「円安」と「チャート形状」で株高期待の銘柄

投資情報部 鈴木 英之
2022/07/22
日経平均株価が戻り歩調となっています。現地時間7/13(水)に発表された6月米CPI(消費者物価指数)は、前回数値や事前予想を大きく上回りました。しかし、インフレ観測にピークアウト感が台頭し、米10年国債利回りが低下したことが追い風となったようです。
ただ、米10年国債利回りが低下した割には、ドルが対円で底固いように感じられます。7/21(木)まで開催された日銀金融政策決定会合では、金融緩和政策の維持が確認され、日米長期金利差が縮小する観測も後退しています。
外為市場では今後も、円安・ドル高が加速する場面がありそうです。そこで、今回の「日本株投資戦略」では、「円安メリット株」について再吟味してみます。チャート分析等を加味し、今後、株価が上昇しそうな「円安メリット株」ついて考えてみました。
当ページの内容につきましては、SBI証券 投資情報部長 鈴木による動画での詳しい解説も行っております。ぜひ、ご視聴ください。
日本株投資戦略※YouTubeに遷移します。
「円安」と「チャート形状」で株高期待の銘柄
日経平均株価は、戻り歩調の展開になっています。
現地時間7/13(水)に発表された6月米消費者物価(CPI)は市場コンセンサスを上回り、40年半ぶりの高い伸びになったものの、発表後の株価は日米ともに堅調となっています。原油価格が高値から下落するなど、インフレ観測にピークアウト感が台頭していることで、米10年国債利回りの上昇が抑えられ、グロース銘柄中心に反発しやすくなっています。
ちなみに、米10年国債利回りは6/14(火)の3.47%をピークに、7/21(木)時点では2.87%とかなり低下してきました。通常であれば、日米金利差の急速な縮小を背景に円高・ドル安方向への揺り戻しが強まりそうですが、ドル・円相場(三菱UFJ銀行対顧客レート・TTM)は7/15(金)の1ドル138円94銭をドル高値とし、7/20(水)時点でも同138円台を維持しています。むしろ、円安・ドル高方面への根強い「圧力」を感じる状況となっています。
最近は「世界的なインフレ圧力の高まりの中で、日銀も近い将来利上げに追い込まれる」との見方もあり、日本国債売り、「円買い・ドル売り」のポジションを持つ海外投資家も増えていたようです。こうした中、7/20(水)~7/21(木)の日程で、日銀金融政策決定会合が行われましたが、結果的には、「現状維持」となっています。確かに、インフレ高進は家計の不満を高める要因ですが、参議院選挙が終わり、向こう3年間大きな国政選挙がない状況の中で、政府・日銀の政策自由度は高いとみられます。日銀の金融緩和政策が長期化し、海外投資家の、「円買い・ドル売り」が巻き戻され、円安・ドル高が加速する可能性もあるように思われます。
さらに、7/21(木)の取引開始前に発表された貿易収支(6月)では、貿易赤字が11ヵ月続いていることが明らかになりました。1~6月の半期ベースでは7.9兆円という過去最大の赤字になっています。輸出競争力が構造的に落ちる中で、原油をはじめ輸入原材料等の高騰が貿易赤字の拡大につながりました。金融収支や所得収支の黒字があるため、今の時点では経常収支の黒字は維持できていますが、国際収支ベースでみたファンダメンタルズは悪化傾向にあり、円安・ドル高につながる要因となっています。
外為市場で円安・ドル高が加速する可能性は、意外と大きいのかもしれません。そこで、今回の「日本株投資戦略」では、相関係数分析をベースに「円安・ドル高」の環境下で株価が上昇しやすい銘柄を抽出し、さらにチャート分析(期間6ヵ月)も加味し、中期的に投資妙味が大きそうな銘柄を抽出してみました。
スクリーニング条件は以下の通りです。
(1)東証上場銘柄
(2)時価総額2,000億円以上
(3)SBI証券のチャート分析ツールで、期間6ヵ月の形状がポジティブとみられる銘柄(脚注参照)。
図表1は、上記のすべての条件を満たした銘柄について、「円安・ドル高」との相関係数(過去10年)が強い順に20銘柄を並べたものです。
ご参考までに、図表2と図表3では参考データをご紹介しています。
図表1 「円安・ドル高」との相関係数(過去10年)が高く、チャート形状(期間6ヵ月)もポジティブな銘柄
取引 | チャート | ポートフォリオ | コード | 銘柄 | 業種 | 相関係数 | 株価(7/21) | 昨年末比 | チャート形状 |
7261 | 7261 | 7261 | 7261 | マツダ | 輸送用機器 | 0.601 | 1,120 | 26.6% | 上昇? |
7270 | 7270 | 7270 | 7270 | SUBARU | 輸送用機器 | 0.594 | 2,402 | 16.8% | まだ上昇? |
7203 | 7203 | 7203 | 7203 | トヨタ自動車 | 輸送用機器 | 0.574 | 2,193.5 | 4.2% | 戻ってくる? |
6473 | 6473 | 6473 | 6473 | ジェイテクト | 機械 | 0.521 | 1,061 | 5.6% | 上昇? |
8766 | 8766 | 8766 | 8766 | 東京海上ホールディングス | 保険業 | 0.521 | 7,888 | 23.4% | まだ上昇? |
8725 | 8725 | 8725 | 8725 | MS&ADインシュアランスグループホールディング | 保険業 | 0.521 | 4,318 | 21.7% | まだ上昇? |
8309 | 8309 | 8309 | 8309 | 三井住友トラスト・ホールディングス | 銀行業 | 0.520 | 4,251 | 10.6% | 強含み? |
1808 | 1808 | 1808 | 1808 | 長谷工コーポレーション | 建設業 | 0.509 | 1,620 | 13.6% | まだ上昇? |
7267 | 7267 | 7267 | 7267 | 本田技研工業 | 輸送用機器 | 0.505 | 3,523 | 9.1% | 強含み? |
6201 | 6201 | 6201 | 6201 | 豊田自動織機 | 輸送用機器 | 0.500 | 8,290 | -9.8% | 下げ渋る? |
7211 | 7211 | 7211 | 7211 | 三菱自動車工業 | 輸送用機器 | 0.495 | 447 | 39.3% | 強含み? |
5802 | 5802 | 5802 | 5802 | 住友電気工業 | 非鉄金属 | 0.480 | 1,523.5 | 1.6% | 下落ストップ? |
8012 | 8012 | 8012 | 8012 | 長瀬産業 | 卸売業 | 0.479 | 2,006 | 7.7% | まだ上昇? |
5334 | 5334 | 5334 | 5334 | 日本特殊陶業 | ガラス・土石製品 | 0.474 | 2,606 | 30.1% | 上昇? |
6902 | 6902 | 6902 | 6902 | デンソー | 輸送用機器 | 0.473 | 7,772 | -18.4% | これから上昇? |
7751 | 7751 | 7751 | 7751 | キヤノン | 電気機器 | 0.467 | 3,219 | 14.9% | 上昇? |
6471 | 6471 | 6471 | 6471 | 日本精工 | 機械 | 0.458 | 758 | 2.7% | 下落ストップ? |
9983 | 9983 | 9983 | 9983 | ファーストリテイリング | 小売業 | 0.456 | 80,020 | 22.5% | 急上昇? |
4631 | 4631 | 4631 | 4631 | DIC | 化学 | 0.452 | 2,465 | -14.9% | 下げ渋る? |
8355 | 8355 | 8355 | 8355 | 静岡銀行 | 銀行業 | 0.451 | 808 | -1.7% | 下げ渋る? |
- ※Bloombergデータ、およびSBI証券チャート分析ツールをもとにSBI証券が作成。
- ※相関係数は2012/6~2022/6の月足データをもとに計算されたBloombergデータを使用。数字が大きいほど円安・ドル高との相関関係が強い傾向があることを示しています。
- ※「昨年末比」は、株価(7/21終値)と昨年末終値を比較した騰落率です。
- ※チャート形状は、SBI証券Webサイトで公開されているチャート分析ツールで使われているパターン分類(25種類)の名称を示しています。その銘柄をチャートにした場合に、”人が受ける印象”を、表現したもので、過去から現在までの一定期間のチャートの傾向、変動具合、トレンドなどを表しています。今回は期間6ヵ月(2022/1/24~7/21)のチャートを対象としました。「チャート形状」は必ずしも、将来の株価を示唆するものではありませんので、ご注意ください。
- ※「チャート形状の表現について、図表1で用いた表現の意味は以下のようになっています。
・「上昇?」・・・一見して、上昇が継続していると思われる状態。
・「まだ上昇?」・・・一見して、緩やかに上昇していると思われる状態。
・ 「戻ってくる?」・・・ 一見して、トレンド判定期間の開始日の終値に、下落から、ゆっくり戻ってきたと思われる状態。
・「強含み?」・・・一見して、直近高値を抜けつつあると思われる状態。
・「下げ渋る?」・・・ 一見して、下げ渋っていると思われる状態。
・「下落ストップ?」・・・ 一見して、ひとまず、下落が止まったと思われる状態。
・「これから上昇?」・・・ 一見して、下値を切り上げて、上昇し始めたと思われる状態。
・「急上昇?」・・・一見して、株価が急騰していると思われる状態。
図表2 「円安・ドル高」との相関係数(過去10年)が高い10業種
東証業種別指数(33業種)の名称 | 相関係数 | |
TOPIX輸送用機器指数 | 0.606 | |
TOPIX銀行業指数 | 0.564 | |
TOPIX保険業指数 | 0.560 | |
TOPIX証券・商品先物取引業指数 | 0.500 | |
TOPIX倉庫・運輸関連業指数 | 0.482 | |
TOPIXゴム製品指数 | 0.478 | |
TOPIXガラス・土石製品指数 | 0.474 | |
TOPIX繊維製品指数 | 0.461 | |
TOPIX機械指数 | 0.458 | |
TOPIX化学指数 | 0.457 |
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
※相関係数は2012/6~2022/6の月足データをもとに計算されたBloombergデータを使用。
図表3 輸出比率が高い10業種(短観上の分類)
業種 | 輸出比率 |
造船・重機、その他輸送用機械 | 47.9% |
はん用・生産用・業務用機械 | 45.4% |
自動車 | 43.8% |
電気機械 | 39.3% |
その他製造業 | 33.5% |
非鉄金属 | 30.8% |
化学 | 28.7% |
鉄鋼 | 26.4% |
繊維 | 25.1% |
窯業・土石製品 | 20.3% |
- ※日銀短観(3月調査)をもとにSBI証券が作成。
- ※輸出比率は大企業の2022年度計画において、輸出額を売上高で割った比率。
抽出銘柄の参考ポイント
■マツダ(7261)~海外販売台数比率が85.8%(会社予想)で円安のメリットは大きそう
通期の会社予想営業利益は1,200億円(前期比15.1%増)です。2023/3期の地域別販売台数(会社予想)比率は、日本14.2%、北米35.8%、欧州14.1%、中国12.6%、その他23.4%となり、海外への販売が全体の85.8%の計画で、円安の効果は大きそうです。
平均為替レート(前期)は1ドル112円、1ユーロ131円で、今期会社予想の想定為替レートは1ドル123円(前期比11円の円安)、1ユーロ133円(同2円の円安)となっています。会社側は通期の円安メリットをドルで187億円、ユーロで74億円、豪ドルで144億円見込んでいます。2022/4~6期の平均為替レートは1ドル129円、1ユーロ138円で、想定為替レートよりも円安で推移しています。
なお、日銀短観で、自動車(大企業)の業況判断指数は、3月調査時点での「先行き」が「-1」であったのに対し、6月調査の「最近」は「-19」と下振れていました。中国のロックダウン等の影響で、4~6月期の業況自体は厳しかった可能性もあり、注意が必要です。当社については、企業調査部からレポートが複数出ていますので、そちらをご参考いただけると幸いです。
ご参考までに、次の決算発表は8/9(火)の予定です。
マツダ(7261)・・・6/13付レポート、投資判断「中立」、目標株価1,100円(レポート作成時の評価です)
■SUBARU(7270)
通期の会社予想営業利益は2,000億円(前期比121.0%増)です。2023/3期の地域別販売台数(会社予想)比率は、日本12.2%、米国67.78%、カナダ5.6%、中国2.0%、その他12.6%となり、海外への販売が全体の87.9%の計画で、円安(特に円安・ドル高)の効果は大きそうです。
平均為替レート(前期)は1ドル112円、1カナダドル89円で、想定為替レート(今期会社予想)は1ドル120円(前期比8円の円安)、1カナダドル95円(同6円の円安)となっています。会社側は通期の円安メリットをドルで932億円、カナダドルで55億円見込んでいます。2022/4~6期の平均為替レートは1ドル129円、1カナダドル101円で、想定為替レートよりも円安で推移しています。
一方、上記銘柄同様、4~6月期の業況自体は厳しかった可能性もあり、注意が必要です。
ご参考までに、次の決算発表は8/3(水)の予定です
■トヨタ自動車(7203)
世界最大級の自動車メーカーであり、東京株式市場で最大の時価総額(35兆円台)を有しています。通期の会社予想営業利益は2兆4,000億円(前期比19.9%減)です。2023/3期の地域別販売台数(会社予想)比率は、日本23.2%、北米29.4%、欧州12.4%、アジア18.9%、その他16.2%となり、海外への販売が全体の76.8%の計画で、円安(特に円安・ドル高)の効果は大きそうです。
平均為替レート(前期)は1ドル112円、1ユーロ131円で、想定為替レート(今期会社予想)は1ドル115円(前期比3円の円安)、1ユーロ130円(同1円の円高)となっています。想定為替レートが他の自動車メーカーと比べても保守的であり、会社側が想定している通期の円安メリットについても、1,950億円と控えめな印象です。
報道等を参考にすると、1ドル1円の円安はトヨタの営業利益に450億円、1ユーロ1円の円安は同60億円のプラス要因になると考えられています。2022/4~6期の平均為替レートは1ドル129円、1ユーロ138円で、想定為替レートよりもドルは14円、ユーロは8円も円安方向で推移しており、円安メリットは大きいとみられます。2023/3期の予想営業利益(Bloombergベースの市場コンセンサス)は3兆2千億円台と、会社予想を大きく上回っています。
なお、他の自動車メーカー同様、4~6月期の業況自体は厳しかったようで、当社も減産の発表が続いています。当社については、企業調査部からレポートが複数出ていますので、そちらもご参考いただけると幸いです。
ご参考までに、次の決算発表は8/4(木)の予定です。
トヨタ自動車(7203)・・・6/21付レポート、投資判断「買い」、目標株価2,600円(レポート作成時の評価です)
■銀行株・金融株
図表2から確認できるように、銀行株、およびそれを含む広義の金融株についても、円安・ドル高との相関関係が強い業種として知られています。円安・ドル高が進んでいる多くの局面では、米10年国債利回りが上昇しており、日米金利差が拡大しやすいためです。金融株は本質的には、米10年国債利回りが上昇すると、株価が上昇しやすいとみられます。
そのため、足元では米10年国債の利回りが低下しているため、上昇トレンドが崩れている銀行株・金融株も大きくなっています。図表2では銀行株・金融株が上位を占めながら、図表1で意外に少ない理由は、米10年国債利回りの低下に求められると考えられます。
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