~好材料目白押しのアリババ、どの水準まで回復したのか~

投資情報部 李 燕
2023/01/12
1/5-1/11の香港市場は続伸しました。「ゼロコロナ政策」の正式な終了に加え、中国当局がプラットフォーム大手の金融業務に対する是正は「基本的に完了」したと表明し、好材料となりました。プラットフォーム企業の代表格であるアリババ(09988)が上昇をけん引しました。
今回のトピックスは、「好材料目白押しのアリババ、どの水準まで回復したのか」です。
今週の中国株市況
図表1 ハンセン指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)

注:1/11(水)までのチャートです。
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成。
図表2 香港市場の業種別指数の推移(2021年12月31日=100として指数化)

注:業種別指数はハンセン総合指数のサブ指数です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
図表3 香港市場の個別銘柄の騰落率と関連ニュース等(1/11(水)までの騰落率)
ハンセン指数
騰落率上位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
09988 | アリババ・グループ | 17.1% | 22.9% | 48.6% | EC・フィンテック大手。同社に対する中国当局の締め付けをめぐり、緩和の動きが続き、好材料となった。詳細は、「今回のトピックス」部分をご参照願います。 |
02313 | 申洲国際 [シェンジョウインター] | 12.8% | 14.8% | 61.7% | ニット衣料メーカー。ナイキやアディダス、ユニクロのサプライヤー。大手証券会社が小売業界の回復で受注増が期待できるため、同社は4-6月期に販売がプラスの伸びに転じる可能性があると分析した。 |
00881 | 中升集団 | 12.0% | 18.5% | 56.8% | 自動車販売会社。自社株買いや大手証券会社による投資判断「買い」でのカバレッジ開始が買い手掛かりとなった。 |
02382 | 舜宇光学 [サニーオプチカル] | 11.4% | -10.4% | 30.4% | 大手光学機器メーカー。前週はアップルがサプライヤーに対して一部製品の部品生産を減らすよう要請したと報じられ、売られたが、アップルのサプライヤーの1社がそれを否定したことを手掛かりに反発した。 |
01378 | 中国宏橋集団 | 9.6% | 8.3% | 28.8% | アルミニウム製品メーカー。中国の経済再開による景気回復期待と、それを背景としたアルミニウム先物価格の上昇(ドル安も寄与)が好感された。 |
騰落率下位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
03690 | 美団(Meituan) | -4.0% | -7.7% | 14.9% | 中国フードデリバリー最大手。テンセントが同社株を配当として支払ったことに応じて、指数算出会社のMSCIが権利落ち日の1/5から調整を実施すると発表。テンセントと同社株を両方保有するファンドによる同社株の持ち株高の調整が続いたとみられる。当面は200日移動平均線が下値支持線として機能するかどうかが注目される。 |
00322 | 康師傅控股 [ティンイー] | -4.1% | -3.1% | -1.4% | 大手食品メーカー。テクニカル要因のもよう。RSIが買われ過ぎサインとされる70%に達した後、利益確定売りが目立った。 |
01044 | 恒安国際 [ハンアン・インターナショナル] | -5.2% | 7.8% | 22.5% | 衛生用品メーカー。テクニカル指標MACDのから売りシグナルが示され、利益確定売りに押された。 |
01299 | 友邦保険 [AIAグループ] | -6.1% | 0.3% | 27.4% | アジアの保険大手。同社の中国子会社がソルベンシー・マージン比率に関するデータをめぐり不正があったと報じられ、利益確定売りにつながった。同社は、同問題はすでに昨年7-9月期に是正されており、ソルベンシー・マージン比率は基準に達していると説明。 |
00101 | 恒隆地産 [ハンルン・プロパティーズ] | -7.5% | -2.8% | 12.9% | 香港の不動産会社。大手証券会社が投資判断を「買い」から「ホールド」に引き下げた。RSIが買われ過ぎサインとされる70%に達したタイミングとも重なり、利益確定売りに押された。 |
ハンセンテック指数
騰落率上位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
09988 | アリババ・グループ | 17.1% | 22.9% | 48.6% | EC・フィンテック大手。同社に対する中国当局の締め付けをめぐり、緩和の動きが続き、好材料となった。詳細は、「今回のトピックス」部分をご参照願います。 |
09866 | 蔚来汽車 [ニオ] | 14.3% | -16.4% | -14.4% | 新興EVメーカー。「ゼロコロナ政策」の撤廃に伴う販売回復期待に加え、100万元台(約2,000万円弱)の超高級EV(電気自動車)を2025年に発表する予定だと報じられ、買われた。大手証券会社は経営陣に対する電話取材で、同社経営陣は2023年の販売回復について自信を示したとし、買い推奨を維持した。 |
02382 | 舜宇光学 [サニーオプチカル] | 11.4% | -10.4% | 30.4% | 大手光学機器メーカー。前週はアップルがサプライヤーに対して一部製品の部品生産を減らすよう要請したと報じられ、売られたが、アップルのサプライヤーの1社がそれを否定したため、反発した。 |
06060 | 衆安在線財産保険 | 11.1% | 18.5% | 56.3% | オンライン保険大手。大手証券会社が同社の保険料収入は回復が続く見込みだとし、目標株価を引き上げた。 |
00700 | 騰訊 [テンセント・ホールディングス] | 9.0% | 20.9% | 54.6% | ゲーム・フィンテック大手。ネット大手に対する中国当局の締め付け緩和と自社株買いが好材料となった。 |
騰落率下位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
09868 | 小鵬汽車[シャオペン] | -3.6% | -15.1% | 7.6% | 新興EVメーカー。大手証券会社が投資判断を「買い」から「中立」へ、および目標株価を引き下げた。 |
03690 | 美団(Meituan) | -4.0% | -7.7% | 14.9% | 中国フードデリバリー最大手。テンセントが同社株を配当として支払ったことに応じて、指数算出会社のMSCIが権利落ち日の1/5から調整を実施すると発表。テンセントと同社株を両方保有するファンドによる同社株の持ち株高の調整が続いたとみられる。当面は200日移動平均線が下値支持線として機能するかどうかが注目される。 |
06618 | 京東健康(JD Health) | -4.5% | -16.5% | 67.8% | JDドットコム(09618)傘下のインターネットヘルス大手。テクニカル指標のMACDから下降トレンドが続くと示唆され、利益確定売りが続いた。大手投資ファンドによる売り買いが交錯した。 |
09698 | 万国数拠服務 | -6.8% | 10.5% | 54.7% | データセンターを運営。RSIが買われ過ぎサインとされる70%を超えたことに加え、転換社債の発行による希薄化懸念が利益確定売りにつながった。 |
00268 | 金蝶国際軟件 [キングディー・ソフトウエア] | -9.9% | 7.1% | 80.9% | ソフトウェア会社。RSIが買われ過ぎサインとされる70%を超え、利益確定売りに押された。 |
注:銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergをもとにSBI証券が作成。
今週の中国株市況
1/5-1/11の香港市場では、ハンセン指数が3.1%上昇、ハンセンテック指数は2.7%上昇しました。米国上場のADRで構成されるナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数(HXC指数)は、3.6%上昇しました。
「ゼロコロナ政策」が1/8をもって正式に終了したことに加え、中国当局がプラットフォーム大手の金融業務に対する是正は「基本的に完了」したと表明し、好材料となりました。プラットフォーム企業の代表格であるアリババ(09988)が上昇をけん引しました。
ほぼ全面高のなか、業種別では素材、ヘルスケア、情報テクノロジーが上昇率上位に並びました。
素材は、中国の経済再開による景気回復期待と、それを背景とした主要金属の先物価格の上昇(ドル安も寄与)が好感されました。中国金融当局が不動産市場への支援をはじめ、一段と景気を支援すると表明したことも買いを誘いました。これらの要因は今後も続く可能性が高いと考えられるため、景気動向に敏感な素材は今年の注目テーマの一つとなりそうです。
図表4は、香港市場に上場している主な素材関連銘柄です。過去4週間のアナリストたちによる目標株価の変化率は総じて限定的となっていますが、経済再開に伴う景気回復が確認されれば、目標株価の引き上げは続く可能性があります。バリュエーション(株価水準)でも、全般的にまだ割安感があると言えそうです。
図表4 主な素材関連銘柄
銘柄名 | 関連分野 | 目標株価の変化率(%、過去4週間) | 目標株価(Bloomberg) | 1/11終値 | 予想PER | 過去5年平均PER | PBR | 過去5年平均PBR |
中国宏橋(01378) | アルミニウム | 1.17 | 9.42 | 8.13 | 4.69 | 6.27 | 0.77 | 0.75 |
コウセイコパー(00358) | 銅 | 0.32 | 12.01 | 12.72 | 6.99 | 13.77 | 0.56 | 0.61 |
ツージンマイニング(02899) | 金・銅 | 0.23 | 13.94 | 12.46 | 13.35 | 18.26 | 3.39 | 2.28 |
洛陽モリブデン(03993) | モリブデン | 0.08 | 4.68 | 3.96 | 11.22 | 25.55 | 1.48 | 1.89 |
中国アルミ(02600) | アルミニウム | 0.05 | 4.17 | 3.84 | 9.90 | 54.46 | 0.98 | 0.99 |
ガンフォンリチウム(01772) | リチウム | -5.42 | 93.27 | 60.45 | 5.69 | - | 2.77 | - |
注:PERは株価収益率、PBRは株価純資産倍率です。
※BloombergをもとにSBI証券が作成。
ヘルスケアは、新型コロナ経口薬に関連する受注が堅調との報道が引き続き、材料視されました。医薬品開発受託大手の薬明康徳(02359)と薬明生物(02269)がいずれも大幅続伸しました。薬明生物は、大手証券会社による目標株価の引き上げも好感されました。バイオ医薬品大手のザイ ラボ(09688)も急騰しました。同社が中国での腫瘍治療分野の開発と商品化の独占権を取得しているノボキュア(NVCR)の「LUNAR」(注)をめぐる進展が好材料となりました。
注:「LUNAR」およびそれをめぐる進展については、ノボキュアの公式発表(ノボキュア社が非小細胞肺がんのLUNARピボタル試験で全生存期間の主要評価項目を達成したと発表)をご参照願います。
情報テクノロジーは、経済再開に伴う業績回復期待に加え、ネット大手に対する中国当局の規制強化の終了を示す材料が続いたことが上昇要因です。アリババを筆頭にテンセント(00700)や百度(09888)などが大幅高となりました。ネット大手の代表格であるアリババをめぐる動きは、「今回のトピックス」部分をご参照願います。
半導体も、堅調でした。中国の証券会社が半導体産業の下降局面はそろそろ終盤に近づいていると指摘し、買い材料となりました。米国の駐日大使が対中半導体規制で日本などに協調を求めたことも買いを誘いました。中国国内では、米国の動きはむしろ中国の半導体国産化を加速させるとの論調が主流でした。半導体受託生産(ファウンドリ)大手の華虹半導体(01347)とSMIC(00981)がそろって上昇しました。華虹半導体の上昇率がより高いのは、SMICに比べて汎用半導体の比率が高く、先端半導体を対象とする米国の対中制裁による影響が比較的小さいと考えられるためです。
個別銘柄では、中国新エネルギー車最大手のBYD(01211)がバークシャー・ハサウェイによる追加売却にもかかわらず、持ち直していることが目立ちました。これまでBYDは、著名投資家のウォーレン・バフェット氏が会長を務めるバークシャー・ハサウェイによる売却が伝わるたびに下落しただけに、今回の動きは注目に値します。バークシャー・ハサウェイによる売却の影響はようやく和らいできたと言えそうです。BYDの好調な販売実績と中国の新エネルギー車へのシフトが続いていることに加え、「ゼロコロナ政策」の撤廃に伴う販売回復期待が背景と考えられます。
今回のトピックス
中国株の代表格の一つであるアリババの動向は、中国株を見通すうえで重要な要素となっています。そこで今回は、アリババをめぐる動きと今後の見通しを考察してみたいと思います。
【好材料目白押しのアリババ】
アリババ(09988)の株価は、年初から3割近く上昇しました。「ゼロコロナ政策」の撤廃による景気回復期待というマクロ要因に加え、同社に対する中国当局の締め付けをめぐり、緩和の動きが続いたこと(図表4)が好材料となりました。
図表5 アリババをめぐる主な動き
日付 | 主な出来事 | 備考 |
1月4日 | 中国当局は、アリババ傘下のアント・グループが消費者部門向けに105億元を調達する計画を承認した。 | アント・グループの消費者部門は中国当局が規制を強化した部門の一つであるため、今回の動きはアント・グループに対する締め付けの大幅緩和を示すものとなった。 |
1月7日 | 中国銀行保険監督管理委員会の郭樹清・主席は、「プラットフォーマー14社の金融業務に対する是正は基本的に完了した」と表明した。 また、「今後は通常の監督管理を実施し、プラットフォーム企業が規定に沿って経営し、発展をリードし、雇用を創出し、国際競争のなかで大いに腕を振るうことを奨励する」とした。 |
金融監督部門のトップから、プラットフォーム企業に対する是正の「基本的に完了」やプラットフォーム企業の発展を奨励すると示したことは中央当局の「方針転換」を示唆する。 |
1月8日 | アント・グループは、アリババ創業者の馬氏を含む経営陣や従業員計10人が主要株主となると発表した。実質的には、馬氏がアント・グループの支配権を手放したことになる。 | これはアント・グループの再編をめぐる大きな進展を意味する。 なお、アント・グループはIPO(新規株式公開)に着手する計画はないと表明した。現時点の規定上では、経営権が変わった際、中国本土市場では3年後、香港市場では1年後にIPOが可能になる。 |
1月10日 | アリババの本拠地である杭州市の政府は、アリババと包括的な戦略的提携を結んだ。杭州市トップは、アリババの健全かつ質の高い発展を揺るぎなく支持すると強調した。 | 地方政府が中央当局の「方針転換」(アリババに対する締め付け強化から緩和・支援へ)にしたがって動き出したとみることができる。 |
※Bloombergおよび各種資料をもとにSBI証券が作成。
上記の動きからすると、アリババをはじめとするネット大手に対する中国当局の締め付けは「ほぼ終了」したとみて良さそうです。それがアリババの急反発につながった主な要因と言えます。
【株価はどの水準まで回復したのか】
アリババの株価がどの水準まで回復したのか、それを確認するとともに今後の見通しを考察するために、2018年以降の動きを見てみたいと思います。
図表6を確認してみると、アリババの株価は米中貿易摩擦が勃発した2018年は軟調(株式市場全体も調整)でしたが、米中関係が「小康状態」を迎えた2019年は回復(株式市場全体も上昇)しました。その後、2020年は新型コロナの感染拡大を受けた武漢ロックダウン時は大幅に調整しましたが、ロックダウンが解除されると、株価も持ち直しました。
図表6 アリババ(09988)の株価推移と主な出来事(2018年以降)

注:PERは株価収益率です。
※Bloombergおよび各種資料をもとにSBI証券が作成。
その後、2020年11月にかけては、傘下のアント・グループの上場期待を背景に、アリババの株価は300香港ドルの大台を突破しました。300香港ドル台の株価は、過去5年平均PER(株価収益率)を適応した際の試算株価を大幅に上回る水準でした。アント・グループが中国最大のフィンテック会社として、当時は時価総額が3,000億ドル強と想定されていたことが背景と考えられます。
しかし、アント・グループは中国当局によるフィンテックへの管理強化を受け、2020年11月初めに上場を延期しました。それ以降、中国当局はアント・グループとアリババおよびネット大手への締め付けを強化しました。それを受け、アリババの株価が大幅に調整しました。
ネット大手への締め付け強化と同時に、中国当局は不動産市場への規制強化も実施し、「ゼロコロナ政策」を堅持しました。これらはいずれも中国経済(特に見通し)に打撃を与える要因となりました。中国当局が短期的な経済成長よりも、中長期的な共同富裕やイデオロギーを重視したためと指摘されています。その間、米中対立も強まり、米国上場の中国ADRの上場廃止リスクが高まりました。悪材料が続いたことを受け、アリババの株価は過去5年平均PERを適応した際の算出株価を大きく下回る水準での推移が続きました。
転換点となったのは、2022年10月の「3期目の習政権」の発足です。「3期目の習政権」は発足してから、共同富裕やイデオロギーよりも、経済成長を重視する方針へ舵を切りました。2022年11月から「ゼロコロナ政策」に関する措置を順次に撤廃するとともに、ネット大手や不動産市場に対しては「締め付け強化」から支援へ方向転換し、中国ADR問題をめぐっては上場廃止の回避に向けて米国と協力し始めました。特に2023年に入ってからは、図表4で示したように、アント・グループやアリババに対する締め付けに関しても「ほぼ終了」したと示唆しました。
好材料が続いたことを受け、アリババの株価が2022年10月末を底に反転し、8割上昇しました。上昇率が大きいため、さらなる上昇余地に対する議論が今後出てくる可能性があります。図表6を確認してみると、足元の株価は過去およそ2年間にわたる急落(上場来高値の317香港ドルから63香港ドル台まで下落)からすると、まだ半値戻しの水準(約190香港ドル)にも達していません。また、過去5年平均PERを適応した際の算出株価(約250香港ドル)をも大幅に下回っています。したがって、短期急騰によるスピード調整は想定されるものの、PER水準の平均への回帰や中国当局の政策転換に伴う業績回復が予想されることからすると、中長期的には一段の上昇余地がありそうです。
※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。
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