ゾエティス:競争激化を乗り越える鍵は新薬と価格決定力

ゾエティス:競争激化を乗り越える鍵は新薬と価格決定力

投資情報部 潘 碩朋

2026/11/04

⑴会社概要と事業戦略

〇会社概要

ゾエティス(Zoetis Inc.)は、米ニュージャージー州パーシッパニーに本社を置く、世界有数の動物用医薬品メーカーです。犬・猫などのペットや牛・豚・鶏などの家畜向けに、医薬品、ワクチン、診断関連製品を開発・製造・販売し、100カ国以上で展開しています。主な製品にはアポキル、シンパリカトリオ、リブレラなどがあります。研究開発力と獣医師・畜産農家との関係を強みに、バイオ医薬品やAIを活用した診断技術にも注力。動物の病気の予測・予防から診断・治療までを総合的に支え、ペットの健康維持と畜産業の発展に貢献しています。

〇事業戦略

1.動物医療の成長市場で、革新性を収益に変える

ゾエティスは、ペット向けと家畜向けの医薬品などを手がける世界の動物医療業界のリーダーです。強みは、既存薬の販売にとどまらず、動物に特有の治療ニーズを捉えた製品を生み出してきたことにあります。ペットを家族の一員と考える飼い主が増え、高度な治療への支出意欲が高まることは、長期の需要を支える要因となります。

動物医療は、購入者が獣医師、飼い主、畜産事業者などに分散し、医薬品メーカーに対する買い手の交渉力が比較的弱いとみられています。人向けの医療と比べて開発費が低く、新しい治療法を導入する余地もあります。ただし、市場の成長を自社の増収に結び付けるには、競合よりも選ばれる製品を継続的に提供しなければなりません。

2.主力薬の防衛と次の成長領域の開拓を両立する

目先の課題は、ペット向けの皮膚疾患治療薬と寄生虫駆除薬で、エランコやメルクとの競争が強まっていることです。価格面での対抗はシェア防衛に必要でも、収益性を押し下げるおそれがあります。したがって、販売数量を守れたかだけでなく、実際の販売価格と利益率を併せて見る必要があります。

再成長の方向は、既存製品のシェアをすべて取り戻すことだけではありません。十分な治療手段がない腎疾患やがんなどに新薬を投入し、収益源を広げることが重要となります。既存薬の競争で失う利益を、新しい治療領域でどこまで補えるかが事業戦略の核心です。

3.新薬と長時間作用型製品が回復の鍵を握る

開発候補には犬・猫の腎疾患や犬のがんを対象とする抗体医薬が含まれます。中期的には、犬の腎不全・がん向けの新薬に加え、長時間作用型のCytopointや犬用寄生虫駆除薬が期待されています。一部の市場見通しでは、2028年以降の新製品の貢献を通じ、ペット向け事業が2030年までに年率1桁台半ば%の成長へ戻る展開が想定されています。

ただし、これは将来の回復シナリオであり、発売や収益貢献が確定しているわけではありません。今後は、開発の進展から製品化、販売の拡大までを段階的に確認する必要があります。既存の販売網を活用できる強みがあっても、新薬の価値が実際の売上と利益になるまでには時間を要するでしょう。

図表2 ゾエティス直近5期主要業績指標

図表3 ゾエティス直近5期セグメント別売上高推移

⑵競争優位性

1.特許と研究開発の蓄積が、製品の価値を守る

ゾエティスの競争優位性の中心は、特許や製品ブランドなどの無形資産です。保有特許は5,880件超、出願中は約1,500件に上り、薬剤の物質そのものを保護する特許は競合の参入を抑える重要な役割を担っています。独自の治療価値を持つ製品を開発できれば、価格競争だけに依存しない収益源を確保できるでしょう。

2.抗体医薬の開発実績は、次の治療領域への足場

Cytopoint、Lenivia、Solensiaなど、ペット向けの抗体医薬で商業化の実績を積んできたことも強みです。抗体医薬などのバイオ医薬品は、特許満了後でも同等の製品を再現することが容易ではないと考えられ、技術と製品の複雑さが参入障壁になり得ます。この基盤を、腎疾患、心疾患、がんなどへ広げる余地があります。

3.獣医師の信頼と使用経験が、ブランドの持続力を生む

ペット向け医薬品では、獣医師の推奨と、飼い主の使用経験が重要となります。家族同然のペットに使う薬では、価格だけでなく、信頼できる製品かどうかが重視されやすいでしょう。関節炎向けのRimadylが特許満了後も長く需要を維持してきたことは、ブランドの強さを示す一例です。

4.買い手の分散は価格交渉力を支える

動物医療では、購入者が多数に分散する一方、供給側は比較的集約されています。人向け医薬品で大きな影響力を持つ公的な支払者や大規模な保険関連組織のような買い手が価格交渉を主導しにくく、この構造がメーカーの価格決定力を支えています。

⑶バリュエーション

足元のバリュエーションについて、2026.12期の予想調整後PERは13.3倍、予想EV/EBITは12.2倍と、いずれも同社の5年平均を大きく下回った水準です。これは、一部製品の競争激化によるペット向け事業の売上見通しの悪化、価格対応に伴う採算低下、長期的な収益力の想定の引き下げが相当織り込まれていると考えられるでしょう。

一部市場予想によると、ペット向け売上高が2026と2027年に1桁台%の減少と想定される一方、新薬によって、ペット向け事業は2030年までに1桁台半ば%の成長へ戻ると見込まれています。粗利益率も2026年と2027年に下がった後、新薬の寄与を背景に2030年に回復する想定です。これは、短期的には価格競争を受け入れ、後半に付加価値の高い製品で採算を改善する収益構造を意味しています。

図表4 ゾエティス直近主要バリュエーション指標

⑷リスク要因

1.価格競争が想定以上に長引く可能性

最も大きい短期リスクは、エランコやメルクが積極的な価格戦略を続けることです。競合製品の発売後3~4年にわたり厳しい価格競争が続けば、主力薬の売上だけでなく、粗利益率の回復にも追加的な圧力がかかります。競合の値下げが一時的な販促か、長期の戦略かで、企業価値への影響は変わります。

2.新薬の開発・商業化が回復時期を左右する

2028年以降の回復は、新しい治療領域の製品や長時間作用型製品の寄与を前提としています。開発、承認、販売拡大が想定どおりに進まなければ、既存薬の減速を補う時期が後ずれする可能性があります。治療ニーズの大きさだけで、開発の成功や売上の拡大を確信すべきではありません。発売後も、獣医師や飼い主に価値が伝わり、継続利用につながるかが重要となります。新薬への期待と実際の利益貢献は切り分けて確認する必要があります。

3.自己負担型の市場は、家計悪化の影響も受ける

飼い主が費用を直接負担する市場構造は、価格決定力を支える一方、景気後退やインフレで家計が圧迫されると支出が抑えられやすいです。世界金融危機時には、ペット医療への支出も人向け医療と同様に落ち込みました。ペットの家族化という長期傾向だけで、景気の影響がなくなるわけではありません。

4.製品の安全性と品質への信頼が損なわれるリスク

医薬品の欠陥や安全性の問題は、動物への健康被害に加え、獣医師や飼い主の信頼にも影響します。製品ブランドと使用経験が強みである企業ほど、信頼が傷ついた際の影響を軽視すべきではありません。

5.家畜向け事業は、疾病・天候・規制の影響を受ける

干ばつは飼育頭数を減らし、疾病の流行は殺処分を通じて需要基盤を縮小させる可能性があります。一方、流行初期には薬剤需要が増える場合もあり、影響の方向は局面によって異なります。また、新興国の景気や食生活も、畜産物需要を通じて事業に影響するでしょう。

⑸総括

ゾエティスは、特許、抗体医薬の開発実績、獣医師との関係を備える質の高い動物医療企業です。財務余力と研究開発への投資方針も、長期の事業価値を支えています。一方、皮膚疾患治療薬と寄生虫駆除薬の競争激化は、売上、利益の見通しを押し下げています。

投資判断では、過去の成長実績をそのまま将来に延ばすのではなく、成長の立て直しを見極める局面と考えるのが妥当でしょう。優良企業であることと、今の価格で魅力的な投資対象であることは分けて判断する必要があります。同社を検討する際は、「長期の競争優位性」「利益回復の実現確度」「購入価格の安全余裕」の三つを併せて判断し、短期の成長復帰や配当収入だけに期待するのではなく、新薬による価値創造を中長期で確認していく姿勢が重要です。

免責事項・注意事項

※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。

・レポートおよびコラムの配信は、状況により遅延や中止、または中断させていただくことがございます。あらかじめご了承ください。

・本資料は投資判断の参考となる情報提供のみを目的として作成されたもので、個々の投資家の特定の投資目的、または要望を考慮しているものではありません。投資に関する最終決定は投資家ご自身の判断と責任でなさるようお願いします。万一、本資料に基づいてお客さまが損害を被ったとしても当社及び情報発信元は一切その責任を負うものではありません。本資料は著作権によって保護されており、無断で転用、複製または販売等を行うことは固く禁じます。

【手数料等及びリスク】

SBI証券で取り扱っている商品等へのご投資には、商品毎に所定の手数料や必要経費等をご負担いただく場合があります。また、各商品等は価格の変動等により損失が生じるおそれがあります(信用取引、先物・オプション取引、商品先物取引、外国為替保証金取引、取引所CFD(くりっく株365)、 店頭CFD取引(SBI CFD)では差し入れた保証金・証拠金(元本)を上回る損失が生じるおそれがあります)。各商品等への投資に際してご負担いただく手数料等及びリスクは商品毎に異なりますので、詳細につきましては、SBI証券WEBサイトの当該商品等のページ、金融商品取引法等に係る表示または契約締結前交付書面等をご確認ください。