、4月から高値切り下げ、安値切り下げの動きが続いており、下降トレンドの基本的な動きが継続しています。先ほども記載しましたが、6月の安値を割り込むことで安値切り下げが継続することになります。そういう意味では、6月の安値を割るかどうかがカギとなります。6月安値を割らない場合のシナリオも考えていきましょう。
米ドル円 日足

日本政府、日銀による為替介入により、一時的にドル安円高に振れたものの、介入前の160円をあっさりと抜けてきました。トランプ氏が優勢になるとドル安が意識されるところですが、米ドル円の動きには大きな変化はありません。先ほど、長期金利は低下してドル安が進んでいると解説しましたが、米ドル円チャートを見る限り、とてもドル安になっているとは感じないチャートです。では、米ドル円の本質はどこにあるのでしょうか。実はドル自体はドル安になっているものの、それ以上に円が安くなっているのです。ドルも安いが、円はさらに安い。円がドル以上に独歩安となっていることが、上記のチャートに繋がっているということです。今後は、日本政府や日銀の介入の有無と、ドル安と円安の安さ比べになりますので、場合よっては米ドル・円はどちらも弱いということで、米ドル円の動きが膠着することも想定されます。ドルの動きと円の動きの両方を注視していきましょう。
まとめ
今月のTV討論会でバイデン氏が一気に苦境に立たされました。民主党内部が分裂するのか、それとも、バイデン氏を中心に再びまとまっていくのかがカギとなります。バイデン氏の高齢がどの程度影響を与えるのか、トランプ旋風が再び起きて大統領の椅子を奪い返すのか、激しいデッドヒートが続きます。7月に予定されていたトランプ氏の量刑発表が延期されたことで、当面はトランプ氏優勢が続きそうです。とはいえ、まだまだ先の長い大統領選です。選挙は何が起きるかわからないものです。まずは、バイデン氏を大統領選の候補者として民主党がまとまるのか、それとも、新たな人物が出てくるのかが注目です。仮にこのままバイデン氏が候補者としてトランプ氏と対決するのであれば、じりじり拡大している支持率の差をどうやって埋めていくのかが戦略としては重要となります。
著者プロフィール

小次郎講師
岡山県出身。チャート分析の第一人者として、投資セミナー、書籍などを通じて個人投資家向けの投資教育活動を精力的に展開している。
40年以上の投資キャリアを持つ。
【出演】
・ラジオNIKKEI「小次郎講師のチャートラボラトリー」レギュラー番組
【受賞暦】
・みんなの株式「コラムアワード2013、2014」2年連続大賞受賞
・パンローリング社「ブルベア大賞2016」大賞受賞、
「ブルベア大賞2015、2019」準大賞受賞、「ブルベア大賞2017、2018」特別賞受賞
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