「買い戻し」だけでは片付けられない、株価反発の「意外な理由」は!?

「買い戻し」だけでは片付けられない、株価反発の「意外な理由」は!?

投資情報部 鈴木英之 栗本奈緒実

2022/10/04

9月相場は世界的な株安が続き、日経平均も大幅安。その背景は?

9月第4週(9/26~30)の日経平均株価(週足)は、前週末比1,216円62銭(-4.5%)の大幅安となり、3週続落でした。弱気相場入りとなり、安値更新を続ける米主要株価指数に連れ安した形です。

同期間のNYダウは-2.9%と下落幅だけ見ると、東京市場よりも底堅そうに見えるかもしれません。しかし、9月全体で相場の動きを振り返ってみると、前月末比で日経平均が-7.7%に対してNYダウは-8.8%と米国市場の下落率が東京市場を上回っていました。レーバーデー(9/5)で夏休みシーズンが終わり、秋相場が始まる9月は、改めて金融引き締めによる景気見通し悪化懸念が、より一層意識されたような展開でした。

9月第1週の米主要株価指数は、滑り出し良く上昇スタート。以降、大きな転換点となった日が米8月消費者物価指数(CPI)の発表があった9/13(火)です。同CPIは市場予想値を上振れ、事前に住宅指数の鈍化が確認されていたことで一部で織り込まれていたインフレピークアウト期待を退かせました。そのため、同指数が高水準であったことは市場にとって失望的な結果でした。そして、FRB(米連邦準備制度理事会)による積極的金融引き締め継続観測が広がり、1日でNYダウは1,200ドル超の下落となり、本年最大の株安が引き起こされました。

同CPIが発表されて以降、次の転換点となったのは翌9月第3週半ばである9/21(水)です。同日には9月FOMC会合(連邦公開市場委員会)の結果発表がありました。FOMC参加者の政策金利の予想分布がタカ派的になったことや、FRBのパウエル議長がインフレ抑制に関して今後も意欲的に取組み続けていくことを示したことが嫌気され株価はまたもや大幅安となりました。
そして、第3週末から第4週は株式市場に追い打ちをかけるよう、英国発の欧州市場における混乱が世界的な景気見通しを悪化させました。英新政権が示した大型減税や国債増発等の新政策は、同国の財政状況にふさわしくないと指摘する声が多く、通貨・債券・株が一斉に安い「トリプル安」の状態に陥っています。なお、富裕層に対する減税政策に関しては、わずか10日後にあたる10/3(月)に撤回が表明されました。

他にも、月末には、FRBがインフレ進行度を計る際に重要指標とする個人消費支出(PCE)が市場予想を上振れ、市場心理にダメ押しを与えました。9月相場は株式市場にとって好材料はあまり見当たらなかった月でした。NYダウは9月の1ヵ月で心理的節目である30,000ドルを下回ったと思ったのは束の間で、その後一気に下落の勢いが強まり弱気相場入りとなりました。米主要株価指数は軒並み、新型コロナ発生前(大規模金融緩和政策が行われる前)の水準圏まで下落しています。

9月第4週の日経平均株価も、基本的には米国市場の値動きに連れて下げており、海運等の景気敏感株や週中に配当落ち日を迎えていたこともあり高配当銘柄の売りが優勢になりました。日経平均採用銘柄の中で上昇した銘柄に関しては、製薬大手のエーザイ(4523)が30%超と圧倒的トップです。9/28(水)に米製薬会社バイオジェンとともに新たな認知症薬「レカネマブ」の有効性を示し、株価が窓を大きく開けての大幅高となりました。

図表1 日経平均株価およびNYダウの値動きとその背景

図表2 日経平均株価

図表3 NYダウ

図表4 ドル・円相場

図表5 主な予定

図表6 日米欧中央銀行会議の結果発表予定

図表7 日経平均株価採用銘柄の上昇率上位(9/26~10/3)

図表8  日経平均株価採用銘柄の下落率上位(9/26~10/3)

「買い戻し」だけでは片付けられない、株価反発の「意外な理由」は!?

上述したように、9月のNYダウは月末に至るまで下落基調で、9/29(木)は458ドル安、9/30(金)は500ドル安と大幅続落でした。これを受けた10/3(月)の東京株式市場も売りが先行し、日経平均株価は午前10時手前頃に一時、前週末比315円25銭安の25,621円96銭まで下落しました。しかし、その後は下げ渋りから上昇に転じ、結局、終値は26,215円79銭と、前週末比278円58銭高で、この日の取引を終えました。さらに、10/4(火)も前引け値時点で大幅続伸となっています。

物色的には典型的な「リターン・リバーサル」となりました。日経平均株価が月中で高値を付けた9/13(火)から9/30(金)までの主力銘柄(時価総額1000億円以上の東証プライム銘柄)の動向をみると、川崎汽船(9107)、日本郵船(9101)等の海運株、新光電気工業(6967)、東京エレクトロン(8035)等の半導体関連株の下げが目立っていました。10/3(月)の取引では、逆にこれらの銘柄の上昇が目立ちました。

日経平均株価が反発に転じた理由としては以下の理由が考えられます。

(1)テクニカル的に、日経平均株価が「売られ過ぎ」になってきたことを示す材料が出てきたこと。
(2)月替わりとなった上、年度下半期開始のタイミングで、買いポジションを取りやすくなったと考えられること。
(3)半導体の先行きに対する懸念を和らげる材料が出たこと。
(4)米インフレ・金利上昇に対する懸念を和らげる材料が散見され始めてきたこと。

(1)については、日経平均株価のRSI(図表9参照)が9/30(金)時点で、「売られ過ぎ」を示唆する30%を割り込み、25.6%まで下落していました。10/3(月)の取引時間中安値時点で、25日移動平均線からのマイナスかい離(マイナス7~8%ではかなりの「売られ過ぎ」を示唆)も6.8%まで拡大していました。

(2)については、逆に9月下旬は「株価に割安感が強まっても、月末・年度上半期末であるゆえに買い持ち高を増やしにくい」という事情が手伝い、株価下落を加速させていたと考えられます。9/28(水)にNYダウが548ドル高したにもかかわらず、翌日の9/29(木)はリターン・リバーサル的な動きは目立っていませんでした。なお、10/3(月)の反発について、一部では年金基金の買いを指摘する声もあったようです。

(3)については、9/30(金)に三益半導体工業(8155)が2023/5期・第1四半期決算を発表し、売上高が前年同期比で17.8%増、営業利益が同75.7%増と大幅増収・増益となりました。新たに示された通期業績についても売上高14.2%増、営業利益45.6%増と、近年では最高の増益率予想となりました。この会社は、信越半導体(信越化学の子会社)からシリコンウェハの鏡面研磨加工等を受託している会社なので、信越化学、さらには半導体産業の意外な好調も連想させた可能性があります。

(4)については、先週発表された「S&Pコアロジック・ケース・シラー住宅価格指数」(20都市・7月/図表10)の前年同月比の伸び率が減速してきたことが指摘されます。ピークは4月の+21.2%でしたが、7月は+16.1でした。前月比では0.4%低下し、2012年以来のマイナスに沈みました。住宅価格は米消費者物価への影響が大きく、その影響は今後より一層顕在化してくると予想されます。もっとも、米雇用や消費については、ある程度の強さを維持しており、米国経済には「余熱」があるとみられ、短期的には米消費者物価の上昇率は、簡単に下げないかもしれないので注意が必要です。

9月末の米国株急落後、一見すると目立った材料が見当たらない中、大幅高に転じたことで、日経平均株価の日足チャート(図表2参照)に底値圏で陽線が形成される格好となりました。日経平均株価は1番底を付けた可能性が大きいと考えられます。

図表9  日経平均株価(日足)とRSI(14日)

  • ※当社チャートツールをもとにSBI証券が作成。データは2022/10/3時点。
  • ※RSI(14日)(相対力指数)=(14日間の株価上昇日の上昇幅の合計)/(14日間の株価騰落幅の絶対値の合計)で計算。
  • ※緑線はRSIが30%を割り込んだタイミングを示しています。

図表10  米コア消費者物価(CPI)と同国住宅価格の推移(月次)

  • ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
  • ※「コア消費者物価」は、食品・エネルギーを除く前年同月比の変化率(月次)で最新データは2022/8。
  • ※「住宅価格指数」は「S&Pコアロジック・ケース・シラー住宅価格指数」(20都市)の前年同月比の変化率(月次)で最新データは2022/7。

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