アメリカNOW! 今週の5銘柄 ~サプライチェーン問題の改善で売上加速見通しのシスコシステムズほか~
投資情報部 榮 聡
2023/02/20
先週は景気見通しの改善による相場へのプラスと金利上昇による相場へのマイナスが相殺して、週を通じてはもみ合いとなりました。今週の株価材料として、FOMC議事要旨、大手小売の決算発表、米10-12月期実質GDPの改定値、などが注目されます。
今回は過去2週間の決算好調銘柄から、シスコ システムズ(CSCO)、マリオット インターナショナル A(MAR)、モトローラ ソリューションズ(MSI)、アリスタ ネットワークス(ANET)、ガートナー(IT)を選んで今週の5銘柄といたします。
図表1 S&P500指数のローソク足(日足、6ヵ月)
2/3(金)の予想外に強い雇用統計を契機に頭打ちとなっています。一方、200日移動平均と50日移動平均が交差する3,950~4,000ポイント辺りは下値支持ラインとして期待できそうです。
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表2 業種別指数騰落率・個別銘柄騰落率
S&P500業種指数騰落 | 5日 | 1ヵ月 | 3ヵ月 |
一般消費財・サービス | 1.6% | 8.1% | 6.8% |
生活必需品 | 0.9% | 1.4% | -1.2% |
公益事業 | 0.9% | -1.5% | -0.4% |
資本財・サービス | 0.8% | 3.9% | 3.8% |
コミュニケーションサービス | 0.2% | 1.8% | 8.4% |
S&P500 | -0.3% | 2.7% | 2.9% |
金融 | -0.3% | 2.7% | 3.0% |
情報技術 | -0.4% | 6.4% | 5.7% |
ヘルスケア | -0.4% | -1.6% | -1.9% |
素材 | -1.0% | -1.9% | 1.9% |
不動産 | -1.3% | 0.9% | 4.5% |
エネルギー | -6.9% | -7.4% | -7.9% |
騰落率上位(5日) | 騰落率 |
シスコシステムズ | 7.4% |
テスラ | 5.8% |
エクセロン | 5.7% |
ブッキング・ホールディングス | 4.8% |
ゼネラル・モーターズ(GM) | 4.4% |
騰落率下位(5日) | 騰落率 |
コノコフィリップス | -9.5% |
ペイパル・ホールディングス | -7.6% |
エクソンモービル | -6.6% |
シュルンベルジェ | -5.4% |
シェブロン | -5.3% |
注:個別銘柄の騰落率上位、下位はS&P100指数が母集団です。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
先週の米国株式市場
S&P500指数は週間で0.3%、NYダウは0.1%の下落、ナスダック指数は0.6%の上昇でした。
先週の米国株式市場は景気見通しの改善による相場へのプラスと金利上昇による相場へのマイナスが相殺して、週を通じてはもみ合いとなりました。
景気見通しの改善では、1月小売売上高が前月比3.0%増(市場予想は同2.0%増)と強く、1月雇用統計で非農業部門雇用者数が51.7万人増と強かったことも踏まえて、景気の先行きに対する楽観が広がりました。「ソフトランディング」か「ハードランディング」の2者択一でなく、「ノーランディング」(顕著な景気減速がない)の可能性もあるとするエコノミストもでてきています。
金利上昇に関しては、1月の消費者物価指数、生産者物価指数とも市場予想を上回り、金融当局者からはタカ派発言が相次いだことから、政策金利の市場見通しは図表3の通り「Higher for Longer」(より高い時期がより長く)の形で引き上げられました。これを受けて米10年国債利回りは3.8%台まで上昇して、株式にマイナスに作用しました。
業種指数では、テスラが上昇した「一般消費財・サービス」、P&Gやウォルマート、ペプシコがけん引した「生活必需品」が上位の一方、原油価格が反落となって「エネルギー」は大幅下落となりました。個別銘柄ではテスラ(TSLA)が上昇率2位でした。先週同社には、NY州工場で労働組合結成の動き、EV充電器を他社にも開放意向、運転支援システムの不具合で36万台超のリコールなど様々なニュースがありました。
経済指標では、1月の消費者物価指数で総合指数が前年比6.4%増、コア指数が同5.6%増で、それぞれ市場予想の同6.2%増、同5.5%増を上回りました。インフレ率の低下は続いているものの、低下ペースは想定よりも緩慢との見方が広がりました。
今週の米国株式市場
足もとでは逆の動きとなっていますが、中期的には米国のインフレピークアウト、FRBによる利上げ姿勢の後退は相場を支える要因と考えられ、S&P500指数の今期予想PERは18.5倍まで回復してきました。しかし、まだ利上げが継続しており、足もとで長期金利も反発している投資環境では、これ以上のPER上昇は期待しにくいでしょう。
一方、S&P500指数の予想EPSは、年初来でほぼ決算が出揃った2022年が4.0%、2023年が3.5%と比較的大きな下方修正となっています。10-12月期決算の状況を見ると3ヵ月後の1-3月期決算の発表でも下方修正が続く懸念が強く、これが株式相場の持続的上昇を阻害する要因になると考えられます。
以上を総合すると米国市場は下値を警戒すべき局面にあると言えるのではないでしょうか。
今週の株価材料として、FOMC議事要旨、大手小売の決算発表、米10-12月期実質GDPの改定値、などが注目されます。
前回のFOMCでは0.25%ポイントの利上げが決まり、結果発表の会見ではパウエルFRB議長が「ディスインフレ的プロセスが始まった」として注目されました。ただ、その後に続いた多くの金融当局者からは利上げの継続が必要だとする、パウエルFRB議長の発言に比べるとタカ派的と捉えられました。FOMCでどのような議論があったのか注目されます。
今週はウォルマート、ホームデポから大手小売企業の11-1月期決算の発表が始まります。1月小売売上高が予想以上に強かったことや10-12月期実質GDPの伸びに“在庫投資”が寄与していたことから、小売企業経営者の発言がマクロ統計の解釈にどのような影響を及ぼすか注目されます。
米10-12月期実質GDPの改定値では、1月の強い小売売上高を受けて経済がさほど減速しない「ノーランディング」予想も一部では出ているため、速報値の前期比年率2.9%増と変わらずと予想されている改定値でも通常よりは注目を集めそうです。
経済指標では、2/21(火)に米国の1月中古住宅販売件数(前月比2.0%増の予想)、2/23(木)に米国の10-12月期実質GDP改定値(前期比年率2.9%増の予想、速報値も同2.9%増)、2/24(金)に米国の1月個人消費支出物価指数(総合指数は前年比5.0%増の予想、前月も同5.0%増、コア指数は前年比4.3%増の予想、前月は同4.4%増)、米国の1月新築住宅販売件数(前月比0.7%増の予想)、などの発表が予定されています。
企業イベントでは上記のほか、コインベースグローバル、エヌビディア、ユニティソフトウェア、ワーナーブラザースディスカバリー、モデルナ、ブッキングホールディングスなどの決算発表が予定されています。
今週の5銘柄
今回は過去2週間に四半期決算を発表したS&P500指数採用銘柄から、売上・EPSとも市場予想を上回って業績好調と考えられる銘柄をご紹介いたします。
【スクリーニング条件】
(1)四半期決算の売上・EPSとも市場予想を上回った
(2)四半期決算が前年同期比増収・増益である
(3)時価総額が200億ドル以上
(4)2/6(月)~2/16(木)に四半期決算を発表したS&P500指数採用銘柄
以上の条件で図表4に抽出された銘柄で、通期EPSが上方修正された、シスコ システムズ(CSCO)、マリオット インターナショナル A(MAR)、モトローラ ソリューションズ(MSI)、アリスタ ネットワークス(ANET)、ガートナー(IT)を選んで今週の5銘柄といたします。
図表3 政策金利は「Higher for Longer」(より高い時期がより長く)
注:金利先物市場の価格に織り込まれている政策金利の市場予想です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表4 決算がポジティブと考えられる銘柄(2/6(月)~2/16(木)に四半期決算を発表したS&P500指数採用銘柄を対象に抽出)
銘柄名(コード) | 売上 予想比 (%) |
EPS 予想比 (%) |
売上 前年同期比 (%) |
EPS 前年同期比 (%) |
通期EPS 修正率 (過去4週) (%) |
シスコ システムズ(CSCO) | 1.2 | 2.8 | 6.9 | 4.8 | 7.6 |
フィリップ モリス インターナショナル(PM) | 8.6 | 10.1 | 0.6 | 3.0 | -3.2 |
アプライド マテリアルズ(AMAT) | 0.7 | 4.9 | 7.5 | 7.4 | -1.5 |
マリオット インターナショナル A(MAR) | 8.2 | 7.1 | 33.2 | 50.8 | 6.5 |
モトローラ ソリューションズ(MSI) | 6.8 | 4.8 | 16.6 | 26.3 | 4.7 |
アリスタ ネットワークス(ANET) | 6.4 | 16.5 | 54.7 | 72.0 | 11.6 |
ヒルトン ワールドワイド ホールディングス(HLT) | 3.1 | 30.7 | 33.1 | 120.8 | -2.1 |
ガートナー(IT) | 3.6 | 43.5 | 15.2 | 23.8 | 0.5 |
ケロッグ(K) | 4.6 | 11.9 | 12.0 | 13.3 | -5.0 |
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今週の注目銘柄
買付 | チャート | 銘柄 | 株価 (2/17) |
予想PER (倍) |
ポイント |
---|---|---|---|---|---|
買付 | シスコ システムズ(CSCO) | 50.77ドル | 13.6 | 【需要堅調の中、サプライチェーン問題が改善】 ・ネットワーク通信機器大手。11-1月期決算は売上・EPSとも市場予想を上回り、2-4月期の売上ガイダンスは前年同期比11~13%増と、同5.8%増の市場予想を軽々と上回りました。底堅い需要がある中、サプライチェーンの問題が改善したことで売上が加速しているとみられます。需要については、景気の影響が懸念されますが、拡大し続ける通信量に対応するために、ネットワーク機器の現代化やアップグレードの需要が強いようです。 ・11-1月期の売上は前年同期比7%増、調整後EPSは同5%増と堅調でした。売上の約5割を占める「セキュアー、アジャイルネットワーク」の売上が前年同期比14%増、前四半期の同12%増からも加速して全体をけん引しています。ソフトウェアの売上も同10%増と堅調です。2023年7月期の売上ガイダンスは前年比4.5~6.5%増から同9~10.5%増に、調整後EPSは3.51~3.58ドルから3.73~3.78ドルに引き上げています。 | |
買付 | マリオット インターナショナル A(MAR) | 172.52ドル | 22.6 | 【レジャー、ビジネスとも宿泊需要が回復】 ・世界最大のホテル運営事業者。10-12月期業績は売上・EPSとも市場予想を上回りました。レジャー、ビジネスとも宿泊需要が順調に回復しており、稼働客室当たりの収入はコロナ前2019年10-12月期を超えました。同社は2020年1-3月期に中止した株主還元を、配当は2022年5月、自社株買いは2022年4-6月期に再開して事業の正常化が進んでいます。 ・10-12月期の売上は前年同期比33%増、調整後EPSは同51%増で、いずれも市場予想を上回りました。稼働客室当たりの収入が、為替変動の影響を除いたベースで、前年同期比29%増、コロナ前の2019年10-12月比でも同5%増と回復しています。稼働客室当たりの収入は、1-3月期は前年同期比30~32%増、2023年12月期は前年比6~10%増と業績回復が継続する見通しです。運営する客室数は前年比4.0~4.5%増やす計画です。 | |
買付 | モトローラ ソリューションズ(MSI) | 269.42ドル | 24.0 | 【5Gへの移行がビジネス機会を広げる】 ・大手通信機器メーカーで、トランシーバーやデジタル無線機器、通信システムを提供。政府・公共機関向けが柱です。警察、消防などの公共安全機関が使用する無線システムは、音声のみから4G/5Gによるデータ通信も使用するようにアップグレードが進みつつあり、同社には新たな機器やアプリケーションの事業機会になっています。 ・10-12月期の売上は前年同期比17%増で、製品およびシステムインテグレーションが同21%増、ソフトウェアおよびサービスが同9%増です。高い伸びとなっているのは、陸上移動無線(Land Mobile Radio)、ビデオセキュリティと同コントロールがけん引しています。1-3月期の売上は前年同期比12~13%増、2023年12月期は前年比6.0~6.5%増のガイダンスです。 | |
買付 | アリスタ ネットワークス(ANET) | 138.23ドル | 23.9 | 【データセンターのネットワーク機器のリーダー】 ・データセンターのネットワーク機器ではリーダー企業で、現在進んでいる100ギガから200ギガ、400ギガへのアップグレードによって高い売上成長が実現しています。10-12月期は、売上・EPSとも市場予想を上回って好調でした。シスコシステムズと同様にサプライチェーン問題が解消に向かっていることが追い風となっているとみられます。2022年12月期は前年比49%の増収を達成しましたが、2023年12月期も前年比25%以上の増加が見込まれます。 ・10-12月期の売上は前年同期比55%増で、7-9月期比でも8%増と拡大が続いています。1-3月期の売上ガイダンスは、12.75~13.25億ドルとし、市場予想の12.1億ドルを大きく上回りました。営業利益率は40%を見込んでいます。 | |
買付 | ガートナー(IT) | 346.02ドル | 36.7 | 【ITに関する知見の重要性が増す】 ・IT分野を中心に調査の提供や助言を行っている会社。主力は世界2,200名以上の専門家によるリサーチの提供です。四半期決算では、2019年1-3月期以来、16四半期連続で売上・EPSとも市場予想を上回っています。企業経営においてITの重要性が増すにつれて、同社の事業機会が拡大していると考えられます。 ・10-12月期決算は、売上が前年同期比15%増(為替変動の影響を除いて同20%増)、調整後EPSが同24%増で、市場予想を大きく上回りました。契約額は同12%増と堅調です。2023年12月期のガイダンスは売上が58.65億ドル(前年比7%増)、調整後EPSが8.810ドル(同22%減)です。減益の見通しについては、2023年の経済状況が通常よりも不透明感が大きいことを鑑みて、保守的なスタンスをとっているためとみられます。 |
注:予想PERはBloomberg集計のコンセンサス予想EPSによります。使用した予想EPSの決算期は、シスコシステムズが2023年7月期、その他はいずれも2023年12月期です。
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
主要イベントの予定
経済指標・イベント | 企業決算・イベント | |
20(月) | ・米国市場休場(プレジデントデー) | |
21(火) | ・auじぶん銀行日本製造業PMI(2月) ・EU27ヵ国新車登録台数(1月) ・S&Pグローバルユーロ圏製造業PMI(2月) ・ドイツZEW景気指数(2月) ・S&Pグローバル米国製造業PMI(2月) ・米中古住宅販売件数(1月) |
ウォルマート、ホームデポ、コインベースグローバル |
22(水) | ・FOMC議事要旨(1月31日、2月1日開催分) | エヌビディア、ユニティソフトウェア |
23(木) | ・米シカゴ連銀全米活動指数(1月) ・米実質GDP(10-12月期、改定値) ・米新規失業保険申請件数(2月18日に終わる週) |
ワーナーブラザースディスカバリー、モデルナ ブッキングホールディングス |
24(金) | ・米個人所得・個人支出(1月) ・米個人消費支出物価指数(1月) ・米新築住宅販売件数(1月) ・米ミシガン大学消費者信頼感(2月、確報値) |
|
27(月) | ・ユーロ圏景況感(2月) ・米耐久財受注(1月) ・米中古住宅販売成約(1月) |
オキシデンタルペトロリアム |
28(火) | ・日本鉱工業生産(1月) ・米S&PコアロジックCS住宅価格(12月) ・米コンファレンスボード消費者信頼感(2月) |
リビアンオートモーティブ、バタフライネットワークス ファーストソーラー |
3月 1(水) |
・中国製造業・非製造業PMI(2月) ・米自動車販売台数(2月、2日までに発表) ・米ISM製造業景気指数(2月) |
ブラジル石油公社、セールスフォース、ターゲット |
2(木) | ・ユーロ圏消費者物価指数(2月) ・米新規失業保険申請件数(2月24日に終わる週) |
コストコホールセール |
3(金) | ・米ISM非製造業景気指数(2月) |
注:日付は現地時間によります。(E)はBloombergによる予想を示します。企業決算の赤字でのハイライトは、当社顧客保有人数の1~30位、青字のハイライトは31~50位を示します。
※Bloombergデータ、各種報道をもとにSBI証券が作成
※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。
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