~予想上回るアリババや百度の決算、「無視」された理由~

~予想上回るアリババや百度の決算、「無視」された理由~

投資情報部 李 燕

2023/03/02

2/22-3/1の香港市場は小反発しました。主要指数は2/28まで前週の流れを引き継いで続落しましたが、3/1は中国の景況感改善を好感し、急反発しました。

今回のトピックスは、「予想上回るアリババや百度の決算、「無視」された理由」です。

今週の中国株市況

図表1 ハンセン指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)

注:3/1(水)までのチャートです。
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成。

図表2 香港市場の業種別指数の推移(2021年12月31日=100として指数化)

注:業種別指数はハンセン総合指数のサブ指数です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

図表3 香港市場の個別銘柄の騰落率と関連ニュース等(3/1(水)までの騰落率)

(※ 前週のレポートでは日本祝日の関係で2/21までの騰落率となっていたため、今回は2/22-3/1の6日間の騰落率となります)

ハンセン指数

騰落率上位
(※)
銘柄名 騰落率
(※)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
06862 海底撈(Haidilao) 17.2% 5.4% 23.8% 火鍋チェーン中国最大手。会社側が2022年通期は黒字転換する見通しだと発表し、好材料となった。店舗運営コストの引き下げ戦略が功を奏したもよう。決算発表後、大手証券会社数社が目標株価を引き上げた。
01876 百威亜太[バドワイザーAPAC] 9.4% 1.6% 7.3% ビール大手バドワイザーのアジア子会社。大手証券会社が同社を含むビール大手3社の目標株価を引き上げた。経済再開が進み、同時に暖かくなるにつれ、ビールの消費量は増加する見込みだとした。
00291 華潤ビール [チャイナリソーシズビール] 8.9% 5.1% 15.5% ビール大手。大手証券会社が同社を含むビール大手4社の目標株価を引き上げた。経済再開が進み、同時に暖かくなるにつれ、ビールの消費量は増加する見込みだとした。
00992 聯想集団 [レノボ・グループ] 5.3% 16.0% 14.7% パソコン(PC)大手。PCの需要回復期待で買われた。米PCメーカーのヒューレット パッカード(HPQ)が発表した2023年通期ガイダンスは今年の世界PC需要の回復が示唆され、買い材料となった。
02020 安踏体育用品 [アンタ・スポーツ] 5.2% -7.1% 18.5% スポーツ用品大手。大手証券会社が投資判断を「ホールド」から「買い」に引き上げた。「ゼロコロナ政策」が撤廃された後、今年はスポーツイベントの再開により、需要回復が期待できることを理由に挙げた。
騰落率下位
(※)
銘柄名 騰落率
(※)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
00968 信義光能 [シンイー・ソーラー] -6.0% -17.2% -3.6% 太陽光発電ガラスメーカー。2022年通期の決算内容が市場予想を下回り、売り材料となった。決算発表後、大手証券会社が目標株価を引き下げた。
02688 新奥能源 [ENNエナジー] -6.6% -6.0% 7.8% 天然ガス供給会社。大手投資ファンドによる保有株比率の引き下げが報じられ、売りを誘ったもよう。
00175 吉利汽車 [ジーリー・オートモービル] -8.0% -20.0% -8.5% 大手自動車メーカー。大手証券会社が目標株価を引き下げた。新車種の「銀河之光」が長安自動車の「コピー」だと指摘されたことも、売り材料となった。同社は「コピー」疑惑を否定し、オリジナルデザインだとコメントを出した。
00868 信義玻璃控股 [信義ガラス] -11.4% -12.7% 2.7% 大手ガラスメーカー。2022年通期の決算内容が市場予想を下回り、売り材料となった。決算発表後、大手証券会社が目標株価を引き下げた。
00669 創科実業 [テクトロニック・インダストリーズ] -19.3% -24.4% -16.9% 大手電動工具メーカー。粉飾決算疑惑で急落した。空売り業者のJehoshaphat Researchが同社は過去十数年にわたって利益を水増してきたとし、同社の株価は60-80%の下落余地があるとレポートを出した。同社は粉飾決算疑惑を全面否定した。

ハンセンテック指数

騰落率上位
(※)
銘柄名 騰落率
(※)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
00020 SenseTime Group Inc 8.8% -7.8% 39.7% AIソフトウェア大手。中国当局が「新型産業の促進」記者会見で、次世代情報技術の応用拡大を促すと表明し、買い材料となった。
06060 衆安在線財産保険 6.8% -8.3% 15.8% オンライン保険大手。大手証券会社が同社の保険料収入は今年予想を上回って回復する可能性があるとし、買い推奨した。
00992 聯想集団 [レノボ・グループ] 5.3% 16.0% 14.7% パソコン(PC)大手。PCの需要回復期待で買われた。米PCメーカーのヒューレット パッカード(HPQ)が発表した2023年通期ガイダンスは今年の世界PC需要の回復が示唆され、買い材料となった。
09888 百度 [バイドゥ] 5.0% 0.5% 35.8% 検索エンジン大手。会社側が生成AIの「ChatGPT」に類似した自社製品の「アーニーボット」を3/16の記者会見で披露する予定だと発表し、好材料となった。
00268 金蝶国際軟件 [キングディー・ソフトウエア] 4.8% -9.1% 20.6% ソフトウェア会社。会社側が発表した2022年通期の業績予想からすると、2022年下期の赤字は予想より小幅に収まったことが示唆されたとし、大手証券会社が目標株価を引き上げた。
騰落率下位
(※)
銘柄名 騰落率
(※)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
00285 比亜迪電子 [BYDエレクトロニック] -3.4% -13.0% -2.6% BYD(01211)傘下のスマートフォン部品・受託製造メーカー。スマートフォン分野で著名なアナリストがAndroidスマホの在庫調整圧力は依然として大きいとの見方を示し、売り材料となった。
09618 JDドットコム -3.4% -23.0% -15.5% EC大手。前週報じられた同社の「100億元の購入助成キャンペーン」をめぐり、3/8からの実施が示唆されていると現地紙が報じ、売り材料となった。大規模キャンペーンによる粗利益率の低下懸念が引き続き、重石となった。
09988 アリババ・グループ -3.5% -16.5% 11.0% EC・フィンテック大手。決算内容は市場予想を上回ったが、JDドットコムのキャンペーンによるEC業界の競争激化懸念が引き続き、重石となった。
09626 ビリビリ -3.7% -18.5% 26.3% 動画プラットフォーム大手。ECも手掛ける。JDドットコムのキャンペーンによるEC業界の競争激化懸念が引き続き、重石となった。
06690 海爾智家 [ハイアールスマートホーム] -4.2% -2.9% 12.8% 大手家電メーカー。需給要因のもよう。中国本土の投資家が売る一方、海外投資家はポジションを増やしていると報じられた。

注:銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergをもとにSBI証券が作成。

今週の中国株市況

2/22-3/1の香港市場では、ハンセン指数が0.4%上昇、ハンセンテック指数は0.7%上昇しました。米国上場のADRで構成されるナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数(HXC指数)は、0.3%上昇しました。主要指数は2/28まで下落傾向が続きましたが、3/1は大幅反発し、結果的には小幅高で取引を終えました。

2/28までの下落要因は前週同様で、1)米利上げ長期化懸念の再燃による世界的なリスク回避ムード(※)、2)中国のEC業界をめぐる競争激化懸念が引き続き、相場の重石となりました(※香港市場は海外投資家の比率が比較的高く、中国本土市場よりも米国や世界株式市場の影響を受けやすい傾向があります)。

3/1の急反発は、中国の景況感が市場予想を上回って改善したためです。3/1に発表された2月の製造業PMI(購買担当者指数)は52.6で2012年4月以来の高水準となり、市場予想の50.6も上回りました。同指数を公表する中国国家統計局は、経済再開が進み、中国経済の回復は2月も続いたとの認識を示しました。

業種別では、電気通信、一般消費財、情報テクノロジーが堅調でした。

電気通信と情報テクノロジーは、中国当局が「新型産業の促進を加速する」記者会見で、次世代情報技術の応用拡大を促すと表明したことが、買い材料となりました。通常ディフェンシブとされている電気通信ですが、5GやAI(人工知能)関連分野ではインフラとしての機能を持つため、生成AIの「ChatGPT」をきっかけとしたAIブームの恩恵を受けると期待されています。

たとえば、通信大手のチャイナテレコム(00728)は通信機器大手の華為(ファーウェイ、未上場)と共同で、「ビックデータおよびAIセンターの昇騰AI(※)オープンラボ」を設立しました(※昇騰AIはファーウェイのAI半導体)。3/1に米国がファーウェイへの半導体輸出の全面禁止を検討していると報じられましたが、株式市場への影響は限定的でした。チャイナテレコムやチャイナモバイル(00941)が大幅に上昇したほか、通信機器メーカーのZTE(00763)も52週高値に接近しました。

情報テクノロジーも、AIなど次世代情報技術やハイテク製造業にかかわる銘柄が買われました。AIソフトウェア大手のセンスタイム(00020)が大幅高になったほか、中国版「ChatGPT」をまもなく発表する百度(09888)や半導体受託生産(ファウンドリ)大手の華虹半導体(01347)が上昇しました。

一般消費財は、ビール大手3社が上昇をけん引しました。大手証券会社が経済再開が進み、同時に暖かくなるにつれ、ビールの消費量は増加する見込みだとし、大手3社(華潤ビール(00291)、バドワイザーブリューイングカンパニーAPAC(01876)、青島ビール(00168))の目標株価を引き上げました。

一方、情報テクノロジーのうち、EC関連のネット大手はさえない展開となりました。前週に報じられたJDドットコム(09618)の「100億元の購入助成キャンペーン」をめぐり、3/8からの実施が示唆されていると現地紙が報じ、売り材料となりました。JDドットコムの大規模キャンペーンによる競争激化懸念が引き続き、重石となりました。JDドットコムやアリババ(09898)、ビリビリ(09626)などEC関連銘柄が続落しました。ただ、3/1は中国の景況感改善を受け、EC関連銘柄も買い戻されました。

今回のトピックス

今回のトピックスは、「予想上回るアリババや百度の決算、「無視」された理由」です。

2/22-3/1の相場はやや不可解な動きとなりました。決算発表の先陣を切ったアリババ(09988)や百度(09888)の決算内容は市場予想を上回りました(図表4)が、決算発表直後の両社の株価はさえない展開となりました。米利上げ長期化懸念の再燃による投資家のリスク回避ムードを背景に、中国のEC業界の競争激化懸念がより意識された格好です。

図表4 2/22-3/1に 決算発表(注)を 実施した主要中国株の業績と市場予想との比較

銘柄コード Bloomberg銘柄名 決算期 売上高(10億元) 調整後純利益(10億元)
実績 市場予想 対予想比(%) 実績 市場予想 対予想比(%)
09888 百度[バイドゥ] 2022年度第4四半期 33.08 32.06 3.2% 5.37 4.74 13.4%
09999 網易 2022年度第4四半期 25.35 25.31 0.2% 4.81 5.23 -8.0%
09988 アリババグループ・ホールディング 2023年度第3四半期 247.76 245.88 0.8% 50.33 44.44 13.3%
00027 銀河娯楽 [ギャラクシー・エンターテインメント] 2022年度通期 11.47 11.97 -4.2% -3.43 -2.62 -31.2%
02015 理想汽車 2022年度第4四半期 17.65 17.56 0.5% 0.96 0.33 194.7%
09866 蔚来汽車[ニオ] 2022年度第4四半期 16.06 17.10 -6.1% -5.07 -3.24 -56.4%
01876 百威亜太[バドワイザー・ブリューイング・カンパニーAPAC] 2022年度第4四半期 1.17 1.26 -7.8% -0.08 0.07 -

注:ニオ(09866)とバドワイザーブリューイングカンパニーAPAC(01876)は3/1引け後(香港市場)に決算が発表されました。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

一方、それらの要素がまだ残っているにもかかわらず、3/1はアリババや百度をはじめ、多くの中国株が急反発しました。3/1に発表された中国の製造業・非製造業PMI(購買担当者指数)が予想を上回って回復したためです(図表5)。百度は生成AIの「ChatGPT」に類似した自社製品の「アーニーボット」をめぐる進展も好感されました。

図表5 中国の製造業・非製造業PMIの推移(%、2019年1月-2023年2月)

※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

なぜ、投資家は今回のPMIにこれほどの反応を示したのでしょうか。それは、旧正月連休の関係で2月は主要経済指標の発表がなく、中国の経済回復具合を確認する手掛かりが不足していたためです。そうしたなか、JDドットコム(09618)の大規模な購入助成キャンペーンはネガティブ・サプライズとなりました。一部の投資家は「JDドットコムの動きは、中国の景気回復はそれほど強くないことを示すかもしれない」と懸念しました。つまり、景気の回復具合いと競争激化懸念を天秤にかけた際、回復の具合いが弱ければ競争激化の影響はより大きくなり、逆に回復の具合いが強ければ競争激化の影響は吸収される可能性がありますが、経済指標の発表が乏しいなか、投資家はその判断に戸惑いました。

したがって、投資家の不安を払拭するためには、PMIに続いて中国の経済回復が確認できるデータが増える必要がありそうです。EC業界に関しては、3/15に発表される予定の小売売上高の伸び率が注目されます。また、3/5から開催する全国人民代表大会(全人代)で中国当局が示す今年のGDP成長率目標や景気支援策の有無(消費刺激策を含む)も注目されます。

これまでの中国当局の動きからすると、今年は経済成長を重視する姿勢を鮮明に打ち出しています。したがって、何らかの景気支援策を打ち出す可能性はあると考えられます。主要指数の2月の下落幅からすると、昨年11月から3カ月続伸したことによる利益確定売りの圧力は弱まっていると考えられます。総合的にみると、3月相場は2月より良好なパフォーマンスとなりそうです。

※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。

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