ハーシー:カカオ高の逆風を乗り越え、ブランド力で利益成長へ

投資情報部 潘 碩朋
2026/10/21
今回はハーシーを取り上げ、事業戦略、競争優位性、バリュエーション、リスク要因に分けて、バリュー投資の観点から紹介します。
図表1 銘柄指標
| 銘柄 | 株価(10/20) | 52週高値 | 52週安値 |
|---|---|---|---|
| ハーシー(HSY) | 169.58ドル | 239.48ドル | 156.16ドル |
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
⑴会社概要と事業戦略
〇会社概要
ハーシー(The Hershey Company)は、米ペンシルベニア州ハーシーに本社を置く、1894年創業の菓子・スナック大手です。ハーシーズ、リーシーズ、キスチョコなどの有力ブランドを展開し、米国ではキットカットの製造・販売も手掛けています。北米のチョコレート・菓子事業を主力とし、長年培ったブランド力と幅広い販売網が強みです。近年はポップコーンのスキニーポップやプレッツェルのドッツなど、塩味スナックを拡充。プロテインバーや健康志向の商品も強化し、消費者の多様な嗜好を取り込みながら、チョコレートにとどまらない総合スナック企業への成長を目指しています。
〇事業戦略
1.大きな路線変更より、主力ブランドの強化を優先
ハーシーの成長戦略は、米国のチョコレート市場で築いた強いブランドを磨きながら、塩味スナックなどへ事業の幅を広げることです。カカオ高と消費者の節約志向は逆風ですが、事業の大転換が必要な状況とは考えにくいでしょう。商品開発、価格・容量の見直し、生産性向上を組み合わせ、既存の強みを利益成長につなげることが基本路線となります。
2.新しい味と包装で、買う理由を増やす
2025年8月のカーク・タナー氏の最高経営責任者就任後、消費者が価値を感じる商品開発が重視されています。Reese’s Caramel、Shaq-a-liciousのグミ、Reese’s Oreoなどは、既存ブランドの認知度を生かしながら新しい需要を取り込む取り組みです。味だけでなく、店頭での袋や容量の選択肢を増やし、買い物の場所や食べる場面に合わせて商品を届けています。
3.値上げと買いやすさの両立が課題
日常向け商品はほとんど4ドル未満で販売されており、手頃なご褒美として選ばれやすい価格帯を保っています。価格改定と包装・容量の工夫によってコスト上昇を吸収する一方、消費者が感じる割高感を抑えることが重要となります。ただし、菓子は購入を先送りしたり、買う回数を減らしたりできる嗜好品でもあります。売上が増えていても、その大半が値上げによるものであれば、需要の強さを意味するわけではありません。価格の上昇分と販売数量の動きを分けて確認する必要があります。
図表2 ハーシー直近5期主要業績指標
図表3 ハーシー直近5期セグメント別売上高推移
⑵競争優位性
1.米国チョコレート市場の強固な首位基盤
一部市場調査によると、米国チョコレート市場でのハーシーのシェアは約35%で、最も近い競合のMarsは27%未満、低価格のプライベートブランドは1桁台前半にとどまっています。2017年以降のシェア拡大は3ポイント超に達しており、単に知名度が高いだけでなく、消費者に選ばれ続けている点が強みです。中でもReese’sのシェアは2016年の12%から17%超へ拡大し、Hershey’sも約12%を占めています。菓子を楽しむ場面では、価格差だけでなく、好みの味や安心して選べるブランドが購買を左右します。こうした愛着は価格決定力の源泉となっています。
2.小売店にとって、外しにくい取引先である
小売店は、集客につながる人気商品を安定して販売したいというインセンティブが働きます。欠品による販売機会の損失を避けるため、十分な生産・供給能力を持つハーシーとの関係は重要となります。ブランド力に、製造・物流の実行力が加わることで、同社の商品が売場に並び続ける基盤ができています。この関係は新商品の展開にも有利に働いています。新興企業は商品を知ってもらう段階から販路を開く必要がある一方、ハーシーは既存の取引関係を使い、新しい商品を多くの店舗へ届けやすいです。消費者の支持と小売店の信頼が相互に補強し合う構造です。
3.規模の利益を次のブランド投資へ回せる
広範な製造・配送網は、単位当たりの生産・物流費を抑え、広告や商品開発の費用を大きな販売量で回収することにつながります。過去5年間の広告宣伝費は平均で年間約6億ドルでした。小規模な競合よりも継続して投資しやすく、次の商品開発と店頭での存在感を支えられています。
4.主力以外のブランドにも、販売力を展開できる
一部市場調査によると、米国ポップコーン市場におけるSkinny Popのシェアは約25%と、独立企業だった2017年の11%から拡大しました。Dot’sも米国プレッツェル市場で20%のシェアを持つ第2位ブランドに成長し、2018年の1%、2020年の6%未満から大きく伸びています。これらの実績は、有望な商品に販売網と販促力を組み合わせる効果を示しています。
⑶バリュエーション
足元のバリュエーションについて、2026.12期の予想調整後PERは19.7、予想EV/EBITは15.4と、いずれも同社の5年平均を大きく下回った水準です。これは近年のカカオ高と消費者の節約志向による逆風がある程度織り込まれていると考えられるでしょう。
今後の基本シナリオは、原料高の影響が徐々に薄れ、効率化とブランド投資が両立する展開です。上振れは新商品や塩味スナックの伸びが数量成長を支える場合、下振れは値上げ後の需要減少や原料高の再燃が利益回復を遅らせる場合に想定されています。短期の反動増益と、持続的な利益成長を分けて評価する必要があります。
図表4 ハーシー直近主要バリュエーション指標
⑷リスク要因
1.カカオ価格の変動と調達コストへの反映の遅れ
カカオ、砂糖、乳製品の価格変動は利益を左右する重要な要因です。原料価格が下がっても、調達契約の条件によって恩恵がすぐに表れないことがあります。2026年度分の調達確保はコストを見通しやすくする一方、市況下落の効果を受ける時期を遅らせる面もあります。また、長期的には新興国の需要拡大が原材料価格を押し上げる可能性があります。足元のコスト圧力の緩和だけを理由に、利益率の回復が一直線に進むと考えるのは早計です。値上げや効率化で吸収できる範囲を超えれば、利益予測の下方修正につながるおそれがあります。
2.値上げによる数量減少と広い意味での競争
ブランドへの愛着があっても、家計に余裕がなければ購入頻度は落ちる可能性があります。競争相手は他のチョコレートだけでなく、菓子以外も含む多様なスナックです。食品小売店の来店動向の弱さも、店頭での販売機会を制約する要因となります。プライベートブランドのシェアが低いことは強みですが、菓子市場全体の需要減少までは防げません。シェアを維持しながら販売数量が減ることもあるため、市場での順位と絶対的な需要を混同しないことが重要です。
3.健康志向、肥満症治療薬、規制の変化
栄養面を重視する消費者が増えれば、甘い菓子への需要が弱まる可能性があります。肥満症治療薬の普及については、データ分析や商品構成の見直しを通じて対応でき、需要への影響は限定的との見方が基本となっています。ただし、将来の食習慣の変化まで確定的に見通せるわけではありません。肥満対策を目的とする規制や課税が強まった場合には、想定以上に販売数量が減るリスクもあります。健康を意識したスナックへの展開は対応策の一つですが、新分野の成長が既存商品の減速を十分に補えるかを確認する必要があります。
⑸総括
ハーシーの強みは、米国チョコレート市場での高いシェア、Reese’sなどへの消費者の支持、小売店との関係、製造・配送の規模が組み合わさっている点にあります。さらに、この販売基盤を塩味スナックなどにも活用し、事業の幅を広げています。ハーシーは原料高の逆風を受けながらも、長期の競争優位性を維持する可能性が高い企業と評価できるでしょう。
一方、投資判断をするとき、業績回復の確度と価格に織り込まれた期待を照らし合わせる必要があります。ブランド力が販売数量・利益・現金創出に結び付き、その成長に対してある程度の安全域が確保された価格で投資できるかはかなり重要です。
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