~「気球」や「TikTok」、「まだら模様」でスピード調整~

~「気球」や「TikTok」、「まだら模様」でスピード調整~

投資情報部 李 燕

2023/02/09

2/2-2/8の香港市場は反落しました。米中関係の悪化懸念や消費関連セクターでの競争激化懸念、まだら模様の経済指標が利益確定売りにつながりました。一方、それぞれの調整要因は昨年11月末から始まった上昇トレンドを変えるほどのものではなく、足元の下落はスピード調整と考えられます。

今回のトピックスは、“「気球」や「TikTok」、「まだら模様」でスピード調整”です。

今週の中国株市況

図表1 ハンセン指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)

注:2/8(水)までのチャートです。
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成。

図表2 香港市場の業種別指数の推移(2021年12月31日=100として指数化)

注:業種別指数はハンセン総合指数のサブ指数です。
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成。

図表3 香港市場の個別銘柄の騰落率と関連ニュース等(2/8(水)までの騰落率)

ハンセン指数

騰落率上位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
09888 百度 [バイドゥ] 9.1% 23.6% 88.2% 検索エンジン大手。米オープンAIの「ChatGPT」に類似したサービスの投入計画が順調に進んでいることを好感した。ただ、2/8は利益確定売りに押された。
00992 聯想集団 [レノボ・グループ] 4.3% 3.1% 3.0% パソコン大手。新しいサーバー製品を発表し、買い材料となった。
00101 恒隆地産 [ハンルン・プロパティーズ] 4.0% 2.3% 39.2% 香港の不動産会社。2022年通期の純利益は前年比0.8%減となったが、中国本土の賃料事業は予想より底堅く、下期は上期に比べて回復していることが好感された。
00316 東方海外 2.0% 3.1% 8.8% 海上貨物輸送を手掛ける。需給要因のもよう。大手投資ファンドが保有株比率を引き上げた。
00005 HSBC (匯豊控股) 1.3% 10.7% 34.4% 英金融大手。2/6から香港と中国本土の往来制限が全面的に撤廃され、香港の銀行株は中国本土客の回復期待で上昇したが、同社はバリュエーション面でより魅力的だとし、大手証券会社が買い推奨した。
騰落率下位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
02007 碧桂園 [カントリー・ガーデン] -10.9% -10.9% 87.5% 中国不動産大手。1月の不動産開発上位100社の契約販売額が前年同月比32.5%減となり、不動産関連銘柄が売られた。
00175 吉利汽車 [ジーリー・オートモービル] -11.5% -1.5% 7.1% 大手自動車メーカー。傘下のEVブランド「Zeekr」の納車台数が1月は前年同月比12%減に転じ、売りを誘った。
00241 阿里健康信息技術 [アリババ・ヘルス] -13.3% -11.2% 46.2% アリババ(09988)傘下のインターネットヘルス大手。利益確定売りの流れを受けたもの。投資家のリスク志向に比較的左右されやすく、昨年10月末から大幅に上昇したインターネットヘルス株がそろって売られた。
03690 美団(Meituan) -15.0% -16.2% 2.9% 中国フードデリバリー最大手。競争激化懸念で売られた。「TikTok」を運営するバイトダンスがフードデリバリー事業への進出に向け、北京や上海、成都で共同購入配送プロジェクトをテスト開始したと報じられた。
06098 CG SERVICES -19.5% -20.4% 68.7% 不動産大手カントリーガーデン(02007)傘下の不動産サービス会社。1月の不動産開発上位100社の契約販売額が前年同月比32.5%減となり、不動産関連銘柄が売られた。

ハンセンテック指数

騰落率上位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
09888 百度 [バイドゥ] 9.1% 23.6% 88.2% 検索エンジン大手。米オープンAIの「ChatGPT」に類似したサービスの投入計画が順調に進んでいることを好感した。ただ、2/8は利益確定売りに押された。
00992 聯想集団 [レノボ・グループ] 4.3% 3.1% 3.0% パソコン大手。新しいサーバー製品を発表し、買い材料となった。
03888 金山軟件 [キングソフト] 2.2% 6.6% 24.4% ゲーム・ソフトウェア大手。大手証券が2023年は業績回復が加速する見込みだとし、目標株価を引き上げた。
00268 金蝶国際軟件 [キングディー・ソフトウエア] -0.2% 2.1% 30.6% ソフトウェア会社。相場全体がさえないなか、ほぼ横ばいとなった。大手証券会社が目標株価を引き上げ、株価を下支えした。
09961 携程旅行網 [トリップドットコム゚] -0.3% 0.3% 37.3% オンライン旅行サービス大手。市場全体で利益確定売りが進んだなか、ほぼ横ばいとなった。2/6から香港やマカオへの団体旅行業務が再開されたことが下支えした。
騰落率下位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
06060 衆安在線財産保険 -11.7% -7.2% 35.9% オンライン保険大手。利益確定売りの流れを受けたもの。投資家のリスク志向に比較的左右されやすく、昨年10月末から大幅に上昇したインターネットヘルス株がそろって売られた。
01024 快手(Kuaishou Technology) -12.5% -20.1% 36.6% ショート動画大手。違法アカウント50万件以上を処分したと報じられ、売られた。同社が他社と提携しているフードデリバリー業界での競争激化懸念も売りを誘った。
00241 阿里健康信息技術 [アリババ・ヘルス] -13.3% -11.2% 46.2% アリババ(09988)傘下のインターネットヘルス大手。利益確定売りの流れを受けたもの。投資家のリスク志向に比較的左右されやすく、昨年10月末から大幅に上昇したインターネットヘルス株がそろって売られた。
09866 蔚来汽車 [ニオ] -13.5% 7.3% -1.1% 新興EVメーカー。1月の納車台数が前年同月比12%減となり、売られた。同社の販売店で値下げが実施されているとの報道も、需要鈍化懸念につながった。同社は新車販売前の在庫処理に向けた販促措置であり、過度に解釈する必要はないと説明した。
03690 美団(Meituan) -15.0% -16.2% 2.9% 中国フードデリバリー最大手。競争激化懸念で売られた。「TikTok」を運営するバイトダンスがフードデリバリー事業への進出に向け、北京や上海、成都で共同購入配送プロジェクトをテスト開始したと報じられた。

注:銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergをもとにSBI証券が作成。

今週の中国株市況

2/2-2/8の香港市場では、ハンセン指数が3.6%下落、ハンセンテック指数は5.6%下落しました。米国上場のADRで構成されるナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数(HXC指数)は、6.3%下落しました。

主要指数は昨年10月以降、3ヵ月連続で上昇しましたが、2月に入ってからは利益確定売りが目立ちました。主な要因は、以下の3つです。

1)「気球」騒動による米中関係の悪化懸念が投資家のリスク回避につながった

2)「TikTok」を運営するバイトダンスによるフードデリバリー事業への参入が消費関連分野での競争激化懸念につながった(ハンセンテック指数がより下げた理由)

3)1月のさえない住宅販売と自動車販売が経済回復に対する懸念につながった

それぞれの詳細や見通しについては、「今回のトピックス」部分で取り上げます。

業種別では、素材、工業、情報テクノロジーが下落率上位に並びました。

素材は、中国の低調な住宅販売と商品先物価格の下落が響きました。商品先物価格は一般的にドル建てとなっています。米国の1月の非農業部門雇用者数が市場予想を上回り、ドル高に転じたなか、商品先物価格がそろって下落し、素材の利益確定売りを誘いました。金・銅大手のツージンマイニング(02899)や銅大手の江西銅業(00358)、アルミニウム大手の中国アルミ(02700)が下落しました。

工業は、アップル関連株や太陽光発電関連株が下落を主導しました。アップル(AAPL)が市場予想を下回った決算(10-12月期)を発表したことを嫌気し、アップルのサプライヤーである瑞声科技(02018)や舜宇光学(02382)、BYD電子(00285)が下落しました。太陽光発電ガラス大手の信義光能(00968)やフラットグラス(06865)は、供給過剰を理由に大手証券会社が目標株価を引き下げたことを嫌気しました。物流大手のJDロジスティックス(02618)の調整も指数を押し下げました。

EC大手JDドットコム(09618)傘下のJDロジスティックスは、JDドットコムも参入を表明しているフードデリバリー業界での競争激化懸念を嫌気した売りが波及しました。フードデリバリー業界での競争激化懸念は、情報テクノロジーが調整した主因でもあります。「TikTok」を運営するバイトダンスが北京や上海、成都で共同購入配送プロジェクトのテストを開始したと報じられ、フードデリバリー最大手の美団(03690)は17%下落しました。フードデリバリー業界で他社と提携している快手(01024)も売られました。ショート動画大手の快手は違法アカウント50万件以上を処分したと報じられたことも売りにつながりました。

一方、個別銘柄では検索エンジン大手の百度(09888)が大幅続伸し、逆行高となりました。米オープンAIのチャットボット「ChatGPT」に類似したサービスの投入計画が順調に進んでいることを好感しました。百度は同社のチャットボットの名前は「文心一言」(英語では「アーニーボット」)で、内部テストを完了した後、3月には投入できると発表しました。

ただ、百度の株価は2/8はテクニカル指標のRSIが短期的に買われすぎサインとされる70%を超え、利益確定売りに押されました。中国の大手証券紙(証券日報)による注意喚起も「ChatGPT」関連銘柄の下落につながりました。中国本土でも「ChatGPT」が人気の投資テーマとなり、関連株が連日急騰していましたが、証券日報は2/18に買われている企業の中には「ChatGPT」と僅かしか関係していない企業もあると指摘し、盲目的な投機を戒めました。なお、正真正銘の「ChatGPT」銘柄である百度については、大手証券会社が「ChatGPT」をめぐる進展を評価し、目標株価を引き上げました。

今回のトピックス

今回のトピックスは、“「気球」や「TikTok」、「まだら模様」でスピード調整”です。

市況の部分で確認したように、2月に入ってから調整は、以下の要因によるものです。

1)「気球」騒動による米中関係の悪化懸念が投資家のリスク回避につながった

2)「TikTok」を運営するバイトダンスによるフードデリバリー事業への参入が、消費関連分野での競争激化懸念につながった

3)1月のさえない住宅販売と自動車販売が経済回復に対する懸念につながった

1)「気球」騒動をめぐっては、米中関係に改善の兆しが出たタイミングで起きただけに、相場にとってネガティブ・サプライズとなりました。米中対立が再び激化するとの懸念から、主要指数は2/6に大きく調整しました。ただ、その後は落ち着きを取り戻しました。「気球」騒動は米中関係の回復に水を差していますが、それだけで米中関係が劇的に悪化する可能性も低いとの見方が広がりました。

「気球」騒動の後、米バイデン大統は同問題で米中関係は悪化するかの質問に対し、「いいえ」と否定したほか、台湾問題をめぐるポジティブな動きも投資家に安心感を与えました。台湾最大野党である国民党の副主席は2/8に中国を訪問すると発表し、中国当局は台湾からの食品輸入禁止(※)を撤廃する意向を示しました。(※昨年にペロシ米下院議長(当時)の台湾訪問への反発措置として導入したものです。)

2)「TikTok」を運営するバイトダンスによるフードデリバリー事業への参入は、新しい材料ではありませんが、本格的に動き出したタイミングを嫌気しました。相場で懸念されていることは、「ゼロコロナ政策」の撤廃により消費の回復が見込まれるなか、競争激化でそれぞれの企業の「取り分」が侵食されるのではないかです。他方、過去3年も続いた「ゼロコロナ政策」による反動は少なくとも今年は大きいと考えれるため、反動による増加分は競争激化による取り分の縮小を相殺、あるいは上回る可能性が高いと考えられます。一部の証券会社は、バイトダンスの動きを受けたフードデリバリー最大手・美団(03690)の大幅調整は行き過ぎだとし、美団の「買い」を維持すると表明しました。

3)1月のさえない住宅販売と自動車販売は経済回復に対する懸念につながりました。旧正月連休に旅行が凄まじく回復したのに対し、住宅や自動車販売は回復が遅れている印象です。他方、行動心理学的に考える際、3年間も続いた「ゼロコロナ政策」が撤廃された時、人々はまず「外に出たい」意欲に掻き立てられるはずです。必然的に車や住宅といった大きな買い物はむしろやや後回しにされやすくなります。

したがって、「ゼロコロナ政策」の撤廃に伴う中国経済の回復は業種によって「時差」があり、結果的に「まだら模様」なることはある程度想定内とも言えます。他方、今後の住宅や自動車の販売動向には留意が必要で、ある程度時間が経っても回復しない場合は経済回復に対する信頼を損なう可能性があります。その際は政策面での支援の有無が大事になってきます。3月に開催される予定の全国人民代表大会で中国当局が具体的な業種に対して支援措置を打ち出すかどうかも注目されます。

多くの業種よりも先に回復している消費分野で、マカオのカジノを事例に、その回復度合いも確認してみたいと思います(図表4)。「ゼロコロナ政策」が撤廃された後、中国本土からマカオへの観光客が急増し、マカオのカジノ収入は1月に前年同月比で83%増加しました。ただし、水準でみた場合、依然としてコロナ前の5割程度にとどまっています。したがって、コロナ前の「正常化」時代と比べる、依然として回復の余地は大きいと考えられます。

図表4 マカオのカジノ収入(月次ベース)

※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

他の業種の回復時期を考える際、世界の景気動向に敏感な半導体関連のグローバル企業が示す見通しも参考になると思います。筆者は米国株式も担当している関係で、台湾セミコンダクター(TSM)やASMLホールディング(ASML)、アドバンスト・マイクロ・デバイシズ(AMD)などの決算も確認しています。今回の決算発表会で各社の経営陣の発言からは、ある共通点が浮かびました。それは、半導体業界は2023年上期は在庫調整が続く見通しですが、下期は上期より回復する見込みだということです。その理由として在庫調整が終盤を向かっている可能性がある(1-3月期が底との見方もある)ことに加え、共通項としては中国の「ゼロコロナ政策」撤廃に伴う末端需要の持ち直しが挙げられました。

中国のマクロ経済全般に対する見通しも、1-3月期を底にGDP成長率は四半期ベースで回復し、特に下期は上期より改善するとの見通しが主流になっています。総合的にみて、上記の1)-3)の要因によって中国経済の回復期待が消えたわけではないことを考えると、2月に入ってからの調整はスピード調整の側面が強いと考えられます。利益確定売りが一巡した後は、再び上昇トレンドを取り戻すこととなりそうです。

図表5 主要中国株ETF

ティッカー 市場 名称 連動指標 備考
02800 香港 Tracker Fund香港ETF ハンセン指数 香港のハンセン指数と連動する投資成果を目指す。
02801 香港 iS MSCIチャイナETF MSCI中国指数 MSCI中国指数と同等水準の投資成果を目指す。
02838 香港 ハンセン FTSEチャイナ50 ETF FTSE中国50指数 FTSE中国50指数を構成する全銘柄に投資し、同指数に連動する。
02846 香港 iS CSI300ETF CSI300指数 CSI300指数の実績に概ね対応する投資成果をあげることを目指す。
03033 香港 CSOPハンセンテックインデックスETF ハンセンテック指数 ハンセンテック指数に連動する投資成果を目指す。
03110 香港 Global X 高配当利回りETF ハンセン高配当利回り指数 ハンセン高配当利回り指数の運用成績に概ね連動する投資成果を目指す。
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(注)投資成果は手数料・報酬および経費控除前です。
※当社WEBサイトのETF一覧表を通じてSBI証券が作成

※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。

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