遺言書なしの相続 介護問題と海外在住の相続人を抱えた体験談 (株式会社SBI証券 2025.2.12)

こんにちは、相続そうだんターミナル事務局です。

最近、友人が頻繁に「もみじまんじゅう」をくれるので「しょっちゅう広島のご実家に帰られているのですか?」と聞くと、「そうなんですよ、相続で大変なんです!早く実家を売却しないと母の介護施設のお金が足りなくなる!」と切羽詰まった様子でした。

相続そうだんターミナルに携わる身としては「相続」「介護」という言葉に敏感です。ご本人の了解を得て、詳しくお話をうかがいました。

こちらに、友人の体験談をご紹介させていただきます。

高齢の親 ひとり暮らしの限界と介護の必要性

遠方の実家で

広島がご実家のSさん(50代・男性)は大学進学で上京して以来、生活の基盤は東京です。

広島の介護施設に入られていたお父さまが亡くなって数か月後、長年ご自宅で一人暮らしをされていたお母さま(80代前半)が急速に衰弱していきました。今まで普通にこなしていた家事ができなくなり、訪問介護を増やしたところで追い付かず、ケアマネージャーさんから頻繁に電話がかかってくるようになりました。

このまま一人暮らしの生活は無理ではと感じていた矢先のことです。訪問介護の方からSさんに「何度チャイムを鳴らしても出てこない」と連絡があり、家の中で倒れているお母さまが発見されて即入院となりました。

お母さまは脱水症状でした。倒れた一番の原因は、自分一人で家事をして生活をする精神的負担だったそうです。

入院されたお母さまは完全に気力を失い、意識も朦朧(もうろう)として、検査結果※は相当悪い状態でした。

お医者さまから「退院して家に戻っても、また倒れて同じことの繰り返しになるだけです。もう一人暮らしはさせられません。すぐに入れる施設を探してください!」と言われ、Sさんは東京の施設を探すことになりました。

ここからSさんは平日に東京で仕事、週末は広島へと行ったり来たりする生活が始まったのです。

※身体的・心理的なストレスが引き金となって起こる一時的な意識障害の可能性

相続手続きに翻弄

相続知識ゼロ、準備ゼロからのスタート

Sさんは介護施設を探すのと平行して、亡くなったお父さまの相続に本腰をいれて取り掛かりました。

Sさんは相続準備も全くしておらず、相続知識もゼロの状態です。

最初に税務署に相談にいき、相続税申告が必要なことを確認しました。

そのあと、信託銀行で相続税申告と納付手続きの委任契約を申し込んだそうです。

担当者から「まず財産目録を作ってください」と言われたので、保険のことを入院中のお母さまに聞いてみましたが、当時のお母さまは意識が朦朧(もうろう)として要領を得ません。

Sさんはご両親が契約をした保険会社や保険の種類だけは、何となく知ってはいたものの、契約の詳細な内容は知りませんでした。
年金保険などは契約内容が不明のままで保険会社に連絡しても、手続きはできません。(注:保険金額や種類によって対応は変わります)正確な保険金額がわからなければ財産目録も作れないため、Sさんは必死で家中を探し回り、山のような郵便物のなかに「保険のお知らせ」を見つけ、早速、連絡をすることにしました。

金融機関の手続きのハードル

Sさんが数社の保険会社に相続手続きの電話をしても「あなたは誰ですか!受取人じゃないと答えられません」というやり取りが繰り返されたため、心身ともに疲れ果ててしまったようです。

近年の高齢者の資産を狙った事件の増加もあり、受取人や相続人に認知症の疑いがある方がいると、金融機関はとても慎重な対応をしています。

そういう事情を知らなかったSさんは「10ヶ月の相続税納付期限が迫ってくるから、自分もパニックで…。今になって考えると保険会社に不審がられるようなことを平気で聞いていた。『教えられない』と言われると、更にパニックになって『何で教えてもらえないんですか!』と食ってかかり…」(やりとりを想像するだけで恐ろしくなり、それ以上突っ込んでは聞けませんでした。)

Sさんのお父様の遺言書はなかったため、Sさんを代表相続人とするために法定相続人全員が同意書に自分の住所・名前を書いて印鑑を押す手続きが必要です。

しかし、当時のお母さまは自分の名前が書けるかどうか、住所にいたってはうろ覚えで自分で書けなくなっていました。

Sさんは「私が母の代筆をしてもいいですか?」と質問し、完全に怪訝に思われ、手続きがストップしかけたそうです。

法定相続人のひとりが海外居住

更にSさんには、頭の痛い問題がありました。

法定相続人の一人であるSさんの妹さんは、長年アメリカに居住されています。相続手続きには印鑑証明書が必要ですが、住民登録している日本の居住地の市区町村でないと取得ができません。

妹さんはアメリカの日本国総領事館でサイン証明を発行してもらうことにしましたが、そこは国土が広いアメリカ合衆国です。妹さんのお住まいから一番近い日本国総領事館に行くのも、飛行機で行く距離でした。

「相続税申告の期限は10ヶ月なのに、1枚の書類取得のために日本国総領事館に飛行機で往復して、書類を日本まで発送するんですよ。どれだけの手間と時間とお金がかかったことか」と嘆かれていました。

相続と介護問題の収束

お母様の回復

唯一の朗報は、入院生活でお母さまはみるみる回復していったことです。受け答えも問題なくできるようになり、検査結果も見違えるほど改善しました。

入院して2ヶ月ほど経った頃、Sさんのご自宅近くで施設が見つかりました。事前に綿密なルートの計画を立てたうえで、お母さまを広島から新幹線に乗せて、無事に施設まで送り届けたそうです。

主治医から「施設に入って、すべての家事負担から解放されたら大丈夫ですよ」と言われた通り、今、お母様は施設で元気に暮らしています。相続関係の書類も、お母様ご自身で記入することができました。

なんとか財産目録をつくって信託銀行に提出すると「もう少し遅れていたら、相続税納付期限の10ヶ月に間に合わないところでした。本当に危なかったです」と担当者もハラハラしながら目録が来るのを待っていたようです。

まとめ

知られていない相続の常識

Sさんに何が一番大変だったのか聞いてみると「実家の相続財産を調べるために各機関へ手続きしたことでした。相続手続きで必要なのは、被相続人と代表相続人の自分だけの手続きでいいと思っていたので、遺言書がない場合は法定相続人全員の署名・捺印や書類が必要なんて、今まで誰も教えてくれないことでした」というコメントでした。

また、「亡くなった父名義の自動車(普通車)を廃車にするためには、遺産分割協議書に法定相続人全員の署名捺印をして一旦相続する必要があると言われて驚きました。(注:相続する車の価格にもよって手続きが変わります)ただ廃車にしたいだけなのに、それすらもすぐにできなかった。生前中に廃車にしておくべきでした」と反省と後悔しきりでした。

実体験から得た教訓

Sさんの実体験を詳しくうかがっていると、他人事ではないと思ったのか高齢の親御さんをもつ友人たちも集まってきて「全く知識がなかった。知ることができて良かった」と口々に話し、相続と高齢者の健康問題に関する勉強の場となっていきました。

ある人が「相続は誰の身にも起こる可能性があるけど、生きていく過程で自然に学んでいける常識ではないよね」と言うと、Sさんは「相続は具体的な金額の話になるから、自分の周りの人に話したり聞いたりできないし、かなり閉鎖的なことなのですよね。普段は普通に付き合っている親戚同士でも、お金の話になった途端に関係が変わったりします。だから、相続のセミナーに行ったり、プロに相談したりするのでしょうね」という説得力のあるコメントには、一同うなずくしかありませんでした。

さいごに

短期間で盛りだくさんな相続と介護問題を経験されたSさんですが、やっと広島のご実家も売却できる状態になり、「購入したい」という問い合わせが複数件あるそうです。

この度は、コラム掲載の許可をくださったご厚意に感謝するとともに、ご実家が好条件で売却されることを願ってやみません。

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