家族信託を検討する前に知っておくべき14の注意点 (株式会社ファミトラ 2025.1.28)

14の注意点から特性までわかりやすく解説
家族信託は、認知症や高齢化に伴う財産管理の問題に対する有効な解決策として注目を集めています。しかし、その利点だけでなく、潜在的な問題点や制限事項についても十分に理解しておくことが重要です。この記事では、家族信託を検討する前に知っておくべき14の重要な注意点について詳しく解説します。
認知症発症後には家族信託の契約を締結できない
家族信託を契約するには、財産を預ける人(委託者)が十分な判断能力を有している必要があります。
家族信託は、子どもなど信頼できる家族とはいえ、大切な財産の管理や処分や運用を自分以外の人に任せる契約になります。このため、誰に任せるか、任せた財産をどのように活用して欲しいかなどを決定する意思と判断能力が必要になります。
したがって、認知症や疾病などにより判断能力を喪失する前に検討し、契約を行うことが重要です。
家族信託の契約には設計の検討や組成までの事務手続きなど、相応に時間がかかります。早めに検討をはじめることが何よりも重要です。
損益通算ができない場合がある
家族信託を利用する際の税務上の注意点として、家族信託の対象とした財産と、家族信託の対象にせず、引き続き所有者自身が管理する財産との間で、損益通算ができない場合があります。
例えば、賃貸不動産を信託財産とした場合、その不動産から生じる赤字を他の所得と相殺することができません。これにより、税負担が増加する可能性があるため、税理士等に相談の上、どの財産を家族信託の対象とするか検討することが必要です。
節税効果がない
家族信託には、一般的に節税効果はありません。
家族信託の契約の有無に関係なく、基本的には同じ税率で税金が課されます。
一方で、家族信託をしていると適用されない特例等があるため、専門家へあらかじめ相談することをおすすめします。
身上保護機能がない
家族信託は契約で決めた財産の管理のみが可能になります。このため、身上保護機能は有していません。
身上保護とは、本人の生活、療養看護、介護などに関する法的な保護や支援のことを指します。
例えば、介護サービスの契約締結などは、家族信託の範囲外となります。これらの行為が必要な場合は、別途、任意後見制度の利用等を検討する必要があります。
受託者の負担が大きい
家族信託では、受託者(財産を預かる人)は財産の管理や運用や処分に関して、大きな権限を持ちます。
例えば、親の自宅を信託財産とし、子が受託者となった場合には、家族信託の組成後は、子の判断と手続きのみで自宅を売却することが可能です。
ただし、あくまで親の利益となるような財産管理が求められます。
受託者は、信託された財産を親の利益のために、慎重かつ責任を持って管理する必要があります。
また、受託者には財産管理の状況の記録を目的とし、帳簿の作成なども義務付けられています。
これらの受託者にかかる事務負担を考慮し、家族信託の利用を検討することが望ましいです。
信託財産の範囲に制限がある
全ての財産を信託財産にできるわけではありません。公的年金など一身専属的な権利は信託財産にすることができません。
また、制度上は家族信託の管理対象とすることが可能な資産であっても、実務的に手続きが困難であったり、信託組成後の管理が煩雑になる場合があります。例えば、有価証券(株や投資信託等)を信託財産とした場合、特定口座が利用できないため、一般口座での管理となり、利益が生じた場合などには確定申告が必要になります。
信託財産の選定の際には、専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。
信託契約の変更が困難な場合がある
信託契約の内容を変更するには、変更手続きが必要になるため、手間と費用がかかります。また、委託者(※信託法上は受益者となりますが、家族信託においては多くが委託者兼受益者となります)が変更内容に同意する必要があるため、委託者が認知症等で判断能力を喪失した後は、変更手続きができません。
このため、最初の契約の際に、可能な限り今後変更の必要がないよう、熟考の上設計等を決める必要があります。
費用がかかる
家族信託の設定や運用には、相応の費用がかかります。主な費用としては、信託契約書の作成費用、登記費用(不動産を信託財産とする場合)、専門家への相談料等です。
また、設計等により、契約後にもランニングコストがかかる場合もあるため、かかる費用をしっかりと確認することが必要です。
家族間の信頼関係が不可欠
家族信託は、文字通り家族を信頼して財産を託す契約です。
委託者(財産を預ける人)と受託者(財産を預かる人)の間に、現金や不動産といった大切な資産を預けるに足る信頼関係が構築されていることが不可欠です。
受託者の不正リスク
家族信託では、受託者(財産を預かる人)が預かった財産を柔軟に管理できるというメリットがある反面、不正を働くリスクも存在します。
例えば、受託者が信託財産を私的に流用したり、不適切な投資判断を行ったりするケースです。
このリスクを軽減するためには、他の家族にも帳簿等で信託財産の管理状況を共有する、信託監督人を設置する等の方法があります。
対応している金融機関が少ない
家族信託に対応している金融機関はまだ少なく、お住まいの地域によっては、利用できる金融機関が無い場合もあります。
また、士業等の専門家からの依頼のみ受付する金融機関が多いため、専門家を通じて信託契約を組成する必要があります。
法律や税制の変更リスク
家族信託に関する法律や税制は、将来変更される可能性があります。例えば、税制改正により信託財産に対する課税方法が変わったり、信託法の改正により信託の運用ルールが変更されたりする可能性があります。
長期的な視点で家族信託を利用する場合、これらの変更リスクを考慮に入れ、定期的に専門家のアドバイスを受けながら対応を検討する必要があります。
信託終了時の手続きの複雑さ
信託は通常、委託者等の逝去を原因に終了します。この信託終了の際に発生する手続きは、通常の相続とは異なります。
誤った終了手続きを行ってしまうと、想定外の税金が課される場合もあるため、専門家に相談の上、手続きを進めることが望ましいです。
専門家の選択の重要性
家族信託は日本においてはまだ日の浅い制度であり、組成には信頼できる専門家(弁護士、司法書士、税理士など)のサポートを受けることが非常に重要です。
しかし、家族信託に精通した専門家は多くありません。信頼できる専門家を見つけ、その専門家が本当に家族信託について十分な知識と経験を持っているかを確認することも、重要な注意点の一つです。
まとめ
家族信託は、認知症や高齢化に伴う財産管理の問題に対する有効な解決策の一つですが、同時に様々な注意点や制限事項があります。ここで紹介した14の注意点を十分に理解し、自身の状況や家族の事情に照らし合わせて慎重に検討することが重要です。
- 認知症発症後には家族信託を組成できない
- 損益通算ができない場合がある
- 節税効果がない
- 身上保護機能がない
- 受託者の負担が大きい
- 信託財産の範囲に制限がある
- 信託契約の変更が困難な場合がある
- 費用がかかる
- 家族間の信頼関係が不可欠
- 受託者の不正リスク
- 対応している金融機関が少ない
- 法律や税制の変更リスク
- 信託終了時の手続きの複雑さ
- 専門家の選択の重要性
これらの注意点を踏まえた上で、必要に応じて専門家のアドバイスを受けながら、その特性を十分に理解した上で、家族信託の検討を進めることをお勧めします。
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