【中国株フラッシュ】中国株の「ブラックマンデー」

【中国株フラッシュ】中国株の「ブラックマンデー」

投資情報部 李 燕

2022/10/25

10/24(月)にハンセン指数が6.4%下落、ハンセンテック指数は9.7%下落し、香港市場は「ブラックマンデー」となりました。米国上場のADRで構成されるナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数(HXC指数)も、14.4%下落しました。

一方、中国本土市場の上海総合指数は2.0%下落、CSI300(上海・深セン300)指数は2.9%下落し、香港や米国市場の中国株主要指数よりは下落率が限定的でした。ただし、海外投資家の取引動向を示す「香港経由の中国A株投資」は179億元に上る資金流出となりました。

上記の動きからすると、10/24の中国株安は、主に海外投資家による売りが主導したものと言えそうです。主な要因は、以下の3つと考えられます。

 ・中国の新指導部に対する海外投資家の「手荒い歓迎」

 ・予想外の人民元安“容認”姿勢と経済指標の発表

 ・「ゼロコロナ政策」継続に対する警戒

中国の新指導部に対する海外投資家の「手荒い歓迎」

10/24は中国共産党の新指導部が発足した後の最初の取引日です。10/23に明らかになった中国共産党の新指導部は、習近平氏が総書記を続投したほか、“習氏に近い”とされる人々が最高指導部の政治局常務委員に選出されました。

習氏の続投は市場予想通りでしたが、政治局常務委員メンバーのほとんどが“習氏に近い”人物となったことは市場にとってややサプライズとなりました。それを受け、海外投資家は習氏がこれまで実施してきた政策、たとえば「ゼロコロナ政策」や「科学技術の自立自強」、共同富裕などが、今後も維持される可能性が高いと警戒しました。これらの政策は中国当局がある程度の成長鈍化を容認し、米中対立の激化も辞さない政策として捉えられているためです。

予想外の人民元安“容認”姿勢と経済指標の発表

10/24に、中国人民銀行(中央銀行)は予想外に人民元対ドルレートの基準値を1ドル=7.1230に設定しました。これまで中国人民銀行は人民元対ドルレートの基準値を7.11元近辺で設定し、元安を防衛する姿勢を示してきましたが、10/24は自らやや元安方向へシフトした格好となりました。それを受け、共産党大会(重要な政治イベント)の終了に伴い、中国人民銀行は元安を“容認”する可能性があると警戒されました。一段の元安に伴う資金流出への懸念につながりました。

こうしたなか、中国当局は発表を延期していた7-9月期のGDP成長率や9月の主要経済指標を10/24に一斉に発表しました。それによると、7-9月期のGDP成長率は市場予想を上回ったものの、9月の経済指標はまちまちの結果となりました。特に市場が注目している不動産市場と消費(小売売上高)がさえず、投資家のセンチメントに影を落としました。小売売上高の伸び鈍化は「ゼロコロナ政策」による影響が続いていることが示されました。

「ゼロコロナ政策」継続に対する警戒

中国広東省の省都である広州市が10/24に新型コロナの感染拡大を受け、一部地域(中心区域)で小・中学校が対面授業を中止し、レストランでの飲食も停止しました。製造業の中心地の一つでもある広州市の動きは、「ゼロコロナ政策」の継続に対する警戒を一層強めました。「ゼロコロナ政策」の継続によって9月の消費が軟調だっただけに、10月以降の消費動向ひいては景気回復に対する懸念を助長しました。

以上の3つが重なったことで、10/24の香港および米国市場では中国株に対し、パニック売りの様相を呈しました。海外投資家が中国株に対するポジションを急激に圧縮したとみられます。過去の中国株売り時と同様に、「中国株は投資不可能」との声も上がりました。

しかしながら、以下の要因からすると、10/24の中国株暴落は心理的パニックによる過剰反応とも言えそうです。

中国当局は依然として発展を重視

共産党大会の開幕日(10/16)の演説で習近平氏は、党の統治において「発展が最も重要な任務」だと表明しました。市場では新型コロナの感染拡大や米中対立、台湾問題などを踏まえ、習氏が「発展」よりも「安全」をより重視すると、演説で表明することを懸念しましたが、習氏は引き続き、発展を重視する姿勢を示しました。

新指導部の発足と政策の実施にはタイムラグがある

新指導部をめぐっては”習氏に近い”とされる人物で固められたことで、海外投資家はこれらから打ち出される政策は必然的に「マーケットフレンドリー」(市場に友好的)でないと予想しているようです。しかしながら、それを断定するのは時期尚早と考えられます。

今年のような困難の世界情勢の中で、習氏の続投と新指導部の発足という政治イベントを無事に通過した後、新指導部はこれからより具体的な経済政策の策定に入ることになります。時間軸でみた場合、来年の政策運営方針が示されるのは12月初めに開催される予定の中央経済工作会議となりです。そして、より具体的な政策の多くは来年3月に開催される予定の全人代(全国人民代表大会)前後で明らかになります。

また、新指導部のメンバーが「マーケットフレンドリー」であるかどうかも、これから確認していく必要があると思われます。たとえば、次期首相に就くことが濃厚になった上海市トップの李強氏は、テスラをはじめとする外資企業を誘致しました。李氏は2020年1月に「上海製」テスラが初めて納車される際の式典に出席し、テスラCEOのマスク氏に対し、上海工場の生産能力拡大などを全面的にサポートすると表明しました。

経済の成長見通しは海外投資家が懸念しているほど悪くない

国際通貨基金(IMF)が10月に示した経済成長見通しによると、中国のGDP成長率は2022年に3.2%へ鈍化するものの、2023年は4.4%への回復が見込まれています。米国や欧州など多くの先進国・地域が2023年に景気減速が続くと見込まれなか、中国は数少ない回復が見込まれる国となっています。

図表1:IMFによる最新のGDP成長率予測

出所:IMF「世界経済見通し(2022年10月)」によりSBI証券が作成

他方、新指導部が「マーケットフレンドリー」であるかどうか判明されるまで、あるいは海外投資家が新指導部を”受け入れる”には時間がかかると想定されます。したがって、当面、中国株をめぐるセンチメントは弱い状態が続く可能性があります。

一方、今年3月中旬のように中国当局が予想外に相場支援へ動く場合、あるいは中国当局が海外投資家の懸念を払しょくするような経済政策を打ち出す場合、センチメントは一気に好転する可能性もあります。

何にしろ、中国株の株価水準(バリュエーション)は既に過去危機の底値に近い水準まで低下しています。たとえば、ハンセン指数でみた場合、10/24の株価収益率(PER)は5.74倍で、1997-1998年のアジア金融危機時の安値6.72倍、2007-2008年の金融危機時の安値7.03倍を大きく下回っています。予想PERベースでは8.50倍と、2007-2008年の金融危機時の安値7.58倍をわずかに上回る水準となっています。

したがって、今は相場の下振れリスクには警戒が必要ですが、上振れる可能性にも注視が必要な状況かもしれません。

図表2:IMFによる最新のGDP成長率予測

出所:BloombergのデータによりSBI証券が作成

※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。

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