経済分析2021年の展望 パンデミック前には戻らない

パンデミックループからの脱却は難しい

新型コロナウィルス感染拡大に対して、「経済も生命も」と二兎を追った多くの先進国は、一兎も得ないまま、感染者数の増加、社会的距離政策の厳格化、経済活動の低下というパンデミックループを旋回している。経済的犠牲(とその対価としての補償)を容認し、経済封鎖を含む厳格な社会的距離政策の長期間継続で感染克服を優先した国が、結果的には経済的犠牲も相対的に軽微に止めている。幾何級数的に増大するウィルス感染に対しては、初動対応と時間的な視野の長さが決定的に重要である。時間軸の短い政治家は、感染ペースが少し下がると経済再開に走り、感染者数が再度増加し、社会的距離政策の再強化を余儀なくされるパンデミックループから脱却できず、感染克服の視野は改善しない。この過ちを繰り返した国は、安全で有効と考えられるワクチンの登場で、この過ちをさらに繰り返すとみられる。その結果、パンデミック前の経済構造や家計や企業の行動パターンに戻る「正常化」は、時間の経過とともにますます困難になるだろう。

労働節約的資本の台頭

パンデミックには、需要ショック(経済の総需要を引き下げる)と再配分ショック(産業間の需要のシフト)の2つが混在したと考えている。需要が消失した産業は労働集約的で失業の増大に寄与し、需要が増加した産業は労働節約的で雇用の増加には寄与しない。従来は、雇用と資本ストックは補完的な関係にあった。しかし、情報技術革新の進展で両者の関係は、より多くの産業や職種で代替的となり、労働節約的資本が増大しつつある。パンデミックは社会的距離政策の長期化を通じて、この変化を加速させた。これも元には戻らないだろう。

ワクチン接種開始は、経済正常化の十分条件ではない。ワクチン接種開始後の重要なチェックポイントは、接種のタイムラインとロジスティックス、免疫の持続期間、社会的距離政策の継続期間、の3点である。筆者は、日本で人口の半数への接種完了が早くても2022年半ば、一定の社会的距離政策を2022年中は維持する必要があると考えている。ほぼ3年間、社会的距離政策が維持されると、産業構造や経済行動パターンは元には戻らないだろう。

金融政策は経済成長率と長期金利の双方に影響を与えるが、長期間の量的緩和にコミットすることで、経済成長率>長期金利という状況を持続させ、資産価格に対する支援材料となる。量的緩和は相当長期間維持されそうであり、株価への調整圧力に対するバッファーとなろう。

「GND = 成長フロンティアの誕生」となるか?

米国のバイデン次期政権は地球温暖化防止策として、GND(グリーンニューディール)による大規模な拡張的財政政策(その大部分は各種減税とみられる)を検討している。共和党が上院で過半数を維持すれば、その実施はほぼ不可能となるが、大統領令を含め、超党派で合意できる範囲内の温暖化対策は、実現可能である。これらが、世界経済にとっての新たな成長フロンティア(期待成長率の高い投資プロジェクト)と認識されるかどうかに注目したい。なぜなら、自然利子率の上昇→潜在成長率の上昇という好循環が実現する余地があるためだ。

1980年代に始まったレーガン・サッチャー政権に代表される小さな政府・規制緩和路線は、2008年の世界金融危機で終了し、大きな政府・規制強化路線に転じた。大企業・富裕層への課税強化、独占禁止法の運用強化による巨大プラットフォーム企業の市場支配力への規制、巨大企業分割論などの流れが続くだろう。

松岡 幹裕
SBI証券 金融調査部(チーフエコノミスト)

(株)三菱総合研究所、(株)大和総研でのエコノミストを経て、1997年から機関投資家向けサービスに従事。1999年からジャーディンフレミング証券(現JPモルガン証券)、2001年からドイツ証券を経て、2018年11月にSBI証券に入社。Institutional Investor All Japan Research Teamでは、2003-2006年2位、2007-2012年3位、2002年4位、2017年5位にランクイン。米国ブラウン大学大学院経済学部修士取得。

ご注意事項

  • ・当社の取扱商品は、各商品毎に所定の手数料や必要経費等をご負担いただく場合があります。また、各商品等は価格の変動等により損失が生じるおそれがあります(信用取引、先物・オプション取引、外国為替保証金取引、取引所CFD(くりっく株365)では差し入れた保証金・証拠金(元本)を上回る損失が生じるおそれがあります)。
    各商品等への投資に際してご負担いただく手数料等およびリスク情報につきましては、SBI証券WEBサイトの当該商品等のページ及び金融商品取引法に係る表示並びに契約締結前交付書面等の記載内容をご確認ください。
    金融商品取引法に係る表示
  • ・本資料は投資判断の参考となる情報提供のみを目的として作成されたもので、個々の投資家の特定の投資目的、または要望を考慮しているものではありません。投資に関する最終決定は投資家ご自身の判断と責任でなされるようお願いします。万一、本資料に基づいてお客様が損害を被ったとしても当社及び情報発信元は一切その責任を負うものではありません。本資料は著作権によって保護されており、無断で転用、複製又は販売等を行うことは固く禁じます。
    重要な開示事項(利益相反関係等)について
  • ※掲載しているコンテンツ内でご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません