年後半の東京株式市場に吹く「追い風」とは?
投資情報部 鈴木 英之
2022/07/12
大きな事件やイベントを通過した東京株式市場では、日経平均株価が「ダブル底」のネックラインに「ツラ合わせ」となり、さらなる上値を指向できるような状態になっています。ただ、世界的にスタグフレーションの程度を探るような動きが強まるとみられるうえ、新型コロナウイルスの感染再拡大もあり、波乱含みの展開となっています。
そうした中、年後半の東京株式市場に吹く風は追い風なのでしょうか、向かい風なのでしょうか。
7月第1週は反発、市場の関心は景気後退の“程度”へ
7月第1週(7/4~8)の日経平均株価終値は26,517円19銭、前週末比581円57円(+2.2%)と、週末に米雇用統計の発表や参議院選挙というビックイベントを控えながら、週足ベースで反発しました。
6月第5週に発表された米経済指標から生じた景況感の悪化が持ち越された形となり、週初には年初来急騰し続けていた商品相場が大幅安となりました。
市場心理が決して良いとは言えない状況にもかかわらず、米長期金利の上昇一服を受け日米ともにグロース株が堅調でした。特に7月第1週のナスダックは4営業日続伸となりました。また、休場明け7/5~11の米国市場では景気後退のシグナルともいわれる逆イールド(短期金利>長期金利 の状態)も5営業日連続で発生となっています。そのような中で、7/8(金)に発表された6月雇用統計の結果は市場予想を超える堅調な内容でした。一方で、金利先物市場では雇用統計の内容に対して特段大きな反応はなかったことから、景気後退懸念自体は相場においてかなり織り込み済みであるように見受けられます。
今週から、米国で本格的な決算発表シーズンが幕を開ける予定です。市場の関心は景気後退懸念そのものから、どれくらい景気が後退するのかという“程度”へ移ったことが考えられ、企業業績を通じそれを確認することになりそうです。
日本では、7/10(日)に参議院選挙の投開票日を迎えました。
選挙期間中の7/8(金)、アベノミクスの立役者である安倍元首相が銃で撃たれるという民主主義国家の根幹を揺るがす事件が起きました。選挙結果は自民党の圧勝となり、政権長期化が好感され7月第2週の日経平均株価は上昇スタートとなっています。ゆえに、これからの「黄金の3年間」で岸田総理がどのような金融政策で舵取りをしてゆくのか世界中から注目が集まっています。
今週注目の決算発表スケジュールとしては、7/14(木)の日本の小売大手であるファストリ(9983)や、現地時間同日発表予定の米大手銀行JPモルガン、モルガンスタンレー等が挙げられます。
小売業は2月決算企業が多いため、一足早く決算発表となっています。
図表7 日経平均株価採用銘柄の上昇率上位(7/4~7/11)で首位のイオン(8267)は、7/6(水)の決算発表にて前年同期比4倍もの純利益となり、株価が急騰しました。その他には、堅調な米雇用統計を受け米国事業を展開するリクルート(6098)がランクインするなど、企業の個別要因で上昇した銘柄がほとんどとなりました。
図表8 日経平均株価採用銘柄の下落率上位(7/4~7/11)に関しても同様のことが言えそうです。
今週の日経平均株価の動きとしては、現地時間7/13(水)にインフレの強弱を測る重要指標、米6月消費者物価指数(CPI)の発表も控えているため、決算発表シーズン開幕前であることと併せ週半ばまでは様子をうかがいつつの展開となりそうです。
図表1 日経平均株価およびNYダウの値動きとその背景
日経平均株価(終値) | 前日比 | NYダウ(終値) | 前日比 | 国内株式市場の動き | 米国株式市場の動き | |
7/4(月) | 26,153.81 | +218.19 | - | - | 反発 ・前週末の米国市場に連れ高。 ・ディフェンシブセクターが選好される。 ・米国債利回り低下の影響が波及し、日本国債利回りも低下。 |
休場(独立記念日) |
5(火) | 26,423.47 | +269.66 | 30,967.82 | -129.44 | 続伸。 ・前日の欧州市場や米国株式先物、アジア市場の上昇に連れ高。 ・前日の米国休場で方向感を欠く展開。 ・ディフェンシブの一角の中でも損保が高い。自社株買いがあったことに加え、業績予想と資本構造から年後半の高パフォーマンスを予想する見方も。 |
反落。NASDAQは金利低下を受け続伸。 ・休場明けも景気後退感が継続。 ①需要後退観測から商品相場が大幅安。原油価格が100ドル割れし、エネルギーが連れ安。 ②国債とドル買いが進行。利回り低下を受け、グロース株が買われる。 ・逆イールド(2年国債利回り>10年国債利回り)が発生。 |
6(水) | 26,107.65 | -315.82 | 31,037.68 | +69.86 | 反落。マザーズは続伸。 ・米国市場・アジア市場に連れ安。 ・商品相場の大幅下落で、関連株が大幅安。 ・ディフェンシブセクターが選好される。 ・同日夜にFOMC議事要旨を控え、様子見姿勢に。 |
反発。 ・FOMC議事要旨発表では、次回7月会合に関し50bpか75bpの利上げを検討との方針が示され、長期金利が上昇。 ・原油価格下落をでエネルギー株安が継続。 ・商品相場の大幅安が継続。 ・ディフェンシブセクターが選好される。 |
7(木) | 26,490.53 | +382.88 | 31,384.55 | +346.87 | 反発。マザーズは反落。 ・欧米株式市場に連れ高。 ・グロース市場銘柄は利益確定売りか。 ・韓国サムスン電子の好決算を受け、足元大幅下落していた半導体関連株が買われる。 |
続伸。 ・中国大型インフラ投資検討報道を受け、敏感株中心に上昇。中国ADRも買われた。 ・FRBタカ派メンバーのウォラー理事が、FOMC7月会合75bp、9月会合で50bp利上げの支持と景気後退懸念に関して「行き過ぎ」と示した。 ・サムスン電子の決算を受け、半導体関連が買い戻される。 |
8(金) | 26,517.19 | +26.66 | 31,338.15 | -46.40 | ほぼ変わらずだが続伸。 ・中国で30兆円規模のインフラ投資検討が報じられ、中国関連株の一角が上昇。 ・安倍元首相が銃撃される。市場全体に警戒感広まる。 ・ETFの分配金捻出売りの集中日であったことが下落圧力になったする声も。 |
反落。NASDAQは小幅だが5営業日続伸。 ・雇用統計の内容は堅調。短期市場では75bp利上げ見通しが9割超に。 ・テスラCEOがTwitter社買収撤回の意向を示す。 ・重要経済指標や決算発表を翌週以降に控え、警戒感が強い。 |
11(月) | 26,812.30 | +295.11 | 31,173.84 | -164.31 | 続伸。 ・参院選は自民党が圧勝。政権長期化の可能性拡大が好感され買われた。 ・前週末発表されたの米経済指標が堅調で、景況感悪化を後退させた。 ・米国株式先物の下落が上値抑制要因に。 |
続落。NASDAQは大きく反落。 ・逆イールド(2年国債利回り>10年国債利回り)が5日連続で発生。 ・本格的な決算発表シーズン幕開け前と13日には6月CPI発表を控え、様子見感が強い。 ・大型グロース株に売りが目立った。 |
- ※日経平均株価・NYダウ等各種株価データ、各種資料をもとにSBI証券が作成。
図表2 日経平均株価
- ※当社チャートツールを用いて作成。データは2022年7月12日9:30時点。
図表3 NYダウ
- ※当社チャートツールを用いて作成。データは2022年7月12日10:30時点。
図表4 ドル・円相場
- ※当社チャートツールを用いて作成。データは2022年7月12日10:30時点。
図表5 主な予定
月日 | 国・地域 | 予定 | 備考 |
12(火) | 米国 | 10年国債入札 | |
13(水) | 米国 | 6月消費者物価指数(CPI) | |
MBA住宅ローン申請指数 | |||
米地区連銀経済報告書(ベージュ・ブック) | |||
中国 | 6月貿易収支 | ||
14(木) | 日本 | ★決算発表 | ファストリ(9983)、いちご(2337) |
米国 | 6月生産者物価指数(PPI) | ||
☆決算発表 | JPモルガン、モルガンスタンレー | ||
15(金) | G20財務大臣・中央銀行総裁会議(-16日) | ||
日本 | ★決算発表 | ベイカレント(6532)、プロロジス(3283) | |
米国 | 7月NY連銀製造業景気指数 | ||
6月鉱工業生産 | |||
6月小売売上高 | |||
7月ミシガン大学消費者マインド指数 | |||
☆決算発表 | シティ、ウェルズ・ファーゴ | ||
中国 | 4-6月期GDP | ||
6月小売売上高 | |||
6月鉱工業生産 | |||
18(月) | 日本 | 休場(海の日) | |
米国 | 7月NAHB住宅市場指数 | ||
☆決算発表 | BofA、GS、IBM | ||
19(火) | 米国 | 6月住宅着工件数 | |
☆決算発表 | J&J、ネットフリックス | ||
20(水) | 日本 | 日銀金融政策決定会合(-21日) | |
★決算発表 | 日本電産(6594) | ||
米国 | 20年国債入札 | ||
6月中古住宅販売件数 | |||
☆決算発表 | テスラ | ||
欧州 | ☆決算発表 | ASML | |
21(木) | 日本 | 日銀総裁会見 | 金融緩和からの修正あるか? |
6月貿易統計 | |||
★決算発表 | 中外薬(4519)、ディスコ(6146) | ||
米国 | 7月フィラデルフィア連銀製造業景況感指数 | ||
☆決算発表 | ダウ、AT&T、インテュイティブサージカル | ||
欧州 | ECB定例理事会 | ||
☆決算発表 | ノキア | ||
22(金) | 日本 | 6月消費者物価指数(CPI) | |
米国 | ☆決算発表 | アメックス、ベライゾン |
- ※各種報道、WEBサイト等をもとにSBI証券が作成。データは当レポート作成日現在。予定は予告なく変更される場合があります。
図表6 日米欧中央銀行会議の結果発表予定
2022年 | ||
日銀金融政策決定会合 | 7/21(木)、9/22(木)、10/28(金)、12/20(火) | |
FOMC(米連邦公開市場委員会) | 7/27(水)、9/21(水)、11/2(水)、12/14(水) | |
ECB(欧州中銀)理事会・金融政策会合 | 7/21(木)、9/8(木)、10/27(木)、12/15(木) |
- ※日米欧中銀WEBサイトを基にSBI証券が作成。データは当レポート作成日現在。予定は予告なく変更される場合があります。 なお、ECB理事会は金融政策の議論・決定を行う会合の日程のみ掲載しています。日付は現地時間を基準に記載しています。
図表7 日経平均株価採用銘柄の上昇率上位(7/4~7/11)
コード | 銘柄 | 業種 | 株価 (7/11) |
株価 (7/4) |
騰落率 (7/4~7/11) |
8267 | イオン | 小売業 | 2,665 | 2,392 | 11.4% |
5232 | 住友大阪セメント | ガラス・土石製品 | 3,585 | 3,290 | 9.0% |
4704 | トレンドマイクロ | 情報・通信業 | 7,330 | 6,740 | 8.8% |
6098 | リクルートホールディングス | サービス業 | 4,330 | 3,994 | 8.4% |
6861 | キーエンス | 電気機器 | 50,260 | 46,430 | 8.2% |
4689 | Zホールディングス | 情報・通信業 | 437.3 | 405.6 | 7.8% |
5101 | 横浜ゴム | ゴム製品 | 1,937 | 1,811 | 7.0% |
4523 | エーザイ | 医薬品 | 6,181 | 5,825 | 6.1% |
4519 | 中外製薬 | 医薬品 | 3,737 | 3,529 | 5.9% |
6902 | デンソー | 輸送用機器 | 7,410 | 7,000 | 5.9% |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
- ※銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
- ※上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。
- ※7/11終値を7/4終値と比較し、値上がり率の大きい日経平均採用10銘柄を掲載。
図表8 日経平均株価採用銘柄の下落率上位(7/4~7/11)
コード | 銘柄 | 業種 | 株価 (7/11) |
株価 (7/4) |
騰落率 (7/4~7/11) |
3402 | 東レ | 繊維製品 | 709.3 | 769 | -7.8% |
9501 | 東京電力ホールディングス | 電気・ガス業 | 619 | 654 | -5.4% |
9766 | コナミグループ | 情報・通信業 | 7,440 | 7,720 | -3.6% |
1605 | INPEX | 鉱業 | 1,404 | 1,450 | -3.2% |
3086 | J.フロント リテイリング | 小売業 | 1,076 | 1,107 | -2.8% |
9531 | 東京瓦斯 | 電気・ガス業 | 2,525 | 2,597 | -2.8% |
3861 | 王子ホールディングス | パルプ・紙 | 571 | 587 | -2.7% |
6305 | 日立建機 | 機械 | 2,877 | 2,956 | -2.7% |
9009 | 京成電鉄 | 陸運業 | 3,515 | 3,610 | -2.6% |
3099 | 三越伊勢丹ホールディングス | 小売業 | 1,034 | 1,061 | -2.5% |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
- ※銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
- ※上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。
- ※7/11終値を7/4終値と比較し、値下がり率の大きい日経平均採用10銘柄を掲載。
年後半の東京株式市場に吹く「追い風」とは?
日経平均株価をテクニカル面(図表2)でみると、相場の転換点として意識されやすい、「ダブル底」中央の山の部分に相当する「ネックライン」が27,062円31銭(6/28ザラ場高値)となっています。ここを明確にクリアしてくれば、次の上値抵抗ラインである27,795円17銭(窓埋め水準:下段落参照)までは、それほど重要な節目が見当たらず、上昇ピッチが加速する可能性も大きそうです。7/11(月)午前には、日経平均が一時27,062円17銭まで上昇し、「ネックライン」とほぼ「ツラ合わせ」(株価が以前の価格に戻ること)となりましたが、クリアするには至りませんでした。
ちなみに、6/10(金)ザラ場安値27,795円17銭に対し、翌営業日6/13(月)ザラ場高値は27,389円30銭であり、27,389円30銭から27,795円17銭の間は商いが成立していないので、このような状態を「窓が開いている」といいます。テクニカル的には、この窓が埋められた時が転機になりやすいと考えられ、27,795円17銭は、次の重要な節目となります。さらに、そこを超えると、日経平均株価の当面の上値メドとしては、心理的節目である28,000円、6/9(木)ザラ場高値28,389円75銭が重要と考えられます。
このように、テクニカル的には、節目突破に期待がかかり「上昇加速前夜」にもみえる日経平均株価ですが、これからの年後半の外部環境については、追い風と逆風のどちらが強いのでしょうか。
7/8(金)の安倍元首相襲撃事件は衝撃と悲しみを残しましたが、参議院選挙が粛々と実行されたことで、民主主義の敗北は免れたように思われます。選挙の結果は、与党の圧倒的な勝利で終わり、今後3年間は大きな国政選挙が予定されていないことから、岸田政権が長期政権化する可能性が膨らんできました。欧米主要国では、現在の政権が不安定化しているケースが目立つため、相対的に日本の政治の安定度が増せば、年後半の日本株市場に追い風が吹くことが予想されます。
こうした中、7月第1週(7/5~8)の米国市場では、米10年国債利回りが上昇する一方で、グロース株の多いナスダックも上昇しており、当面のスタグフレーション懸念についての織り込みが進捗していることを印象付けました。このため、当面の米国株はやや底固さを増す展開も期待できそうです。ただ、世界経済全般の不透明感も強く、中期的には内外株式市場はスタグフレーションの程度を探る展開になりそうです。7/12(火)の日経平均株価の値動きも世界的な景気動向の流れで説明ができます。
図表9にあるように、国内では新型コロナウイルスの感染拡大が再び急拡大しており、「第7波が到来したようだ」との見方が増えています。このため、経済再開へ向けた期待はやや萎んだ感じになっているのが現実です。死亡者数は感染者数に遅行して増える傾向があり、今回も注意は必要ですが、今の所、重症者数や死亡者数は低水準で推移しており、政府も行動規制には消極的なようです。新型コロナウイルスへの懸念が本格的に後退してくれば、世界的に「周回遅れ」とされた経済再開の効果で、年後半日本経済が相対的に強く映る可能性があります。その面でも、年後半の日本株市場には追い風が吹く可能性が大きいとみられます。
図表9 日本の新型コロナウイルス感染者数(左軸)および死亡者数(右軸)
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