アメリカNOW! 今週の5銘柄 ~イーライリリィ、ウォルトディズニー、バークシャーハサウェイほか決算で注目の銘柄~
投資情報部 榮 聡
2023/08/14
先週は押し目買いの動きはあったものの、ムーディーズによる中小銀行の信用格付けの引き下げ、週を通じて続いたAI関連への利食い売り、物価指数の発表を受けた長期金利の上昇などでS&P500指数は続落となりました。今週の株価材料として、FOMC議事要旨、米国の小売売上高および小売企業決算、中国の鉱工業生産と小売売上高、などが注目されます。
今回は8/4(金)~8/10(木)に4-6月期決算を発表して株価の反応が良かったものから、イーライ リリィ(LLY)、ウォルト ディズニー(DIS)、 バークシャー ハサウェイ B(BRKB)、ジェイコブス ソリューションズ(J)、アクソン エンタープライズ(AXON)を選んで今週の5銘柄といたします。
図表1 S&P500指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)
予想を下回る7月消費者物価指数を受けて8/10(木)には大きく反発する場面がありましたが、利食いの勢いが強く、転換線に抑え込まれた形です。当面の下値目途として、50日移動平均線や一目均衡表の「雲」の上限がある4,400ポイントが意識されそうです。
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表2 業種別指数騰落率・個別銘柄騰落率
S&P500業種指数騰落 | 5日 | 1ヵ月 | 3ヵ月 |
エネルギー | 3.5% | 10.2% | 13.7% |
ヘルスケア | 2.5% | 2.9% | 2.6% |
公益事業 | 0.8% | -3.6% | -6.3% |
不動産 | 0.8% | -3.7% | 0.9% |
資本財・サービス | 0.5% | 0.2% | 10.5% |
コミュニケーションサービス | 0.3% | 1.0% | 11.2% |
生活必需品 | 0.3% | 0.7% | -2.3% |
金融 | 0.0% | 1.8% | 9.5% |
S&P500 | -0.3% | -0.9% | 8.2% |
一般消費財・サービス | -1.0% | -2.3% | 15.9% |
素材 | -1.0% | -0.7% | 5.9% |
情報技術 | -2.9% | -5.8% | 10.8% |
騰落率上位(5日) | 騰落率 |
イーライリリー | 17.5% |
アムジェン | 7.9% |
デューク・エナジー | 4.9% |
ブッキング・ホールディングス | 4.7% |
エクソンモービル | 4.1% |
騰落率下位(5日) | 騰落率 |
エヌビディア | -8.6% |
ゼネラル・モーターズ | -7.3% |
フォード・モーター | -5.8% |
クアルコム | -5.7% |
テスラ | -4.4% |
注:個別銘柄の騰落率上位、下位はS&P100指数が母集団です。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
先週の米国株式市場
S&P500指数は週間で0.3%の下落、NYダウは0.6%の上昇、ナスダック指数は1.9%の下落となりました。
週初には押し目買いの動きもありましたが、8/7(月)引け後に発表された格付会社ムーディーズによる中小銀行の信用格付の引き下げが市場センチメントを挫きました。また、エヌビディアを中心とするAI関連には週を通じて利食い売りが優勢となり相場を押し下げました。
株価材料として最も注目されていた7月消費者物価指数は、総合指数、コア指数とも市場予想を下回って、8/10(木)にはこれを好感して上昇する場面がありました。しかし、総合指数の伸びの前月からの上昇はインフレ鈍化のトレンドの弱まりを示していると捉えることもできるため、米10年国債利回りは上昇となり、株式は次第に売りに押されました。8/11(金)には、7月生産者物価指数が市場予想以上となり、米10年国債利回りは続伸しました。
業種指数では、原油価格が堅調となっている「エネルギー」、イーライリリィの上昇がけん引した「ヘルスケア」が上昇の一方、AI関連銘柄への利食いが優勢となって「情報技術」の下げが大きくなっています。
個別で大幅な下落となったエヌビディア(NVDA)は、バイデン政権が8/9(水)に発表した中国企業への投資規制がセンチメントを悪化させた可能性があります。一方、中国の複数のIT企業が同社の画像処理半導体に50億ドルの発注を行ったとの報道もありました。来週8/23(水)に5-7月期決算の発表を予定しています。
経済指標では、インフレ指標がまちまちでした。7月消費者物価指数の総合指数は前年比3.2%で市場予想の同3.3%を下回ったものの、6月の同3.0%増からは上昇、コア指数は同4.7%増と同4.8%増の市場予想を下回り、6月の4.8%増から低下しました。7月生産者物価指数の総合指数は前年比0.8%増と6月の同0.2%増から上昇、市場予想も上回りました。8月ミシガン大学消費者信頼感(速報値)の1年後インフレ期待は、前年比3.3%増と7月の同3.4%増から低下しました。
今週の米国株式
米株式市場は年初来大きく上昇しており(S&P500指数は16%上昇)、S&P500指数のバリュエーションは20倍を超えていることから(8/11(金)時点で20.3倍)、足もとの株価調整はやむを得ない、あるいは、健全な調整であるとの見方が大勢のようです。
今週の株価材料として、FOMC議事要旨(7月25日、26日開催分)、米国の小売売上高および小売企業決算、中国の鉱工業生産と小売売上高、などが注目されます。
前回のFOMCでは、政策金利が予想通り0.25%引き上げられ、声明文は前々回とほぼ変わらずの内容で、パウエルFRB議長の会見では、「9月政策はデータ次第」「年内の利下げはない」「インフレ率が2%に戻るのは2025年とみられる」などの発言がありました。最近の議事要旨では、パウエル議長よりもタカ派なFOMCメンバーが多いことが明らかになるというパターンが見られ、今回も同様になる可能性がありそうです。
8/15(火)に発表予定の米国の7月小売売上高では、前月比0.4%増の予想です。6月まで3ヵ月連続で前月比プラスとなっており、7月も市場予想通りのプラスとなると、個人消費の堅調さを印象付けると考えられます。相場を支える要因になると考えられます。
一方、小売企業決算は、ホームデポ、ターゲット、ウォルマートが予定されています。前回決算とその後の株価推移は、ホームデポは予想を下回る決算ながら、その後住宅市場の底入れの兆しを受けて株価は上昇、ウォルマートは予想を上回る決算に対して当初は売られましたが、その後回復しています。一方、ターゲットは軟調なガイダンスを出したことが嫌気されて、株価は大きく下落、その後も底這いが続いています。
8/15(火)に発表予定の中国の7月鉱工業生産は前年比4.3%増の予想(前月は同4.4%増)、小売売上高は前年比3.8%増の予想(前月は同3.1%増)です。先週は中国の7月貿易統計が輸出、輸入とも低調で、また、7月消費者物価指数が前年比でマイナスに転じて、中国経済に対する懸念が高まったとみられます。目線の下がった視点からは、鉱工業生産、小売売上高とも堅調となる予想で、実現するなら相場にポジティブな影響が期待されます。
経済指標では上記のほか、8/15(火)に日本の4-6月期実質GDP(前期比年率2.9%増の予想)、8/16(水)にユーロ圏の4-6月期実質GDP(前年比0.3%増の予想、1-3月期は同0.6%増)、米国の7月住宅着工件数(前月比0.8%増の予想)・住宅建設許可件数(前月比1.9%増の予想)、などが発表の予定です。
今週の5銘柄
今回も4-6月期決算から、株価の反応が良かったものをご紹介いたします。
8/4(金)~8/10(木)に決算発表を行ったS&P500指数の採用銘柄から、決算発表を受けた株価の反応が良好だったものを図表3にリストアップしています。
これら銘柄から、イーライ リリィ(LLY)、ウォルト ディズニー(DIS)、 バークシャー ハサウェイ B(BRKB)、ジェイコブス ソリューションズ(J)、アクソン エンタープライズ(AXON)を選んでご紹介いたします。
なお、イーライリリィに関して詳しくは、2023年5月31日付外国株式特集レポート「糖尿病治療薬、肥満治療薬、アルツハイマー病治療薬で成長期待のイーライリリィ」、2022年12月14日付外国株式特集レポート「需要“爆発”前夜!?肥満治療薬市場」をご参照ください。
図表3 決算発表を受けて株価の反応が良かった主要銘柄
(8/4(金)~8/10(木)に発表のS&P500指数採用銘柄が対象)
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今週の注目銘柄
取引 | チャート | 銘柄 | 株価 (8/11) |
予想PER (倍) |
ポイント |
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買付 | イーライ リリィ(LLY) | 528.28ドル | 56.3 | 【新型の糖尿病治療薬が順調】 ・4-6月期の売上は前年同期比28%増、調整後EPSは同38%増で、売上・EPSとも市場予想を上回りました。大幅な売上増には、薬の権利売却による約9%ポイントの寄与を含みます。主力の「トルリシティ」が同5%減で市場予想を下回った一方、新型の糖尿病治療薬「マンジャロ」が9.8億ドル(1-3月期は5.7億ドル)と順調で、同57%増となった乳がん治療薬の「ベージニオ」などがけん引しました。通期の調整後EPSガイダンスを9.70~9.90ドルへ1.05ドル引き上げました。 ・今年中に肥満薬としても承認される可能性のある「マンジャロ」の売上が順調に伸びていることが好感されました。また、「マンジャロ」と同様の作用機序をもつ肥満治療薬「ウゴービ」を擁するノボノルディスクが、同薬は心血管疾患にも効果があるとの臨床試験結果を8/8(火)に発表したことも株価を刺激したと考えられます。 | |
買付 | ウォルト ディズニー(DIS) | 89.02ドル | 17.9 | 【「ディズニー+」の値上げとコスト削減を好感】 ・4-6月期決算は、世界的な経済再開の恩恵を受けてパーク、エクスペリエンス部門の好調が持続する一方、メディア・エンターテイメント部門の売上が予想を下回り、「ディズニー+」の加入者数が3四半期連続で減少するなど、好悪材料が入り混じる内容でした。 ・しかし、「ディズニー+」の加入者減はインド中心に展開する「ディズニー+ Hotstar」がクリケットの放映権を更新しなかったことが主因です。「ディズニー+ Hotstar」を除くコアの加入者数は約80万人の増加となっており、会社は米国・カナダの加入者数も7-9月期には増加に転じる見通しと述べています。「ディズニー+」の加入料金を引き上げる計画であることや、コスト削減が年度目標の55億ドルを超える可能性があるとのコメントが好感されたと見られます。 | |
買付 | バークシャー ハサウェイ B(BRKB) | 358.35ドル | 20.1 | 【保険事業が予想を上回る】 ・4-6月期決算は、保険事業が予想以上の業績となって鉄道事業の減益をカバーして、市場予想を大幅に上回る増収・増益となりました。保険事業は引き受け業務が好調であったほか、短期金利の上昇による金利収入増で投資収益が増加して、増収増益となりました。鉄道事業は、貨物量の減少とコスト上昇で減益でした。製造業は減収ながら増益を確保、サービス・小売は小幅ながら増収・増益でした。事業部門の税前利益は前年同期比7%増でした。投資収益は、主に保有する株式の値上がりを受けて258億ドルに達しています。 ・事業会社の一部は景気鈍化の影響を受けていますが、幅広い事業を展開していることが収益の底堅さにつながっていると言えそうです。 | |
買付 | ジェイコブス ソリューションズ(J) | 136.46ドル | 16.3 | 【建設・エンジニアリングの会社】 ・建設・エンジニアリングの会社です。4-6月期の売上構成比は、ピープル&プレイシズ・ソリューション(運輸、水道、エネルギー&環境など)が51%、クリティカル・ミッション・ソリューションズ(防衛、宇宙、サイバー&インテリジェンス、エネルギー&環境など)が35%、その他が14%です。 ・4-6月期決算は、主力のピープル&プレイシズ・ソリューションがけん引して売上が前年同期比9%増、調整後営業利益が同10%増、調整後EPSは同2%減でした。通期のガイダンスは、調整後EPSを7.25~7.45ドルで維持しています。バイデン政権によるインフラ投資拡大政策の恩恵を受ける可能性がある企業として注目できます。 | |
買付 | アクソン エンタープライズ(AXON) | 211.23ドル | 60.7 | 【警察向けの装備品を提供】 ・警察やFBIといった法執行機関向け装備品の開発・販売を行っている会社です。主要製品は、同社が開発したテーザー銃(ワイヤー針射出式スタンガン)やボディカメラと呼ばれる法執行機関向け記録用ウェアラブルカメラ「AXON BODY」などです。 ・4-6月期は売上が前年同期比31%増、EPSが同152%増で、市場予想も大きく上回りました。業績好調を受けて通年の売上ガイダンスを従来の144~146億ドルから151~153億ドル(前年比27~29%増相当)に引き上げています。同社が提供するボディカメラなどで収集したデータを管理するクラウドサービス「AXON CLOUD」や車両に設置するカメラの「AXON FLEET」、テーザー銃の新製品投入などが売上をけん引しています。 |
注:予想PERはBloomberg集計のコンセンサス予想EPSによります。使用した予想EPSの決算期は、ウォルトディズニー、ジェイコブスソリューションズが2024年9月期、その他は2023年12月期です。
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
主要イベントの予定
経済指標・イベント | 企業決算・イベント | |
14(月) | ||
15(火) | ・日本実質GDP(4-6月期、速報値) ・中国鉱工業生産・小売売上高・固定資産投資(7月) ・米小売売上高(7月) ・ニューヨーク連銀製造業景気指数(8月) ・NAHB住宅市場指数(8月) |
ホームデポ |
16(水) | ・ユーロ圏実質GDP(4-6月期、改定値) ・ユーロ圏鉱工業生産(6月) ・米住宅着工・建設許可件数(7月) ・FOMC議事要旨(7月25日、26日開催分) |
ジムインテグレーテッドシッピング、シスコシステムズ、ターゲット |
17(木) | ・日本機械受注(6月) ・米フィラデルフィア連銀製造業景気指数(8月) |
ウォルマート、アプライドマテリアルズ |
18(金) | ディア | |
21(月) | ||
22(火) | ・米フィラデルフィア連銀製造業景気指数(8月) ・米中古住宅販売件数(7月) |
ロウズ |
23(水) | ・auじぶん銀行日本製造業PMI(8月) ・シカゴ連銀グールズビー総裁あいさつ ・S&Pグローバルユーロ圏製造業PMI(8月) ・S&Pグローバル米国製造業PMI(8月) ・米新築住宅販売件数(7月) |
エヌビディア、アナログデバイセズ |
24(木) | ・米新規失業保険申請件数(8月19日に終わる週) ・米シカゴ連銀全米活動指数(7月) ・米耐久財受注(7月) |
セールスフォース、アルタビューティ、ダラーツリー |
25(金) | ・米IFO企業景況感(8月) ・米ミシガン大学消費者信頼感(8月、確報値) |
注:日付は現地時間によります。(E)はBloombergによる予想を示します。企業決算の赤字でのハイライトは、当社顧客保有人数の1~30位、青字のハイライトは31~50位を示します。
※Bloombergデータ、各種報道をもとにSBI証券が作成
※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。
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