アメリカNOW! 今週の5銘柄 ~年末相場で期待の「肥満治療薬」と「生成AI関連ソフトウェア」~

アメリカNOW! 今週の5銘柄 ~年末相場で期待の「肥満治療薬」と「生成AI関連ソフトウェア」~

投資情報部 榮 聡

2023/09/19

先週は週前半のもみ合いから、9/14(木)には強い小売売上高を受けて上昇したものの、9/15(金)には原油価格が続伸となって米10年国債利回りが4.3%台に乗せる中、反落となりました。今週の株価材料として、9月FOMC、住宅関連指標、UAW(全米自動車労働組合)のストライキの行方、などが注目されます。

今回は筆者が年末に向けての相場で好パフォーマンスを期待する「肥満治療薬」と「生成AI関連ソフトウェア」から、イーライ リリィ(LLY)ノボノルディスク ADR(NVO)サービスナウ(NOW)アドビ(ADBE)オラクル(ORCL)を選んで今週の5銘柄といたします。

図表1 S&P500指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)

9月初に続いて再び「雲」の上限が上値抵抗ラインとなって反落しました。「雲」が薄くなる9月末頃まではもみ合いとなりやすいとみられます。

※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成

図表2 業種別指数騰落率・個別銘柄騰落率(「5日」は9/11(月)終値~9/18(月)終値によります)

S&P500業種指数騰落 5日 1ヵ月 3ヵ月
公益事業 2.3% 2.0% -3.6%
エネルギー 2.2% 4.6% 14.6%
金融 1.4% 2.7% 4.1%
コミュニケーションサービス -0.3% 5.3% 6.1%
生活必需品 -0.4% -1.2% -2.7%
資本財・サービス -0.5% -1.2% -0.3%
不動産 -0.7% 0.4% -3.1%
S&P500 -0.8% 1.9% 1.0%
ヘルスケア -0.8% -1.3% -0.2%
素材 -1.0% 0.4% -0.3%
一般消費財・サービス -2.0% 4.4% 3.2%
情報技術 -2.2% 2.7% -2.0%
騰落率上位(5日) 騰落率
モルガン・スタンレー 6.2%
ゴールドマン・サックス・グループ 5.8%
ウェルズ・ファーゴ 5.1%
シティグループ 5.1%
メットライフ 4.6%
騰落率下位(5日) 騰落率
オラクル -11.4%
ネットフリックス -11.4%
3M -6.3%
ロウズ -6.1%
アドビ -5.7%

注:個別銘柄の騰落率上位、下位はS&P100指数が母集団です。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成

先週の米国株式市場

S&P500指数は週間で0.2%の下落、NYダウは0.1%の上昇、ナスダック指数は0.4%の下落でした。

週半ばまでは米10年国債利回りが4.25~4.30%のレンジを中心にもみ合い、これにつれて株式ももみ合いました。注目された8月消費者物価指数は、総合指数がガソリン価格の上昇によって前年比3.7%増と、前月の同3.2%増から上昇の一方、コア指数は同4.3%増と前月の同4.7%増から低下、金利への影響は限定的でした。

一方、9/14(木)には8月小売売上高が5ヵ月連続でプラス、前月比0.6%増と市場予想の同0.2%増を大きく上回り、米国経済のソフトランディングの可能性が高まったとして株式は上昇しました。また、半導体設計のアームホールディングス(ARM)が公募価格51.00ドルに対して63.59ドルと大幅に上昇して引けたことも相場を押し上げる要因となりました。

しかし、トリプルウィッチング(先物、オプションの満期日が重なる日)の9/15(金)には大幅に反落しました。WTI原油先物が91ドル台へ続伸となって、米10年国債利回りが4.3%台に乗せたことが主因とみられます。このほかこの日には、UAW(全米自動車労働組合)が米ビッグ3の3工場でストライキに突入したことや中国の8月鉱工業生産、小売売上高が改善したことなど好悪材料が入り混じりました。

業種指数では、原油価格の上昇がポジティブに効いた「エネルギー」、年初来パフォーマンスが低迷している「公益事業」「金融」などが上昇となりました。一方、これまで物色されていたソフトウェア株が四半期決算を契機に下げ「情報技術」の下落が大きくなっています。個別銘柄では、投資銀行のゴールドマン サックス(GS)モルガン スタンレー(MS)の上昇が目立ちました。 先週のアームの新規公開が成功したことで、低迷を極めた新規公開市場の回復期待が高まったとみられます。今週は、インスタカートの上場も控えます。

今週の米国株式

米国市場は今週転換点を迎える可能性があるため、注意が必要と思われます。振り返ってみますと、今年5月より米国の経済指標は市場予想を上回る好調となることが多くなり、これを受けて長期金利と株式がともに上昇してきました。米10年国債利回りは3.4%台から4.3%台へ1%ポイント近い上昇、S&P500指数は4,100ポイント台から一時4,600ポイントを付け、週末には4,450ポイントと、これも大きく上昇してきました。

米個人消費の重要な指標である小売売上高は、5ヵ月連続で前月比プラスとなり、堅調な米国経済を象徴する指標と言えそうですが、7月、8月は一時的な要因で押し上げられたと見られ、9月以降の数字は反動減となる可能性がありそうです。

9/15(金)に株価が大きく下落した要因ははっきりしませんが、前日に好調な小売売上高で上昇した後ですので、相場を押し上げる「当面のポジティブ材料が尽きて」下落に転じた可能性もありそうです。10/17(火)の9月小売売上高の発表に向けて、調整含みとなる可能性に注意が必要と考えられます。

今週の株価材料として、9月FOMC、住宅関連指標、UAW(全米自動車労働組合)のストライキの行方、などが注目されます。

9/20(水)のFOMC結果発表では、FedWatchで据え置きの確率が99%となっており、据え置きが確実とみられています。市場の注目は11月に利上げがあるかどうかに移っており、パウエルFRB議長の会見が注目されます。原油価格上昇によるインフレ再加速の可能性をどう捉えるかが注目されます。FedWatchでは、据え置きが66%、利上げが34%と見方が分かれています(FedWatchのデータは日本時間9/19(火)午前6時)。

住宅関連指標については、米長期金利の上昇を受けて住宅ローン金利が7.2%台と高水準となっており、住宅関連市場への影響が注視されます。9/19(火)に発表予定の8月住宅着工件数は前月比0.9%減の予想、同住宅建設許可件数は前月比0.2%減の予想、9/21(木)に発表予定の8月中古住宅販売件数は前月比0.7%増の予想、となっています。

UAW(全米自動車労働組合)のストライキは9/15(金)の午前0時から3社の3つの工場で始まりました。労使交渉では長引くインフレを背景に組合側が4年間で40%の賃上げなどを求めたのに対し、経営側の回答は要求を下回っているということでストライキがいつまで続くのか、不透明になっています。今週中に交渉が再開されるとみられており、行方が注目されます。

今週の5銘柄

今回は年末に向けて注目できる投資テーマとして、肥満治療薬関連と生成AI関連のソフトウェア株を選び、それぞれからイーライ リリィ(LLY)ノボノルディスク ADR(NVO)、および、サービスナウ(NOW)アドビ(ADBE)オラクル(ORCL)を選んでご紹介いたします。

米国市場の相場は、当面上述のように目先景気指標の軟化で停滞気味の相場を想定していますが、年末にかけては予想PERの基準となる年が2023年から2024年に移行することで、バリュエーションの割高感が緩和されると考えられます。米10年国債利回りの上昇が続くことはなく、成長企業の物色に邪魔になることはないと想定しています。

今週の注目銘柄

取引 チャート 銘柄 株価
(9/18)
予想PER
(倍)
ポイント
買付チャートイーライ リリィ(LLY)571.28ドル58.4

【肥満治療薬に対する期待が高まる】

・JPモルガンのアナリストが肥満治療薬の市場は将来1,000億ドルに達する可能性があり、イーライリリィの関連売上は2030年に500億ドルに達する可能性があるとコメントしたことが好感されました。同アナリストは、糖尿病治療や肥満治療に効果を有するインクレチン(消化管ホルモンの総称)の売上は、昨年実績の80億ドルから、2025年に230億ドル、2030年に500億ドルに達すると予想します。

・昨年11月にモルガンスタンレーのアナリストが肥満治療薬の市場は500億ドルに達する可能性があると発言して市場は驚いたのですが、その倍を予想するアナリストがでてきたことになります。市場がどこまで大きくなるかは、肥満治療薬がどの範囲で保険適用になるかにかかっています。最近ではイーライリリィと肥満治療薬市場を2分すると見込まれているノボノルディスクの肥満治療薬が心臓疾患にも効果があるとの臨床試験結果を発表し、保険適用が拡大する方向に動いているとみられます。

買付チャートノボノルディスク ADR(NVO)186.61ドル36.6

【肥満治療薬で注目のデンマークの医薬品大手】

・デンマークの医薬品大手で、米国市場にはADRで上場しています。糖尿病治療薬が主力で、他に肥満治療、希少疾患も手掛けています。同社は2021年6月にFDA(米食品医薬品局)から体重管理を適応とした「ウェゴビー」が承認され、肥満治療薬で最も先行しています。8月には「ウェゴビー」(一般名はセマグルチド)が心血管疾患にも治療効果があるとの臨床試験結果を発表して注目されました。

・1-6月期の決算は売上が前年同期比29%増、営業利益が同30%増と好調です。糖尿病および肥満治療薬が同36%増で、うちGLP-1受動体作動薬と呼ばれる新型の糖尿病治療薬が同45%増、肥満治療薬が同158%増と伸びをけん引しています。地域別には肥満治療薬が伸びている北米が同45%増とけん引しています。通期の売上は前年比27~33%増を見込みます。

買付チャートサービスナウ(NOW)578.51ドル58.0

【ワークフローの自動化が生成AIと親和性高い】

・企業向けにIT関連、人事、法務、経理向けソフトウェアを提供し、ワークフローをデジタル化するサービスを主力に業績を拡大しています。ワークフローオートメーションに対する需要拡大の恩恵を受ける会社で、クラウドソフトウェアの同業を上回る成長が期待されています。ワークフローの自動化サービスとAIとの親和性が高いと考えられることから、生成AI関連の注目銘柄です。

・5/17(水)のエヌビディアのリリースで、生成AIの分野でエヌビディアと提携を結んだことが発表されました。サービスナウはエヌビディアのソフトウェア、サービス、インフラを使って、サービスナウのプラットフォームのデータを用いてトレーニングした大規模言語モデルを開発します。AIのソフトウェアも熟知するエヌビディアに同分野の提携先として選ばれた意味は非常に大きいと考えられます。

買付チャートアドビ(ADBE)532.42ドル29.7

【主力製品にAIを導入】

・5-8月期の売上は前年同期比10%増、調整後EPSは同20%増で、売上は市場予想並み、調整後EPSは3%上回りました。9-11月期の売上ガイダンス中央値は前年同期比10%増相当の5.0億ドルで、市場予想に一致しました。AIツールが売り上げを押し上げると期待していた市場を満足させることはできず、決算発表を受けて株価は4%の下落となりましたが、特に内容が悪いということではないとみられます。

・画像処理、文書処理の分野で世界標準となるアプリケーションを多数有し、世の中のDX推進に欠かせない存在となっています。また、これらのアプリケーションは、AIによって機能が向上するものでもあり、AIの進化によって中期的に売上成長を高めることができると期待されます。

買付チャートオラクル(ORCL)112.21ドル20.1

【生成AIで注目】

・9/11(月)に発表の6-8月期決算では、クラウド収入の伸びが3-5月期の前年同期比54%増から同30%増に鈍化したことが嫌気され、9/12(火)の株価は13.5%下落しました。ただ、筆者の分析によると3-5月期が出来過ぎの面があり、株価の下落が示唆するほど深刻な状況ではないとみられます。同社の「Gen2 Cloud」は、「生成AIのワークロードを走らせるためのトップチョイス」になっているとコメントしており、引き続き注目できるでしょう。

・マイクロソフトに次ぐ世界第2位のソフトウェア企業で、法人向けデータベース管理システムのOracle Databaseは世界トップです。2022年5月期の売上構成比は、インフラストラクチャ・クラウドサービス&ライセンスサポートが41%、アプリケーション・クラウドサービス&ライセンスサポートが30%、クラウドライセンス&オンプレミスライセンスが14%、サービスが8%、ハードウェアシステムが7%となっています。

注:予想PERはBloomberg集計のコンセンサス予想EPSによります。使用した予想EPSの決算期は、アドビは2024年11月期、オラクルは2024年5月期、その他は2023年12月期です。
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

主要イベントの予定

  経済指標・イベント 企業決算・イベント
18(月) ・米NAHB住宅市場指数(9月)  
19(火) ・米住宅着工・建設許可件数(8月) オートゾーン
20(水) ・米FOMC政策金利 フェデックス
21(木) ・米新規失業保険申請件数(9月16日に終わる週)
・米フィラデルフィア連銀製造業景気指数(9月)
・米中古住宅販売件数(8月)
ファクトセットリサーチシステムズ
22(金) ・日銀政策金利
・auじぶん銀行日本製造業PMI(9月)
・HCOBユーロ圏製造業PMI(9月)
・S&Pグローバル米国製造業PMI(9月)
 
25(月) ・ドイツIFO企業景況感(9月)
・シカゴ連銀全米活動指数(8月)
 
26(火) ・S&PコアロジックCS住宅価格(7月)
・米新築住宅販売件数(8月)
・米コンファレンスボード消費者信頼感(9月)
 
27(水) ・中国工業部門利益(8月)
・米耐久財受注(8月)
コストコホールセール、マイクロンテクノロジー
28(木) ・ユーロ圏景況感(9月)
・米新規失業保険申請件数(9月23日に終わる週)
・米実質GDP(4-6月期、確報値)
・米中古住宅販売成約(8月)
ナイキ、アクセンチュア
29(金) ・財新中国製造業PMI(9月)
・米個人所得・個人支出(8月)
・米個人消費支出物価指数(8月)
・米ミシガン大学消費者信頼感(9月、確報値)
カーニバル

注:日付は現地時間によります。(E)はBloombergによる予想を示します。企業決算の赤字でのハイライトは、当社顧客保有人数の1~30位、青字のハイライトは31~50位を示します。
※Bloombergデータ、各種報道をもとにSBI証券が作成

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