アメリカNOW! 今週の5銘柄 ~スタグフレーション的投資環境、「FAANG2.0」が本領発揮か!?~

投資情報部 榮 聡
2022/06/13
先週は景気の先行きに関する懸念材料が増える中、インフレ高進を背景に長期金利は上昇となり、「スタグフレーション」的な投資環境を受けて株式は大幅に下落しました。今週の株価材料として、FOMC(米連邦公開市場委員会)、企業の業績ウォーニング、週末のトリプルウィッチング、などが注目されます。
脱ロシアで恩恵が期待される業種群を総称する「FAANG2.0」から、エクソン モービル(XOM)、ニュートリエン(NTR)、ロッキード マーチン(LMT)、カメコ(CCJ)、ニューモント(NEM)を選んで今週の5銘柄といたします。
図表1 S&P500指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)

景気減速とインフレ高進が併存する「スタグフレーション」的な投資環境となり、株式は大幅下落となりました。終値ベースで5/19(木)の年初来安値3,900.79ポイントに面合わせとなっています。
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表2 業種別指数騰落率・個別銘柄騰落率
S&P500業種指数騰落 | 5日 | 1ヵ月 | 3ヵ月 |
エネルギー | -0.9% | 9.5% | 15.5% |
生活必需品 | -2.6% | -7.2% | 0.0% |
ヘルスケア | -3.4% | -2.6% | -2.7% |
公益事業 | -4.1% | -0.4% | 1.3% |
コミュニケーションサービス | -4.1% | -3.8% | -12.5% |
資本財・サービス | -5.0% | -2.6% | -7.3% |
S&P500 | -5.1% | -3.1% | -7.2% |
素材 | -5.8% | -1.3% | -0.3% |
一般消費財・サービス | -6.1% | -5.0% | -14.3% |
不動産 | -6.2% | -4.6% | -10.3% |
情報技術 | -6.4% | -3.7% | -9.4% |
金融 | -6.8% | -3.2% | -10.8% |
騰落率上位(5日) | 騰落率 |
クラフト・ハインツ | 3.2% |
エクソンモービル | 1.4% |
ベライゾン・コミュニケーションズ | 0.0% |
ブリストル マイヤーズ スクイブ | -0.1% |
ユナイテッドヘルス・グループ | -0.2% |
騰落率下位(5日) | 騰落率 |
ウェルズ・ファーゴ | -10.6% |
アマゾン・ドット・コム | -10.4% |
ゴールドマン・サックス・グループ | -9.9% |
ブッキング・ホールディングス | -9.9% |
インテル | -9.7% |
注:個別銘柄の騰落率上位、下位はS&P100指数が母集団です。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
先週の米国株式市場
S&P500指数は週間で5.1%下落、結局5/25(水)~5/27(金)の反発は「ベアマーケットラリー」となりました。NYダウは週間で4.6%、ナスダック指数は5.6%の下落でした。
景気の先行きに関する懸念材料が増える中[1]、インフレ高進を背景に長期金利は上昇して[2]、「スタグフレーション」的となり、株式には最悪の投資環境となりました。
[1] 6/7(火)に大手小売ターゲットが数週間前に発表した5-7月期の収益見通しを下方修正、過剰在庫を削減するために値下げ販売を行うとしました。在庫削減を急ぐ決断をしたのは、足もとの「モノへの需要」が想定以上に弱いことが観察されている可能性があるでしょう。また、同日インテルのCFOが「マクロ面は明らかに弱まっている」と先行きの需要に警鐘を鳴らしました。さらに、6/9(木)の世界的な海運株の下落は、米国での「モノへの需要」の鈍化が背景にあるとみられます。(株式にマイナス)
[2] 6/9(木)にはECB(欧州中央銀行)による金融引き締め姿勢が市場予想以上(7月から利上げを開始、9月には0.5%ポイントの可能性も示唆)となって米長期金利の押し上げ要因になりました。また、6/10(金)の5月消費者物価指数はエネルギーや食品価格の上昇によって前年比8.6%増と、4月実績および市場予想の同8.3%増を大きく上回り、米10年国債利回りは3.1%台まで上昇しました。(株式にマイナス)
業種指数では、原油価格の上昇基調を背景とした「エネルギー」や「生活必需品」「ヘルスケア」などの値下がりが相対的に小さくなっています。金利上昇を受けて成長株を多く含む「情報技術」が売られたほか、金利上昇はポジティブながら景気に対する先行き懸念を受けて「金融」が最下位でした。
経済指標では、上記の消費者物価指数のほか、6月ミシガン大学消費者信頼感指数の速報値が前月の58.4から50.2に急落、データがある1952年11月からの約70年間で最低を記録しました。 物価高騰への懸念などを背景に消費者心理が悪化しており、6/10(金)の株価急落にも寄与したと見られます。
今週の米国株式市場
米国株式市場は、スタグフレーションが懸念される最悪の投資環境のため、引き続き軟調となりやすいでしょう。引き続き慎重な投資態度が妥当と考えられます。
今週の株価材料として、FOMC(米連邦公開市場委員会)、企業の業績ウォーニング、週末のトリプルウィッチング、などが注目されます。
FOMCについては、6月、7月のFOMCで0.5%ポイントずつの利上げが織り込まれています。一方、9月FOMCについては市場の見方が割れていましたが、消費者物価指数の上振れを受けて0.75%ポイントとなる可能性もでてきています。
9月FOMC後の政策金利の市場予想は2.561%となっており、今後3回のFOMCで1.741%の引き上げが織り込まれています(6/13(月)日本時間9時)。0.5%ポイントずつでは1.5%ポイントにしかなりませんので、どこかで0.75%を挟むという市場の予想になっています。
6月も後半に入るため、4-6月期業績のウォーニングが増えないか注意したいところです。先日のマイクロソフトのようにドル高による売上の目減りならさほど懸念する必要はないでしょうが、米国内需要の低迷が原因であると相場へのインパクトが大きくなりやすいと考えられます。
S&P500指数の予想EPSは1-3月期の決算発表後に横ばい圏での推移となっていましたが、5月下旬から上方修正基調となり、6/7(火)に今年の最高値を更新しました。ただ、この上方修正は中国の行動制限解除が要因になっている可能性が高く、これで一安心とはならないでしょう。市場で懸念されている米国内需の鈍化はまだ反映されていないと考えられ、これから反映される可能性があるためです。引き続き警戒が必要でしょう。
6/17(金)は四半期に一度のトリプルウィッチング(株価指数先物・オプションの取引期限満了日)を迎えます。当日は出来高が増えるため、この時にもまだ不安定な相場が続いていると、思わぬ値段がでないとも限りません。注意が必要です。
経済指標では、6/14(火)に米国の5月生産者物価指数(前年比10.8%増の予想、前月は同11.0%増、前月比0.8%増の予想)、6/15(水)に中国の5月鉱工業生産(前年比1.0%減の予想、前月は同2.9%減)、5月小売売上高(前年比7.1%減の予想、前月は同11.1%減)、米国の5月小売売上高(前月比0.1%増の予想)、6/16(木)に米国の5月住宅着工件数(前月比1.0%減の予想)、5月住宅建設許可件数(前月比2.1%減の予想)、などの発表が予定されています。
企業イベントでは、オラクル、アドビ、クローガーなどの決算発表が予定されています。
今週の5銘柄
米国株式市場は依然として不安定な状況が続きそうなことから、5/23(月)号で掲載した「FAANG2.0」銘柄を再掲いたします。
「FAANG2.0」はバンク・オブ・アメリカが提唱する、燃料(Fuels)、航空・防衛(Aerospace and defense)、農業(Agriculture)、原子力・再生エネルギー(Nuclear and renewables)、貴金属・鉱物(Gold and metals/minerals)のセクター群です。いずれも脱ロシアによって恩恵が期待されるセクターであることから、景気減速との感応度が相対的に低くなると期待されます。
燃料からはエクソン モービル(XOM)、航空・防衛からは軍用機のロッキード マーチン(LMT)、農業からは肥料のニュートリエン(NTR)、原子力・再生エネルギーからはウラン生産のカメコ(CCJ)、貴金属・鉱物からは産金大手のニューモント(NEM)、を選んで今週の5銘柄といたします。
図表3 S&P500指数の予想EPSは最高値を更新するも、一安心とはならず?

※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今週の注目銘柄
買付 | チャート | 銘柄 | 株価 (6/10) |
予想PER (倍) |
ポイント |
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買付 | エクソン モービル(XOM) | 100.46ドル | 9.8 | 【総合エネルギーの最大手】
・原油・天然ガスの探鉱及び生産、石油製品・石油化学製品の製造等を行う総合エネルギーの最大手です。EU諸国がエネルギーのロシア依存を低下させる意向を示したことから、原油価格の上昇傾向が続くと見込まれ、恩恵が期待されます。また、当社が権益を持っている中南米のガイアナ沖鉱区では過去10年で最大級の石油鉱床が発見されており、長期的な成長ドライバーになる可能性が注目されています。
・2022年1-3月期決算は調整後EPSが前年同期比3.2倍になりましたが市場予想は下回りました。調整後セグメント利益を見ると、上流がエネルギー高の恩恵で同3倍、下流が精製マージン向上等で黒字転換、化学はメンテナンスコスト等の影響で同4%減でした。自社株買い計画を従来の100億ドルから最大300億ドルへ拡大すると発表しています。
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買付 | ニュートリエン(NTR) | 86.46ドル | 5.0 | 【カナダ本拠の肥料世界最大手】 ・ 2018年にポタシュとアグリウムが合併してできた肥料の世界最大手で、本拠地はカナダです。肥料の三要素をいずれも扱い、カリ肥料で世界トップ、窒素肥料で世界3位です。売上全体では肥料が62%を占めます。世界的な肥料の供給不足懸念に対して、3/16(水)にカリ肥料の増産を発表、2022年の生産量は2020年比20%増、この間の世界の供給増の約70%を占める見込みとしています。 ・2022年12月期についてCEOは、「世界の農業および農業投入物(種子、肥料、農薬など)の市場見通しは非常に強く、当社は2022年に大きな利益およびキャッシュフローの増加を達成できるポジションにある。」とコメントしています。2022年12月期の調整後EBITDA(利払い、税金、償却前利益)は100~112億ドル(前年比40~57%増)、調整後EPSは10.2~11.8ドル(同64~89%増)を見込んでいます。 | |
買付 | ロッキード マーチン(LMT) | 430.19ドル | 16.1 | 【米国最大の軍用機メーカー】 ・軍事機・宇宙関連機器の大手メーカーです。2021年の売上構成比は、航空機部門(F-35、F-16などの戦闘機)が40%、ロータリー・ミッションシステム部門(ヘリコプターなど)が25%、宇宙システム部門が18%、ミサイル・火器制御部門が17%です。米国政府を中心に約30ヵ国と取引があり、海外売上は27.5%を占めます(2021年)。 ・軍需関連の売上が世界最大であり、また、同売上構成比も89%に達することから、米国および世界の軍事費が増加する場合にその恩恵を受ける確度が高く、代表的な軍需銘柄です。2021年12月期の業績は、F-35戦闘機や軍用ヘリコプターの需要増で売上・営業利益とも前年比3%増と堅調です。2022年12月期の業績ガイダンスは、売上が約660億ドル(前年比2%減)、調整後EPSが26.7ドル(前年比10%増)です。 | |
買付 | カメコ(CCJ) | 25.53ドル | 121.6 | 【原子力発電に使用されるウラン生産の最大手】 ・ウランの探鉱、開発、採掘、製錬、転換、成形を手掛けるカナダの会社で世界的な最大手です。北米を中心に中央アジア、オーストラリアでも採掘事業を展開、年間30百万ポンド以上の生産能力と464百万ポンドの確認埋蔵量を保有しています。「脱ロシア」「脱炭素」を両立するために、原子力エネルギーに対する期待が高まっていく可能性があります。 ・世界的に原子力発電の見直しが続いたことから2013年から2021年まで8年連続で減収、利益も減少傾向が続き、2021年の営業利益は2013年の14%の水準まで落ち込みました。しかし、ウラン価格の上昇を受けて四半期ベースでは2021年1-3月期を底に増収傾向に転じています。2022年1-3月期は、ウランの平均販売価格が前年同期比34%上昇したことで、売上は398百万ドルで前年同期比37%増、純利益は40百万ドルで黒字転換しています。2022年12月期の売上ガイダンスはウラン価格の上昇継続を受けて17.3~18.8億ドル(前年は12.7億ドル)に上方修正されています。 | |
買付 | ニューモント(NEM) | 66.85ドル | 20.7 | 【世界最大級の産金会社】 ・19年1月にカナダのゴールドコープを買収してできた世界最大級の産金会社です。中核の北米主力鉱山のほか、豪州、ガーナ、南米に拠点を展開しています。金価格はロシアのウクライナ侵攻を受けて1トロイオンス2,000ドル超まで上昇しましたが、その後米10年国債利回りが急上昇したことで同1,800ドルまで下落しました。長期金利の上昇が一服となる一方、景気の先行きに対する懸念が高まっているため、金価格は安全資産として堅調な値動きとなる期待があるでしょう。 ・1-3月期の業績は、売上が前年同期比5%増ながら営業費用が同10%増となったため、EPSは同20%減と低調でした。金の平均販売価格は前年同期比8%増の一方、金生産量が8%減少し、増収は銅など副産物の増収によります。通年の金産出量6.2百万トロイオンスの見通しは維持する一方、直接操業コストの見通しを5%引き上げています。 |
注:予想PERはBloomberg集計のコンセンサス予想EPSによります。使用した予想EPSの決算期は、いずれも2022年12月期です。
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
主要イベントの予定
経済指標・イベント | 企業決算・イベント | |
13(月) | オラクル | |
14(火) | ・ドイツZEW景況感指数(6月) ・NFIB中小企業楽観指数(5月) ・米生産者物価指数(5月) |
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15(水) | ・日本機械受注(4月) ・中国鉱工業生産・小売売上高・固定資産投資(5月) ・ユーロ圏鉱工業生産(4月) ・米小売売上高(5月) ・米ニューヨーク連銀製造業景気指数(6月) ・米NAHB住宅市場指数(6月) ・FOMC政策金利 ・EU27ヵ国新車登録台数(5月) |
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16(木) | ・米住宅着工・建設許可件数(5月) ・フィラデルフィア連銀製造業景気指数(6月) ・新規失業保険申請件数(6月11日に終わる週) |
アドビ、クローガー |
17(金) | ・米国市場トリプルウィッチング (株価指数先物・オプションの取引期限満了日) ・米鉱工業生産(5月) |
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20(月) | ・米国休場(奴隷解放記念日の振替) | |
21(火) | ・シカゴ連銀全米活動指数(5月) ・米中古住宅販売件数(5月) |
レナー |
22(水) | ||
23(木) | ・auじぶん銀行日本製造業PMI(6月) ・S&Pグローバルユーロ圏製造業PMI(6月) ・S&Pグローバル米国製造業PMI(6月) ・米新規失業保険申請件数(6月18日に終わる週) |
アクセンチュア、フェデックス |
24(金) | ・ドイツIFO景気指数(6月) ・米ミシガン大学消費者信頼感指数(6月) ・米新築住宅販売件数(5月) |
カーニバル(E)、カーマックス |
注:日付は現地時間によります。(E)はBloombergによる予想を示します。企業決算の赤字でのハイライトは、当社顧客保有人数の1~30位、青字のハイライトは31~50位を示します。
※Bloombergデータ、各種報道をもとにSBI証券が作成
※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。
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