~米シリコンバレー銀行が破綻、中国の銀行は大丈夫か~

~米シリコンバレー銀行が破綻、中国の銀行は大丈夫か~

投資情報部 李 燕

2023/03/16

3/9-3/15の香港市場は続落しました。米シリコンバレー銀行の破綻をきっかけとした信用不安の拡大リスクを警戒し、世界的にリスク回避ムードが強まりました。新たに首相に就任した李強氏が景気刺激策についての言及はなかったことも、投資家のリスクテイク意欲を削ぎました。

今回のトピックスは、「米シリコンバレー銀行が破綻、中国の銀行は大丈夫か」です。

今週の中国株市況

図表1 ハンセン指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)

注:3/15(水)までのチャートです。
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成。

図表2 香港市場の業種別指数の推移(2021年12月31日=100として指数化)

注:業種別指数はハンセン総合指数のサブ指数です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

図表3 香港市場の個別銘柄の騰落率と関連ニュース等(3/15(水)までの騰落率)

ハンセン指数

騰落率上位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
00981 中芯国際 [SMIC] 6.2% 3.1% -0.1% 半導体受託生産(ファウンドリ)大手。ファーウェイが3/23に発表する予定の最新「Kirin」半導体が同社によって製造されていると一部で報じられ、買い材料となった。
00322 康師傅控股 [ティンイー] 5.8% 6.5% 0.7% 大手食品メーカー。?中長期的に安定成長が期待できるとし、大手証券会社が目標株価を引き上げた。
00669 創科実業 [テクトロニック・インダストリーズ] 5.4% -16.8% -9.5% 大手電動工具メーカー。中長期的な業績の安定性を理由に、大手証券会社が「買い」の投資判断を維持すると表明した。
01088 中国神華能源 [チャイナ・シェンファ・エナシ] 4.7% 10.8% 13.5% 石炭大手。石炭生産量が2月に増加したと現地紙が報じ、石炭株が買われた。
00941 中国移動 [チャイナモバイル] 4.4% 14.3% 26.1% 中国通信キャリア最大手。米シリコンバレー銀行の破綻を受けたリスク回避により、ディフェンシブ銘柄として買われた。
騰落率下位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
06098 CG SERVICES -9.4% -20.6% -30.9% 不動産大手カントリーガーデン(02007)傘下の不動産サービス会社。親会社が2022年通期の純損失額は55-75億元になる見通しだと発表し、売られた。
00881 中升集団 -9.5% -24.0% -17.6% 自動車販売会社。自動車市場の価格競争による在庫懸念が引き続き、材料視されたもよう。
02007 碧桂園 [カントリー・ガーデン] -10.4% -18.2% -23.1% 中国不動産大手。会社側が2022年通期の純損失額は55-75億元になる見通しだと発表し、売られた。
09618 JDドットコム -10.7% -21.2% -28.2% EC大手。詳細は本文をご参照願います。
00175 吉利汽車 [ジーリー・オートモービル] -10.9% -21.5% -24.0% 大手自動車メーカー。2月の自動車販売台数は1月より回復したが、市場シェアは1月より低下した。自動車市場の価格競争による影響の可能性として警戒され、売り優勢となった。

ハンセンテック指数

騰落率上位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
01833 平安健康医療 [ピンアン・ヘルスケア] 10.2% 5.7% -19.7% 平安保険(02318)傘下のインターネットヘルス大手。2022年通期の損失額が大幅に縮小し、好材料となった。決算発表後、大手証券会社数社が目標株価を引き上げた。
09626 ビリビリ 6.9% -1.8% -7.9% 動画プラットフォーム大手。3/13から中国本土の投資家が投資できる対象銘柄となり、買われた。
00981 中芯国際 [SMIC] 6.2% 3.1% -0.1% 半導体受託生産(ファウンドリ)大手。ファーウェイが3/23に発表する予定の最新「Kirin」半導体が同社によって製造されていると一部で報じられ、買い材料となった。
09999 網易 [ネットイース] 3.3% -0.8% 20.5% ゲーム大手。週次ベースで追跡されているゲームの収入が増加したと報じられ、買われた。
03888 金山軟件 [キングソフト] 2.2% -4.5% 10.4% ゲーム・ソフトウェア大手。大手証券会社が買い推奨した。新しいゲームによる売上貢献や企業向けソフトウェアの回復が期待できるためとした。
騰落率下位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
09698 万国数拠服務 -7.3% -27.2% -20.9% データセンターを運営。世界的なリスク回避の強まりを受け、続落した。
09868 小鵬汽車[シャオペン] -7.3% -13.4% -22.8% 新興EVメーカー。自動車市場の強化激化懸念で売られた。詳細は本文をご参照願います。
01810 小米集団 [シャオミ] -9.0% -16.3% -0.6% スマートフォン・IoT家電大手。同社がかつてシェア1位だったインド市場で、2022年10-12月期は1位から転落した(サムスン電子が1位に返り咲いた)と報じられ、売り材料となった。
09618 JDドットコム -10.7% -21.2% -28.2% EC大手。詳細は本文をご参照願います。
00285 比亜迪電子 [BYDエレクトロニック]? -11.1% -20.7% -21.1% BYD(01211)傘下のスマートフォン部品・受託製造メーカー。2022年は世界スマホ市場が鈍化したなか、メーカー別の出荷台数では中国メーカーの減少率がサムスン電子やアップルより大きいと報じられた。

注:銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergをもとにSBI証券が作成。

今週の中国株市況

3/9-3/15の香港市場では、ハンセン指数が2.6%下落、ハンセンテック指数は3.1%下落しました。米国上場のADRで構成されるナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数(HXC指数)は、6.3%下落しました。

3/8から3/12のわずか数日間で米シリコンバレー銀行をはじめとする米地銀3行が破綻し、世界市場に衝撃を与えました。信用不安の拡大リスクを警戒し、投資家はリスク回避志向を強めました。

3/13に閉幕した全国人民代表大会(全人代)の記者会見で、新たに首相に就任した李強氏が、「今年の経済成長率目標は5%前後だが、その達成は容易ではなく、努力が必要だ」との見方を示した一方、景気刺激策については言及しなかったことも、投資家のリスクテイク意欲を削ぎました。

なお、主要指数のうち、HXC指数の下落率がより高いのは、主に3/15(米国時間)の下落によるものです。スイスのクレディ・スイスの信用不安を受け、投資家がより一層リスク回避志向を強めたためです。

業種別では、一般消費財と情報テクノロジーが下げを主導しました。

一般消費財は、自動車株の下落が顕著でした。中国の自動車業界団体が発表した2月の乗用車販売台数は139万台となり、前年同月比で10.4%増、前月比では7.5%増となりました。1月より販売が回復しましたが、市場シェア獲得をめぐる競争激化を嫌気した売りが優勢となました。

きっかけは、2月の乗用車販売で最も好調だったがBYD(01211)が、3/11-3/31の間、一部車種について値下げキャンペーンを実施すると発表したためです。値下げ幅は限定的でしたが、対象車には一部の主力車種も含まれていたため、業界の厳しい競争環境を反映していると現地紙が報じました。BYDだけでなく、自動車大手の吉利汽車(00175)、新興EV3車(ニオ(09866)、リーオート(02015)、シャオペン(09868))がそろって売られました(なお、EVは電気自動車)。

情報テクノロジーは、EC大手のJDドットコム(09618)が下げを主導しました。2022年10-12月期決算は、調整後純利益は市場予想を上回りましたが、売上高が市場予想をやや下回り、売り材料となりました。同社は今年3月から大規模な販促キャンペーンを実施していますが、競争激化を反映したものとして捉えられたほか、利益率の圧迫要因としても警戒されました。EC大手のアリババ(09988)も続落しました。

なお、ECやEV関連銘柄は、中国株のなかでも比較的に海外投資家に人気のある銘柄が多く、世界的なリスク動向の影響を受けやすい傾向があります。その意味でいうと、ECやEV関連銘柄の下落率が高かったのは、競争激化懸念もさることながら、米銀破綻を受けた世界的なリスク回避による側面も強いと考えられます。

投資家のリスク回避センチメントを反映して、ディフェンシブの通信が逆行高となりました。中国通信キャリア最大手のチャイナモバイル(00941)が続伸し、コロナ前の株価水準を挑戦しました。

今回のトピックス

今回のトピックスは、「米シリコンバレー銀行が破綻、中国の銀行は大丈夫か」です。

米シリコンバレー銀行の破綻(注)やスイスのクレディ・スイス危機を受け、3/9-3/15の世界株式市場で銀行株が売られました。信用不安の拡大リスクが警戒されたためです。一方、中国の4大銀行は、逆行高の様相を呈しました(図表4)。

注:シリコンバレー銀行の破綻については、3/16付レポート「米国株特集シリコンバレー銀行(SVB)の破綻、30年連続増配&FCFがプラスの企」をご参照願います。

図表4 KBWナスダック世界銀行株指数(※)の構成銘柄の騰落率(上位と下位10銘柄、3/9-3/15)

(※金融安定理事会 (FSB) およびバーゼル銀行監督委員会によって、世界的システム上で重要と分類された世界の主要銀行で構成されている指数です)

※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

世界的に銀行不安が高まっているなか、中国の4大銀行が逆行高となった要因が、主に以下3つと考えられます。

1)欧米の銀行不安が中国へ波及するリスクは低い
中国の金融システムや金融政策は欧米との相関性が低く、中国の銀行が主に保有する資産も中国国内の資産(投資債券含む)となっています。

2)ここ数年の金融政策・経済政策の違い
欧米ではここ数年(特にコロナ禍)の金融緩和により、低金利環境が長く続きましたが、昨年からインフレを抑制するため、急ピッチな金融引き締めが実施されました。その金融政策の変動が、銀行不安を招いた可能性があると指摘されています。一方、中国はコロナ禍でも大規模な金融緩和は実施せず、今年も金融政策の大幅な変更はなく、安定が維持される見通しです。また、中国の銀行は中国当局の方針に従い、長年わたって「リスクテイク」よりも「リスク管理」に注力してきました。

3)経済見通しの違い
欧米(特に米国)では急ピッチな利上げによる経済への影響が懸念されていますが、中国は不動産市場への支援や「ゼロコロナ政策」の撤廃により景気回復が見込まれています。銀行株は景気の変動に大きな影響を受けるため、このような経済見通しの差も、足元の株価パフォーマンスに影響したとみられます。

総合的にみると、中国4大銀行の株価パフォーマンスからすると、欧米の銀行不安を嫌気した中国株の売りは「行き過ぎ」と考えられます。李強・新首相が全人代後の記者会見で追加的な景気支援策に対して言及しなかったことはややネガティブ材料として意識されやすいですが、直近発表された1-2月の経済指標からは中国経済が回復基調を維持していることが示されました。

※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。

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