日米で株価波乱も、過度の懸念は不要と考えるワケは?

日米で株価波乱も、過度の懸念は不要と考えるワケは?

投資情報部 鈴木英之

2022/08/30

日米株価の上昇局面はいったん終了か

8月第4週(8/22-26)の日経平均株価終値は28,641円38銭、前週末比288円95銭安(-1.0%)と週足ベースで4週間ぶりの反落となりました。さらに8/29(月)に日経平均株価は762円42銭下げ、6/13(月)の836円85銭安(終値は26,987円44銭)以来の大幅下落を記録しました。

日経平均株価は6/20(月)取引時間中安値25,520円23銭から8/17(水)29,222円77銭(終値高値)まで14.5%上昇してきましたが、その上昇を支えてきたNY株高が崩れたことが最大の要因と考えられます。以下、米株価の上昇と反落について、まとめておきたいと思います。

NYダウは6/17(金)安値29,653.29ドルから8/16(火)高値34,281.36ドルまで15.6%まで上昇してきましたが、その最大の要因はインフレ・金利上昇への懸念が後退したことであると考えられます。そのことは、現在、米国にとって最も重要な経済指標のひとつになった消費者物価指数(CPI)の推移と株価の反応、原油価格(WTI先物)の推移等でおわかり頂けます。

6/8(水)・・・原油(WTI)先物価格が1バレル122.11ドルまで上昇し、ここが本年の高値に。
6/10(金)・・・5月CPIは前年比+8.6%で市場予想(+8.3%)を上回り、インフレ懸念が強まる。この日のNYダウは880ドル安。
7/5(火)・・・原油(WTI)先物価格が1バレル100ドルを割り込む。
7/13(水)・・・6月CPIは前年比+9.1%で市場予想(+8.8%)を上回るも、7/15(金)にNYダウは658ドル高。
8/4(木)・・・原油(WTI)先物価格が1バレル90ドルを割り込む。
8/10(水)・・・7月CPIは前年比+8.5%で市場予想(+8.7%)を下回る。この日NYダウは535ドル高し、8/16(火)まで5連騰。

原油価格がピークアウトし、下落する過程で、インフレのピークアウト感も台頭。NYダウは6/17(金)の「トリプル・ウィッチング」(先物・オプション他の特別清算日が集中)で底を打ち、上昇に転じました。7/13(水)発表の6月CPIが市場予想を上振れながらも、その後の株価が堅調に推移したことでさらに流れが変わりました。8/10(水)発表の7月CPIが市場予想を下振れ、かつ前回数値を下回ったことで、株価上昇が加速しました。

米10年国債利回りも、原油価格がピークアウトした少し後の6/14(火)3.47%をピークに低下に転じ、グロース株の反発をもたらすことになりました。ただ、8/1(月)に2.57%でボトムを付けた後は再び上昇に転じています。

こうした中、市場では「インフレはピークアウトしつつあり、FRB(米連邦準備制度理事会)は2023年には利下げに転じる」との見方が有力となってきました。8月以降の10年国債利回り上昇を額面通り解釈すれば、市場は、利下げの向こうの景気・企業業績の回復まで織り込み始めていたのかもしれません。しかし、7月中旬以降の2022年4~6月期・米企業決算ではさすがに業績の反転・悪化に苦しむ所がでてきました。

S&P500でみると、6/16(木)安値から8/16(火)高値まで、米上場企業(S&P500)の予想EPSは横ばいにとどまりましたが、株価は上昇し、予想PER(同)は約16倍から19倍へ上昇しました。景気・企業業績に対し、株価は期待先行になっていたことがわかります。

市場は、金利の低下、その先の景気・企業業績に「前のめり」になり過ぎていたと考えられます。そうした中、8月第4週以降、FRBメンバーから、市場のこうした期待先行にくぎを刺す発言が増え、株価が下落に転じることになりました。

こうした中、8/26(金)の米国株式市場では、NYダウが1,008ドル安と波乱になりました。この日、ジャクソンホール会合においてパウエルFRB議長が講演し、「歴史は時期尚早の金融緩和を強く戒めている」とし、インフレ抑制対策(金融引き締め)を「やり遂げるまで続ける」と発言したことから、2023年の利下げ観測が後退したことが大きな要因と考えられます。

これを受けた日経平均株価は、冒頭にあるように、8/29(月)に急落となりました。

図表1 日経平均株価およびNYダウの値動きとその背景

  日経平均(終値) 前日比 NYダウ(終値) 前日比 国内株式市場の動き 米国株式市場の動き
8/22(月) 28,794.50 -135.83 33,063.61 -643.13 3営業日続落
・前週末にNYダウが金利上昇懸念で下落した流れを引き継いだ。
・米長期金利上昇を背景にグロース株が売られる。
・中国が本年3回目の利下げを実施し、日本株の下支え要因に。
大幅続落。ジャクソンホール会合を警戒
・パウエルFRB議長が、ジャクソンホール会合でタカ派的な発言を行うとの警戒感が強まる。
・米10年国債利回りが3%台に乗せてきたことも警戒される。
23(火) 28,452.75 -341.75 32,909.59 -154.02 4営業日続落。欧米株安を嫌気
・欧州では天然ガス相場の上昇も重荷。
・金利上昇でグロース銘柄に売りが優勢。
・新型コロナ水際対策緩和を受け、内需株に買い。
3営業日続落
・金融引き締めへの警戒が続く。
・7月新築住宅販売が予想を超える減少となったが、金融引き締め緩和にはつながらなかった。
24(水) 28,313.47 -139.28 32,969.23 +59.64 2/11~24以来半年ぶりの5営業日続落
・ジャクソンホール会合への警戒感が強い。
・岸田首相が水際対策緩和発表も上値は重い。
4営業日ぶりに反発
・前日までの3営業日で計1,029ドル下げたことで押し目買いが入りやすくなった。
・米10年国債利回りは3.1%台まで上昇。
・金利上昇を受け、グロース株の下げが大きい。
25(木) 28,479.01 +165.54 33,291.78 +322.55 6営業日ぶりに反発。
・自律反発狙いの買いが優勢。
・売買代金は2兆222億円で4ヵ月ぶり低水準。
続伸。米長期金利が低下
・米長期金利が低下。ジャクソンホール会合を控えてポジション調整の買い。7年国債の入札が好調だったことも追い風。
26(金) 28,641.38 +162.37 32,283.40 -1008.38 続伸。
・8/23~8/25に米フィラデルフィア半導体指数が続伸したこともあり、半導体株が買われやすかった。
・ジャクソンホール会合を控え、ポジション調整の買いも。
・売買代金は2兆円を少し超えた水準にとどまり、2日連続の低水準。
NYダウは1,008ドル安
・5/18(水)の1,164ドル以来の大幅安。
・ジャクソンホール会合で、パウエルFRB議長が2023年に利下げする可能性を強く否定。
29(月) 27,878.96 -762.42 32,098.99 -184.41 3営業日ぶりに反落。8/10以来の28,000円割れ
・ジャクソンホール会合を受けた米株安を嫌気した。
・6/13(月)の836円安以来の大きな下落幅。                                                                                                                                             ・レーザーテックや東京エレクなど日経平均高寄与度銘柄の下げが目立つ。                                                                                                                                                                  ・売り一巡後はバリュー株の一部に買い。いすゞや三菱自が上昇。
続落。
・引き続き、金融引き締め長期化を懸念した売りが優勢。
・原油(WTI)先物が7/27以来の高値水準まで値を回復し、エネルギー株が下支え。
・米10年国債利回りが一時3.12%まで上昇したためハイテク株が軟調。スリーエムやダウなどの景気敏感株も安い。
  • ※日経平均株価・NYダウ等各種株価データ、各種資料をもとにSBI証券が作成。

図表2 日経平均株価

  • ※当社チャートツールを用いて作成。データは2022年8月30日9:20時点。

図表3 NYダウ

  • ※当社チャートツールを用いて作成。データは2022年8月30日 09:00時点。

図表4 ドル・円相場

図表5 主な予定

  • ※各種報道、WEBサイト等をもとにSBI証券が作成。データは当レポート作成日現在。予定は予告なく変更される場合があります。

図表6 日米欧中央銀行会議の結果発表予定

  • ※日米欧中銀WEBサイトを基にSBI証券が作成。データは当レポート作成日現在。予定は予告なく変更される場合があります。 なお、ECB理事会は金融政策の議論・決定を行う会合の日程のみ掲載しています。日付は現地時間を基準に記載しています。

図表7 日経平均株価採用銘柄の上昇率上位(8/22~8/29)

  • ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
  • ※銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
  • ※上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。
  • ※8/29終値を8/22終値と比較し、値上がり率の大きい日経平均採用10銘柄を掲載。

図表8 日経平均株価採用銘柄の下落率上位(8/22~8/29)

  • ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
  • ※銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
  • ※上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。
  • ※8/29終値を8/22終値と比較し、値下がり率の大きい日経平均採用10銘柄を掲載。

日米で株価波乱も、過度の懸念は不要と考えるワケは?

8/26(金)の米国株式市場では、NYダウが1,008ドル安と波乱になりました。2023年の利下げ観測が後退したことが大きな要因と考えられます。8/29(月)~9/2(金)は週末に雇用統計(8月)発表を控えており、短期的に米国は不安定な展開になる可能性も残りそうです。

ただ、米国株の厳しい下げは、長くは続かないと筆者は考えています。市場にあった「2023年のFRBは利下げに転じる」という一部の見方は確かに「前のめり過ぎ」であり、FRB議長の発言自体に違和感はありません。足元では、FRBメンバーから、2023年の利下げ転換をけん制するような発言も目立っており、FRB議長の発言もこれらの延長線上にあるとみられます。

「Fedウォッチャー」によると、日本時間8/30(火)午前11時現在、9/21(水)に結果発表のFOMC(米連邦公開市場委員会)において政策金利が0.75%引き上げられる確率は1週間前(8/22)の55.0%から73.5%に上昇しました。政策金利の予想引き上げ幅について、メインシナリオが0.5%から0.75%に代わったことは確かですが「0.5%か0.75%」という大枠については変化がありません。

ちなみに、2022年内は残り3回のFOMC(結果発表日・・・9/21、11/2、12/14)が予定されており、現在、FF金利の誘導目標は2.5%が上限ですが、これが年末に4.0%まで引き上げられるというのが市場のメインシナリオ(8/30現在)になっています。さらに、2023年6月FOMC段階で、これが4.0%と横ばいを維持される確率が40.4%で最大、利下げは35.5%、利上げは24.1%の確率とされています。ここで今後、利上げの確率が増えると、株価の波乱要因になりそうです。

日経平均株価については、下げは短期間で収束し、上昇基調に転じると筆者は考えています。4~6月期の決算発表を経て、日経平均株価の予想EPS(1株利益)は過去最高を更新するなど、企業業績は底堅いためです。新型コロナウイルスの感染は第7波の拡大期となりましたが、政府は逆に規制緩和の方向であり、経済再開の流れも続きそうです。8/25(木)に金融庁は、自民党財務金融部会で2023年度税制改正に向け、NISA(少額投資非課税制度)を拡充する要望書を正式に提出しました。そこには、非課税枠を増やし、さらに非課税の期間を恒久化することが盛り込まれています。

仮に金融庁の要望が通れば、個人投資家の株式市場への資金流入を見越し、海外投資家の資金流入が増える可能性も十分ありそうです。

図表9 「Fedウォッチ」による米政策金利(上限)実現の可能性

  • CMEグループ「Fed ウォッチ」が公表するデータをもとにSBI証券が作成。データは、日本時間2022/8/30 午前10時30分現在。
  • 2022/8/30現在、米政策金利(FFレート誘導目標)上限は2.5%です。

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