~中国版「ChatGPT」、競争スタート、中国当局は支援意向~

~中国版「ChatGPT」、競争スタート、中国当局は支援意向~

投資情報部 李 燕

2023/02/16

2/9-2/15の香港市場は調整しました。

今回のトピックスは、“中国版「ChatGPT」、競争スタート、中国当局は支援意向”です。

今週の中国株市況

図表1 ハンセン指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)

注:2/15(水)までのチャートです。
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成。

図表2 香港市場の業種別指数の推移(2021年12月31日=100として指数化)

注:業種別指数はハンセン総合指数のサブ指数です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

図表3 香港市場の個別銘柄の騰落率と関連ニュース等(2/15(水)までの騰落率)

ハンセン指数

騰落率上位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
00762 中国聯通[チャイナ・ユニコム] 5.9% 8.2% 58.6% 通信キャリア。中国教育部と戦略的提携を発表し、買い材料となった。両者は国家教育のデジタル戦略や新しい教育インフラの構築などで協力する予定。
00291 華潤ビール [チャイナリソーシズビール] 4.8% -2.1% 18.9% ビール大手。大手証券会社が買い推奨した。「ゼロコロナ政策」が撤廃された後、夜の外飲みが回復していることを理由に挙げた。
01810 小米集団 [シャオミ] 4.7% 9.0% 19.6% スマートフォン・IoT家電大手。同社CEOが「小米13」シリーズのグローバル版は2/26に発売する予定だと発表し、買い材料となった。
01928 金沙中国 [サンズ・チャイナ] 3.9% 1.2% 46.4% カジノ大手。マカオのカジノ収入が2月も回復が続いているとし、大手証券会社が同社と銀河娯楽(00027)を買い推奨した。
02688 新奥能源 [ENNエナジー] 3.8% -2.4% 18.4% 天然ガス供給会社。大手証券会社が目標株価を引き上げ、買われた。
騰落率下位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
02313 申洲国際 [シェンジョウインター] -7.6% -9.9% 25.0% ニット衣料メーカー。ナイキやアディダス、ユニクロのサプライヤー。中国本土投資家による売りが連日続いた。中国本土の証券会社が李寧(02331)を除く多くのアパレルメーカーは依然として在庫調整圧力に直面していると指摘し、売りを誘ったもよう。
09618 JDドットコム -7.9% -18.6% -7.1% EC大手。ChatGPT関連銘柄が売られた流れの一つ。同社はChatGPTに類似した「ChatJD」(産業版)をリリースする予定だと発表。ネット大手がそろって中国版ChatGPTへの参入を表明しているなか、競争激化懸念でChatGPT関連株が総じて軟調だった。
00017 新世界発展[ニューワールト] -7.9% -0.9% 4.5% 香港の不動産会社。香港の不動産株が売られた流れの一つ。主に香港の不動産物件で構成されているリンクリート(00823)が上場来初めて増資を発表し急落した。
00316 東方海外 -11.2% -10.8% -7.2% 海上貨物輸送を手掛ける。会社側が2022年10-12月期の売上高は前年同期比35%減(速報値)になると発表し、売り材料となった。バルチック海運指数(BDI)が約3年ぶりの安値を付けたことも海運株の売りを誘った。
00823 領展REIT [リンク・リ-ト] -15.3% -12.5% -4.8% REIT(リート、不動産投資信託)。香港の不動産物件が主な投資先となっている。上場来初めて増資を発表し、希薄化懸念で売られた。

ハンセンテック指数

騰落率上位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
01810 小米集団 [シャオミ] 4.7% 9.0% 19.6% スマートフォン・IoT家電大手。同社CEOが「小米13」シリーズのグローバル版は2/26に発売する予定だと発表し、買い材料となった。
01347 華虹半導体 [フアホン・セミコンダクター] 3.6% 8.3% 13.4% 半導体受託生産(ファウンドリ)大手。2022年10-12月期の売上高(速報値)と2023年1-3月期の売上高見通しが上振れし、買い材料となった。大手証券会社数社が目標株価を小幅に引き上げた。
00020 SenseTime Group Inc 1.5% 23.0% 52.5% AIソフトウェア大手。ChatGPT関連銘柄が競争激化懸念で調整したなか、同社は大手AIソフトウェア会社として中国版ChatGPTの恩恵を受けると一部で指摘され、小幅に上昇した。
09961 携程旅行網 [トリップドットコム゚] -0.1% -0.1% 27.6% オンライン旅行サービス大手。強弱材料まちまちのなか、横ばいとなった。韓国が2/10に中国からの入国者に対する短期ビザ発行を再開。一方、到着後のPCR検査は引き続き必要。その関係もあり、現在の韓国行きの航空便はコロナ前の1割程度にとどまっている。韓国は日本と同様に中国人の人気旅行先となっている。
00992 聯想集団 [レノボ・グループ] -0.3% 3.8% -3.1% パソコン大手。特段材料が乏しいなか、小動きとなった。
騰落率下位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
09618 JDドットコム -7.9% -18.6% -7.1% EC大手。ChatGPT関連銘柄が売られた流れの一つ。同社はChatGPTに類似した「ChatJD」(産業版)をリリースする予定だと発表。ネット大手がそろって中国版ChatGPTへの参入を表明しているなか、競争激化懸念でChatGPT関連株が総じて軟調だった。
09868 小鵬汽車[シャオペン] -8.4% -8.2% -5.5% 新興EVメーカー。テスラ(TSLA)が中国で値上げを発表し、EV関連株が売られた。テスラの値下げは年初の値下げによる需要増加が背景と指摘され、他のEVメーカーにとっては悪材料となった。
09698 万国数拠服務 -9.9% -9.3% 46.6% データセンターを運営。市場全体のリスク回避の動きを受け、赤字のハイテク企業が全般的に売られた流れの一つ。
06618 京東健康(JD Health) -10.8% -22.2% -16.3% JDドットコム(09618)傘下のインターネットヘルス大手。市場全体のリスク回避の動きを受け、赤字のハイテク企業が全般的に売られた流れの一つ。
00909 Ming Yuan Cloud Group -11.1% -24.9% -12.2% 不動産会社向けソフトウェア大手。比較的財務状況が健全な中国大手不動産デベロッパーの万科(02202)が増資を発表し、不動産株が売られた。

今週の中国株市況

2/9-2/15の香港市場では、ハンセン指数が2.2%下落、ハンセンテック指数は3.2%下落しました。米国上場のADRで構成されるナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数(HXC指数)は、0.3%下落しました。「気球」騒動をめぐり、米中間で応酬が繰り広げられるなか、投資家はリスク回避姿勢を維持しました。

米国は2/4に中国の気球を撃墜した後、2/10以降に3つの飛行物体を撃墜したと発表しました。中国は2/13に、米国の気球が昨年から十数回、中国の領空に侵入していたと発表しました。その後、米国は2/14に、3つの飛行物体は商業用や研究用の可能性があり、中国のものである兆候はないと発表しました。

2/13にロイター通信は、「ブリンケン米国務長官が2/17-2/19にドイツで開かれるミュンヘン安全保障会議に合わせて、中国外交トップの王毅・共産党政治局員と会談することを検討している」と報じました。実施されるなら、「気球」騒動以降で初の会談となります。「気球」騒動に限らず、米中関係において市場で一番警戒しているのは「対話が途絶えること」です。したがって、米中間で話し合いが継続されれば、昨年末からの関係改善は続く可能性があります。一方、「気球」騒動をめぐっては不透明感も残っているため、他の好材料が出るまで相場の重しとなるかもしれません。

業種別では、ヘルスケア、不動産、工業が下落率上位に並びました。

ヘルスケアは、投資家のリスク回避により、赤字のインターネットヘルス関連株やバイオ医薬品関連が下げを主導しました。インターネットヘルス大手のJDヘルス(06618)やアリババヘルス(00241)、バイオ医薬品大手のベイジーン(06160)やザイラボ(09688)がそろって大幅安となりました。バイオ医薬品開発受託大手の薬明生物(02269)も下落しました。会社側の2022年通期の純利益見通し(前年同期比3割増)が市場予想をやや下回り、売り材料となりました。

不動産は、香港の主力REIT(不動産投資信託)と中国本土の大手不動産デベロッパーがともに増資を発表し、売りを誘いました。香港の不動産物件が主な投資先となっているリンクリート(00823)は上場来初めて増資を発表し、希薄化懸念で15%下落しました。比較的に財務状況が健全とされる不動産デベロッパーの万科(02202)も予想外に増資を発表し、売りを誘いました。不動産市場をめぐっては現在のところ、底打ちした兆しがないため、主力企業の増資は悪材料となりました。

工業は、主に海運株とスマホ部品関連銘柄が下落しました。バルチック海運指数(BDI)が約3年ぶりの安値を付け、海運大手の中遠海運(01919)や東方海外(00316)が売られました。東方海外は会社側が2022年10-12月期の売上高は前年同期比35%減(速報値)になると発表したことも、嫌気されました。大手光学機器メーカーの舜宇光学(02382)は、会社側が2022年通期の純利益は前年比50-55%減になる見通しだと発表し、売りを誘いました。スマホ部品関連銘柄の瑞声科技(02018)やBYD電子(00285)が連れ安しました。

電気自動車(EV)関連銘柄も軟調でした。テスラ(TSLA)が中国で値上げを実施したことが材料視されました。テスラが今年初めに値下げを実施した後、テスラ車に対する需要は増加したもようで、他社にとって競争激化懸念につながりました。米著名投資家のウォーレン・バフェット氏が中国EV最大手のBYD(01211)を追加売却したことも、EV関連銘柄にとって重石となりました。一方、他社に比べて好調な販売実績を持つBYDの下落率は限定的でした。

なお、ウォーレン・バフェット氏は、2022年12月末時点で半導体受託生産で世界最大手の台湾セミコンダクター(TSMC)(TSM)の保有株を2022年9月末時点より86%減らしたことも明らかになりました。ウォーレン・バフェット氏は長期・バリュー投資として著名なだけに、短期間での保有・売却はさまざまの憶測を呼びました。

たとえば、半導体関連株に対する見方の変化や台湾をめぐる米中関係に対する警戒などです。しかしながら、ウォーレン・バフェット氏の売りが伝わった香港市場(2/16前場)の動きからすると、そのような憶測による影響はみられませんでした。ハンセン指数とハンセンテック指数はいずれも2/16前場に反発し、半導体関連株(たとえば、SMIC(00981)や華虹半導体(01347))は小幅に上昇しました。ウォーレン・バフェット氏のTSMC売りの真意は不明ですが、今後何らかの情報が出てくる可能性もあり、注目していきたいと思います。

今回のトピックス

今回のトピックスは、“中国版「ChatGPT」、競争スタート、中国当局は支援意向”です。

米国市場で生成AIのChatGPTが注目を集めています(2/15付の外国株式特集レポート「【AI最先端~「ChatGPT」をめぐる動きと関連銘柄~」をご参照願います)。

史上最速で1億人のユーザー数を獲得したとされるChatGPTは、中国でも話題を呼んでいます。中国検索エンジン最大手の百度(09888)をはじめ、多くの中国企業もChatGPTへの意欲を示しました(図表4)。

図表4 ChatGPTをめぐる中国企業の動き

銘柄名 企業概要 ChatGPT関連の動き
百度(09888) 中国検索エンジン最大手 会社側はChatGPTに類似した自社のチャットボット(自動応答システム)の名前は「文心一言」(ERNIEBOT、アーニーボット)だと発表。内部テストを完了して3月には投入でき、自社の検索サービスに組み込む計画だという。
JDドットコム(09618) Eコマース・物流大手 会社側は傘下のクラウド部門(JDクラウド)がChatGPTに類似した「ChatJD」を産業向けに投入する計画だと発表。
アリババ(09988) Eコマース・フィンテック大手 会社側はChatGPTに類似した人工知能(AI)ツールを開発中で、内部テストを実施していると表明した。
ネットイース(09999) ゲーム大手 傘下のYoudao ADR(DAO)はChatGPTに近いAI技術を教育分野での実用化に向けて研究を進めており、すでに一部限定でテスト使用中と報じられた。
テンセント(00700) ゲーム・フィンテック大手 会社側は関連分野で研究を進めており、AI大規模モデルや機械学習のアルゴリズムで蓄積した技術に基づいて先端研究と応用を探索していくとコメント。
快手(01024) 動画配信大手 ChatGPTのような大規模言語モデル(LLM)に関する研究はすでに実施しており、関連プロジェクトを立ち上げたと報じられた。
小米(01810) スマートフォン大手 傘下のAIアシスタント「小愛同学」がChatGPTに似たようなものだと報じられた。

※Bloombergおよび各種資料をもとにSBI証券が作成。

図表4を確認してみると、今のところ中国では「ChatGPT」のような成功した完成品はありません。これまでの動きからすると、ChatGPTに最も近い中国版ChatGPTは、百度の「ERNIEBOT」(アーニーボット)となりそうです。百度はこれまでに(人工知能)AI投資に大規模な経営資源を費やしてきたことで有名で、もしアーニーボットのリリースと自社の検索エンジンへの組み込みが成功すれば、同社にとっては業績面でもプラス材料となりそうです。当面は3月中の内部テストを無事に終え、早めのアーニーボットのリリースを実現できるかどうかが注目されます。

次いで、JDドットコムの「ChatJD」は産業向けとなるため、中国版「ChatGPT」というより、中国の産業版「ChatGPT」と言ったほうが適切かもしれません。そして、JDドットコムを含めて、百度以外のネット大手はChatGPTに類似する技術の導入時期について必ずしも明確ではありません。他方、これまでChatGPTのようなAI技術の研究開発を進めてきたことも事実のようで、それが各社の素早い「対応」につながったとみられます。

中国当局は株式市場でChatGPTブームが起きた当初、大幅に買われた銘柄の中にはChatGPTと関連が薄い企業もあるとし、投機的な動きに警戒する必要があると注意を呼びかけました。それが2月2週目からChatGPT関連銘柄の調整につながりました。一方、2月3週目に入り、中国当局は少し「トーン」を変えたようにみえます。

中国政府系の経済紙である経済日報は2/12に、ChatGPTに対し自然言語処理技術の商用化は画期的な意味を持つと評価しました。首都の北京市は2/14に、「北京人工知能(AI)産業発展白書」(白書)を発表しました。白書では、北京市は今年、ChatGPT をベンチマークとするAI大規模モデルを構築する大手企業をサポートすると明記しました。総合的にみると、中国当局は「投機」は警戒していますが、ChatGPTのようなAIの研究開発・応用・実用化は支援する意向と思われます。米中ハイテク戦争が背景と考えられます。ネット大手に対して締め付けを強化するのではなく、企業のイノベーションを奨励する姿勢がより明確になれば、ChatGPT関連銘柄に限らず、ネット大手にとってはポジティブ材料と言えそうです。

※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。

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