アメリカNOW! 今週の5銘柄 ~米国株に押し目買いのチャンス到来!?テスラ、イーライ リリィ、アメックス、ビザ、コストコ~
投資情報部 榮 聡
2022/08/29
先週は市場で警戒されていた通りながら、ジャクソンホール会合での米金融当局者の発言がタカ派と捉えられて大幅続落となりました。今週の株価材料として、米雇用統計、米中の企業景況感、欧州経済に関するアップデート、などが注目されます。
今回は来期予想EPSが前年比10%増以上で過去3ヵ月に今期予想EPSが上方修正されている銘柄から、テスラ(TSLA)、イーライ リリィ(LLY)、 アメリカン エキスプレス(AXP)、ビザ A(V)、コストコ ホールセール(COST)を選んで今週の5銘柄といたします。
図表1 S&P500指数のローソク足(日足、6ヵ月)
下値支持ラインとして、上向きに転じている50日移動平均線に期待できそうです。4,000ポイント辺りは、6月半ばの安値から8月半ばの高値にかけての上昇幅の半値押しの水準でもあります。
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表2 業種別指数騰落率・個別銘柄騰落率
S&P500業種指数騰落 | 5日 | 1ヵ月 | 3ヵ月 |
エネルギー | 4.3% | 5.1% | -5.9% |
素材 | -1.3% | -0.1% | -10.4% |
公益事業 | -2.6% | 2.0% | 0.6% |
生活必需品 | -3.3% | -0.2% | -0.7% |
資本財・サービス | -3.4% | -0.3% | 0.1% |
金融 | -3.6% | -0.1% | -5.3% |
不動産 | -3.8% | -3.1% | -4.1% |
S&P500 | -4.0% | -1.8% | -2.4% |
ヘルスケア | -4.3% | -4.0% | -5.1% |
一般消費財・サービス | -4.7% | -2.1% | 4.5% |
コミュニケーションサービス | -4.8% | -2.7% | -6.7% |
情報技術 | -5.6% | -3.1% | -1.0% |
騰落率上位(5日) | 騰落率 |
コノコフィリップス | 6.6% |
シュルンベルジェ | 6.2% |
エクソンモービル | 4.0% |
シェブロン | 3.6% |
キンダー・モルガン | 1.4% |
騰落率下位(5日) | 騰落率 |
3M | -11.1% |
アドビ | -10.4% |
セールスフォース | -10.1% |
エヌビディア | -8.9% |
ブッキング・ホールディングス | -8.4% |
注:個別銘柄の騰落率上位、下位はS&P100指数が母集団です。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
先週の米国株式市場
S&P500指数は週間で4.0%、NYダウは4.2%、ナスダック指数は4.4%の大幅下落でした。
8/22(月)はジャクソンホール会合に対する警戒から先週末の流れが継続、米10年国債利回りが3%台に上昇して株価は大幅続落となりました。8/23(火)、8/24(水)は、急速な株価調整を経て、ジャクソンホール会合を前に様子見姿勢が強まりました。
8/25(木)は3.1%台まで上昇していた米10年国債利回りが3.0%台前半に低下して株価は大幅上昇しました。しかし、8/26(金)はジャクソンホール会合でのパウエルFRB議長がタカ派的と捉えられて大幅下落となりました。
パウエルFRB議長は講演で、成長鈍化などの痛みを伴ったとしてもインフレが抑制されるまで当面金融引き締めが必要という見解を示しました。痛みが増大してもFRBが早期に緩和にシフトすることを想定すべきではないとし、市場で台頭しつつある来年の利下げ予想をけん制した形です。
業種指数では、「エネルギー」のみ上昇しました。イランが国際石油市場に復帰する可能性が出てきたことに対し、OPECプラスが減産を示唆したことで原油価格が反発となりました。下位の「情報技術」「コミュニケーションサービス」「一般消費財・サービス」は、GAFAMやテスラなど大型成長株の下落が主導しています。
経済指標では、7月新築住宅販売件数が前月比12.6%減(市場予想は同2.5%減)、8月S&PグローバルサービスPMIが44.1(市場予想は49.8)に落ち込み、7月個人消費支出が前月比0.1%増(市場予想は同0.4%増)にとどまるなど、低調でした。一方、物価指標は、7月個人消費支出物価指数が前年比6.3%増(前月は同6.8%増)、同コア指数は同4.6%増(前月は同4.8%増)と引き続きインフレピークアウトを示唆するものとなりました。
今週の米国株式市場
米国株式市場の過去2週間の調整は、FRBによる利上げ姿勢の後退について、市場が過度に楽観的になっていたことの反動と考えられます。また、ファンダメンタルズからみても、S&P500指数の通期予想EPSが下方修正傾向となっている中で、予想PERが19倍近くまで回復したのは、スピード違反だったとみられます。
一方、年初からの株価下落の主因である、インフレ高進が6月以降に出た物価指標でピークアウトを示唆していることは確かで、6月半ばの安値を割り込むリスクは小さいと考えられます。このため、50日移動平均線を下値支持ラインとして期待できると考えられ、押し目買いスタンスでよいとみられます。
今週の株価材料として、米雇用統計、米中の企業景況感、欧州経済に関するアップデート、などが注目されます。
米国の8月雇用統計で非農業部門雇用者数は前月比30万人増が見込まれています。3月~6月は前月比30万人台後半の増加であったのに対して、7月は同52.8万人と突出した増加となりましたが、8月は従来トレンドへの回帰が見込まれています。
ジャクソンホール会合での金融当局者のスタンスがタカ派的と捉えられたため、予想以上に強い数字が出ると相場にはネガティブとなる可能性がありそうです。
8/31(水)に発表予定の中国8月製造業PMIは、前月の49.0から49.2に改善の予想の一方、非製造業PMIは前月の53.8から52.8に悪化の予想です。中国の企業景況感は、ロックダウンの影響で落ち込んだ4月からの回復の動きが停滞気味となっています。9/1(木)の米国8月ISM製造業景気指数は、前月の52.8から52.4に悪化の予想です。この程度の悪化なら相場にニュートラルと考えられます。
欧州経済については、大きく悪化するのではとの懸念が高まっており、他地域に波及する可能性が気にされています。ドイツの7月生産者物価指数が前年比37.2%増となって、他の先進国とレベルの違うインフレの影響が心配されています。また、過去500年で最悪とされる干ばつの影響、また、定期点検のため8/31(水)~9/2(金)に停止される「ノルドストリーム1」がスムーズに再稼働となるか、などが注目されます。
経済指標では上記のほか、8/30(火)に米国の8月コンファレンスボード消費者信頼感指数(前月の95.7から97.7に改善の予想)、8/31(水)に米国の8月ADP雇用統計(前月比30万人増の予想)、などの発表が予定されています。
企業イベントでは、クラウドストライクホールディングス、ベストバイ、ノルディックアメリカンタンカーズ、ブロードコム、キャンベルスープ、などの決算発表が予定されています。
今週の5銘柄
今回は米国市場が8/16(火)高値から8/26(金)終値まで6%以上の調整となったため、主要銘柄で押し目買いできそうな銘柄をスクリーニングで探してみました。
スクリーニング条件は、
(1)来期EPSが10%以上伸びる予想となっている・・・成長の要素がある銘柄を選ぶ意図です
(2)今期の通期EPSが過去3ヵ月に上方修正されている・・・足もとの業績動向が堅調な銘柄を選ぶ意図です
(3)S&P100指数採用銘柄・・・米国の主要銘柄から選ぶ意図です
今回の決算発表では、景気減速やドル高による売上・利益の目減りによって通期EPS予想が下方修正された銘柄が多く、100銘柄中で上方修正となったものは17銘柄にとどまりました。そのため、このスクリーニングでは(2)の条件が強く効いています。
図表3に抽出された銘柄から、テスラ(TSLA)、イーライ リリィ(LLY)、アメリカン エキスプレス(AXP)、ビザ A(V)、コストコ ホールセール(COST)を選んでご紹介いたします。
図表3 業績堅調銘柄のスクリーニング(S&P100指数採用銘柄対象)
コード | 銘柄名 | 今期予想 EPE増加率 (%) |
来期予想 EPS増加率 (%) |
今期EPS修正率 (3ヵ月) (%) |
株価騰落 (5日) (%) |
株価 (8/25) (ドル) |
予想PER (倍) |
TSLA | テスラ | 71.9 | 39.1 | 1.1 | -2.2 | 296.1 | 57.5 |
USB | USバンコープ | -10.6 | 19.7 | 1.7 | -2.6 | 47.8 | 10.3 |
LLY | イーライリリー | -2.3 | 15.8 | 0.6 | 2.0 | 323.1 | 40.4 |
AXP | アメリカン・エキスプレス | 4.6 | 14.9 | 0.3 | -1.5 | 162.2 | 16.2 |
CHTR | チャーター・コミュニケーションズ | 27.3 | 14.8 | 5.4 | -4.3 | 438.5 | 12.8 |
V | ビザ | 14.9 | 13.5 | 2.3 | -2.5 | 209.8 | 26.1 |
FDX | フェデックス | 18.4 | 10.2 | 0.1 | -2.9 | 228.0 | 10.1 |
COST | コストコホールセール | 9.3 | 10.0 | 0.9 | -1.8 | 550.8 | 39.5 |
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今週の注目銘柄
買付 | チャート | 銘柄 | 株価 (8/26) |
予想PER (倍) |
ポイント |
---|---|---|---|---|---|
買付 | テスラ(TSLA) | 288.09ドル | 69.6 | 【エコカー控除の拡大から恩恵】 ・8/16(火)に成立した「インフレ抑制法」によってメーカー当たり20万台の控除の上限が2023年1月から撤廃されます。このため、EVの生産台数が大きいテスラがエコカー控除の恩恵が大きくなります。また、同社は太陽光発電関連の事業を保有しており、同事業も恩恵を受けます。 ・4-6月期は売上が上海工場のロックダウンで1-3月期からは13%の減収となったものの前年同期比では42%増、EPSは同57%増と伸びました。粗利率も25.0%と前年同期の24.1%から改善しており、原材料高による利益率悪化の圧力をかわしています。営業費用は同13%増に抑えられて、利益は市場予想を大きく上回り、通期のコンセンサス予想EPSが引き上げられています。 | |
買付 | イーライ リリィ(LLY) | 315.56ドル | 39.1 | 【4-6月期の業績不振は一時的の可能性】 ・4-6期の売上は前年同期4%減で、市場予想に対しても5%下回って不振でした。しかし、会社は特許切れを受けて前年同期63%減となった「アリムタ」、前年同期に発生した中国での販売権売却、新型コロナ抗体薬の減収などの影響を除いたコアビジネスは前年同期6%の増収だったとコメント。不振は一時的であることを強調、アナリストも大きな下方修正はしていません。 ・研究開発重視の会社で、2021年12期には売上の25%を研究開発に投入しています。第3相臨床試験以上の開発薬が30種類あり、パイプラインが充実していることから、大手医薬品メーカーの中でも特にい成が期待されています。パイプラインの中で注目されているのは、糖尿病薬と肥満治療薬の「チルゼパチド」、アルツハイマー治療薬「ドナネマブ」、膚炎治療薬「レブリキズマブ」などです。 | |
買付 | アメリカン エキスプレス(AXP) | 157.31ドル | 16.0 | 【経済再開の恩恵を受ける】 ・4-6月期決算は、経済再開の恩恵を受けて売上が前年同期比31%増、EPSは同8%減となったものの、売上・EPSとも市場予想を7%上回りました。通期の売上ガイダンスを前年比18~20%増から同23~25%増に引き上げています。会社は通期のEPSガイダンスを据え置きましたが、売上動向からみて上方修正含みと考えられます。 ・ビザやマスターカードが決済ネットワークのみを提供するのに対して、同社はクレジットカードを発行して消費者に融資を行います。業態としては銀行に近い消費者金融です。このため、需要回復時の業績への恩恵は決済ネットワークに比べて大きくなる傾向があります。また、同社のカード利用者の所得水準は平均よりも高いとされ、インフレ高進による消費への打撃を受けにくいと考えられます。 | |
買付 | ビザ A(V) | 202.89ドル | 24.1 | 【経済再開の恩恵を受ける】 ・マスターカードとともにクレジットカードの決済ネットワークを提供し、世界市場を寡占しています。中間所得層の増加によるカード保有者の増加、カード決済の普及などから安定成長が期待されています。足もとでは、世界的な経済再開の進展とともにカード利用の回復が進んでいます。 ・4-6?期決算は、景気の不透明感、ドル高進?、ロシア事業の停?などの様々な逆風の中でしたが、売上が前年同期比19%増(為替の影響は3%ポイントのマイナス)、EPSが同33%増と好調でした。本国外でのカード利用で発生するクロスボーダー取引額は前年同期比28%増(為替の影響を除いて同40%増)となり、2020年に新型コロナのパンデミックが発生して以降初めて2019年の水準を回復しました。CEOは「消費者は世界の?々を訪ね始めている。」とコメントしています。 | |
買付 | コストコ ホールセール(COST) | 531.82ドル | 36.9 | 【月次売上が堅調に推移】 ・3-5月期の決算は売上が前年同期比16.3%増、EPSが同10.5%増と堅調でした。ガソリン価格の変動と為替の影響を除く既存店売上は、3-5月期(5月9日に終わる12週)が前年同期比10.8%増、5月が前年比11.8%増、6月同13.0%増、7月同7.0%増となっています。伸びが鈍化した7月は日並びの影響でショッピングデーが1日少なくなった影響を含むことから、概ね堅調に推移していると言えそうです。6-8月期の決算発表は9/23(金)の予定です。 ・同社は世界で829の倉庫型店舗を展開、1.17億人の会員を獲得し、売上が世界第3位の小売企業です(2022年第3四半期末)。世界的にみて小売業の競争が激しく、レベルの高い日本で順調に店舗数を増やしていることからも、同社の競争力の高さがうかがえます。同社の販売価格は通常の小売店よりも安いため、インフレによる消費者の行動変化からネガティブな影響を受けにくいと考えられます。 |
注:予想PERはBloomberg集計のコンセンサス予想EPSによります。使用した予想EPSの決算期は、ビザが2023年9月期、コストコホールセールが2023年8月期、その他は2022年12月期です。
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
主要イベントの予定
経済指標・イベント | 企業決算・イベント | |
29(月) | ||
30(火) | ・ユーロ圏景況感(8月) ・S&Pコアロジック住宅市場指数(6月) ・コンファレンスボード消費者信頼感(8月) ・米求人労働異動調査(7月) |
クラウドストライクホールディングス、ベストバイ ノルディックアメリカンタンカーズ |
31(水) | ・日本鉱工業生産(7月) ・中国製造業・非製造業PMI(8月) ・ADP雇用統計(8月) |
|
9月 1(木) |
・財新中国製造業PMI(8月) ・米チャレンジャー人員削減数(8月) ・米新規失業保険申請件数(8月27日に終わる週) ・ISM製造業景気指数(8月) ・米自動車販売台数(8月) |
ブロードコム、キャンベルスープ |
2(金) | ・米雇用統計(8月) ・米製造業受注(7月) |
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5(月) | ・米国休場(レイバーデー) ・ユーロ圏小売売上高(7月) |
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6(火) | ・米ISM非製造業景気指数(8月) | |
7(水) | ・中国貿易統計(8月) ・ユーロ圏実質GDP(4-6月期、確報値) ・米貿易統計(7月) ・米地区連銀経済報告(ベージュブック) |
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8(木) | ・日本実質GDP(4-6月期、改定値) ・ECB主要政策金利 ・米新規失業保険申請件数(9月3日に終わる週) ・米消費者信用残高(7月) |
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9(金) | ・中国生産者・消費者物価指数(8月) ・中国資金調達総額(8月、15日までに発表) ・米家計純資産変化(2Q) |
注:日付は現地時間によります。(E)はBloombergによる予想を示します。企業決算の赤字でのハイライトは、当社顧客保有人数の1~30位、青字のハイライトは31~50位を示します。
※Bloombergデータ、各種報道をもとにSBI証券が作成
※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。
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