トヨタがEVで逆襲~市場が注目の「全固体電池」関連中小型株は?

トヨタがEVで逆襲~市場が注目の「全固体電池」関連中小型株は?

投資情報部 鈴木 英之 栗本奈緒実

2023/06/14

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出遅れ修正が本格化

6/6(火)~13(火)の東京株式市場では、日経平均株価が+1.6%、TOPIXが+1.3%、東証グロース市場指数が+2.8%と週足ベースで続伸しました。同期間は、出遅れ感のあった中小型株やバリュー株が選好された格好です。また、6月FOMC(米連邦公開市場委員会)で追加利上げ一時停止見通しが強まったことで、中小型の高PER銘柄への追い風となりました。

東京株式市場は、足元2ヵ月ほど、先物買いが主導する形で上昇しました。海外投資家が買いの主体で、物色対象は主力大型株が中心であったため、前半は図表1のように東証グロース市場指数は日経平均に大きく劣後する展開でした。日経平均は上昇基調のまま33年ぶりの高値を更新し、米国では債務上限に関する懸念も一服。株式市場ではリスクオンムードが広がり、中小型株やバリュー株など出遅れ感のある銘柄が、物色される展開となっています。下図表1のように東証グロース市場指数も日経平均に追随するような株価推移です。

東証グロース市場の時価総額上位の中では、M&A総研ホールディングス(9552)が約15%の大幅高となりました。特段新たな材料はない中、業績成長が見込まれる主力新興グロース株として選好されたもようです。他には、宇宙開発を行うispace(9348)が約12%高し、上昇率の大きさが際立ちました。JAXA(宇宙航空研究開発機構)が民間ビジネスに投資可能とするため、政府が法改正に乗り出すと、6/13(火)付の日経新聞で報じられたことが好感されました。

時価総額100億円以上の企業幅広い銘柄の中では、東京農工大学発のバイオベンチャー、ティムス(4891)が+90%超まで急騰しました。同社はアルツハイマー治療薬レカネマブで話題のバイオジェン(BIIB)とパートナーシップを持ち、収益計画の大部分をバイオジェンの開発動向等に依存する企業です。4/26(水)、バイオジェンが今期1Q決算にて、同社との新薬の後期第Ⅱ相臨床試験の開始を一時停止し、当該臨床試験を開始すべきかどうかを再評価すると明らかにしました(会社資料によると、臨床試験の予想開始時期は8/21)。試験開始の一時停止を受け、株価は大幅安となりました。その後、同社は5/31(水)に事業計画及び成長可能性に関する事項を発表。株価の低迷に歯止めがかかり、急回復へと繋がりました。

図表1 日経平均株価と東証グロース市場指数の推移

図表2 主な東証グロース市場指数構成銘柄の値動き

図表3 6/6(火)~13(火)で株価上昇が大きかった東証グロース市場指数構成銘柄

トヨタがEVで逆襲~市場が注目の「全固体電池」関連中小型株は?

東京株式市場の主力銘柄の中で、時価総額トップ銘柄であるトヨタ自動車(7203)は、5月上旬ごろまで出遅れ感が目立つ存在でした。EV(電気自動車)専業の米テスラ株が年初来上昇基調となる中、EV事業での出遅れが警戒された面もありそうです。

そんな同社ですが、6/8(木)に報道陣へ向け、「電動化・知能化・多様化」の新技術を説明・体感するテクニカル・ワークショップを実施しました。6/13(火)には報道各社が、トヨタが2027年にも全固体電池を投入する方針と伝えました。

現在、世界でEVに搭載されている電池の主力は「リチウムイオン電池」で、正極と負極の間にある液体の電解質(イオン=水に溶かすと電気を通す物質)の中をリチウムイオンが通ることで放電したり、充電したりする仕組みになっています。ただ、電池材料の調達に難がある、劣化しやすい、リサイクル・廃棄が困難、発火しやすい等の欠点があり、それらの克服が課題になっています。これに対し、電解質を固体に変えた「全固体電池」は、発火の危険性が低い、劣化しにくい、蓄電量が大きい等、メリットが数多くあります。

トヨタは、「いい材料を見つけた」とのことで、2027~28年に全固体電池をEVに投入できるメドがついた様です。航続距離がこれまでのEVの2.4倍に相当する1,200kmに伸びるとされ、急速充電にかかる時間も10分以下に短縮できるとしています。EV市場のゲームチェンジャーになると期待され、全固体電池が夢の技術でなく、現実味を帯びたものになってきました。トヨタは2026年にEVを150万台投入する計画です。2030年にはこれを350万台に伸ばし、うち170万台は全固体電池搭載車を含む次世代EVにする方針です。

6/13(火)の東京株式市場では、トヨタ自動車(7203)が前日比104.5円高となり、ほぼ10カ月ぶりの高値水準を回復しました。市場では、同社のEV市場における出遅れへの懸念が後退し、同市場での勝ち残りに対する期待が高まったとみられます。さらに、市場では「全固体電池」に関連する銘柄が一部物色されました。

図表4の銘柄は、東証グロース市場または同スタンダード市場に上場し、SBI証券WEBサイト銘柄検索ウインドウに「全固体電池」と入力し、出力される銘柄となっています。また、各種報道を参照し、「全固体電池」が業務上関連しているとみられる銘柄も含めています。結果的に、全銘柄がスタンダード市場上場の銘柄で、特にオハラ(5218)、カワタ(6292)、ニッポン高度紙(3891)の反応が目立っていました。

図表4 トヨタがEVで逆襲~市場が注目の「全固体電池」関連中小型株は?

取引 チャート ポートフォリオ コード 銘柄名  株価(6/13) 前日比 業務概要
5218 5218 5218 5218 オハラ 1,424 +173 光学機器、デジタル機器向けに光学ガラス。「全固体」でトヨタと特許を共同出願
6312 6312 6312 6312 フロイント産業 652 +4 医薬品向け造粒・コーティング装置等。全固定電池用にコーティング装置
6955 6955 6955 6955 FDK 878 +7 富士通系電池・電子部品製造。年度内に産業向けに全固体電池を量産計画
6292 6292 6292 6292 カワタ 1,080 +115 プラスチック製品製造機器。全固体電池量産化技術の助成事業で国立研究開発法人から評価
3891 3891 3891 3891 ニッポン高度紙工業 1,995 +71 アルミ電解コンデンサ用セパレータ。全固体電池に不織布支持体のソリューションを提供
7746 7746 7746 7746 岡本硝子 131 -1 特殊ガラスおよび薄膜製品を製造。全固体電池向けガラスフリットの開発に取り組む
  • ※Bloombergデータ、会社公表データ、各種報道等をもとに、SBI証券が作成。


以下、図表4に掲載した銘柄について、詳細をコメントします。

■オハラ(5218)~半導体製造用露光装置向け材料が好調。トヨタと「全固体」材料で特許

★週足チャート(2年)

  • ※データは2023/6/14(週足) 9:00時点。
  • ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。
  • ※上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。

★通期業績推移(百万円)

  • ※当社Webサイトの業績表示ツールをもとに、SBI証券が作成。

■半導体製造装置向け事業が稼ぎ頭

光学製品用途向けのガラス素材、レンズ材等を製造する「光事業」を行っている他、半導体製造用露光装置向け高均質ガラスや極低膨張ガラスセラミックス、石英ガラス等を製造する「エレクトロニクス事業」にも展開しています。

セイコーグループ(8050)、キヤノン(7751)がそれぞれ19.3%ずつ、同社株を保有しています(23.10期2Q)。

売上構成比(23.10期2Q累計)は「光事業」が58%で、「エレクトロニクス事業」が42%です。しかし、売上高営業利益率は前者が3.6%、後者が20.9%で、半導体製造装置向けのビジネスの収益力の方が圧倒的に高くなっています。

6/9(金)に23.10期2Q累計の決算発表を実施。売上高は145億円(前年同期比7%増)、営業利益は15億円(同20%増)でした。世界的な半導体設備投資の増加基調を受け、収益力の高い「エレクトロニクス事業」が拡大したことが貢献しました。

通期では、営業利益27億円(前期比9%減)の見通しに変更はありませんが、「光事業」の見通しは下方修正、「エレクトロニクス事業」は上方修正されています。

■「全固体」ではトヨタと特許共同請願も

既述したように、トヨタが全固体電池をEVに投入するメドがついたのは「いい材料が見つかった」ことが背景とみられます。

トヨタが示唆した「いい材料」が何かは不明ですが、オハラはトヨタと全固体電池関連技術で特許を共同請願している経緯もあり、「全固体電池」関連の中の有力な1社として注目されそうです。

オハラは高いリチウムイオン伝導性を有する材料である「リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス」等の技術を有しており、次世代電池での活躍が期待されています。

■カワタ(6292)~プラスチック加工機器メーカー。EV関連は全体の2割

★週足チャート(2年)

  • ※データは2023/6/14(週足) 9:00時点。
  • ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。
  • ※上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。

★通期業績推移(百万円)

  • ※当社Webサイトの業績表示ツールをもとに、SBI証券が作成。

■EV関連の受注は堅調

プラスチック加工機器等を手掛けるメーカーです。プラスチックの成形工程において、「混ぜる」や「乾燥」等の不可欠な役割を果たす機械を作っています。

電気機器、精密製品等のメーカーが当社の顧客です。トヨタ自動車、旭化成、京セラ等と、プラスチックの汎用性の高さから業種は多岐にわたります。顧客企業の生産ラインに合わせたオーダー発注が中心です。

海外での売上高が全体の約4割を占めます(23.3期)。中国やインドネシアなどで展開しており、将来性のため東アジア、東南アジア、北中米での営業・サービス拠点の強化を目標として掲げています。

会社資料によると、EV関連の売上は全体の2割です。受注数の推移に関しては明かしていません(23.3期2Q)。

同社は過去に、国立研究開発法人による「全固体リチウムイオン電池の量産化に資する技術開発」の実施先として助成事業を行い、技術面及び事業面で評価を得た実績があります。

■収益力に課題か?

23.3期は売上高が188億円(前期比2%増)と微増で、営業利益は6.3億円(同16%減)と軟調な内容でした。売上はEV向けのリチウムイオン電池関連で堅調に推移した反面、材料費や販管費等の高騰が痛手となった格好です。中国子会社がロックダウンの影響で営業一時停止期間が発生したことも業績の悪化要因となりました。

今期(24.3期)は、売上高242億円(前期比28%増)、営業利益は前期比2倍の12億円となる見通しです。販売拡大とともに課題である収益力の向上に取り組む姿勢を示しています。中計で述べられている目標達成のための具体的行動は、省力化、システム化などを掲げています。

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