アメリカNOW! 今週の5銘柄 ~上場来高値更新銘柄、イーライリリィ、メルク、ペプシコ、マクドナルド、リンデ~

アメリカNOW! 今週の5銘柄 ~上場来高値更新銘柄、イーライリリィ、メルク、ペプシコ、マクドナルド、リンデ~

投資情報部 榮 聡

2023/05/16

先週は銀行不安の再燃、債務上限問題のもたつきが上値を抑える一方、インフレピークアウトの確認が下値を支えて、弱含みのもみ合いとなりました。今週の株価材料として、金融当局者の発言、銀行不安の行方、中国の鉱工業生産と小売売上高、などが注目されます。

今回は足もとで上場来高値を更新しつつある銘柄から、イーライ リリィ(LLY)メルク(MRK)ペプシコ(PEP)マクドナルド(MCD)リンデ(LIN)を選んで今週の5銘柄といたします。

図表1 S&P500指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)

株価の悪材料が多いものの、長期金利の落ち着きを背景とした大手テクノロジー株への買いが相場を支えています。
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成

図表2 業種別指数騰落率・個別銘柄騰落率

S&P500業種指数騰落 5日 1ヵ月 3ヵ月
コミュニケーションサービス 4.3% 2.6% 9.9%
一般消費財・サービス 0.6% 1.0% -3.3%
生活必需品 0.0% 2.3% 4.9%
S&P500 -0.3% -0.3% -0.6%
公益事業 -0.3% -0.2% 0.9%
情報技術 -0.3% 2.2% 5.8%
不動産 -1.0% 1.2% -7.9%
資本財・サービス -1.2% -1.5% -4.9%
ヘルスケア -1.2% -1.9% 0.0%
金融 -1.3% -3.2% -13.3%
素材 -2.0% -3.6% -6.0%
エネルギー -2.2% -9.9% -10.6%
騰落率上位(5日) 騰落率
アルファベット 11.3%
ネットフリックス 5.3%
アマゾン・ドット・コム 4.4%
アクセンチュア 4.3%
ネクステラ・エナジー 3.2%
騰落率下位(5日) 騰落率
ペイパル・ホールディングス -17.7%
ウォルト・ディズニー・カンパニー -8.5%
メットライフ -8.1%
インテル -6.6%
ダナハー -6.2%

注:個別銘柄の騰落率上位、下位はS&P100指数が母集団です。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成

先週の米国株式市場

S&P500指数は週間で0.3%、NYダウは1.1%の下落、ナスダック指数は0.4%の上昇でした。

銀行不安が再燃しているほか、債務上限問題ではバイデン大統領と共和党幹部の会談に進展がなく、上値を抑える要因になっている模様です。米地銀のパックウエストバンコープ(PACW)は先々週に預金が9.5%減少したことを公表、新たな経営破綻の可能性が懸念されています。

一方、消費者物価指数と生産者物価指数はインフレピークアウトのトレンドを示して、相場を支える要因になりました。また、新規失業保険申請件数が予想以上の増加となり、雇用市場の減速を示唆しました。併せて米10年国債利回りの低下に寄与して、テクノロジー株に対する物色を刺激したとみられます。

5/12(金)には5月ミシガン大学消費者信頼感(速報値)が57.7と、市場予想の63.0、前月の63.5を大きく下回った一方、同統計の5年先のインフレ期待が前年比3.2%増と予想外の上昇となって、市場のセンチメントを悪化させました。

業種指数では、アルファベットやネットフリックスの上昇が寄与した「コミュニケーションサービス」の上昇が目立ちました。アルファベット A(GOOGL)は、年次開発者会議を開催して、AI分野での事業展開や折り畳み式スマホの投入を説明して好感されました。ネットフリックス(NFLX)は、動画ストリーミングサービスでライバル関係にあるウォルト ディズニー(DIS)の決算発表で「ディズニー+」の加入者数が2四半期連続で減少したことが株価を刺激した可能性があります。

経済指標では、4月消費者物価指数が前月の前年比5.0%増から同4.9%増、同生産者物価指数が前月の同2.7%増から同2.3%増と、いずれも前月から伸びが低下してインフレのピークアウトを示しました。

今週の米国株式市場

年前半の米国市場については、バリュエーションに割安感がないため持続的な株価上昇は難しく、景気減速の程度が確認できるまではレンジ相場になりやすいと見ています。相場が高いところでは売り、十分な押し目を入れたところでは買うという投資行動が有効と考えられます。

今週は引き続きもみ合いでしょうか。一方、今後3ヵ月程度を見渡すと、下値不安が大きいと考えます。理由としては、(1)S&P500指数の予想PERが18.8倍と高水準にある、(2)景気減速が続いていることを考えると、S&P500指数の予想EPSは下方修正が続く可能性が高い、(3)金融市場で織り込まれている年後半の利下げ期待が修正される可能性がある、(4)債務上限問題がこじれやすい政治環境にある、(5)銀行不安が続く可能性がある、などが相場下落の可能性が高いとみる要因です。米国株式には、「セル・イン・メイ」(5月に売れ)という格言がありますが、今年はこれが当てはまる可能性が高いと考えられます。

今週の株価材料として、金融当局者の発言、銀行不安の行方、中国の鉱工業生産と小売売上高、などが注目されます。

5/15(月)から19日(金)にかけて金融当局者10名の発言が予定されています。そのうち、5/19(金)にはパウエルFRB議長がバーナンキ前議長ととも金融政策に関するパネルディスカッションに参加の予定です。銀行不安に対する見方や年内に政策金利が引き下げられる可能性があるかどうかに関して注目されます。

銀行不安に関しては、深刻な金融不安につながる可能性は小さいとみられるものの、まだ、複数の地方銀行が破綻に追い込まれる可能性が残っているとみられます。5/12(金)に発表されたFRBの銀行統計では、ファーストリパブリックバンクの破綻後の影響を含む5/3(水)までの1週間で米国銀行の預金額(季節調整済)は146億ドルの流出(国内大銀行は143億ドルの流出、国内小銀行は3億ドルの流出)となっています。引き続き動向を注視する必要がありそうです。

中国の経済指標は先週の4月輸入額などこのところ弱いものが続きましたが、5/16(火)の4月鉱工業生産は前年比10.8%増の予想(前月は同3.9%増)、4月小売売上高は前年比22.0%増の予想(前月の同10.6%増)と、大幅な回復となる予想です。この回復は前年同期の数値が上海のロックダウンなどで大きく落ち込んだ反動という面が強いものの、市場は反応せざるを得ないでしょう。市場の景気懸念を和らげる可能性がありそうです。

経済指標では上記のほか、5/16(火)にユーロ圏の1-3月期実質GDP(前年比1.3%増の予想、前期は同1.3%増)、米国の4月小売売上高(前月比0.8%増の予想)、5/17(水)に日本の1-3月期実質GDP(前期比年率0.8%増の予想)、米国の4月住宅着工件数(前月比1.4%減の予想)、4月住宅建設許可件数(前月比0.0%の予想)、5/18(木)に米国の4月中古住宅販売件数(前月比3.2%減の予想)、が発表予定です。

企業イベントでは、ホームデポ、シスコシステムズ、ターゲット、ウォルマート、アプライドマテリアルズ、ディアなどの決算発表が予定されています。

今週の5銘柄

今回は上場来高値を更新しつつある銘柄群をご紹介いたします。

米国市場は年初来3,800~4,200ポイントのレンジ相場となっていますが、上場来高値を更新しつつある株価好調銘柄もあります。これら銘柄はそれぞれに市場で評価されるポイントがあると考えられ、今後に想定される市場全体の株価調整局面でも底堅い動きが期待できるでしょう。

【スクリーニング条件】

(1)S&P500指数採用銘柄
(2)上場来高値の5/11(木)終値からの乖離率が3%以内
(3)5月中(5/11(木)まで)に52週高値を更新している

以上の条件を満たす銘柄を時価総額順に図表3に抽出しています。ここから、イーライ リリィ(LLY)、メルク(MRK)、ペプシコ(PEP)、マクドナルド(MCD)、リンデ(LIN)を選んでご紹介いたします。

図表3 上場来高値を更新しつつある銘柄(S&P指数採用銘柄対象)

コード 銘柄名 上場来高
値乖離率
(%)
上場来高値
(5/11)
(ドル)
株価
(5/11)
(ドル)
目標株価
(ドル)
時価総額
(億ドル)
LLY イーライリリー 0.7 438.39 435.55 412.85 4,135
MRK メルク 1.8 119.64 117.55 122.30 2,983
PEP ペプシコ 0.1 195.56 195.34 201.19 2,691
MCD マクドナルド 1.4 298.86 294.79 315.00 2,152
LIN リンデ 1.7 373.41 367.04 402.78 1,799
BKNG ブッキング・ホールディングス 2.7 2,728.00 2,656.58 2,893.57 981
VRTX バーテックス・ファーマシューティカルズ 1.2 354.46 350.40 368.50 902
MMC マーシュ・アンド・マクレナン 1.5 183.00 180.37 185.50 892
BSX ボストン・サイエンティフィック 0.5 53.67 53.39 57.48 768
AON エーオン 2.0 341.97 335.22 328.53 685
MNST モンスター・ビバレッジ 2.0 60.45 59.28 59.34 620
ORLY オライリー・オートモーティブ 0.3 961.00 958.26 962.26 583
CMG チポトレ・メキシカン・グリル 0.9 2,076.42 2,058.50 2,084.35 568
HSY ハーシー 0.8 276.85 274.78 270.36 562
GIS ゼネラル・ミルズ 0.1 90.36 90.26 83.70 530

注:「目標株価」は、Bloombergが集計したアナリストによる目標株価の平均値です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成

今週の注目銘柄

今週の注目銘柄

買付 チャート 銘柄 株価
(5/12)
予想PER
(倍)
ポイント
買付チャートイーライ リリィ(LLY)434.43ドル50.0

【肥満治療薬とアルツハイマー治療薬への期待】

・(1)新世代の糖尿病治療薬「マンジャロ」の売上拡大が順調であること、(2)同薬(一般名はチルゼパチド)が肥満治療薬として今年中にも承認される期待、さらに(3)開発中のアルツハイマー治療薬に対する期待から株価は上場来高値の更新が続いています。1-3月期に肥満治療薬「チルゼパチド」の2回目の第3相臨床試験で15mgの投与で平均14.7%の体重減少を確認したほか、5/3(水)にはアルツハイマー治療薬「ドナネマブ」の後期臨床試験で、認知機能の低下が35%抑えられたとの結果を発表して好感されました。

・1-3月期の売上は前年同期比11%減、調整後EPSは同38%減と不振ですが、新型コロナの抗体薬を除くベースでは売上は同10%増とコアのビジネスは堅調で、通期の調整後EPSガイダンスを8.65~8.85ドルへ0.30ドル引き上げました。

買付チャートメルク(MRK)117.14ドル16.8

【がん治療薬が順調に拡大】

・がん免疫治療薬の「キイトルーダ」が適応範囲の拡大により、2022年の209億ドル(売上に占める割合は35%)から、2023年239億ドル、2024年269億ドルと順調に拡大する見通しです。一方、同薬の特許が切れるのは2028年で、今後は想定される「特許の壁」をどう乗り越えるかの戦略にも注目が高まるとみられます。

・1-3月期は売上が前年同期比9%減、調整後EPSが同35%減でしたが、新型コロナ治療薬「ラゲブリオ」の反動減を除いた売上は同11%増と事業の基調は良好でした。主力薬「キイトルーダ」の売上は前年同期比20%増(為替の影響を除いて同24%増)と順調です。

買付チャートペプシコ(PEP)196.12ドル26.9

【業績堅調で株主還元に積極的】

・2023年は、売上のオーガニック成長率が前年比8%増、調整後EPSは同9%増と堅調な拡大が見込まれています。北米で4割のシェアをもつ「塩味系スナック」ではさらなる拡大が期待される一方、このところシェアの縮小が続いたソフトドリンクでは安定化が期待されています。今年は77億ドルの株主還元(配当で67億ドル、自社株買いで10億ドル)を計画、株主還元へのコミットメントの強さも市場から評価される要因になっているようです。

・1-3月期業績は製品価格の引き上げが効いて、売上は前年同期比10%増、調整後EPSは同16%増、それぞれ市場予想を4%、9%上回って好調でした。業績好調を受けて通期のガイダンスを上記のように引き上げています。

買付チャートマクドナルド(MCD)296.14ドル26.9

【既存店売上が12.6%増】 

・1-3月期のグローバル既存店売上は前年同期比12.6%増となり、市場予想の同8.2%増を大きく上回りました。メニュー価格を引き上げても来店客数が衰えず、CEOは「厳しい経営環境の中、マクドナルドブランドに対する顧客の需要は引き続き強い」とコメント、同社が進める成長戦略「Accelerating the Arches」に自信を示しました。

・1-3月期の業績は、売上が前年同期比4%増(為替の影響を除くベースで同8%増)、営業利益は同10%増(同じく同14%増)と堅調でした。GAAPベースのEPSは前年同期にロシア市場からの撤退費用が計上されていたため、同66%増(同じく同72%増)と高くなっています。既存店売上の伸びは、米国、海外、海外のライセンス市場が揃って12.6%伸びました。

買付チャートリンデ(LIN)370.33ドル27.3

【業績堅調】

・アイルランド籍の世界最大の産業ガス会社です。産業ガスの会社は、医療向けのガスなど景気感応度が低い分野があるほか、顧客企業の工場に設備をもってサービスすることが多いため事業の継続性が高く、コストの変動は顧客に転嫁しやすいなど、分類される化学業界、素材産業の中では相対的にディフェンシブな性格があります。また、世界の各地域で大手に集約される傾向があり、安定成長が期待される業界でもあります。このような性格が株価が堅調な背景とみられます。

・1-3月期業績は、売上が前年同期比横ばい(為替の影響を除いて同3%増)ながら、平均8%の値上げが通って粗利率が改善し、営業利益は同16%増と堅調でした。通期の調整後EPSを前年比9~13%増に相当する13.45~13.80ドルに引き上げています。

注:予想PERはBloomberg集計のコンセンサス予想EPSによります。使用した予想EPSの決算期は、いずれも2023年12月期です。
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

主要イベントの予定

  経済指標・イベント 企業決算・イベント
15(月) ・日本工作機械受注(4月)
・米ニューヨーク連銀製造業景気指数(5月)
 
16(火) ・中国鉱工業生産・小売売上高(4月)
・ドイツZEW景気指数(5月)
・ユーロ圏実質GDP(1-3月期、速報値)
・債務上限問題に関する協議
(バイデン大統領とマッカーシー下院議長ら議会指導者)

・米小売売上高(4月)

・米鉱工業生産(4月)
・NAHB住宅市場指数(5月)
ホームデポ
17(水) ・日本実質GDP(1-3月期、速報値)
・EU27ヵ国新車登録台数(4月)
・米住宅着工・建設許可件数(4月)
シスコシステムズ、ターゲット
18(木) ・米新規失業保険申請件数(5月13日に終わる週)
・米フィラデルフィア連銀製造業景気指数(5月)
・米中古住宅販売件数(4月)
ウォルマート、アプライドマテリアルズ
19(金) ・パウエルFRB議長がパネルディスカッションに参加 ディア
22(月) ・日本機械受注(3月) ジムインテグレーテッドシッピング
23(火) ・auじぶん銀行日本製造業PMI(5月)
・S&Pグローバル米国製造業PMI(5月)
・米新築住宅販売件数(4月)
ロウズ
24(水) ・ドイツIFO企業景況感指数(5月)
・FOMC議事要旨(5月2日、3日開催分)
エヌビディア、アナログデバイセズ
25(木) ・米新規失業保険申請件数(5月20日に終わる週)
・米実質GDP(1-3月期、改定値)
・米中古住宅販売成約(4月)
コストコホールセール、アルタビューティ
26(金) ・米個人所得・個人支出(4月)
・米耐久財受注(4月)
・米個人消費支出物価指数(4月)

・米ミシガン大学消費者信頼感(5月)
 

注:日付は現地時間によります。(E)はBloombergによる予想を示します。企業決算の赤字でのハイライトは、当社顧客保有人数の1~30位、青字のハイライトは31~50位を示します。
※Bloombergデータ、各種報道をもとにSBI証券が作成

※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。

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