オラクル:巨額の設備投資負担を背負うAIインフラの新たな主役

オラクル:巨額の設備投資負担を背負うAIインフラの新たな主役

投資情報部 潘 碩朋

2026/08/05

⑴会社概要と事業戦略

〇会社概要

オラクル(Oracle Corporation)は、米テキサス州オースティンに本社を置く世界大手の法人向けIT企業です。主力は、データベース製品、クラウド基盤「Oracle Cloud Infrastructure(OCI)」、ERP・人事・顧客管理などのクラウドアプリケーションです。企業の基幹業務に深く組み込まれた顧客基盤と高性能データベースを強みに、生成AI向け計算資源やAWS、Microsoft Azure、Google Cloudとのマルチクラウド連携を拡大しています。また、Oracle Healthを通じて医療情報システムも展開。クラウド利用料、ソフトウェアライセンス、保守・サポートが主な収益源です。

〇事業戦略

1.AIエコシステムの中心に躍り出たOCI

OCIの初期の成功は、AWS、Microsoft Azure、Google Cloud Platformといった既存ハイパースケーラーに対する柔軟かつ安全な代替手段となる技術的革新性から生まれました。最近では、OCIの強い顧客志向とスケール対応力が同社をAIエコシステムの活況の中心に位置づけ、OpenAI、Meta、xAIといった主要AIプレーヤーからの受注が急増しています。OCIがAIの学習・推論ワークロード向けインフラの有力プロバイダーとなる軌道にあるとみられています。ただし、同社は、AI顧客が求める容量を提供するために必要なリソース、とりわけGPUチップの確保という重大な課題にも直面しています。

2.データベース事業の近代化とマルチクラウド戦略

オラクルは長年、リレーショナルデータベース(表形式のデータを関連付けて管理し、効率的に検索・操作できるデータベースシステム)とエンタープライズソフトウェアの主要供給者であり続けてきました。同社のデータベースは、業界最高水準のセキュリティと安定性をより高い価格で提供するというプレミアムなポジショニングを誇っています。世界で最もミッションクリティカルなデータワークフローの一部を担う支配的な役割はなお健在ですが、企業の専門的なデータワークフローに特化した新興製品の台頭により、データベース業界における同社の支配力は徐々に低下しています。

これに対しオラクルは、マルチクラウドデータベースを他のハイパースケーラー上で提供することで、製品の近代化に大きく前進しました。これはオラクル、他のクラウド事業者、顧客の三者が同時に便益を得る「Win-Win-Win」の枠組みです。さらに、AI LakehouseやAI Data Platformへとポートフォリオを拡張することで、データベースは引き続き同社の重要な成長エンジンであり続けると見込まれています。

3.データ・インフラ・ソフトウェアを統合した稀有なAIポートフォリオ

オラクルは、データ・インフラ・ソフトウェアを横断する統合的なAIポートフォリオを提供できる数少ない企業の一社です。現在の製品ラインナップは過去最良の状態にあり、クラウドへ移行する従来のオンプレミス(自社の建物やデータセンター内にIT機器を設置して運用する方式)顧客を維持しつつ、新規顧客を獲得する能力を備えているとみられています。クラウド移行は今後数年にわたり同社の収益成長の追い風であり続けると考えられます。

図表2 オラクル直近5期主要業績指標

図表3 オラクル直近5期セグメント別売上高推移

⑵競争優位性

1.OCIはシェアではなく粘着性で貢献

2018年の「Generation 2 Cloud」導入以降、OCIの成長は加速してきました。もっとも、純粋な市場シェアの観点でOCIがまだAWS、Microsoft Azure、Google Cloud Platformに追いついておらず、2027年時点のエンタープライズクラウド市場シェアは一桁台にとどまると予想されています。OCIはシェアではなく、その強力なスイッチングコストを通じて競争優位性を維持しています。一度顧客がオンボードすれば、クラウド間のデータ移行に伴う複雑性・コスト・リスクから、同じ事業者に留まる傾向が強いです。また、複数のパブリッククラウドを併用するマルチクラウド戦略が企業の間で一般化しつつあるなか、規模を備えたクラウド事業者が限られていることを踏まえれば、すでにOCIを採用した企業が完全撤退を迫られるシナリオは想定しにくいでしょう。

2.データベースにおける移行障壁

データベースは通常、組織の中枢神経系として、異なるエンタープライズソフトウェア間のデータ交換を担っています。ベンダーを変更する場合、データの保存・アクセス方法を「配線し直す」プロセスには、社内IT能力を超える多大な金銭的・時間的コストが生じます。アリババとアマゾンによる脱オラクルの事例では、両社とも移行の実行に5年以上を要しており、計画段階を含めればさらに長期化します。加えて、移行期間中も平常業務を維持しようとすれば重大なオペレーショナルリスクが伴うことが想定されます。総じて、既存のオラクルデータベース顧客のうち、移行を実行できる能力を持つ企業は限られており、その実行には多大なコストと潜在的な混乱を正当化する極めて説得力のある理由が必要でしょう。

⑶バリュエーション

オラクルの足元のバリュエーションについて、2027年5月通期の調整後予想PERは17.6倍となり、セクター中央値と同社の5年平均を大きく下回っています。調整後予想PEGレシオは0.6倍であり、高成長銘柄として割安な水準にあります。これは同社の野心的なクラウドインフラ拡張計画により圧迫されている財務基盤や実行リスクへの懸念が織り込まれていると考えられます。

今後の売上成長の主要な牽引役はAIデータセンターの立ち上がりであり、クラウドは同社の中核成長ドライバーとなり、2030年度には売上高の8割以上を占める見通しです。一方、クラウドが主流となるなかで、ライセンスおよびハードウェアの両セグメントは今後緩やかな減収が想定されています。ただし、これらはAI需要が供給に対して健全な水準を保ち、オラクルがデータセンター建設を推進し、それをフル稼働で運営できることを前提としている点に注意が必要です。

図表4 オラクル直近主要バリュエーション指標

⑷リスク要因

1.顧客集中リスク

OCIの既存の残存履行義務(RPO)の大部分は、大規模言語モデルを運営するAI企業から獲得しています。とりわけ、OpenAIは3,000億ドルを超えるOCI容量を予約しており、2027年から提供が開始される予定です。AIは近年の歴史のなかでも最も速く進化する技術であり、大規模言語モデルの長期的なデータセンター需要を正確に予測することは極めて困難です。現時点の証拠に基づけば、OpenAIは大規模言語モデルの最有力プロバイダーであり、同社との関係はモデル学習・推論の両面で安定した需要をもたらすはずです。とはいえ、OpenAIへの突出したエクスポージャーを踏まえれば、顧客集中は現実的なリスクでしょう。AIが普及しOpenAIが優位を維持することでOCIが受注をすべて収益化するシナリオがある一方、生成AI製品が成長目標に届かなければ、OpenAIや他の顧客が予約を大幅に削減・キャンセルする可能性もあります。

2.実行リスク

急拡大するAI需要に応えるには、GPUチップをはじめとするリソースの確保が不可欠であり、これは同社が直面する重大な課題です。加えて、2030年度に1,500億ドルに達する設備投資と2,500億ドル超の資金調達という計画は、実行の遅延やコスト超過が生じた場合に財務を一段と圧迫する可能性があります。

3.財務レバレッジと資金調達の不透明性

オラクルの足元の現預金残高は近年で最低水準にあり、日常業務に必要な運転資金を除く余剰資金はすべて新規のOCIデータセンター案件に振り向けられています。長期的な資金調達の詳細について経営陣がより多くを開示することが望まれる状況であり、この情報の不足自体が投資家にとっての不確実性要因となっています。

4.データベース市場の競争激化

新興データベース製品の氾濫も主要なリスクです。データストレージ・処理の単価は近年低下を続けており、旺盛な市場需要が多くの新しいデータ製品を生み出してきました。Microsoft SQL Server、IBM Db2、Postgre SQLといった従来型の競合に加え、MongoDBに代表されるNoSQLやSnowflakeのようなデータウェアハウス(データ分析・可視化に向いた形式で業務で発生した情報を一元管理するためのデータベース)の台頭により、市場の競争環境は一段と厳しくなっています。

⑸総括

オラクルは、データベースとエンタープライズソフトウェアで築いた強固なスイッチングコストという既存の防壁の上に、AIクラウドインフラという新たな高成長エンジンを接続しようとしている企業です。データ・インフラ・ソフトウェアを統合的に提供できる稀有なポジションと、移行に5年超を要するほど粘着性の高い顧客基盤が、今後の中長期的な成長を支える見通しです。

リスク面では、OpenAIによる3,000億ドル超の予約は最大の成長機会であると同時に最大の脆弱性でもあり、生成AI製品が成長目標に届かなければ予約の大幅削減やキャンセルが生じる恐れがあります。加えて、GPU確保の実行リスク、1,500億ドル規模の設備投資と2,500億ドル超の資金調達を伴う財務負担、そして長期的な資金調達に関する開示の不足が重なっています。

投資判断にあたっては、オラクルは「高い確度で守れる既存事業」と「極めて振れ幅の大きいAI成長」が同時に存在する銘柄です。平均的なバリュエーションに対して十分なディスカウント(安全域)が確保できる水準でのみ妙味があり、シナリオ分岐の広さを踏まえればポジションサイズの管理が特に重要となるでしょう。

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