~全人代のキーワード:成長率目標、米中関係、科学技術の自立、民営企業~

~全人代のキーワード:成長率目標、米中関係、科学技術の自立、民営企業~

投資情報部 李 燕

2023/03/09

3/2-3/8の香港市場は反落しました。全人代で強弱まちまちの材料が示されたなか、パウエルFRB議長のタカ派発言が投資家のリスク回避を誘いました。

今回のトピックスは、「全人代のキーワード:成長率目標、米中関係、科学技術の自立、民営企業」です。

今週の中国株市況

図表1 ハンセン指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)

注:3/8(水)までのチャートです。
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成。

図表2 香港市場の業種別指数の推移(2021年12月31日=100として指数化)

注:業種別指数はハンセン総合指数のサブ指数です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

図表3 香港市場の個別銘柄の騰落率と関連ニュース等(3/8(水)までの騰落率)

ハンセン指数

騰落率上位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
00386 中国石油化工 [シノペック] 12.7% 10.2% 26.9% 石油・石油化学製品大手。原油の需要増加期待で買われた。詳細は本文をご参照願います。
00857 中国石油天然気 [ペトロチャイナ] 9.0% 8.7% 29.5% 中国石油・天然ガス最大手。原油の需要増加期待で買われた。詳細は本文をご参照願います。
00883 中国海洋石油 [CNOOC] 6.9% 4.2% 22.7% 中国石油・天然ガス大手。原油の需要増加期待で買われた。詳細は本文をご参照願います。
00968 信義光能 [シンイー・ソーラー] 3.2% -6.9% 6.5% 太陽光発電ガラスメーカー。2022年通期の業績は市場予想を下回ったが、大手証券会社が投資判断を「買い」に引き上げた。同証券会社は、現在の株価水準はすでに悲観的な見通しを十分反映しており、業績はむしろ2022年が底である可能性があると分析した。
06862 海底撈(Haidilao) 2.9% 19.1% 8.5% 火鍋チェーン中国最大手。会社側が2/24に2022年通期は黒字転換する見通しだと発表した後、上昇傾向が続いた。大手証券数社が目標株価を引き上げた。
騰落率下位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
01929 周大福珠宝集団[チョウタイフックジュエリー] -9.3% -14.9% -5.4% 宝飾類の小売会社。現CEOが辞任することになり、売り材料となった。同社の成長に大きく貢献したCEOの辞任で不確実性が増したとし、大手証券会社が投資判断を引き下げた。
03968 招商銀行(CMB) -9.6% -12.8% 1.5% 大手商業銀行。大手証券会社が投資判断を「買い」から「中立」に引き下げた。
06098 CG SERVICES -10.1% -18.5% -34.7% 不動産大手カントリーガーデン(02007)傘下の不動産サービス会社。親会社の不動産販売状況が芳しくなく、売り材料となった。
02007 碧桂園 [カントリー・ガーデン] -11.2% -14.4% -18.1% 中国不動産大手。大手100社デベロッパーの2月の不動産販売額が前年同月比12%増となったなか、同社は同24%減なり、売られた。
00881 中升集団 -12.6% -18.5% -11.8% 自動車販売会社。テスラ(TSLA)の値下げをきっかけとした値下げ競争による影響がガソリン車にも波及し、ディーラー側で在庫が積み上げていると報じられ、売り材料となった。

ハンセンテック指数

騰落率上位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
09961 携程旅行網 [トリップドットコム゚] 1.9% 1.9% 13.7% オンライン旅行サービス大手。2022年10-12月期の決算内容が市場予想を上回り、買われた。中国が「ゼロコロナ政策」を撤廃した後、国内の旅行需要が順調に回復しているとし、大手証券会社数社が目標株価を引き上げた。
00981 中芯国際 [SMIC] 0.6% -5.3% 0.0% 半導体受託生産(ファウンドリ)大手。中国当局による半導体産業への支援期待で買われた。中国国家半導体ファンドはメモリー大手のYMTCに大規模な投資を計画していると報じられた。
01347 華虹半導体 [フアホン・セミコンダクター] 0.5% 5.9% 29.7% 半導体受託生産(ファウンドリ)大手。中国当局による半導体産業への支援期待で買われた。中国国家半導体ファンドはメモリー大手のYMTCに大規模な投資を計画していると報じられた。
00992 聯想集団 [レノボ・グループ] 0.4% 11.7% 20.5% パソコン(PC)大手。PC市場の需要回復期待を背景に、中国本土投資家による買いが連日続いたと報じられた。
09999 網易 [ネットイース] -1.2% -9.0% 15.6% ゲーム大手。大手投資ファンドが同社の米国上場株(ADR)を新たに投資したことが明らかになった。軟調地合いのなか、下落率は限定的だった。
騰落率下位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
02015 理想汽車[リーオート] -10.3% -10.5% -3.4% 新興EVメーカー。値下げ競争に対する懸念や米国市場でのEV関連銘柄の売りが響いた。詳細は本文をご参照願います。
09868 小鵬汽車[シャオペン] -11.2% -14.5% -26.0% 新興EVメーカー。値下げ競争に対する懸念や米国市場でのEV関連銘柄の売りが響いた。詳細は本文をご参照願います。
00909 Ming Yuan Cloud Group -12.1% -22.0% -29.0% 不動産会社向けソフトウェア大手。不動産市場の回復状況をめぐる不透明感が重石となった。
09866 蔚来汽車 [ニオ] -12.6% -17.3% -31.9% 新興EVメーカー。値下げ競争に対する懸念や米国市場でのEV関連銘柄の売りが響いた。詳細は本文をご参照願います。
09698 万国数拠服務 -19.2% -29.3% -9.6% データセンターを運営。投資家のリスク回避を受け、急落した。同社株は他の銘柄比べ、リスクマネーに大きく左右されやすい傾向がある。

注:銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergをもとにSBI証券が作成。

今週の中国株市況

3/2-3/8の香港市場では、ハンセン指数が2.8%下落、ハンセンテック指数は4.7%下落しました。米国上場のADRで構成されるナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数(HXC指数)は、1.2%下落しました。

3/5に開幕した全国人民代表大会(全人代、中国の国会にあたる)では、株式市場にとって強弱まちまちの材料が出たなか、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長のタカ派発言が投資家のリスク回避を誘いました。

パウエル議長は「最新の経済データは予想より強く、金利の最終到達水準が従来想定を上回る可能性が高いことを示唆している」と発言し、必要であれば「利上げペースを加速させる用意がある」と述べました。それを受け、投資家のリスク選好度は大きく低下しました。なお、全人代に関しては「今回のトピックス」部分で取り上げます。

業種別では、情報テクノロジーやヘルスケア、電気自動車(EV)が下げを主導しました。これらの業種は、投資家のリスク選好度に左右されやすく、パウエル議長のタカ派発言と米中対立激化懸念が嫌気されました。

情報テクノロジーでは、アリババ(09988)やJDドットコム(09618)などのEコマース関連銘柄は引き続き、競争激化懸念も重石とりました。

新興EVメーカーのニオ(09866)やシャオペン(09868)、リーオート(02015)は、1)値下げ競争懸念が引き続き重石となったほか、2)米国市場でのEV関連銘柄の売りも響きました。米国市場では、テスラ(TSLA)が米国で再び値下げを実施して売られ、新興EVメーカーのリビアン オートモーティブ(RIVN)は社債発行が嫌気され急落しました。

ニオは、2022年10-12期の決算内容が市場予想を下回ったことも響きました。市場予想を上回った業績を発表したリーオートも同じく10%を超える下落率になったことからすると、前週の下落は主に上記の1)と2)、および投資家のリスク回避によるものだと考えられます。なお、現地報道によると、ニオとリーオートの2月の販売台数は、いずれも前年同月比98%増(シャオペンは同3%減)となりました。値下げ競争による影響は今のところ限定的であることが示されましたが、地合い軟調のなか、材料視されませんでした。

一方、エネルギーや電気通信は、逆行高となりました。電気通信は、投資家のリスク回避姿勢を反映したもので、ディフェンシブ銘柄として買われました。

エネルギーは、原油の需要増加を織り込み、3大石油メジャー(ペトロチャイナ(00857)、シノペック(00386)、中国海洋石油(00883))がそろって買われました。世界最大の原油輸出国であるサウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコが4月積みのアジア向け原油油種の大半について値上げを実施しました。2カ月連続の値上げとなり、アジアの需要回復が示唆されました。サウジアラムコのCEOは、「中国からの需要は非常に強い」とコメントしました。

市場予想を上回った中国の景気先行指数と合わせて考えると、中国の経済再開シナリオは崩れていないと言えそうです。

今回のトピックス

今回のトピックスは、「全人代のキーワード:成長率目標、米中関係、科学技術の自立、民営企業」です。

中国の国会にあたる全国人民代表大会(全人代)が3/5に開幕しました。今回の全人代は、昨年10月に3期目の習政権が発足してから初めての全人代となり、市場ではこれまで以上に、開催初日に発表される成長率目標や、それ以降順次明らかになる政策運営方針、人事に注目しています。3/8までの情報に基づいていえば、今回の全人代は市場にとって強弱まちまちの材料を提供しました。

【成長率目標】

李克強首相は全人代初日(3/5)の「政府活動報告」で、2023年のGDP成長率(実質、以下同様)目標について、前年比「5.0%前後」に設定しました。

2022年のGDP成長率実績が3.0%成長で比較対象が低水準だったことや、中国が今年1月に「ゼロコロナ政策」を撤廃したことを踏まえると、「5.0%前後」の目標は「控え目」と言えます。市場では事前に、中国当局は今年のGDP成長率目標について「5.5%前後」に設定する可能性もあると報じられていました。したがって、やや「控え目」の目標設定は、中国当局が成長率をそれほど重視していない可能性があると解釈されました。

一方、以下2つの要因からすると、「5.0%前後」の目標設定について、過度に深読みする必要はないと考えています。

1)昨年は「ゼロコロナ政策」の関係で目標未達だったため、今年は容易に達成できる水準を目標に設定した可能性があります。

2)目標値はあくまでも「目安」であって、実績の上限を示唆するものではないと考えられます。たとえば、中国当局は2021年のGDP成長率目標を「6.0%以上」と設定しました。当時も前年の比較対象が低水準(2020年の武漢ロックダウンが中国経済に打撃を与えた)だったため、目標値が低めとの指摘がありました。しかしながら、2021年のGDP成長率の実績は「8.1%」となり、目標値を大幅に上回りました(図表4)。今年も経済再開が進めば、目標の「5.0%前後」を上回る実績を達成できると予想されます。つまり、「5.0%前後」はむしろ予想レンジの下限と言えるかもしれません。

図表4 中国のGDP成長率の実績と目標(前年比、%)

※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

【米中関係】

習近平国家主席は3/6に全人代と同時に開催されている政治協商会議で、中国を取り巻く環境について、「過去5年間は極めて異例の5年間で、外部環境は急速に変化し、不確実かつ予測し難い要素が増えている」との認識を示しました。「特に米国を中心とする西側諸国は中国に対し、全面的な封じ込めや抑圧を実施している」とし、米国を名指しで批判しました。

米中関係をめぐっては、昨年10月末に3期目の習政権が発足した後、両国は歩み寄る姿勢を示しましたが、2月の「気球騒動」以降は、再び緊張感が高まっています。「気球騒動」の真相は不明ですが、一部の報道によると、「気球騒動」以降、中国側は米国に対して強い不信感を抱くようになっているようです。

習近平国家主席と足並みを揃えるように秦剛外相は全人代の記者会見で、「米国はあらゆる面で中国に対し、封じ込めや抑圧を図っており、両国をゼロサムゲームに閉じ込めることを目的としている」との認識を示しました。また、「もし米国がブレーキをかけず、間違った方向へ突進していくのであれば、衝突を防ぐガードレールがいくらあっても軌道から外れることを防ぐことはできない」と米国を警告しました。

現状からすると、米中関係をめぐっては両国の政府高官レベルの対話や首脳会談など、何らかの歩み寄る姿勢が示されない限り、しばらく不透明感が続きそうです。中国株にとっては、投資家が要求するリスクプレミアムの上乗せ幅の拡大につながる恐れがあります。特に前週のように、パウエルFRB議長のタカ派発言を嫌気し、世界的にリスク選好度が低下した際は、その上乗せ幅が一段と拡大する場合があります。今後は、そのリスクプレミアムを補うほど、中国の経済成長や企業業績が予想を上回って回復するかどうかが注目ポイントとなりそうです。

【科学技術の自立】

習近平国家主席は全人代が開幕した3/5に、「製造業は常に中国の力の柱であるべきだ」との認識を示しました。その後3/7に、中国国務院は全人代に科学技術省を再編する計画書を提出しました。計画書では、「高度な自立した科学技術を加速させる必要がある」と記されていました。

米中ハイテク戦争が背景であることに加え、従来型の成長モデル(たとえば不動産市場への過度な依存)から脱却を図る中国当局の意向が改めて示されました。香港市場で、ハイテク製造業に関連する銘柄が底堅いのは、このような中国当局の政策方針を反映しています。

前出の計画書では、「科学技術の進歩に向けて資源をより配分する」と記しており、今後、中国当局はテクノロジー分野への支援を一層拡大する可能性が高いとみられます。中長期の中国株投資において、テクノロジー分野がより注目されることとなりそうです。

【民営企業】

習近平国家主席は3/6に、「民営経済は中国の夢を実現するための重要な力であり、私たちは常に民間企業と民間企業家を”身内”だとみている」と発言しました。また、「民間企業の発展環境を最適化し、民間企業が市場競争に公正に参加することを制限する制度上の障壁を取り除き、法律に従って民間企業の財産権と起業家の権利・利益を保護する必要がある」と表明しました。

ネット大手を筆頭とする民営企業に対し、中国当局は2021年に規制強化に乗り出し、その後2022年末からは締め付けを緩和しました。2023年に入ってからの動き(たとえば新規ゲームの認可)と習近平国家主席の発言からすると、ネット大手に対する締め付け強化は「ほぼ終了」となっているようです。

なお、足元でアリババ(09988)やJDドットコム(09618)などネット大手の株価はやや低迷しています。その要因は、1)規制強化に対する懸念ではなく、2)米金融政策と米中関係をめぐる不透明感による投資家のリスク選好度の低下と、3)業界をめぐる競争激化懸念によるものと考えられます。今後、経済の再開に伴う消費拡大が続き、ネット大手の業績回復が確認できれば、2)と3)による株価への影響力は薄れる可能性があります。

なお、全人代は3/13まで開催されます。今後の注目点は、3/12に指名される予定の人事(副首相や閣僚、中国人民銀行総裁など)に加え、3/13の閉幕後の記者会見です。閉幕後の記者会見は通常、経済運営を統括する首相によって行われます。現首相である李克強氏に代わり、李強氏が次期首相に就任する見通しです。したがって、3/13の記者会見は新首相の「初舞台」となりそうです。新首相が「初舞台」で今後の経済政策運営についてより具体的な内容を示す可能性があり、注目されます。

※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。

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