アメリカNOW! 今週の5銘柄 ~ディフェンシブとして物色されている公益事業は絶対株価でも上昇している~
投資情報部 榮 聡
2022/07/04
先週は景気減速を示唆する材料がいくつも出たことで市場のリセッション懸念が強まり、株式相場は反落となりました。今週の株価材料として、企業のプロフィットウォーニング(業績ガイダンスの下方修正)、米国の経済指標、FOMC議事要旨、などが注目されます。
今回は事業に対する業績の感応度が低くディフェンシブとして物色される公益事業の銘柄から、公益事業セレクトセクターSPDRファンド(XLU)、デューク エナジー(DUK)、サザン(SO)、ドミニオン エナジー(D)、アメリカン エレクトリック パワー(AEP)を選んで今週の5銘柄といたします。
図表1 S&P500指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)
過去26日の仲値である「基準線」で上値を抑えられた一方、過去9日間の仲値である「転換線」が下値を支持した形です。ファンダメンタルズに大きな変化が無ければ、両線の間でもみ合いやすいと考えられます。
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表2 業種別指数騰落率・個別銘柄騰落率
S&P500業種指数騰落 | 5日 | 1ヵ月 | 3ヵ月 |
公益事業 | 4.1% | -2.8% | -4.0% |
エネルギー | 1.3% | -18.1% | -5.7% |
ヘルスケア | 0.4% | 0.1% | -5.3% |
生活必需品 | 0.3% | -0.5% | -4.8% |
不動産 | -0.5% | -4.9% | -15.3% |
資本財・サービス | -0.8% | -7.5% | -13.6% |
金融 | -1.5% | -8.1% | -16.2% |
S&P500 | -2.2% | -6.9% | -16.5% |
素材 | -3.1% | -14.0% | -16.7% |
情報技術 | -4.5% | -8.8% | -21.6% |
コミュニケーションサービス | -4.5% | -6.6% | -22.8% |
一般消費財・サービス | -4.7% | -8.5% | -26.7% |
騰落率上位(5日) | 騰落率 |
エクセロン | 6.4% |
デューク・エナジー | 4.9% |
サザン | 4.7% |
ユナイテッドヘルス・グループ | 4.4% |
チャーター・コミュニケーションズ | 3.8% |
騰落率下位(5日) | 騰落率 |
エヌビディア | -15.2% |
ナイキ | -10.4% |
セールスフォース | -9.5% |
ブッキング・ホールディングス | -8.4% |
ペイパル・ホールディングス | -8.1% |
注:個別銘柄の騰落率上位、下位はS&P100指数が母集団です。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
先週の米国株式市場
S&P500指数は週間で2.2%の反落となり、2022年上半期は20.6%下落して、1970年以来の下落率となりました。NYダウは週間で1.3%、ナスダック指数は4.1%の下落でした。
先週は景気減速を示唆する材料が以下に挙げるように複数でて、リセッション懸念が強まって反落基調となりました。
・米国の6月コンファレンスボード消費者信頼感指数が市場予想を下回って低下(6/28(火))
・バンクオブアメリカのアナリストが半導体の需要見通しを下方修正(6/29(水))
・米国の5月個人消費支出が前月比0.2%増と市場予想の同0.4%増を下回った(6/30(木))
・ISM製造業景気指数が市場予想を下回って低下(7/1(金))
一方、上昇した7/1(金)も景気への懸念が継続して米10年国債利回りが3%を割り込みましたが、3連休前のポジション調整の影響があったようです。
業種指数では、「公益事業」「ヘルスケア」「生活必需品」などディフェンシブが優位となる傾向が続き、相場全体が下落する中でプラスを確保しました。個別銘柄ではエヌビディア(NVDA)の下落が大きくなっています。アナリストによる半導体需要見通しの下方修正やマイクロンテクノロジーの弱い6-8月期売上ガイダンスの影響を受けたほか、暗号資産のマイニングに利用されるグラフィックカードの需要減の観測も影響しているようです。
経済指標では、米国の6月ISM製造業景気指数が53.0と前月の56.1から低下、市場予想の54.9も下回りました。新規受注が49.2、雇用が47.3と50を下回る水準まで低下したことが米10年国債利回りの低下につながったとみられます。一方、中国の6月非製造業PMIが54.7と前月の47.8から大幅に改善しました。新型コロナ行動制限の緩和が数字に表れてきたようです。製造業PMIも前月の49.6から50.2に改善しています。
今週の米国株式市場
先週の株価反発に最も効いたのは、世界的なリセッション懸念と原油価格の下落によるインフレ緩和の期待を受けた米10年国債利回りの低下と考えられます。その米10年国債利回りの一目均衡表をみると(図表3)、「雲」が下値支持帯となって動いていることが確認できます。「ファンダメンタルズの変化がなければ3%以下には下がりにくい」ことを示唆しており、今週は株式の戻り一服となる可能性もありそうです。
今週の株価材料として、企業のプロフィットウォーニング(業績ガイダンスの下方修正)、米国の経済指標、FOMC議事要旨、などが注目されます。
4-6月期末にかけては、企業のプロフィットウォーニングはさほど出ませんでした。しかし、決算が締まってから出る可能性もあるため、引き続き注意が必要でしょう。
先週はバンクオブアメリカのアナリストが半導体の需要見通しを下方修正するなど、アナリストの側からは業績に慎重な見方が出始めています。Bloombergが集計するS&P500指数の今期予想EPSは6/13(月)をピークに6/30(木)にかけて0.4%とわずかながら下方修正となっています。
経済指標では、7/6(水)の米国6月ISM非製造業景気指数は、製造業景気指数の悪化に続いて前月の55.9から54.0に悪化の予想です。7/8(金)の米国6月雇用統計では、非農業部門雇用者数は前月比27.3万人増の予想で、雇用市場の鈍化を示す見込みです。また、平均時給は前年比5.0%増の予想、前月の同5.2%増から鈍化の見込みです。
前回のFOMCでは0.75%ポイントの利上げが決まりました。パウエルFRB議長の会見では、「0.75%の利上げはまれ」「7月は0.5%または0.75%となる可能性が高い」と発言しています。
経済指標では上記のほか、7/5(火)に米国の5月製造業受注(前月比0.5%増の予想)、7/7(木)に米国の6月ADP雇用統計(前月比20.0万人増の予想)、などの発表が予定されています。
企業イベントでは、主要企業の決算発表はありませんが、アイダホ州サンバレーで開催されるメディアコンファレンスが注目されます。ワーナーブラザーズディスカバリー(AT&Tからスピンオフした会社)、ウォルトディズニー、ネットフリックスの各CEOのほか、ビルゲイツ氏、ウォーレンバフェット氏、イーロンマスク氏も参加の予定です。景気減速やストリーミングサービスの加入者鈍化などがトピックスとなる見込みで、ニュースとなりそうです。
今週の5銘柄
「スタグフレーション」あるいは「リセッション」が懸念される不安定な相場が続いていますので、今回は「公益事業」の銘柄をご紹介いたします。
「公益事業」は当局によって規制される事業が大半のため、持続的に大きな「超過利潤」が発生しにくく、一般的に株式の投資対象としては面白みに欠けます。景気が不安定なときにディフェンシブ性に注目して買ったのはいいが、相場全般が軟調で相対的にはアウトパフォームしても絶対水準ではあまり儲からなかったということがよくあります。
しかし、足もとでは意外ともいえる動きが出ています。図表3の通り米国市場が直近安値を付けた6/17(金)から7/1(金)までの上昇率は、S&P500指数が4.1%であるのに対して、公益事業指数は11.7%の上昇となっています。相場が反発した7/1(金)にも、公益事業指数は2.5%上昇して、業種別の上昇率はトップでした。
FRBによる積極的な利上げでドル高基調にある中、ドルを保有する需要から、景気感応度が低い公益事業株を保有する需要に派生している可能性が考えられます。
図表4はS&P500指数に採用されている「公益事業」の29銘柄から、時価総額上位10銘柄を抽出しています。米国の公益事業のETFである公益事業セレクトセクターSPDRファンド(XLU)に加え、図表4の銘柄からデュークエナジー(DUK)、サザン(SO)、ドミニオン エナジー(D)、アメリカン エレクトリック パワー(AEP)を選んで今週の5銘柄といたします。
図表3 公益事業銘柄が物色され、株価は絶対水準でも上昇
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表4 公益事業の主要銘柄(S&P500指数の公益事業銘柄、時価総額上位10銘柄)
コード | 銘柄名 | 株価 (6/30) (ドル) |
予想PER (倍) |
予想配当 利回り(%) |
今期予想 EPS修正率 (%) |
年初来 株価騰落 (%) |
目標株価 乖離率 (%) |
NEE | ネクステラ・エナジー | 77.46 | 29.0 | 2.2 | -4.6 | -17.0 | 15.6 |
DUK | デューク・エナジー | 107.21 | 19.5 | 3.7 | -0.2 | 2.2 | 7.0 |
SO | サザン | 71.31 | 20.2 | 3.8 | -10.1 | 4.0 | 4.7 |
D | ドミニオン・エナジー | 79.81 | 19.1 | 3.3 | -2.3 | 1.6 | 13.0 |
AEP | アメリカン・エレクトリック・パワー | 95.94 | 19.0 | 3.3 | -1.8 | 7.8 | 11.9 |
SRE | センプラ・エナジー | 150.27 | 17.6 | 3.1 | -6.5 | 13.6 | 14.6 |
EXC | エクセロン | 45.32 | 20.3 | 3.1 | -0.2 | 10.0 | 9.0 |
XEL | エクセル・エナジー | 70.76 | 22.0 | 2.8 | 0.3 | 4.5 | 7.0 |
ED | コンソリデーテッド・エジソン | 95.10 | 20.7 | 3.3 | -6.4 | 11.5 | -7.9 |
WEC | WECエナジー・グループ | 100.64 | 23.4 | 2.9 | -3.3 | 3.7 | 5.3 |
注:銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今週の注目銘柄
買付 | チャート | 銘柄 | 株価 (7/1) |
予想PER (倍) |
ポイント |
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買付 | 公益事業セレクト セクター SPDR ファンド(XLU) | 71.85ドル | - | 【米国公益事業のETF】 ・ステートストリートが提供するS&P500指数の公益事業セクター指数に連動を目指すETFです。組入れ銘柄数は29で、分野別の組入比率は電気64%、総合公益事業31%、水道、ガス・その他5%となっています(6月30日時点)。 ・ETF運用会社が計算する当ファンドの投資指標は、予想PERが20.2倍、配当利回りが2.89%です(6月30日時点)。基準価格のパフォーマンスは年初来+1.9%、過去1年で+15.8%、過去3年で+33.0%です(7月1日時点)。純資産は155億ドル、総経費率は0.11%です(6月30日時点)。 | |
買付 | デューク エナジー(DUK) | 109.62ドル | 20.1 | 【米国最大の電力会社】 ・ノースカロライナ、サウスカロライナ、フロリダ、インディアナ、オハイオ、ケンタッキーの6州で820万の顧客に電力を供給しています。ガスも160万の顧客に供給しています。成長投資の資金確保と財務的な弱さを解消することが課題となっており、インディアナの事業の持分売却を計画しています。 ・2022年12月期は売上が前年比4%増、EPSが同2%減の予想です。2026年までの調整後EPSの成長目標を5~7%としています。1-3月期の調整後EPSは前年同期比3%増でした。電力需要の増加を冬のストーム関連の費用が一部相殺しています。GAAPベースのEPSは石炭灰訴訟に関する引き当てを積んだことで同14%減でした。 | |
買付 | サザン(SO) | 73.14ドル | 20.6 | 【全米第2位の電力・ガス供給会社】 ・全米2位の電力・ガス供給会社です。ジョージア州を地盤に4州で900万の顧客にサービスを提供しています。2002年から2022年まで21年連続で増配を達成する見込みです。米国で30年ぶりの原子力発電所となるボーグル3号機、4号機が注目されています。パンデミックによって工事が遅れましたが、それぞれ2022年第4四半期~2023年第1四半期、2023年第3四半期~第4四半期の稼働開始の計画です。 ・2022年12月期は売上が前年比3%増、EPSが同10%減の予想です。1-3月期は燃料価格の上昇を反映して売上は前年同期比13%増と伸びたものの、保守運用費用の増加で調整後EPSは同1%減にとどまりました。 | |
買付 | ドミニオン エナジー(D) | 96.14ドル | 17.6 | 【バージニア地盤の総合公益事業】 ・バージニア州を地盤に16州で約700万の顧客に電気およびガスの供給を行う総合公益事業の会社です。売上の90%が規制事業からなります。2050年までに発電とガスインフラのカーボンニュートラルにコミットしており、この目的で2026年にかけて320億ドルの投資を行う計画です。 ・2022年12月期は売上が前年比20%増、EPSが同3%増の予想です。2026年までの年平均成長率としてEPSは6.5%、配当は6%を掲げています。1-3月期決算は、売上・営業利益とも前年同期比11%増と堅調でした。2022年9月期の調整後EPSガイダンスは3.95~4.25ドルで維持されました。 | |
買付 | アメリカン エレクトリック パワー(AEP) | 97.95ドル | 19.6 | 【米国最大級の電力会社】 ・米国最大級の電力会社です。供給地域はオハイオなど中西部とテキサスなど南部の2地域の合計11州で顧客数は約550万です。4万マイルの送電網は米国最大です。発電能力は約31ギガワットで、うち7.1ギガワットが再生エネルギーによります。2030年までに再生可能エネルギーによる発電を50%とする目標をかかげています。 ・2022年12月期は売上が前年比4%増、EPSが同1%減の予想です。1-3月期決算は、売上が前年同期比7%増、調整後EPSが同6%増と堅調でした。2022年12月期の会社ガイダンスは調整後EPSが4.87~5.07ドルで維持、6~7%の長期EPS成長率も確認されました。再生可能エネルギーへのシフトを進めるための投資資金を確保するため、ケンタッキー州の事業資産の売却を進めています。 |
注:予想PERはBloomberg集計のコンセンサス予想EPSによります。使用した予想EPSの決算期は、ドミニオンエナジーが2023年9月期、その他は2022年12月期です。
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
主要イベントの予定
経済指標・イベント | 企業決算・イベント | |
4(月) | ・米国市場休場(独立記念日) | |
5(火) | ・米製造業受注(5月) | |
6(水) | ・ユーロ圏小売売上高(5月) ・米ISM製造業景気指数(6月) ・米求人労働異動調査(5月) ・FOMC議事要旨(6月14日、15日開催分) |
|
7(木) | ・チャレンジャー人員削減数(6月) ・米ADP雇用統計(6月) ・米新規失業保険申請件数(7月2日に終わる週) |
|
8(金) | ・米雇用統計(6月) ・米消費者信用残高(5月) |
|
9(土) | ・中国生産者・消費者物価指数(6月) | |
11(月) | ・日本機械受注(5月) ・日本工作機械受注(6月) |
|
12(火) | ・ドイツZEW景況感指数(7月) ・米NFIB中小企業楽観指数(6月) |
ペプシコ |
13(水) | ・中国貿易統計(6月) ・ユーロ圏鉱工業生産(5月) ・米消費者物価指数(6月) |
|
14(木) | ・米生産者物価指数(6月) ・米新規失業保険申請件数(7月9日に終わる週) |
台湾セミコンダクター、デルタ航空(E)、JPモルガンチェース モルガンスタンレー、ブラックロック |
15(金) | ・中国鉱工業生産・小売売上高・固定資産投資(6月) ・EU27ヵ国新車登録台数(6月) ・ニューヨーク連銀製造業景気指数(7月) ・米小売売上高(6月) ・米鉱工業生産(6月) ・ミシガン大学消費者信頼感指数(7月) |
ユナイテッドヘルスグループ、シティグループ、ウェルズファーゴ |
注:日付は現地時間によります。(E)はBloombergによる予想を示します。企業決算の赤字でのハイライトは、当社顧客保有人数の1~30位、青字のハイライトは31~50位を示します。
※Bloombergデータ、各種報道をもとにSBI証券が作成
※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。
免責事項・注意事項
・本資料は投資判断の参考となる情報提供のみを目的として作成されたもので、個々の投資家の特定の投資目的、または要望を考慮しているものではありません。投資に関する最終決定は投資家ご自身の判断と責任でなされるようお願いします。万一、本資料に基づいてお客さまが損害を被ったとしても当社及び情報発信元は一切その責任を負うものではありません。本資料は著作権によって保護されており、無断で転用、複製又は販売等を行うことは固く禁じます。
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