米国は楽観の揺り戻しに要注意!?その理由とは?

米国は楽観の揺り戻しに要注意!?その理由とは?

投資情報部 淺井一郎 栗本奈緒実

2023/02/07

インフレ一服と思いきや、まだまだ強い米経済

2月第1週(1/30-2/3)の日経平均は、126円90銭高(+0.46%)と週足ベースで小幅続伸となりました。年初来からは引き続き堅調です。

同期間の米国市場は、1/31-2/1に開催されたFOMC(米連邦公開市場委員会)後の記者会見で、パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長がインフレ鈍化の始まりを示唆しました。これが契機となり、株式市場ではリスクオンムードが進行。米10年債利回りが低下し、グロース買い・ディフェンシブ売りが如実に表れた形です。NYダウが▲0.2%であったのに対し、ナスダックは+3.3%でした。

しかし、週内最終日に株式市場のムードは一変しています。米1月雇用統計の雇用者数(非農業部門)が前月比51.7万人増と市場予想の18.8万増を大幅に上振れた上、失業率が53年ぶりの低水準となり、労働市場の持続的な逼迫が明らかになりました。同日に発表された米1月ISM非製造業景況指数も市場予想大きく上回り、力強いアメリカ経済が示された形です。FRB(米連邦準備制度理事会)の早期利上げ停止見通しが後退し、株価にとっては下落圧力となりました。

また、日米ともに同期間は決算発表シーズンが本格化しており、業績見通しを下方修正する企業も少なくありませんでした(図表8 )。日経平均株価採用銘柄の下落率上位(1/30~2/6)で首位の日本軽金属ホールディングス(5703)や住友化学(4005)などが業績見通しの下方修正を行っています。

東京市場は、米国で重要イベントが続いたことに加え、日経平均の27,500円前後で戻り売りが増えたこともあり、小幅な範囲内での値動きが続く展開でした。FRBの金融政策の行方に不透明感が増す中、2月第2週は複数のFRBメンバーの発言が予定され、株式市場では、要人発言に注目が集まっています。日本ではそれに加え、新しい日銀総裁に関心が集まっています。

2/6(月)に日銀副総裁・雨宮正佳氏が新たな日銀総裁に就任を打診されたと、一部で報じられました。報道を受け、現行のハト派的金融政策が継続されるとの見方から、ドル円・相場は円安方向への動きが強まっています。

図表1 日経平均株価およびNYダウの値動きとその背景

図表2 日経平均株価

図表3 NYダウ

図表4 ドル・円相場

図表5 主な予定

図表6 日米欧中央銀行会議の結果発表予定

図表7 日経平均株価採用銘柄の上昇率上位(1/30~2/6)

図表8  日経平均株価採用銘柄の下落率上位(1/30~2/6)

米国は楽観の揺り戻しに要注意!?その理由とは?

今年はハイテク株などのウェイトが高いNASDAQ総合指数が堅調に推移する一方、景気敏感株などのウェイトが高いNYダウは上値の重い展開となり、同じ米国株指数でもパフォーマンスに大きな差が見られます(図表9)。NYダウのパフォーマンスが芳しくない背景には、米国でここもと発表された主要経済指標の多くが経済の減速を示唆する内容だったことや、これまでに発表された米主要企業の22年10-12月期決算が、総じて低調であることが挙げられます。しかし、ハイテク株については、マクロ(経済動向)やミクロ(企業業績)の低調さがあまり材料視されておらず、米金融政策を巡りFRBが利上げを打ち止めて、景気への配慮から早々に利下げへ転じるとの期待を手掛かりに堅調に推移してきました。

図表9 主要国株価指数の推移(2022年末=100)

  • ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成

先週、1/31・2/1開催のFOMC(米連邦公開市場委員会)でも、パウエル議長は改めてインフレ抑制のために金融引き締めを継続する方針(タカ派)を示しました。しかし、それでも尚、市場ではFRBが金融緩和に転じるとの見方(ハト派)が強まっており、FOMCが終了した後もFRBと市場の金融政策を巡る見解の隔たりは残りました。ただ、そうした中、2/3発表の1月雇用統計において、非農業部門雇用者数が前月比+50.7万人と市場予想(同+18.8万人)を大きく上回り、失業率は3.4%と約53年ぶりの水準に低下するなど強い統計結果となりました。すると、FRBが早期に金融緩和へ転じるだろうという市場の楽観的な見方に歯止めがかかることとなり、米長期金利が上昇するとともに、株式はハイテク株を中心に大きく売られる展開となりました。

FOMCを通過したことで今週は政策メンバーが公の場で金融政策についての考え方を述べる機会が増えます。日本時間の8日(水)早朝に予定されているパウエル議長の講演では、金融引き締めのスタンス(タカ派)を強調することで、市場のハト派姿勢を改めてけん制する可能性があります。FOMC後の記者会見では、同氏のタカ派的な見解がマーケットであまり材料視されませんでしたが、今回は意識される可能性があるため注意が必要です。また、パウエル議長以外にも、既に数多くの政策メンバーによる講演が予定されています(図表10)。こうしたメンバーの発言内容に市場は一喜一憂すると見られます。

図表10 FOMC政策メンバーの公演予定

  • ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成

一方、国内では4月に任期満了を迎える黒田日銀総裁および副総裁の後任人事案について、政府が来週をめどに国会に人事案を提示する方針と報じられています。後任の日銀総裁を巡っては雨宮正佳氏と中曽宏氏の現・前副総裁が有力と見られています。両者のうち黒田体制で進められてきた異次元緩和を支えてきた雨宮氏が総裁となった場合、黒田路線を踏襲すると見られており、中曽氏に比べてハト派色が強いと見られています。実際、一部報道で政府が雨宮氏に日銀総裁を打診する方向で最終調整に入ったと報じられると、金融緩和路線が継続するとの観測から為替相場において、円安・ドル高が進行しました。政府から日銀人事案が提示されるまでは、雨宮氏への期待から円安含みの推移が想定されるでしょう。

また、国内経済指標としては8日発表の1月景気ウォッチャー調査が注目されます。この経済指標は、タクシードライバーや、ホテルや百貨店の接客担当など景気の動きを肌で感じる人々を対象とした景気調査であり、通称『街角景気(指標)』と呼ばれています。現状、国内経済は新型コロナ禍で滞っていた人流が徐々に緩和されてきています。海外から日本へ入国する外国人旅行者についても、昨年10月に水際対策が本格的に緩和されたこともあり、12月訪日外国人客数が137万人と100万人の大台を突破するなど回復を遂げてきます。今後は、経済が再稼働した中国からの旅行者増加が期待されています。外国人旅行者によるインバウンド消費の拡大などが景気ウォッチャー調査を通じて確認されれば、インバウンド関連銘柄への物色につながることが期待されるでしょう。

図表11 景気ウォッチャー調査

  • ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成

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