アメリカNOW! 今週の5銘柄 ~「インフレ抑制法」で恩恵が期待される環境関連銘柄~

アメリカNOW! 今週の5銘柄 ~「インフレ抑制法」で恩恵が期待される環境関連銘柄~

投資情報部 榮 聡

2022/08/22

先週は高値警戒感が高まっていたところに堅調な小売売上高が金利上昇をまねき、利食いが優勢となる流れとなりました。今週のジャクソンホール会合に対する警戒もあったとみられます。今週の株価材料として、ジャクソンホール会合、小売企業決算の第2波、米国の経済指標、などが注目されます。

今回は「インフレ抑制法」の成立で恩恵が期待される銘柄から、テスラ(TSLA)iシェアーズ Globalクリーンエナジー ETF(ICLN)エンフェーズ エナジー(ENPH)ソーラーエッジ テクノロジー(SEDG)コンソリデーテッド エジソン(ED)を選んで今週の5銘柄といたします。

図表1 S&P500指数のローソク足(日足、6ヵ月)

200日移動平均線が上値抵抗となっています。さらに下押す場合は、6月初旬の高値4,150ポイント辺りが一旦下値支持ラインとして期待できますが、上向きに転じている50日移動平均線まで押す可能性もありそうです。4,000ポイント辺りは、6月半ばから8月半ばにかけての上昇の半値押しの水準でもあります。

※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成

図表2 業種別指数騰落率・個別銘柄騰落率

S&P500業種指数騰落 5日 1ヵ月 3ヵ月
生活必需品 1.9% 4.9% 9.0%
公益事業 1.2% 11.5% 8.4%
エネルギー 1.0% 11.2% -2.5%
ヘルスケア -0.6% 2.3% 2.4%
資本財・サービス -1.0% 9.1% 10.2%
S&P500 -1.2% 6.7% 8.4%
一般消費財・サービス -1.6% 8.5% 19.9%
情報技術 -1.7% 7.9% 13.3%
金融 -1.7% 6.6% 6.1%
不動産 -1.9% 5.6% 5.5%
素材 -2.5% 5.4% -3.8%
コミュニケーションサービス -3.3% 4.8% 1.6%
騰落率上位(5日) 騰落率
イーライリリー 4.8%
シスコシステムズ 4.5%
ギリアド・サイエンシズ 3.8%
コルゲート・パルモリーブ 3.7%
ウォルマート 3.6%
騰落率下位(5日) 騰落率
メタ・プラットフォームズ -6.9%
ウォルグリーン・ブーツ・アライアンス -5.8%
ブラックロック -5.1%
チャーター・コミュニケーションズ -4.9%
テキサス・インスツルメンツ -4.8%

注:個別銘柄の騰落率上位、下位はS&P100指数が母集団です。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成

先週の米国株式市場

S&P500指数は週間で1.2%、NYダウは0.2%、ナスダック指数は2.6%の下落で、5週ぶりの反落でした。S&P500指数が200日移動平均線に接近して高値警戒感が高まっていた中、7月小売売上高が堅調となって米10年国債利回の上昇が継続したことで相場反転の流れができたとみられます。

8/15(月)は中国の7月鉱工業生産、小売売上高が市場予想を下回り、8月NY連銀製造業景気指数が大幅なマイナスに落ち込みましたが、ディフェンシブ株が買われて全体はプラスを維持しました。8/16(火)はウォルマート、ホームデポの決算が好感されてS&P500指数は200日移動平均線にタッチしたものの、高値警戒から引けにかけて利食いが優勢となりました。

8/17(水)のFOMC議事要旨は波乱なく通過したものの、7月小売売上高はコアが堅調で米10年国債利回りが上昇して下落しました。8/18(木)はシスコシステムズの業績見通しが好感されてハイテク株に買いが入って小幅反発、しかし、8/19(金)は米10年国債利回りの上昇が続いてグロース株を中心に売り込まれました。

業種指数では、市場の高値警戒を反映して「生活必需品」「公益事業」などディフェンシブが優位となりました。個別銘柄では、シスコ システムズ(CSCO)が騰落上位の2位でした。5-7月期の実績売上が前年同期比0%に対して、8-10月期は同2~4%増、23年7月期は前年比4~6%増と売上モメンタムが改善するとのガイダンスが好感されました。中国のロックダウンによるサプライチェーン問題の影響が低下することが背景です。

経済指標では、米国の7月小売売上高がヘッドラインでは前月比0%と市場予想の同0.1%増を下回ったものの、自動車とガソリンを除くコアでは同0.7%増と市場予想の同0.4%増を上回り、消費の堅調を示しました。

今週の米国株式市場

米国株式市場は200日移動平均線が上値抵抗となって反落しており、目先は下値模索となる可能性が高そうです。図表3に年初来のS&P500指数の予想EPSと予想PERの推移をプロットしていますが、年初来の株価の動きは、ほぼ予想PERの動きで説明できることが確認できます。インフレ高進とFRBの利上げ姿勢の高まりで6月半ばまで予想PERは低下、その後はインフレピークアウトとFRBの利上げ姿勢の緩和に対する期待で予想PERが上昇に転じました。

予想EPSについては、これまで株価へのインパクトが小さかったと言えます。しかし、ここにきて相場を見るうえで重要性が増しています。というのは、景気減速とドル高による売上の目減りを背景にS&P500指数の予想EPSが下方修正されつつあるためです。

予想PERの水準は金利だけでなく、予想EPSがどの程度のペースで成長しているかにもよります。EPSが下方修正されつつあるような環境では、予想PERの回復にも限界があると考えておいたほうがよいでしょう。年内の相場の戻りはもっと大きいものと考えられますが、それはEPSの下方修正が落ち着いてからになると考えられます。

今週の株価材料として、ジャクソンホール会合、小売企業決算の第2波、米国の経済指標、などが注目されます。

ジャクソンホール会合は、カンザスシティ連銀が主催する年次経済シンポジウムで、世界の中央銀行関係者が参加します。8/25(木)から8/27(土)にかけて開催され、特に8/26(金)のパウエルFRB議長講演が注目されています。

米国のインフレのピークアウトはほぼ確実とみられますが、まだインフレの水準は7月消費者物価指数が前年比8.5%増と高いため、FRBの利上げペースが9月以降にどのくらい低下するかについては、市場参加者の見方も分かれているようです。これに関してジャクソンホールでの議論によってコンセンサスが形成される可能性があります。

小売企業の決算は、百貨店のメーシーズとノードストローム、ドルショップのダラーゼネラルとダラーツリー、また、ディックススポーティンググッズ、ギャプ、Petcoヘルスアンドウェルネスカンパニー、アルタビューティなどの発表が予定されています。個別の投資対象というよりも、マクロ的な消費市場を判断するうえで注目されているとみられます。

米国の経済では、8/25(木)に米国の4-6月期実質GDP(前期比年率0.9%減の予想、速報値は同0.9%減)、8/26(金)に米国の7月個人消費支出物価指数(前年比6.4%増、前月は同6.8%増)、同コア指数(前年比4.7%増予想、前月は同4.8%増)が注目です。

経済指標では上記のほか、8/23(火)に米国の7月新築住宅販売件数(前月比2.5%減の予想)、8/24(水)に米国の7月耐久財受注(前月比0.8%増の予想)などの発表が予定されています。

企業イベントでは上記のほか、ズームビデオコミュニケーションズ、エヌビディア、セールスフォースドットコム、ニオ(E)などの決算発表が予定されています。

今週の5銘柄

今回は8/16(火)にバイデン大統領の署名で成立した「インフレ抑制法」(Inflation Reduction Act)で恩恵が期待される環境関連銘柄をご紹介します。

同法は2021年末に不成立となった法案「ビルド・バック・ベター」がもとになっており、当時反対して不成立の原因となったマンチン上院議員を説得、規模を縮小しての成立となりました。

「インフレ抑制法」はホワイトハウスが有権者にインフレへの対応をアピールするための通称で、一部メディアでは「歳出・歳入法」とも表記されています。歳出の4,370億ドルのうち85%に当たる3,700億ドルを気候変動対策に充てるため、環境関連銘柄への追い風が期待されます。

テスラ(TSLA)、iシェアーズ Globalクリーンエナジー ETF(ICLN)、エンフェーズ エナジー(ENPH)、ソーラーエッジ テクノロジー(SEDG)、コンソリデーテッド エジソン(ED)を選んでご紹介いたします。

図表3 PERの戻り度合いにEPSの下方修正が影響する可能性が

※BloombergデータをもとにSBI証券が作成

今週の注目銘柄

買付 チャート 銘柄 株価
(8/19)
予想PER
(倍)
ポイント
買付チャートテスラ(TSLA)890.00ドル71.2

【エコカー控除の拡大から恩恵】

・「インフレ抑制法」によってメーカー当たり20万台の控除の上限が2023年1月から撤廃されます。このため、EVの生産台数が大きいテスラがエコカー控除の恩恵が大きくなります。また、同社は太陽光発電関連の事業を保有しており、同事業も恩恵を受けます。

・4-6月期は売上が上海工場のロックダウンで1-3月期からは13%の減収となったものの前年同期比では42%増、EPSは同57%増と伸びました。粗利率も25.0%と前年同期の24.1%から改善しており、原材料高による利益率悪化の圧力をかわしています。営業費用は同13%増に抑えられて、利益は市場予想を大きく上回り、通期のコンセンサス予想EPSが引き上げられています。

買付チャートiシェアーズ Globalクリーンエナジー ETF(ICLN)22.54ドル

【クリーンエネルギーのETF】

・運用会社のブラックロックが提供するクリーンエネルギー関連銘柄に投資するETFです。グローバルに投資しますが、米国銘柄の組み入れ比率が47%と国別で圧倒的に大きくなっているため、「インフレ抑制法」の関連銘柄として投資できるでしょう。また、米国要因だけでなく、ロシア産エネルギーの使用抑制から欧州の関連銘柄にも追い風が吹いています。

・クリーンエネルギー生産会社、クリーンエネルギー機械及び技術提供者などに投資します。上位組み入れ銘柄は、以下にご紹介する3銘柄などです。純資産総額は57.2億ドル(8月19日)、ポートフォリオの実績PERは38.1倍(8月18日)と高めになっています。

買付チャートエンフェーズ エナジー(ENPH)283.70ドル70.2

【太陽光発電向けインバーター】

・上記クリーンエネルギーETFの組み入れトップ銘柄です(9.8%、8月18日)。原油価格の上昇やロシアからの調達減少懸念から太陽光発電の需要が拡大しており、その恩恵を受けています。4-6月期売上は前年同期比68%増で、1-3月期比でも同20%増と伸びが加速しています。米国市場、海外市場とも市場予想を上回る売上を記録しました。

・同社は2006年にカリフォルニアで創業した家庭用の太陽光発電向けに直流を交流に変換するマイクロ・インバータを主力製品とする企業です。マイクロ・インバータは、小型化することで個々の太陽光パネルの裏に取り付けることができるインバータで、従来の複数の太陽光パネルを束ねて一つのインバータで変換する方式に比べて発電パフォーマンスを効率化できるものです。

買付チャートソーラーエッジ テクノロジー(SEDG)300.33ドル53.7

【太陽光発電向けインバーターの最大手】

・上記クリーンエネルギーETF、ICLNの組み入れ2位です(6.9%、8月18日)。家庭や商業施設の太陽光発電で使われるインバータ(直流電流を交流電流に変換する装置)を製造販売する企業。同市場で売上のシェア拡大が続いており、2014年の世界10位、2017年の世界4位から2020年には世界1位にのぼり詰めています。主力製品の「DCオプティマイズドPVインバータ」は2010年以来、34.2ギガワット分の出荷実績があります。4,360名以上の従業員を擁し、34ヵ国に事業所を展開しています。

・2022年の世界の太陽光発電需要は前年比30%以上の増加が見込まれており、インバーターでトップシェアをもつ同社の売上は前年比57%増が予想されています。4-6月期の売上は前年同期比52%増、1-3月期比でも11%増でした。一方、コスト増とドル高の影響を受けて調整後の粗利率が26.7%と、前年同期の33.9%から低下、調整後営業利益は同4%増にとどまりました。

買付チャートコンソリデーテッド エジソン(ED)100.55ドル22.3

【米国最大級の太陽光発電能力をもつ電力】

・上記クリーンエネルギーETF、ICLNの組み入れ5位です(5.3%、8月18日)。ニューヨーク州を中心に展開する電力中堅。主要子会社のCECONYは、ニューヨーク市とウエストチェスター郡で約330万世帯に電気、約110万世帯にガスを供給しています。同社は卸売市場で電力を調達して送電・配電に特化した会社です。また、クリーンエネルギー事業にも展開しており、太陽光発電の能力では北米最大級です。48年の連続増配を記録しています。

・同社はニューヨーク市を主市場としていることもあり、パンデミックでは他の電力企業よりも悪影響を大きく受けましたが、2022年12月期の利益はパンデミック前2019年12月期の水準まで回復する見込みです。景気減速局面では、公益事業本来のディフェンシブ性を発揮すると期待されます。4-6月期決算は売上が前年同期比15%増、調整後EPSは同21%増と堅調です。2022年12月期の調整後EPSガイダンスは、4.4~4.6ドルで維持されました。

注:予想PERはBloomberg集計のコンセンサス予想EPSによります。使用した予想EPSの決算期は、いずれも2022年12月期です。
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

主要イベントの予定

  経済指標・イベント 企業決算・イベント
22(月) ・シカゴ連銀全米活動指数(7月) ズームビデオコミュニケーションズ
23(火) ・auじぶん銀行日本製造業PMI(8月)
・S&Pグローバルユーロ圏製造業PMI(8月)
・S&Pグローバル米国製造業PMI(8月)
・米新築住宅販売件数(7月)
 
24(水) ・米耐久財受注(7月)
・米中古住宅販売成約(7月)
エヌビディアセールスフォースドットコム
25(木) ・ドイツIFO企業景況感(8月)
・ジャクソンホール会合(27日まで)
(カンザスシティ連銀主催の年次シンポジウム)

・米実質GDP(4-6月期、改定値)

・米新規失業保険申請件数(8月20日に終わる週)
ニオ(E)、ダラーゼネラル、ダラーツリー、アルタビューティ
26(金) ・パウエルFRB議長の講演(ジャクソンホール会合)
・米個人所得・個人支出(7月)
・米個人消費支出物価指数(7月)
・米ミシガン大学消費者物価指数(8月、確報値)
 
29(月)    
30(火) ・ユーロ圏景況感(8月)
・S&Pコアロジック住宅市場指数(6月)
・コンファレンスボード消費者信頼感(8月)
・米求人労働異動調査(7月)
クラウドストライクホールディングス、ベストバイ
ノルディックアメリカンタンカーズ
31(水) ・日本鉱工業生産(7月)
・中国製造業・非製造業PMI(8月)
 
9月
1(木)
・財新中国製造業PMI(8月)
・米チャレンジャー人員削減数(8月)
・米新規失業保険申請件数(8月27日に終わる週)
・ISM製造業景気指数(8月)
・米自動車販売台数(8月)
ブロードコム
2(金) ・米雇用統計(8月)
・米製造業受注(7月)
 

注:日付は現地時間によります。(E)はBloombergによる予想を示します。企業決算の赤字でのハイライトは、当社顧客保有人数の1~30位、青字のハイライトは31~50位を示します。
※Bloombergデータ、各種報道をもとにSBI証券が作成

※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。

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