~米利上げと中国の利下げ?、中国の小売りの回復~

~米利上げと中国の利下げ?、中国の小売りの回復~

投資情報部 李 燕

2023/03/23

3/16-3/22の香港市場は小反発しました。欧米の信用不安がやや後退し、投資家のリスク志向が改善したことを受け、前週に売られた業種や銘柄を中心に買い戻しが入りました。

今回のトピックスは、「米利上げと中国の利下げ?、中国の小売りの回復」です。

(1)今週の中国株市況

図表1 ハンセン指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)

注:3/22(水)までのチャートです。
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成。

図表2 香港市場の業種別指数の推移(2021年12月31日=100として指数化)

注:業種別指数はハンセン総合指数のサブ指数です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

図表3 香港市場の個別銘柄の騰落率と関連ニュース等(3/22(水)までの騰落率)

ハンセン指数

騰落率上位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
09888 百度 [バイドゥ] 9.9% -2.1% 5.0% 検索エンジン大手。詳細は本文をご参照願います。
02007 碧桂園 [カントリー・ガーデン] 9.7% -12.9% -19.4% 中国不動産大手。2月の中国の新築住宅価格が1年半ぶりに上昇に転じ、同社を筆頭に不動産株が買われた。
00881 中升集団 8.5% -8.9% -0.1% 自動車販売会社。自動車株が買い戻された流れの一つ。詳細は本文をご参照願います。
01929 周大福珠宝集団[チョウタイフックジュエリー] 7.6% 1.7% 3.5% 宝飾類の小売会社。欧米の銀行不安を受けた金先物価格の上昇を好感し、買われた。
02382 舜宇光学 [サニーオプチカル] 7.0% -48.9% 1.4% 大手光学機器メーカー。決算発表後、大手証券が目標株価を引き上げ、買い優勢となった。の決算は売上高が市場予想を上回った一方、調整後利益は市場予想を下回り、強弱まちまちの結果となった。同大手証券会社は2022年下期の粗利益率が同業他社を上回っていると指摘し、今後の業績見通しと目標株価を小幅に引き上げた。
騰落率下位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
09618 JDドットコム -4.0% -14.6% 8.0% EC大手。同業であるピン多多(PDD)の2022年10-12月期の増収率が市場予想を下回り、EC業界の競争激化懸念が改めて意識された。
00006 電能実業 [パワー・アセッツ] -4.6% 5.0% -3.3% 電力会社。2022年通期の決算内容が市場予想を下回り、大手証券会社が目標株価を引き下げた。
01038 長江基建 [チョンコン・インフラ] -4.7% 5.6% -8.3% グローバルインフラ会社。2022年通期の決算内容が市場予想を下回り、大手証券会社が目標株価を引き下げた。
01113 長江実業[CKアセット] -6.0% 9.3% 3.4% 不動産会社。2022年通期の決算内容が市場予想を下回り、大手証券会社が目標株価を引き下げた。
02331 李寧 [リー・ニン] -6.9% -20.8% 7.5% 中国国産ブランドのスポーツウエア大手。2022年通期の売上高と調整後純利益がともに市場予想を下回ったほか、会社側が2023年について保守的なガイダンスを示し、売り材料となった。決算発表後、大手証券会社数社が目標株価を引き下げた。

ハンセンテック指数

騰落率上位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
09868 小鵬汽車[シャオペン] 25.8% -39.6% 12.4% 新興EVメーカー。詳細は本文をご参照願います。
09698 万国数拠服務 11.8% -11.8% -17.3% データセンターを運営。欧米の金融不安の後退に伴う投資家のリスク志向の改善を受け、前週に大幅に下落した銘柄が買い戻された流れの一つ。
00772 閲文集団(China Literature) 11.2% -33.4% 16.1% オンライン文学プラットフォームを運営。2022年通期の決算内容は市場予想を下回ったが、2023年は業績回復が期待できるとし、大手証券会社数社が目標株価を引き上げた。
06060 衆安在線財産保険 11.1% -1.5% -4.3% オンライン保険大手。会社側が発表した2022年通期の業績は事前予想と一致した。決算発表後、大手証券会社が中核事業の成長性を考慮し、業績予想と目標株価を引き上げた。
03888 金山軟件 [キングソフト] 10.5% -25.8% 20.5% ゲーム・ソフトウェア大手。AIの応用拡大期待でソフトウェア関連銘柄が買われた。米マイクロソフト(MSFT)がOpenAIが開発した次世代大規模言語モデル「GPT-4」を「エクセル」や「パワーポイント」などを含む「オフィス」に組み入れると発表したことを好感した。
騰落率下位
(5日)
銘柄名 騰落率
(5日)
騰落率
(1ヵ月)
騰落率
(3ヵ月)
関連ニュース等
09999 網易 [ネットイース] 0.0% -8.7% 0.2% ゲーム大手。特段材料がなく、株価は小動きを経て変わらずとなった。
00992 聯想集団 [レノボ・グループ] 0.0% -4.9% -14.0% パソコン(PC)大手。3/17は大手証券会社の目標株価引き上げで買われたが、3/21は大手投資ファンドが持ち株比率を引き下げ下落した。結果的に株価は変わらずとなった。
06690 海爾智家 [ハイアールスマートホーム] -1.4% -22.8% 14.2% 大手家電メーカー。需給要因のもよう。大手投資ファンドによる売り買いが交錯した。
09618 JDドットコム -4.0% -14.6% 8.0% EC大手。同業であるピン多多(PDD)の2022年10-12月期の増収率が市場予想を下回り、EC業界の競争激化懸念が改めて意識された。
00268 金蝶国際軟件 [キングディー・ソフトウエア] -9.3% -27.4% 5.6% ソフトウェア会社。ファーウェイ(未上場)が企業向けのERPシステム(企業の人・物・金を一元管理できるシステム)へ進出する見通しとなり、売り材料となった。ERPシステム大手の同社にとって、ファーウェイが強力なライバルになることが警戒された。

注:銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergをもとにSBI証券が作成。

今週の中国株市況

3/16-3/22の香港市場では、ハンセン指数が0.3%上昇、ハンセンテック指数は3.7%上昇しました。米国上場のADRで構成されるナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数(HXC指数)は、1.7%上昇しました。

主要指数は、3/20は欧米の金融不安に対する警戒の再燃で大幅安となりましたが、3/21-3/22は欧米の金融当局の対応を好感し、買い戻されました。投資家のリスク志向がやや改善したことを受け、前週に売られた電気自動車(EV)や情報テクノロジー関連銘柄が反発しました。

EV関連銘柄では、新興EVメーカーのシャオペン(09868)が3/17(引け後)に発表した2022年10-12月期の決算内容は市場予想を下回りましたが、決算発表後は株価が急反発しました。業績不振はある程度株価に織り込まれていた可能性があるうえ、欧米金融不安の後退に伴う投資家心理の改善が買いを誘ったとみられます。新興EVメーカーのニオ(09866) やリーオート(02015)もそろって反発しました。

情報テクノロジーは、時価総額の大きい検索エンジン最大手の百度(09888)や動画プラットフォーム大手のビリビリ(09626)が上昇をけん引しました。百度は、世界で注目を集めている対話型AIサービス「ChatGPT」の中国版と言われている「文心一言(アーニーボット)」を3/16に発表しました。発表会では、市場の期待に反して実演ではなく録画で「アーニーボット」を披露したため、3/16は株価が急落しました。しかし、翌3/17に「アーニーボット」を試した大手証券会社のアナリストが前向きな評価を示したことを手掛かりに、株価は急反発しました。

一方、EVやそのほかの情報テクノロジーに比べて、EC大手はさえない展開となりました。JDドットコム(09618)は続落し、アリババ(09898)は1%の上昇にとどまりました。同業であるピン多多(PDD)が発表した2022年10-12月期の増収率(前年同期比)が市場予想を下回り、EC業界の競争激化懸念が改めて意識されました。EC業界をめぐってはここ数年、ピン多多の躍進が目立ち、同社に対する投資家の期待も高まっていました。予想外の増収率下振れを受け、米国上場のピン多多の株価は急反落しました。これまで相対的に株価が堅調だったこともあり、利益確定売りにつながったとみられます。

ディフェンシブの電気通信も下落しました。欧米の金融不安の後退を受けた投資家のリスク志向の回復が背景です。通信キャリア大手のチャイナモバイル(00941)やチャイナテレコム(00728)が反落しました。

(2)今回のトピックス

今回のトピックスは、「米利上げと中国の利下げ?、中国の小売りの回復」です。

【米利上げと中国の利上げ?】
米国地方銀行の信用不安を背景に、3/21-3/22の米連邦公開市場委員会(FOMC)では「一時的な利上げ停止」を予想する証券会社も出ていましたが、結果的には大方の予想通り、FF金利の誘導目標レンジは「0.25ポイントの引き上げ」となりました。米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は声明発表後の記者会見で、「米国の銀行システムは健全かつ強靱だ」と強調し、「我々は物価安定の回復にコミットしている」と説明しました。

ただし、FOMCの声明文では前回の「継続的な(金利の)引き上げが適切になると予想している」との文言が削除され、その代わりに「幾分の追加的な政策引き締めが適切になると想定している」となっています。前回の「タカ派」からすると、今回は「ハト派」へ傾斜したようにみえます。

米国地方銀行の信用不安がくすぶった3月中旬、中国人民銀行は3/17に予想外に預金準備率(RRR)を引き下げました。RRRは中国当局がかつて金融政策の緩和と引き締めの手段として使ってきたものです。たとえば、RRRの引き上げは金融引き締め、RRRの引き下げは金融緩和に当たりました。しかしながら、RRRの金融政策手段としての役割は近年低下しており、それに取って代ってローン・プライム・レート(LPR)が主な政策金利となりつつあります。3/20に公表された1年物と5年物のLPRは、いずれも据え置きとなりました。

今回、中国当局が予想外にRRRを引き下げ、LPRは市場予想通りに据え置いたことになります。その背景は、今回のRRR引き下げは、欧米の金融不安や足元の経済指標を受けたものと考えられます。つまり、RRRの引き下げは、欧米の金融不安の飛び火を警戒した流動性供給に加え、まだ回復途中にある経済への流動性供給という2つの側面がある考えられます。また、RRRの引き下げはもし海外情勢が悪化し、ある程度中国へ大きな影響を及ぼすと想定された場合、金融緩和の可能性があるとの中国当局のメッセージと考えられます。

【中国の小売りの回復】
中国の小売売上高は1-2月累計で前年同期比3.5%増に回復し、伸び率は市場予想と一致しました。”ゼロコロナ政策”が撤廃された後、小売りが持ち直していることが示唆されました。

図表4 中国の小売売上高の推移(前年同月比、2月と表記されているのは1-2月累計で前年同期比)

※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

一方、市場の一部では小売りを含めて中国経済の回復に対して慎重な見方も浮上しています。中国当局が”ゼロコロナ政策”を撤廃した直後は旅行などが急回復しましたが、それ以降は全般的に回復が緩やかなペースにとどまっているためです。その理由の一端について、中国現地で事業を行っている企業の責任者からお伺いできたので、簡単にご紹介したいと思います。

筆者は先週、プライベートで中国本土で小売に関わる事業を行っている企業の中国法人責任者にお会いしました。せっかくの機会でしたので、小売の状況や見通しについて同氏の見方をお伺いしました。以下が同氏のコメントです。

「”ゼロコロナ政策”が3年間も続いていたことで、人々はとりあえず必要なものだけを買う習性ができたようです。”ゼロコロナ政策”が突如解除されたことで、その習性がすぐなくなることはなく、人々の消費行動がもとに戻るには多少時間がかかると思います。また、”ゼロコロナ政策”が長く続いていた間、全般的に経済が弱かったことも影響しているかもしれません。ただ、”ゼロコロナ政策”が完全に撤廃されていますので、経済は徐々に回復すると思いますし、消費も回復していくと思います。」

同氏の”肌感覚”に基づく見通しが正しければ、小売は市場の一部で期待したように急回復ではなく、緩やかながら回復していくこととなりそうです。

※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。

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