アメリカNOW! 今週の5銘柄 ~波乱相場の中でも株価が移動平均線の上に位置する堅調銘柄~

アメリカNOW! 今週の5銘柄 ~波乱相場の中でも株価が移動平均線の上に位置する堅調銘柄~

投資情報部 榮 聡

2022/06/27

先週は行き過ぎた「スタグフレーション」懸念を修正する動きとなり、それまでの2週の下落幅の半分強を取り戻しました。今週の株価材料として、米中の経済指標、企業のプロフィットウォーニング(業績ガイダンスの下方修正)、NATO首脳会議、などが注目されます。

今回は過去25日、75日、200日の移動平均乖離がプラスとなって株価が堅調に推移している銘柄から、Tモバイル US(TMUS)イーライ リリィ(LLY)メルク(MRK)ジョンソン & ジョンソン(JNJ)インターナショナル ビジネス マシーンズ(IBM)を選んで今週の5銘柄といたします。

図表1 S&P500指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)

「スタグフレーション」懸念の行き過ぎを修正する動きから反発となっています。一目均衡表の「基準線」まで戻っており、抵抗帯となる「雲」の下限までの戻りがあるか注目です。
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成

図表2 業種別指数騰落率・個別銘柄騰落率(「5日」は6/16(木)終値~6/24(金)終値によります)

S&P500業種指数騰落 5日 1ヵ月 3ヵ月
一般消費財・サービス 9.6% -4.0% -20.6%
不動産 8.4% -6.5% -11.3%
コミュニケーションサービス 8.4% -2.3% -17.3%
情報技術 8.3% -5.6% -16.3%
ヘルスケア 8.2% -3.4% -5.2%
S&P500 6.7% -5.9% -13.9%
公益事業 6.2% -7.9% -5.1%
生活必需品 6.1% -2.5% -3.1%
金融 5.5% -8.8% -18.1%
資本財・サービス 4.0% -6.7% -14.4%
素材 2.6% -12.1% -14.2%
エネルギー -7.0% -18.2% -9.0%
騰落率上位(5日) 騰落率
セールスフォース 16.3%
テスラ 15.3%
イーライリリー 13.0%
アマゾン・ドット・コム 12.3%
アメリカン・タワー 11.7%
騰落率下位(5日) 騰落率
コノコフィリップス -11.2%
シュルンベルジェ -8.9%
シェブロン -6.9%
エクソンモービル -4.9%
キャタピラー -4.8%

注:個別銘柄の騰落率上位、下位はS&P100指数が母集団です。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成

先週の米国株式市場

S&P500指数は週間で6.4%上昇、6/17(金)までの2週間に下落した433.70ポイントに対して55%にあたる236.90ポイントを取り戻し、「スタグフレーション」懸念によるパニック売りから落ち着きを取り戻しつつあるとみられます。NYダウは週間で5.4%、ナスダック指数は7.5%の上昇でした。

休場明けの6/21(火)はトリプルウィッチングの通過と3連休明けで買い気が戻り、ショートポジションの買い戻しも誘発したとみられ、S&P500指数は2.5%の上昇となりました。週を通じて世界的なリセッション懸念から原油価格が下落基調となり、米10年国債利回りが3.1%台まで下落、バリュエーションの調整圧力が緩和して株式の上昇につながりました。

また、6/22(水)、6/23(木)のパウエルFRB議長の議会証言は株式にややプラスに効いたとみられるほか[1]、ミシガン大学消費者信頼感指数のインフレ期待が速報値から低下したことが6/24(金)の大幅な上昇につながったとされました[2]。

[1] パウエルFRB議長は、インフレ抑制に「強くコミット」しているとする一方、積極的な利上げが景気後退につながる可能性をはっきりと認めました。金融市場で急速に高まっていたリセッション懸念に寄り添う形となり、株式にややプラスに働いたとみられます。

[2] 6/10(金)に発表のミシガン大学消費者信頼感指数の速報値では、消費者のインフレ期待が1年後で前年比5.4%増(前月は同5.3%増)、5年後で同3.3%増(前月は同3.0%増)となっていましたが、6/24(金)に発表された確報値では、それぞれ同5.3%増、同3.1%増へ下方で着地しました。速報値は、FRBが0.75%ポイントの利上げに傾いた一因とみられていました。

業種指数では、「エネルギー」を除く全セクターが上昇となりました。米10年国債利回りの低下を受けて成長企業を多く含む業種が相対的に優位で、「素材」「資本財・サービス」など景気に敏感な業種が相対的に弱い傾向がみられます。個別銘柄ではセールスフォース(CRM)が上昇トップでした。2-4月期決算が市場予想を上回り、ベニオフCEOは「パンデミックの時期に加速したDXは、全速力で前進している」と事業環境の良さを強調していました。

経済指標では、5月新築住宅販売件数が前月比10.7%増と市場予想の同0.2%増を大きく上回りました。前月が同12.0%減と落ち込んだ反動ですが、住宅市場の落ち込みをきつく織り込み過ぎていたようです。相場反発の要因の一つになったとみられます。

今週の米国株式市場

先週の株価反発に最も効いたのは、世界的なリセッション懸念と原油価格の下落によるインフレ緩和の期待を受けた米10年国債利回りの低下と考えられます。その米10年国債利回りの一目均衡表をみると(図表3)、「雲」が下値支持帯となって動いていることが確認できます。「ファンダメンタルズの変化がなければ3%以下には下がりにくい」ことを示唆しており、今週は株式の戻り一服となる可能性もありそうです。

今週の株価材料として、米中の経済指標、企業のプロフィットウォーニング(業績ガイダンスの下方修正)、NATO首脳会議、などが注目されます。

米中の経済指標では、まず6/28(火)の米国6月コンファレンスボード消費者信頼感が注目されます。前月の106.4から100.0に悪化の予想ですが、過去最低に落ち込んだミシガン大学消費者信頼感指数ほどの悪化にはならない見込みです。

また、6/30(木)の米国の5月個人消費支出物価指数も注目です。ヘッドラインの数字は前年比6.4%増と前月の同6.3%増から上昇率が高まる一方、コア指数は前年比4.8%増の予想と前月の同4.9%増から低下の予想で、5月消費者物価指数と同じパターンが見込まれています。

さらに、6/30(木)の中国6月製造業PMIは前月の49.6から50.2へ、同非製造業PMIは前月の47.8から49.7へ改善の予想です。予想通りの改善なら、株式相場にポジティブとなりそうです。

4-6月期の最終週に差し掛かりますので、企業のプロフィットウォーニングが出ないか、警戒しておく必要があるでしょう。6/2(木)にマイクロソフトがドル高を主因に売上高ガイダンスを下方修正してから、これまでのところ意外なほど主要企業のウォーニングは出ていません。もし、さほどウォーニングが出ない場合には、今後の株式相場に前向きになれるでしょう。

今回のNATO首脳会談には、非加盟国の日本、韓国、オーストラリアの首脳も異例の出席となります。NATOが単なる軍事同盟でなく、「価値観」を共有する同盟であることをアピールするためとされます。ロシア、中国との対立先鋭化につながらないか注意しておく必要がありそうです。

経済指標では上記以外に、6/27(月)に米国の5月耐久財受注(前月比0.2%増の予想)、7/1(金)に日本の6月日銀短観(大企業製造業DIは前回の14から13に低下の予想)、米国の6月ISM製造業景気指数(前月の56.1から54.7に悪化の予想)、などの発表が予定されています。

企業イベントでは、ナイキ、マイクロンテクノロジー、ウォルグリーンブーツアライアンスなどの決算発表が予定されています。

今週の5銘柄

先週は大幅な反発となりましたが、景気減速の程度を探りながらとなるため、当面は不安定な相場が続きやすいと考えられます。

そこで今回は、当社WEBサイトの米国株スクリーナーを利用して株価が堅調な銘柄をピックアップしてご紹介いたします。

スクリーニング条件は、(1)25日、75日、200日の株価移動平均乖離率がプラス、(2)時価総額1,000億ドル以上、です。抽出された図表4の銘柄から、Tモバイル US(TMUS)、イーライ リリィ(LLY)、メルク(MRK)、ジョンソン & ジョンソン(JNJ)、インターナショナル ビジネス マシーンズ(IBM)を選んで今週の5銘柄といたします。

図表3 米10年国債利回りの一目均衡表(日足、3ヵ月)

※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成

図表4 株価が堅調に推移している主要銘柄群

コード 銘柄名 株価
(6/23)
(ドル)
株価移動平均乖離率(%) 時価総額
(億ドル)
25日 75日 200日
TMUS Tモバイル US 135.9 3.68 5.37 10.89 1,669
LLY イーライ リリィ 312.7 3.39 6.45 17.70 2,914
BMY ブリストル マイヤーズ スクイブ 77.7 2.75 3.97 16.93 1,630
MRK メルク 92.0 2.39 6.75 13.14 2,255
JNJ ジョンソン & ジョンソン 179.7 2.23 1.38 5.73 4,624
IBM インターナショナル ビジネス マシーンズ 138.4 1.23 4.20 6.52 1,233
T AT&T 20.6 0.28 6.64 7.78 1,455

注:6/23(木)時点のデータによります。
※「米国株スクリーナー」のデータをもとにSBI証券が作成

今週の注目銘柄

買付 チャート 銘柄 株価
(6/24)
予想PER
(倍)
ポイント
買付チャートTモバイル US(TMUS)137.08ドル47.1

【通信サービス大手の一角】

・米通信サービス大手の一角です。2020年4月にスプリントと合併して、携帯電話の総契約数で全米2位に浮上しました。さらに、格安料金プランや最新スマホ導入、5Gネットワークの優位性からシェア拡大傾向が続いています。5Gネットワークは人口の95%をカバーして最大であり、通信スピードも最速を誇ります。

・1-3月期決算は、売上が前年同期比7%増、スプリントとの合併関連費用などを除く調整後コアEBITDAは同10%増と好調です。携帯電話の後払い契約者純数、高速インターネットの加入者純増は業界トップで過去最高を記録しました。好調な結果を受けて通期の携帯電話後払い契約数と調整後コアEBITDAのガイダンスを引き上げています。通信サービスは一般的に景気観応度が低いことから、ディフェンシブ銘柄として物色され、下げ相場の中でも堅調な株価推移となっています。

買付チャートイーライ リリィ(LLY)325.62ドル39.0

【肥満治療薬の開発が注目されている】

・製薬業界で世界大手の一角。第3相臨床試験以上の開発薬が30種類あり、パイプラインが充実していることから、大手医薬品メーカーの中でも特に高い成長が期待されています。パイプラインの中で注目されているのは、糖尿病薬と肥満治療薬の「チルゼパチド」、アルツハイマー治療薬「ドナネマブ」、皮膚炎治療薬「レブリキズマブ」などです。特に肥満治療薬としての「チルゼパチド」は、被験者の体重が21%減少したとする第3相臨床試験の結果を発表して、市場の注目が高まっています。

・2022年12月期は、新型コロナの抗体医薬が約17億ドルの減収要因と見込まれていますが、これをカバーして増収が予想されています。2022年1-3月期は、「トルリシティ」「トルツ」および新型コロナの抗体医薬などが伸びて、売上は前年同期比15%増と好調で、通期の売上見通しを引き上げました。

買付チャートメルク(MRK)93.13ドル12.7

【主力のがん治療薬「キイトルーダ」が伸びる】

・世界売上4位の製薬会社です。2022年12月期は主力薬「キイトルーダ」に加えて、新型コロナの経口治療薬「ラゲブリオ」(一般名:モルヌピラビル)も売上拡大に貢献する見通しです。一方、2023年12月期は新型コロナ治療薬は減少して、全体も減収となる見込みです。主力の「キイトルーダ」は、適応拡大が続くことで2022年12月期に201億ドル、2023年12月期に230億ドル、2024年12月期に258億ドルと拡大の見通しです。

・2022年1-3月期の売上は、「キイトルーダ」が前年同期比23%増、「ガーダシル/ガーダシル9」が同59%増と伸びたうえ、「ラゲブリオ」の売上が加わって同50%増と極めて好調でした。業績好調を受けて通期の売上・調整後EPSとも上方修正しています。

買付チャートジョンソン & ジョンソン(JNJ)182.29ドル17.7

【世界最大級のヘルスケア企業】

・世界最大級のヘルスケア企業。ここ数年は売上が大きかった「レミケード」の特許切れが業績の重しとなりましたが、当面は特許切れによる大きな業績リスクはないとみられています。免疫学の「ステラーラ」「トレムフィア」、腫瘍学の「ダーザレックス」「イムブルビカ」などが売上の 伸びをけん引すると見込まれます。パイプライン(新薬候補)のラインナップも比較的強力であるとみられています。

・1-3月期決算は、売上が前年同期比5%増、調整後EPSが同3%増と堅調でした。医薬品部門の売上は、「ダーザレック ス」「トレムフィア」などが伸びて前年同期比6%増となりました。医療機器部門の売上が同6%増、消費者部門は同2%減でした。2022年12月期のガイダンスは、売上が前年比6.5~7.5%増(M&A、為替変動、新型コロナワクチン売上の影響を除くベース)、調整後EPSは10.6~10.8ドル、前年比8.2~10.2%増です。なお、新型コロナワクチンの売上予想を取り下げました。

買付チャートインターナショナル ビジネス マシーンズ(IBM)142.06ドル14.6

【低成長部門を分離して売上成長が向上】

・同社はレガシーシステムの大手であったことから、企業のIT投資が拡大しても売上が伸びにくい時期が続きましたが、インフラサービス事業(インフラのハードウェアは残っています)を2021年11月にキンドリルとして分離して売上の伸びが高まっています。今期予想売上成長率は、キンドリルを除いたベースで「一桁台半ばの高いほう」の伸びが想定されています。

・1-3月期売上は、分離したキンドリルを除いたベースで前年同期比8%増(為替の影響を除いて同11%増)と市場予想を3%ポイント上回り、調整後EPSは同25%増と好調でした。ハイブリッドクラウドとAIへの需要拡大を背景に、ソフトウェアが前年同期比12%増、コンサルティングが同13%増とけん引して、インフラストラクチャーの同2%減をカバーしました。

注:予想PERはBloomberg集計のコンセンサス予想EPSによります。使用した予想EPSの決算期は、いずれも2022年12月期です。
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

主要イベントの予定

  経済指標・イベント 企業決算・イベント
27(月) ・中国工業部門利益(5月)
・米耐久財受注(5月)
・米中古住宅販売成約(5月)
ナイキ
28(火) ・ユーロ圏景況感(6月)
・米実質GDP(1-3月期、確報値)
 
29(水) ・ユーロ圏景況感(6月)
・米実質GDP(1-3月期、確報値)
・北大西洋条約機構(NATO)首脳会議(マドリード、30日まで)
 
30(木) ・日本鉱工業生産(5月)
・中国製造業・非製造業PMI(6月)
・米個人所得・個人支出(5月)
・米個人消費支出物価指数(5月)
・米新規失業保険申請件数(6月25日に終わる週)
マイクロンテクノロジー、ウォルグリーンブーツアライアンス
7月
1(金)
・日銀短観(6月調査)
・中国財新製造業PMI(6月)
・米ISM製造業景気指数(6月)
・米ワーズ自動車販売台数(6月、2日までに発表)
 
4(月) ・米国休場(独立記念日)  
5(火) ・米製造業受注(5月)  
6(水) ・ユーロ圏小売売上高(5月)
・米ISM非製造業景気指数(6月)
・米求人労働異動調査(5月)
・FOMC議事要旨(6月14日、15日開催分)
 
7(木) ・チャレンジャー人員削減数(6月)
・米ADP雇用統計(6月)
・米新規失業保険申請件数(7月2日に終わる週)
 
8(金) ・米雇用統計(6月)
・米消費者信用残高(5月)
 

注:日付は現地時間によります。(E)はBloombergによる予想を示します。企業決算の赤字でのハイライトは、当社顧客保有人数の1~30位、青字のハイライトは31~50位を示します。
※Bloombergデータ、各種報道をもとにSBI証券が作成

※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。

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