アメリカNOW! 今週の5銘柄 ~欧州のガス問題がこじれなければ、米国株に押し目買いのチャンス続く~

アメリカNOW! 今週の5銘柄 ~欧州のガス問題がこじれなければ、米国株に押し目買いのチャンス続く~

投資情報部 榮 聡

2022/09/05

先週はジャクソンホール会合での米金融当局者のタカ派発言を受けて、米長期金利が上昇、株式が下落する流れが継続しました。今週の株価材料として、欧州のガス供給の問題、米金融当局者の発言、中国経済の動向、などが注目されます。

今回は米国株式市場が底入れした6/16(木)から直近までの株価上昇が20%を超えている銘柄から、アップル(AAPLアマゾンドットコム(AMZNテスラ(TSLA)ネクステラ エナジー(NEE)ネットフリックス(NFLX)を選んで今週の5銘柄といたします。

図表1 S&P500指数の一目均衡表(日足、6ヵ月)

筆者が下値支持ラインと想定していた50日移動平均線の4,000ポイントは下回りましたが、かろうじて一目均衡表の「雲」の下限では止まっています。
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成

図表2 業種別指数騰落率・個別銘柄騰落率

S&P500業種指数騰落 5日 1ヵ月 3ヵ月
公益事業 -1.6% 0.0% 0.4%
ヘルスケア -1.8% -5.0% -3.7%
コミュニケーションサービス -2.4% -6.1% -8.8%
生活必需品 -2.4% -2.7% -1.4%
金融 -2.5% -2.6% -5.6%
一般消費財・サービス -2.7% -5.8% 1.7%
S&P500 -3.3% -5.3% -4.5%
エネルギー -3.3% 9.1% -10.1%
資本財・サービス -3.6% -4.4% -3.6%
不動産 -3.9% -5.7% -5.8%
情報技術 -5.0% -9.7% -4.9%
素材 -5.0% -3.8% -14.0%
騰落率上位(5日) 騰落率
ターゲット 2.5%
ギリアド・サイエンシズ 2.3%
ネットフリックス 1.3%
ウォルマート 1.1%
アムジェン 0.7%
騰落率下位(5日) 騰落率
エヌビディア -16.1%
ダウ -9.5%
ボーイング -7.7%
クアルコム -7.2%
セールスフォース -7.0%

注:個別銘柄の騰落率上位、下位はS&P100指数が母集団です。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成

先週の米国株式市場

S&P500指数は週間で3.3%、NYダウは3.0%、ナスダック指数は4.2%の大幅続落となりました。

8/26(金)のジャクソンホール会合でパウエルFRB議長は成長鈍化などの痛みを伴ったとしてもインフレが抑制されるまで当面金融引き締めが必要という見解を示し、先週を通じて株式が下落する流れが形成されました。米10年国債利回りは8/26(金)こそ低下したものの、その後はじり高となり、一時3.3%近くまで上昇する場面がありました。

9/1(木)にはS&P500指数は5営業日ぶりに小幅反発、9/2(金)も株式市場にポジティブな形となった8月雇用統計を受けて序盤には前日比1.3%高となる場面がありました。しかし、後場に入って欧州へのガス供給に懸念が高まって下落に転じました。3連休を控えていたこともリスク回避の売りが強まったとみられます。

先週は9/1(木)には四川省成都市でロックダウン(都市封鎖)が導入され、ゼロコロナ政策が続く中国でこのような動きが広がるのではと懸念されました。また、エヌビディアの先端GPU(人工知能の計算に使われる)が中国に事実上の輸出禁止となったことが嫌気されて半導体株指数が下落するなど、FRBによる金融政策以外にも悪材料が出ました。

業種指数では、「公益事業」「ヘルスケア」などディフェンシブ性のある業種が相対的に優位となりましたが、これらも下落でした。個別銘柄では、エヌビディア(NVDA)が大幅下落となりました。米政府が先端GPU(人工知能の計算に使われる)の対中輸出を事実上禁止したことが、同社が8/31(水)SECに提出した書類で判明しました。同社は8-10月期に中国向け売上として4億ドルを計画しており、これは売上ガイダンス中央値59億ドルの約7%に相当します。

経済指標では、8月雇用統計の非農業部門雇用者数が前月比31.5万人増(市場予想は同30.0万人増)、失業率は3.7%(市場予想は3.5%)、労働参加率は62.4%(前月は62.1%)、平均時給は前年比5.2%増(市場予想は同5.3%増)となりました。

雇用者数の増加が強過ぎず、労働参加率の上昇を受けて失業率が上昇して賃金上昇を抑える方向に働き、実際の平均時給の伸び率も低下と、FRBの利上げ姿勢の強さを気にしている現在の株式市場には理想的な形となりました。

今週の米国株式市場

米国株式市場は、欧州のガス供給再開の見通しさえ立てばという条件付きになりますが、調整一巡から戻りを試す展開が期待できるでしょう。図表3に示した通り、S&P500指数の予想EPSの下方修正には一巡感が出ています。7-9月期決算の発表では、まだ、下方修正となる可能性がありそうですが、当面は小康状態が維持されそうです。

一方、予想PERは8/16(火)直近ピーク時の19.0倍から9/2(金)には17.3倍まで調整しました。市場の過度な楽観による行き過ぎたPERの上昇は解消されたと考えられます。

今週の株価材料として、欧州のガス供給の問題、米金融当局者の発言、中国経済の動向、などが注目されます。

9/2(金)にロシア国営のガスプロムは、サンクトペテルブルク近郊のポルトバヤ圧縮機ステーションで主要ガスタービンの油漏れが見つかったとし、問題が解消されるまで「ノルドストリーム1」を介する欧州へのガス供給は再開されないと発表しました。8/31(水)~9/2(金)に定期点検で停止されたあと、円滑に供給が再開されるか注目されていましたが、懸念が実現化しました。

9/9(金)にはEU加盟国のエネルギー相による臨時会合が予定されており、これを見据えたけん制の意味があるとの見方もできるかもしれません。また、原油価格(WTI先物価格)が1バレル90ドル割れとなっている中で、9/5(月)にはOPECプラス会合があり、エネルギーに関するイベントから目が離せません。

9/21(水)の9月FOMCに向けて、米金融当局者の発言は引き続き市場の注目を集めそうです。今週は9/7(水)にブレイナードFRB副議長の講演、9/8(木)にパウエルFRB議長の経済会議ディスカッションへの参加、9/9(金)にウォラーFRB理事の講演が予定されています。

中国経済については、ゼロコロナ政策によるロックダウンが再び広がらないか、注意が必要でしょう。先週ロックダウンとなった四川省成都市は中国GDPの1.7%を占め、中国で第4位の経済規模です。上海ほどではないものの、影響は小さくないと考えられます。

経済指標では、9/6(火)に米国の8月ISM非製造業景気指数(前月の56.7から55.4に悪化の予想)、9/7(水)に中国の8月輸出(前年比12.6%増の予想、前月は同18.0%増)、中国の8月輸入(前年比1.2%増の予想、前月は同2.3%増)、などの発表が予定されています。

企業イベントでは、9/7(水)のアップルの新製品発表会が注目されています。「iPhone14」と「Apple Watch」新製品の発表が見込まれています。また、イベントのタイトルが「Far Out.」(はるか遠くに)で宇宙のイメージが使われていることから、アップルの機器に衛星を介した通信機能が加わるのではないかとの憶測もでています。

今週の5銘柄

今回はS&P500指数が底入れした6/16(木)から9/1(木)までの期間で、株価上昇率が大きい銘柄をご紹介いたします。

S&P100指数採用銘柄で、同期間の株価上昇率が20%以上(S&P500指数は8.2%の上昇)の銘柄を図表4に抽出しています。ここから時価総額が大きい銘柄を中心に、アップル(AAPL)、アマゾンドットコム(AMZN)、テスラ(TSLA)、ネクステラ エナジー(NEE)、ネットフリックス(NFLX)を選んでご紹介いたします。

図表3 S&P500指数の予想EPSと予想PER

※BloombergデータをもとにSBI証券が作成

図表4 相場底入れからの上昇が大きい銘柄(S&P100指数採用銘柄対象)

銘柄名 6/16(木)~
8/16(火)の
騰落率(%)
8/16(火)~
9/1(木)の
騰落率(%)
6/16(木)~
9/1(木)の
騰落率(%)
時価総額
(億ドル)
アップル 33.0 -8.7 21.5 25,385
アマゾン・ドット・コム 39.7 -11.7 23.3 13,022
テスラ 43.9 -9.6 30.1 8,685
ネクステラ・エナジー 27.7 -4.7 21.7 1,695
ペイパル・ホールディングス 43.3 -9.2 30.1 1,072
ネットフリックス 41.7 -6.4 32.7 1,023
スターバックス 26.0 -4.5 20.4 980
フォード・モーター 46.0 -7.5 35.0 611
ゼネラル・モーターズ(GM) 24.1 -1.1 22.7 562

※BloombergデータをもとにSBI証券が作成

今週の注目銘柄

買付 チャート 銘柄 株価
(9/2)
予想PER
(倍)
ポイント
買付チャートアップル(AAPL)155.81ドル24.1

【7-9月期の増収率は拡大へ】

・4-6月期はサプライチェーンの制約から売上は前年同期比2%増まで低下しましたが、売上・EPSとも市場予想を若干上回りました。7-9月期については、同社事業を取り巻く環境は引き続き不透明感に覆われているため、売上見通しの発表は控えられました。しかし、7-9月期は4-6月期を上回る売上成長を維持できると見ており、粗利益率は41.5~42.5%と予想しています。

・アジアのハードウェア関連メーカーからスマホ市場の鈍化が伝えられているため、同社の売上に対しても引き続き警戒感があります。一方、同社の増収は製品の更新サイクルや18億個の稼働デバイスに対するサービスの展開によるところが大きいため、スマホ市場全体の鈍化と平行して売上が推移するわけではないとの期待があります。9/7(水)の新製品発表イベント「Far Out」への注目も高まっています。

買付チャートアマゾンドットコム(AMZN)127.51ドル86.2

【売上成長率が改善の見込み】

・売上成長率は4-6月期実績の前年同期比7%増から7-9月期は同11~15%増に改善のガイダンスとなったことが好感されて、決算発表を受けた7/29(金)の株価は10.4%の上昇となりました。利益は実績・ガイダンスとも市場予想を下回りましたが、売上成長の鈍化が5四半期続いてきたため、加速への転換が重視されたとみられます。クラウドサービスのAWS売上は前年同期比33%増と高い伸びが維持されています。

・7-9月期の売上は、市場予想の1,269.7億ドルに対して1,250~1,300億ドル、営業利益は市場予想の38.3億ドルに対して0~35.0億ドルでした。7/12(火)~13(水)のプライムデーでは商品3億点を販売して、過去最大のイベントになったと報告されています。インフレ環境下でバリューを求める消費者の動きが同社の業績悪化を緩和する期待があるでしょう。

買付チャートテスラ(TSLA)270.21ドル65.3

【エコカー控除の拡大から恩恵】

・8/16(火)に成立した「インフレ抑制法」によってメーカー当たり20万台の控除の上限が2023年1月から撤廃されます。このため、EVの生産台数が大きいテスラがエコカー控除の恩恵が大きくなります。また、同社は太陽光発電関連の事業を保有しており、同事業も恩恵を受けます。

・4-6月期は売上が上海工場のロックダウンで1-3月期からは13%の減収となったものの前年同期比では42%増、EPSは同57%増と伸びました。粗利率も25.0%と前年同期の24.1%から改善しており、原材料高による利益率悪化の圧力をかわしています。営業費用は同13%増に抑えられて、利益は市場予想を大きく上回り、通期のコンセンサス予想EPSが引き上げられています。

買付チャートネクステラ エナジー(NEE)85.11ドル29.7

【同業他社を上回る成長が続く】

・フロリダ地盤の電力会社。主要子会社のフロリダ・パワー&ライト(FPL)は、フロリダ州の約半分にあたる570万の顧客にサービスを供給します。もう一つの主要子会社ネクステラ・エネジー・リソーシズ(NEER)は、風力と太陽光の再生可能エネルギーで世界最大で、蓄電でも世界的リーダー企業です。NEERは米国最大の再生可能エネルギーの開発企業として、政府による環境政策の恩恵を受けると期待されます。

・2023年は同業他社を上回る11%の増収が予想されていますが、今後数年も業界平均を上回る成長が続くと見込まれています。4-6月期決算は、売上が前年同期比32%増、一時損失を除く調整後EPSは前年同期比14%増と好調でした。FPLの調整後EPSが同11%増、NEERが同21%増です。2022年の調整後EPSは2.75~2.85ドルから2.80~2.90ドルに引き上げています。中期のEPS成長率は6~8%を目標としています。

買付チャートネットフリックス(NFLX)226.11ドル21.5

【契約者純増がプラスに転じる見通し】

・7-9月期ガイダンスは売上・EPS・契約者純増とも市場予想を下回りましたが、契約者数純増が1-3月期、4-6月期の減少から7-9月期は増加に転じるとの見通しに市場は反応、株価は大きく反発しました。契約者純増は4-6月期の97万人減(ガイダンスは200万人減)から7-9月期は100万人増のガイダンスです。

・7-9月期の業績ガイダンスは、売上が前年同期比5%増に鈍化、EPSは前年同期比33%減です。従来から同社の株価は業績動向よりも契約者純増に反応する傾向がありましたが、今回は減少が続くかもしれないという恐怖から、底入れしそうだとの安心感へ極端に動いたようです。予想PERは決算発表前には20倍を割り込んでいたことも株価上昇が大きくなった要因でしょう。

注:予想PERはBloomberg集計のコンセンサス予想EPSによります。使用した予想EPSの決算期は、アップルが2023年9月期、その他は2022年12月期です。
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

主要イベントの予定

  経済指標・イベント 企業決算・イベント
5(月) ・米国休場(レイバーデー)
・OPECプラス会合(オンライン形式)
・ユーロ圏小売売上高(7月)
 
6(火) ・米ISM非製造業景気指数(8月)  
7(水) ・中国貿易統計(8月)
・ユーロ圏実質GDP(4-6月期、確報値)
・ブレイナードFRB副議長講演
・米貿易統計(7月)
・米地区連銀経済報告(ベージュブック)
・アップルの新製品発表イベント
ニオ
8(木) ・日本実質GDP(4-6月期、改定値)
・ECB主要政策金利
・パウエルFRB議長経済会議に参加

・米新規失業保険申請件数(9月3日に終わる週)
・米消費者信用残高(7月)
 
9(金) ・中国生産者・消費者物価指数(8月)
・中国資金調達総額(8月、15日までに発表)
・EU加盟国のエネルギー相による臨時会合
・ウォラーFRB理事の講演

・米家計純資産変化(2Q)
クローガー
12(月) ・日本工作機械受注(8月)  
13(火) ・ドイツZEW景気指数(9月)
・NFIB中小企業楽観指数(8月)
・米消費者物価指数(8月)
オラクル
14(水) ・米鉱工業生産(7月)
・米生産者物価指数(8月)
 
15(木) ・米新規失業保険申請件数(9月10日に終わる週)
・ニューヨーク連銀製造業景気指数(9月)
・米小売売上高(8月)
・フィラデルフィア連銀製造業景気指数(9月)
・米輸入物価指数(8月)
・米鉱工業生産(8月)
アドビ
16(金) ・中国鉱工業生産・小売売上高・固定資産投資(8月)
・EU27ヵ国新車登録台数(8月)
・トリプルウィッチング
(株価指数先物・オプションの取引期限満了日)
 

注:日付は現地時間によります。(E)はBloombergによる予想を示します。企業決算の赤字でのハイライトは、当社顧客保有人数の1~30位、青字のハイライトは31~50位を示します。
※Bloombergデータ、各種報道をもとにSBI証券が作成

※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。

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