第9回 副大統領候補の討論会は互角か!?

第9回 副大統領候補の討論会は互角か!?

小次郎講師

2024/10/8

副大統領候補による討論会は互角か!?

11月の米大統領選まであと1か月となり、その本選に向けて副大統領候補討論会が1日に開催されました。民主党のウォルズ・ミネソタ州知事と共和党のバンス上院議員との間で激しい論戦となりました。

両候補ともそれぞれの大統領候補こそアメリカのリーダーにふさわしいとアピールしました。両者の主張については、別途まとめましたので、そちらをご覧いただきたいのですが、主要メディアでは、浮動票を意識して個人攻撃を控え、比較的冷静に政策論争を交わしたと報道されており、討論は互角で接戦が続く大統領選の趨勢に大きな影響はなかったとみられています。

大統領候補の民主党のハリス副大統領と共和党のトランプ前大統領の2回目の討論会は予定されておらず、副大統領候補討論会は投票先をまだ決めていない浮動票の動向に影響を及ぼす可能性があるとして注目されていました。

討論会を主催したCBSテレビの調査では、42%がバンス氏、41%がウォルズ氏を勝者と判断しました。

CNNテレビによる討論会終了直後の調査では、バンス氏が51%、ウォルズ氏を選んだ人は49%で、いずれも、共和党のバンス氏が接戦ながらも優勢でした。

討論会後、ハリス副大統領の陣営は声明を発表し、「今夜、ウォルズ氏はハリス氏が彼を選んだ理由をはっきり示した。彼はアメリカ国民にとって重要な問題を気にかけるリーダーだ」と評価しました。

一方、トランプ前大統領は討論会中、繰り返しSNSに投稿し「ウォルズ氏はうまくいっていない。彼には副大統領の資質がない。ハリス氏同様、まるで話にならない」などとウォルズ氏を批判しました。

政治情報サイト「Real Clear Politics」での全米を対象にした世論調査平均(9月24日時点)では、民主党の副大統領候補、ウォルズ・ミネソタ州知事について「好ましい」と答えた人は40.7%「好ましくない」と答えた人は38.4%でした。

一方、共和党の副大統領候補、バンス上院議員について「好ましい」と答えた人は35.8%「好ましくない」と答えた人は45.8%となっており、好感度ではウォルズ氏が上回っています。

いよいよ、大統領選も終盤戦に突入してきました。一つのニュースで支持率が大きく変わる大事な局面になってきていますので、世論の変化に注視していく必要があります。

現在の大統領選の支持率推移

前回の9月18日時点では、トランプ氏が47.4%、ハリス氏が49.4%とその差は2%でした。今回の10月2日時点では、トランプ氏47%、ハリス氏49.2%となり、その差は2.2%と僅かに広がっています。

副大統領候補の討論会においては、大きな変化がなく、大統領選は引き続き接戦を繰り広げながら終盤戦に向かっています。

そんな中、大型ハリケーン「へリーン」が米大統領選の激戦州を直撃するという災害が発生しました。ハリケーンは大統領選の勝敗を左右する可能性がある7つの激戦州のうち、南部のジョージア州とノースカロライナ州を襲いました。全米での死者は少なくとも160人以上、経済損失額は1600億ドル(約23兆円)にのぼるとの推計がされています。バイデン政権がこの災害対策をどう対応するかが、浮動票に大きな影響を与えると見られています。バイデン大統領は10月2日にノースカロライナ州を訪れ、1000人を超える米軍を被災地に派遣するよう指示しました。一方、トランプ氏はバイデン・ハリス両氏に先んじて救援物資を届けようと9月30日にジョージア州を訪ねており、「(バイデン氏は)寝ている」などと主張し、バイデン政権の対応が遅れているとの印象づけに必死になっているようです。いずれにせよ、このような災害時におけるリーダーシップが問われる局面です。 

(RealClearPoliticsより10月2日時点)

激戦区の州ごとの支持率推移

ここからは、激戦が予想されている州(スイング・ステート)の戦況を見ていきましょう。

激戦が予想されている州は、ウィスコンシン州・ジョージア州・アリゾナ州・ネバダ州・ミシガン州・ペンシルベニア州・ノースカロライナ州の7つの州です。9月19日時点では、7つの州のうち、ハリス氏が4つの州で優勢となっています。また、ペンシルベニアは激戦でトランプ氏とハリスがオセロのように切り替わっており、10月2日時点では、タイとなっています。つまり、ハリス氏が4勝2敗1分けの状況です。

ノースカロライナ州はトランプ氏が優勢ではありますが、49.1対48.5で差は0.6ポイントです。また、ウィスコンシン州ではハリス氏が優勢で49対48.2で差は0.8ポイントです。

このままハリス氏がリードを広げるのか、それともトランプ氏が追い上げるのか、大統領選はいよいよ終盤戦を迎えています。

(RealClearPoliticsより10月2日時点)

今後のスケジュール

11月5日(火) 大統領選、投開票日
11月26日(火) トランプ氏、有罪となった口止め料裁判、量刑の審理
2025年1月20日 大統領就任式

*日程未定 大統領選手続き妨害
*日程未定 機密文書不正保管
*日程未定 ジョージア州選挙結果巡り州政府に圧力

(赤字はトランプ氏が抱える裁判)

現状のマーケット分析

S&P500 日足

米国の株式市場は米連邦準備制度理事会(FRB)が、米連邦公開市場委員会(FOMC)によるダブル利下げ(0.5%幅の利下げ)を決定してから、史上最高値を更新しつつ堅調に推移しています。10月2日には、9月のADP全米雇用リポートが発表され、非農業部門の雇用者数が前月比14万3,000人増となり、市場予想も上回りました。年収の中央値は前年同月比4.7%増と、伸びは前月から小幅に鈍化しました。市場関係者の間では、労働市場は依然として底堅いものの、賃金の伸びは鈍化しているため、インフレ懸念を高める内容ではなかったと受け止められ、米景気に対して楽観的な見方につながりました。

ただし、イランがイスラエルに対してミサイル攻撃を行い、イスラエルは報復することを示しており、中東情勢が再び緊迫化してきています。中東の地政学的リスクの高まりは投資家心理の重荷となりますので、今後の中東情勢の動向にも引き続き注意を払っていく必要があります。

ゴールド 日足

FRBによる利下げ決定によるドル安などからゴールドは史上最高値を更新しながら順調に上昇しています。この上昇の背景には複数の要因がありますが、根本的な要因の一つとしてBRICS(ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカ)諸国のことが挙げられます。これらの国々では、ドルやユーロとは異なる新たな共通通貨をつくる構想があり、ドル離れによるゴールド買いという動きが出てきています。そういった根本的な構造の変化の中に、地政学的リスクという材料も加わってきました。イランがイスラエルに対しミサイル攻撃を行ったこと受けて、中東情勢における地政学的リスクが一気に高まりました。仮に、イスラエルがイランに対して報復攻撃をすればゴールドがさらに急騰することも想定されます。当面は、中東情勢から目を離せない状況が続くでしょう。

WTI原油 日足

イランとイスラエルの関係悪化による地政学的リスクが高まっています。イランは1日、後ろ盾となっているレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの最高指導者が殺害されたことなどへの報復として、イスラエルに180発以上の弾道ミサイルを発射しました。イスラエルは対抗措置として、イラン国内の石油生産施設を攻撃する可能性も伝えられる中、イスラエル軍のハレビ参謀総長が2日に声明を発表しました。この中で、ハレビ参謀総長は「イランは民間地域を攻撃し、多くの市民の生命を危険にさらした。われわれは反撃する。重要な標的を特定し、正確に攻撃する方法を知っている」と述べ、対抗措置をとる構えを強調しました。この一連の流れを受けて原油価格は大きな陽線をつけて上昇しました。ただし、チャートの世界から見ると、原油市場が上昇トレンドになったというような形状には至っておらず、現段階では、あくまで一過性の上昇といった動きです。しかし、ここから原油価格が上昇を続け、上昇トレンドを形成するとなると、地政学的リスクが本格化してきたということになりますので注意が必要です。中東情勢のニュースをしっかりとチェックしていきましょう。

米ドル円 日足

FRBによる利下げ観測から1ドル140円を割り込む円高ドル安となったものの、その後「知ったら仕舞い」のような動きでドル高円安の展開となりました。自民党総裁選では、高市氏優勢から円安に振れましたが、石破氏が逆転勝利を収めると「石破ショック」で一時3円以上の円高となりました。しかし、石破氏が首相に任命されると、日銀による追加利上げに否定的な見解を示したことで、米ドル円は一時1ドル147円台となり、前日比で3円も円安に進行しました。金融政策正常化に積極的な「タカ派」とみられていた石破首相が「ハト派」的な姿勢を見せたことにより、投機勢は混乱し円売りで反応しています。石破首相は衆議院の解散総選挙を決定しましたので、それが終わるまでは円売り・ドル買い基調が続くとの見方も広がっています。とはいえ、解散総選挙までは株価の暴落など波乱要因は避けたいというのが本音であり、ハト派発言は一過性との見方もあるようです。いずれにせよ、上がるにせよ下がるにせよ、ボラティリティが高くなっていますので、振り回されないようにしていきましょう。

まとめ

副大統領候補による討論会では、大きな波乱要因はありませんでした。ただ、米国内ではハリケーン、外交面ではイスラエルとイランの関係悪化という、現政権にとって政治手腕が問われる難題が降りかかってきています。支持率の推移においては、現状ハリス氏が優勢ではありますが、この難題の対応の仕方が今回の大統領選の明暗を分けるといってもいい状況です。ここで難題をしっかりと解決し国民の信頼を得てトランプ氏を更に引き離すのか、それとも、対応のまずさから支持率が低下しトランプ氏に逆転を許してしまうのかが見えてきます。11月の大統領選を前に、大きなヤマ場を迎えています。ここが、大統領選の天王山となりえますので、バイデン、ハリス政権がどう対応するのかをしっかりと注目していきましょう。

著者プロフィール

小次郎講師

岡山県出身。チャート分析の第一人者として、投資セミナー、書籍などを通じて個人投資家向けの投資教育活動を精力的に展開している。
40年以上の投資キャリアを持つ。

【出演】
・ラジオNIKKEI「小次郎講師のチャートラボラトリー」レギュラー番組

【受賞暦】
・みんなの株式「コラムアワード2013、2014」2年連続大賞受賞
・パンローリング社「ブルベア大賞2016」大賞受賞、
「ブルベア大賞2015、2019」準大賞受賞、「ブルベア大賞2017、2018」特別賞受賞

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