アメリカNOW! 今週の5銘柄 ~2023年米国株の注目銘柄~
投資情報部 榮 聡
2023/01/10
先週は1/6(金)の雇用統計、ISM非製造業景気指数を受けて米10年国債利回りが3.5%台に低下、株式はもみ合いから上振れました。今週の株価材料として、12月消費者物価指数、パウエルFRB議長発言、10-12月期決算発表の始まり、などが注目されます。
今回は今年前半に株価好調が期待できる銘柄として、インターナショナル ビジネス マシーンズ(IBM)、ネットフリックス(NFLX)、メルク(MRK)、イーライ リリィ(LLY)、スターバックス(SBUX)を選んで今週の5銘柄といたします。
図表1 S&P500指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)
1/6(金)の雇用統計、ISM非製造業景気指数を受けて、もみ合いから上振れしました。10-12月期決算発表が本格化するまでは強含みとなる可能性がありそうです。
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表2 業種別指数騰落率・個別銘柄騰落率(1/9(月)終値のデータによります)
S&P500業種指数騰落 | 5日 | 1ヵ月 | 3ヵ月 |
素材 | 4.1% | 0.3% | 16.6% |
コミュニケーションサービス | 3.7% | 0.7% | 0.5% |
金融 | 2.9% | 2.4% | 14.1% |
一般消費財・サービス | 2.8% | -4.2% | -6.8% |
不動産 | 2.4% | -0.6% | 9.9% |
資本財・サービス | 2.3% | 1.8% | 18.0% |
S&P500 | 1.4% | -1.1% | 6.9% |
公益事業 | 1.3% | 1.6% | 12.2% |
情報技術 | 1.3% | -3.6% | 4.1% |
生活必需品 | 0.7% | -0.6% | 13.2% |
エネルギー | -0.5% | 6.3% | 6.4% |
ヘルスケア | -1.8% | -3.0% | 8.8% |
騰落率上位(5日) | 騰落率 |
ゼネラル・エレクトリック(GE) | 11.1% |
セールスフォース | 10.9% |
インテル | 10.9% |
ダウ | 9.7% |
ブッキング・ホールディングス | 9.6% |
騰落率下位(5日) | 騰落率 |
ユナイテッドヘルス・グループ | -7.6% |
ロッキード・マーチン | -5.7% |
ファイザー | -5.6% |
マイクロソフト | -5.3% |
イーライリリー | -4.4% |
注:個別銘柄の騰落率上位、下位はS&P100指数が母集団です。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
先週の米国株式市場
S&P500指数は週間で1.4%、NYダウは1.5%、ナスダック指数は1.0%のそれぞれ上昇でした。
1/3(火)~1/5(木)は年末に上昇が続いた10年国債利回りが頭打ちとなって株式には本来ポジティブな環境でした。しかし、テスラの10-12月期納車台数が市場予想を下回る、アップルに販売不振の観測が出る、また、セールフォースやアマゾンドットコムに人員削減の話が出る、など株式市場に悪材料が多く軟調な展開となりました。
一方、1/6(金)には、経済指標の発表が景気鈍化とインフレ鎮静を示唆して米10年国債利回りが3週間ぶりに3.5%台まで低下、株式の大幅な上昇につながりました。12月雇用統計で非農業部門雇用者数が市場予想を上回ったものの雇用増の鈍化トレンドが確認され、平均時給も賃金インフレの鈍化を示しました。さらに、ISM非製造業景気指数が11月の56.5から49.6へ急低下、2020年5月以来初めて景気拡大・縮小の分岐点とされる50を割り込み、サービス業のインフレも先行き沈静化の方向が示唆されました。
業種指数(12/30(金)終値から1/9(月)終値)では、景気敏感やこれまで売り込まれてきた業種が上昇する一方、これまで堅調だったディフェンシブ業種が売られ、「リターンリバーサル」の様相です。上昇率トップの「素材」では、フリーポートマクモラン、ニューモント、デュポンなどの上昇が寄与しました。
個別では、スピンオフしたGEヘルスケアテクノロジーズ(GEHC)のレギュラートレーディングが堅調に始まったゼネラルエレクトリック(GE)、従業員10%と保有不動産削減の意向を表明したセールスフォース(CRM)などが上昇しました。
経済指標では、12月雇用統計の非農業部門雇用者数は前月比22.3万人増と、10月の同26.3万人増、11月の同25.6万人増を下回り、鈍化トレンドを示しました。また、平均時給は11月の前年比4.8%増から同4.6%増に伸びが低下、賃金インフレの沈静を示しました。
今週の米国株式市場
米国市場では、10-12月期決算の発表を控えて企業業績見通しが下方修正されることへの警戒が高まっています。一方、インフレピークアウトを織り込む動きが続いているため、これは相場を支える要因になると期待されます。
今週の株価材料として、12月消費者物価指数、パウエルFRB議長発言、10-12月期決算発表の始まり、などが注目されます。
1/12(木)の12月消費者物価指数では、総合指数は前年比6.5%増の予想(前月は同7.1%増)、コア指数は同5.7%増の予想(前月は同6.0%増)で、インフレピークアウトの見方がさらに強まる可能性がありそうです(図表3)。ただ、11月分では住居費の前年比の伸びが前年比7.1%増と10月の同6.9%増から高まって、全面的な安心感につながらなかった経緯があるため、今回もここがチェックポイントとなりそうです。
パウエルFRB議長は、スウェーデン中央銀行のイベントで「中央銀行の独立性」に関する討論に参加予定です。FRBメンバーの予想と市場コンセンサスに乖離が生じている、2023年中の利下げの可能性に関する手がかりになる発言が出てくるか、注目されます。
10-12月期決算の発表が今週末から始まります。FactSet社の集計によると、S&P500指数採用企業のEPSは、前年同期比4.1%減が予想されています。昨年9月末時点では、同3.5%増が予想されていましたので、この間に7.6%ポイント下方修正されたことになります。通常よりも大きな下方修正であり、企業業績見通しの下方修正に対する市場の警戒が高まっていると考えられます。
ただ、年初にテスラ、アップルの業績不振の可能性が市場で注目され、さらに韓国のサムスン電子の決算速報では売上が前年同期比9%減、営業利益が前年同期比69%減の見込みと発表され、企業業績の悪さはある程度織り込まれた可能性もありそうです。相場の正念場は、GAFAM(アルファベット、アップル、メタプラットフォームズ、アマゾンドットコム、マイクロソフト)の決算が発表される1/23(月)および1/30(月)から始まる週になりそうです。
経済指標では上記のほか、1/13(金)に中国の12月貿易統計(輸出は前年比11.5%減の予想、前月は同8.7%減、輸入は前年比9.9%減の予想、前月は同10.6%減)、米国の1月ミシガン大学消費者信頼感(前月の59.7から60.5に改善の予想)、などの発表が予定されています。
企業イベントでは、台湾セミコンダクター、デルタ航空、バンクオブアメリカ、シティグループ、JPモルガンチェース、ユナイテッドヘルスグループ、ウェルズファーゴなどの決算発表が予定されています。
今週の5銘柄
今回は昨年末に選定した今年の注目銘柄を再掲いたします。
今年の米国株市場については、年前半は経済成長率の鈍化、企業業績の伸び率低下が想定されるため、相場はもみ合いないし、今年の安値は割らないとみられますが、若干の下振れの可能性もあるとみています。最初の関門は、10-12月期決算が発表される1月下旬と想定されます。
一方、年前半に政策金利引き上げによる成長鈍化の程度を確認できた場合は、その後は2024年に向けての景気回復を織り込む相場になると想定され、年後半については株式相場も回復に向かうと想定されます。
以上のような想定から、年前半と後半で物色される銘柄は変化するとみています。当面の注目銘柄としては、景気悪化の影響を受けにくい銘柄、景気が悪化しても個別要因で業績モメンタムが良いと考えられる銘柄が良いでしょう。7-9月期決算の発表以降、ここ2ヵ月で注目銘柄にあげてきた銘柄から、インターナショナル ビジネス マシーンズ(IBM)、ネットフリックス(NFLX)、メルク(MRK)、イーライ リリィ(LLY)、スターバックス(SBUX)を選んで今年の注目銘柄といたします。
図表3 米消費者物価指数の推移(最後のデータは2022年11月)
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今週の注目銘柄
買付 | チャート | 銘柄 | 株価 (1/9) |
予想PER (倍) |
ポイント |
---|---|---|---|---|---|
買付 | インターナショナル ビジネス マシーンズ(IBM) | 143.55ドル | 15.0 | 【売上モメンタムの改善を示唆】 ・同社は売上見通しについてこれまで「1桁台半ばの伸び」と説明していましたが、7-9月期決算で具体的な数字はあげなかったものの、これ以上の伸長を見込むとして好感されました。同社は昨年末に成長性の低い部門を切り離したことで売上成長の回復が期待されてきましたが、順調に推移しているとみられます。利益の回復は遅れていますが、売上の回復が続けばいずれついてくると期待されます。 ・7-9月期の売上は前年同期比6%増(為替の影響を除いて同15%増)、調整後EPSは同2%減、市場予想に対してはそれぞれ4%、0.1%上回りました。部門別の増収率は、ソフトウェアが同7%(為替の影響を除いて同14%増)、コンサルティングが同5%増(同じく同16%増)、インフラストラクチャーが同15%増(同じく同23%増)と、いずれも好調です。 | |
買付 | ネットフリックス(NFLX) | 315.17ドル | 28.6 | 【広告付きプランの導入に注目】 ・11/3(木)に米国や日本を含む主要10ヵ国で導入された広告付きプランの導入効果が注目されています。同社の広告主向け説明資料では、同プランによる視聴者数(加入契約当たり複数人が視聴できるため、加入者数よりも多いと考えられます)は、2022年末に4.4百万人(うち米国が1.3百万人)、2023年7-9月期に40百万人(うち米国が13.3百万人)に達する計画です。ただ、導入当初は広告視聴が計画に達していないとの観測もあり、今後の動向に注目です。 ・7-9月期の加入者純増が241万人で100万人の会社ガイダンスを大きく上回り、10-12月期のガイダンスも450万人と4-6月期の98万人減から回復傾向が続くことが示唆されました。加入者純増が1-3月期、4-6月期と2四半期連続でマイナスとなって「中期的な成長力を失ったのではないか」、との懸念が後退したとみられます。7-9月期の売上は前年同期比6%増、EPSは同3%減、市場予想に対してはそれぞれ1%、46%上回りました。 | |
買付 | メルク(MRK) | 110.38ドル | 14.9 | 【主力のがん治療薬「キイトルーダ」が伸びる】 ・売上世界4位の製薬会社です。がん、循環器系疾患、糖尿病、肝炎・感染症の医薬品・ワクチンを手掛けます。がん治療薬の「キイトルーダ」が主力薬で、2021年12月期の売上が171億ドル、売上構成比は35%です。糖尿病治療薬「ジャヌビア/ジャヌメット」、子宮頚がん予防ワクチン「ガーダシル/ガーダシル9」なども売上貢献が大きい製品です。2017年にアニマルヘルスの事業を買収して拡大に注力しています。 ・2022年12月期は主力薬「キイトルーダ」に加えて、新型コロナの経口治療薬「ラゲブリオ」(一般名:モルヌピラビル)も売上拡大に貢献します。一方、2023年12月期は新型コロナ治療薬の減少の影響もあり、全体も減収となる見込みです。しかし、主力の「キイトルーダ」は、適応拡大が続くことで、2022年12月期の209億ドルから、2023年12月期に241億ドル、2024年12月期267億ドルと順調に拡大して、利益拡大をけん引する見込みです。 | |
買付 | イーライ リリィ(LLY) | 349.83ドル | 41.4 | 【肥満治療薬の開発が注目されている】 ・製薬業界で世界大手の一角。第3相臨床試験以上の開発薬が30種類あり、パイプラインが充実していることから、大手医薬品メーカーの中でも特に高い成長が期待されています。パイプラインの中で注目されているのは、糖尿病薬と肥満治療薬の「チルゼパチド」、アルツハイマー治療薬「ドナネマブ」、皮膚炎治療薬「レブリキズマブ」などです。特に肥満治療薬としての「チルゼパチド」は、被験者の体重が21%減少したとする第3相臨床試験の結果を4月に発表、10月にはFDAの優先審査の資格を獲得して、市場の注目が高まっています。 ・7-9月期は、売上が前年同期比2%増、調整後EPSが同12%増で、市場予想を上回り、4-6月期決算が市場予想を下回ったことで高まった不透明感をかなり払拭しました。売上は数量が前年同期比14%増と伸びた一方、価格が同7%減、ドル高による目減りが同4%減となっています。通期ガイダンスは、売上・EPSとも引き下げられましたが、主にドル高の影響によるものです。 | |
買付 | スターバックス(SBUX) | 104.74ドル | 30.7 | 【中国事業の回復に期待】 ・同社業績の足を引っ張っている中国事業では、「ゼロコロナ政策」に緩和の兆しが出ていることから、2023年9月期には改善が期待されます。7-9月期の中国の既存店売上は前年同期比16%減でした。10-12月期も前年同期比マイナスが見込まれますが、通期では徐々に改善となる期待があります。 ・7-9月期決算は、グローバルの既存店売上が前年同期比7%増(客単価の上昇が8%ポイント貢献)と市場予想の同4.1%増を大きく上回りました。米国の既存店売上は同11%増と伸び、経営陣は店舗改装の効果が表れているとコメントしています。売上は前年同期比3%増、調整後EPSが同18%減で、いずれも市場予想を上回りました。売上については、今年度は13週間、前年同期は14週間での比較ですが、前年度も13週間に揃えた比較では同11%増でした。 |
注:予想PERはBloomberg集計のコンセンサス予想EPSによります。使用した予想EPSの決算期は、スターバックスは2023年9月期、その他は2023年12月期です。
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
主要イベントの予定
経済指標・イベント | 企業決算・イベント | |
9(月) | ・米消費者信用残高(11月) | |
10(火) | ・パウエルFRB議長が討論に参加(スウェーデン中央銀行) ・米NFIB中小企業楽観指数(12月) |
|
11(水) | ||
12(木) | ・フィラデルフィア地区連銀ハーカー総裁講演 ・セントルイス地区連銀ブラード総裁講演 ・米消費者物価指数(12月) ・米新規失業保険申請件数(1月7日に終わる週) |
・台湾セミコンダクター |
13(金) | ・中国貿易統計(12月) ・ユーロ圏鉱工業生産(11月) ・米輸入物価指数(12月) ・米ミシガン大学消費者信頼感(1月) |
デルタ航空、バンクオブアメリカ、シティグループ JPモルガンチェース、ユナイテッドヘルスグループ ウェルズファーゴ |
16(月) | ・米国市場休場(マーチンルーサーキングジュニアデー) ・世界経済フォーラム(ダボス会議) (スイス・ダボス、20日まで) |
|
17(火) | ・ドイツZEW景気指数(1月) ・米ニューヨーク連銀製造業景気指数(1月) |
ゴールドマンサックス、モルガンスタンレー |
18(水) | ・日銀政策金利 ・日本機械受注(11月) ・EU27ヵ国新車登録台数(12月) ・米小売売上高(12月) ・米生産者物価指数(12月) ・米鉱工業生産(12月) ・米NAHB住宅市場指数(1月) ・米地区連銀経済報告(ベージュブック) |
|
19(木) | ・ボストン地区連銀コリンズ総裁講演 ・ニューヨーク地区連銀ウィリアムズ総裁講演 ・米住宅着工・建設許可件数(12月) ・米新規失業保険申請件数(1月14日に終わる週) ・フィラデルフィア連銀景製造業景気指数(1月) |
プロクター&ギャンブル、ネットフリックス ユナイテッドエアラインズ |
20(金) | ・米中古住宅販売件数(12月) | シュルンベルジェ |
注:日付は現地時間によります。(E)はBloombergによる予想を示します。企業決算の赤字でのハイライトは、当社顧客保有人数の1~30位、青字のハイライトは31~50位を示します。
※Bloombergデータ、各種報道をもとにSBI証券が作成
※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。
おすすめ記事(2023/01/10 更新)
免責事項・注意事項
・本資料は投資判断の参考となる情報提供のみを目的として作成されたもので、個々の投資家の特定の投資目的、または要望を考慮しているものではありません。投資に関する最終決定は投資家ご自身の判断と責任でなされるようお願いします。万一、本資料に基づいてお客さまが損害を被ったとしても当社及び情報発信元は一切その責任を負うものではありません。本資料は著作権によって保護されており、無断で転用、複製又は販売等を行うことは固く禁じます。
【手数料及びリスク情報等】
SBI証券で取り扱っている商品等へのご投資には、各商品毎に所定の手数料や必要経費等をご負担いただく場合があります。また、各商品等は価格の変動等により損失が生じるおそれがあります(信用取引、先物・オプション取引、外国為替保証金取引、取引所CFD(くりっく株365)では差し入れた保証金・証拠金(元本)を上回る損失が生じるおそれがあります)。各商品等への投資に際してご負担いただく手数料等及びリスクは商品毎に異なりますので、詳細につきましては、SBI証券WEBサイトの当該商品等のページ、金融商品取引法に係る表示又は契約締結前交付書面等をご確認ください。